第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian _第三章_
◆ヒーロー
2004年 4月14日
「わっ夕陽さんだ!今日もありがとうございます!」
夜神さんの入院する病室に入ると、真っ先に月君の妹さんである夜神粧裕ちゃんが手を振ってくれた。病室にはすで、月君を除く、粧裕ちゃん、幸子さんと、夜神家勢ぞろいだった。
「粧裕ちゃん!夜神さん、具合いかがですか。」
粧裕ちゃんは毎回、こうしてお見舞いに私が来ると、元気に歓迎してくれている。心優しい子なのだろう。ほとんど毎日、面会可能時間には夜神さんの横に座っていて、よく「帰って勉強しなさい」なんて窘められている。
私は今日もささやかな差し入れをする。
「はい、こちら竜崎からです。」
丸々フルーツでは夜神さん(幸子さん)に気を遣わせてしまうとのことで、小さなゼリーを小脇に置いた。物語の中では描かれていなかったけれど、竜崎は夜神さんが入院してから毎日なにかしらの差し入れを手配していた。
「あぁ、今日もありがとう。もう大分落ち着いているよ。仕事の話をできない方が体に障りそうだ。」
「しちゃえばいいのに。私がお兄ちゃんに聞いてあげるから。そしたら一気に解決、キラ逮捕!だよお父さん!」
「粧裕!だめよ。そういう訳にはいかないんだから。」
繰り広げられる家族間の会話に、私は立ち尽くしてしまう。しかし一方で微笑ましくもあった。優しいお父さんに、世話焼きのお母さん、そして兄を慕う妹。ピンとこないほどに、それは理想的な家庭の姿なのだろう。この風景を、リュークがなにかに例えていた気がする。なんだっけ…ホームドラマだったかな?
「なんだ、皆来ていたんだ。」
声がして振り返ると、月君がひょこっと扉の隙間から顔を出していた。学校帰りなのだろうか。肩には大きなA4バッグと、反対の手にはコンビニで買ったような白いビニール袋を提げている。
「こんにちは、月君。」
「あぁ、夕陽さん。今日も大変だね。差し入れなら送ってくれるだけでもいいのに。」
「ううん、こういうのは気持ちの問題だもの。私は大丈夫。」
「……まぁ、一応あいつにもありがとうと伝えてやってくれ。」
すると、それが竜崎への「ありがとう」のお返しなのか、月君は手に持っていたビニール袋を私に差し出した。中をのぞくと、ちょっと高そうな、と言っても300円くらいのイチゴのチョコレートが入っていた。半分皮肉、半分ジョークのつもりなのかもしれない。
「あはは、きっと喜ぶよ。ありがとう。」
一風変わった気遣いに、私はぺこりと頭を下げる。と、横からあからさまな視線を感じた。粧裕ちゃんがぽかーんと口を開けて、こちらをみていた。私は「粧裕ちゃん?」と声を掛ける。
「お兄ちゃんと、夕陽さん、なんか、お似合い?」
「えっ」
「はっ?」
突然の天然な爆弾発言に私も、慣れていそうな月君も暫し硬直する。数秒置いて、そこは思春期の女子だから普通なのかな?という思考を挟んで、どうして?にたどり着いた。私は間違っていた。
「粧裕ちゃん……どうして?」
そこは有り体に「そんなことないよ」と返すのが正解だったのかもしれない。私は後悔する。話を掘り下げる必要はなかったのだ。
「うーん、なんかフィーリング?似てるかなー?って思った。……ぎゃっ」
「もうごめんなさいね、夕陽さん、この子こういうこと言うのよ。」
と、幸子さんが袋に入ったままのプラスチックスプーンで粧裕ちゃんを阻止した。どうやって止めたかは言うまい。夜神さんはそこにいないかのように沈黙したままだった。
「い、いえ」
全然構わない。似ていると言われたのは初めてではないので、決して根には持っていない。どんなに心外だとしても粧裕ちゃんは悪くない。悪くない。むしろ、月君のうしろで「リンゴリンゴ今日のリンゴ」などと連呼するリュークを無視するのが大変だったので、助かったくらいだった。
「粧裕ちゃん、ちょっと売店行こうよ。」
「売店?行きまーす!」
ほぼ毎日お見舞いに来ている私の目的は、実を言えば個人的に粧裕ちゃんと話がしてみたいということだった。彼女は月君が心から大切に思う存在。そしていずれは幸せを奪われてしまう存在だ。本来であれば接点を持つべくもない私と粧裕ちゃんだが、夜神さんが入院した夜の月君の様子を見て、私は彼女のことをもっと知りたいと思ったのだった。
こうしてフレンドリーに接してくれるようになったことと、病室の中が定員オーバーになりかけていたことで、ちょうど誘いやすいタイミングが訪れてくれた。
「私、好きな人はもういるんだ。でもそういう話も楽しそうだと思って。抜け出してきちゃった。」
売店でソフトクリーム型のアイスを買って話し出すと、粧裕ちゃんは目を輝かせた。
「ぎゃっ流石夕陽さん!わかってるー!」
「で、粧裕ちゃんは好きな男の子がいるの?」
「い、い、いません。」
こういうのはなんとなく、単刀直入がいいのかな、と聞いてみる。いつの間にか蓋をあけてアイスを食べ始めていた粧裕ちゃんは、必死に否定しつつもぺろぺろとアイスを舐めた。私も、ぱかっと蓋を開けた。
「ひょっとして、まだお兄ちゃんよりかっこいい人が見つからないって感じかな?」
「うー……なんというか、かっこいいというより、憧れといいうか、……ヒーローというか……こんなの子供っぽいって思いますか?」
粧裕ちゃんはおずおずと、素直に話してくれた。
「ぜんぜん!子供っぽくない!私でもよく考えるよ」
「本当ですか?」
「言葉がそれしかないから子供っぽく聞こえちゃうだけで、誰にでもヒーローはいるものなんじゃないかな?」
「夕陽さんもいる?」
「うん」
私は自信をもって答えた。粧裕ちゃんがぱあっと花が咲いたように明るい表情になる。やっと笑ってくれた、と私は安心した。
「お兄ちゃんはすごいんです。なんでもやり遂げちゃうんです。」
いわゆる天才。粧裕ちゃんにとっては追いかけたくなる背中、というものなのかな?と私は考える。勉強もスポーツもできて、それでいて鼻にかけることなく人に好かれる姿は、きっと眩しいに違いない。誇らしいに違いない。自慢の兄と言っていたし。
「たしかに自慢ではあるけれど…ううん、違うんです。そういう感じじゃなくて、お兄ちゃんは…」
と、粧裕ちゃんは自分でも言葉を選べず困っているようにアイスを口元で止めた。もうすでにてっぺんのクリームはなくなっていて、コーンだけの状態である。
そして突然、「そう!」と勢いよく言いながら乗り出した。
「勇気!勇気をくれるんです。」
アイスのコーンがこちらに向けられた。インタビューマイクみたいだった。
「勇気をくれる……」
「そう。お兄ちゃんがすごくて私たちとは違うっていうのは、もうね、正直、すごいイやって程、生まれた時からすごく知ってるの。だけど、お兄ちゃんのすごいところは、すごいことだけじゃなくて、逃げないところなんです。」
熱が入って、とにかく「すごい」が繰り返される中、それでも特に強調された部分を、私は繰り返した。
「逃げない、ところ?」
「うん。お兄ちゃんは何があっても逃げない。立ち向かう。そしてやり遂げちゃう。それを見ていると、勇気が出るんです。全然すごくない私__普通の私たちにも、ひとつひとつやっていけば、なんでもできるんだって!」
__夜神粧裕。
「クールぶってるくせに、実はすごく大変で、それなのに迷わず前に立ってくれるのが、私のお兄ちゃんなんです!ヒーローでしょ?……やっぱり夕陽さん!好きになっちゃいますか?」
あんなに恥ずかしがっていたのに、今度はまるで自分のことのようににかっと笑った。太陽のような子だと思った。心から月君を信頼していて、自分なりに理解している。私には兄弟がどういうものか分からないけれど、
「あはは、ならないよ。でも、見直したかな。」
心から信頼してくれる、これだけの愛があれば。__きっと月君も日ごろ感じ取っていたのだろう。天才と呼ばれて妬まれることも多々ある中で、見てくれや結果だけでなく、姿勢そのものを愛してくれる者という存在。それもまた、自分が正しくあろうとする原動力になっていたのかもしれない。そんな粧裕ちゃんだから、月君はひと際大切に思っていたのだろうか、と、私は勝手な推測をした。
「え、見直したって、どういうことですか?」
私の言葉に、不安そうに粧裕ちゃんが答えた。
「ううん、ごめん、なんでもないの。ねぇ、粧裕ちゃん」
私は、意を決して口にした。
「ヒーローといえば、キラのことだけど……犯罪者が減っていく社会、心優しい人だけの世界って、月君……お兄ちゃんも良しとすると思う?」
「よくない。間違ってる。私は、間違ってると思う!」
一秒も考えるそぶりすらなく、その勢いのままに、粧裕ちゃんは立ち上がった。
なんと意外にも、「お兄ちゃんは」ではなく、真っ先に粧裕ちゃんが自分の意見を高らかに叫んだ。思わぬ展開、私は竜崎の癖が移ったのか、目をひらいて一静止した。
「すごい正義感……粧裕ちゃん」
と、言いつつ、私は予期せず粧裕ちゃんに月君の片鱗を見たような気がしていた。
もしかしたら竜崎の言う「演技にしてはクサい」というのは月君の素の姿であって、演技か本心かは別にして、ああやって答えるのが最も夜神さんの前においては自然だったのかもしれない。
「みんなを納得させられるようなことは言えないです。でも、悪い人だから殺す、それは違うんじゃないかな。とくにキラが一人で決めるのって、絶対になにかが違うとおもうんです!心優しい人と、怖がって悪いことしない人は別でしょ?」
理屈がないと言うが、十分正論に聞こえた。確固たる信念があるようだ。命や正義に疎い私でさえ、分かってあげたいと思う。立ち上がって宣言した粧裕ちゃんは、一通り言い切ると、途端に火が消えたように、「おかしいですか?」と不安そうに座った。聞くところによると、周囲には、キラ肯定派の方が多いということだった。
「ありがとう、粧裕ちゃん。……私も、キラは良くないと思う。でも粧裕ちゃんと同じ。やっぱり難しく良くて分からないんだ。」
あはは、と笑って見せる。これは本心だった。もっとも粧裕ちゃんのいう「難しい」とは意味合いこそ異なるのだけれど。
「だったら私より、お兄ちゃんに聞いてみたらどうですか?」
と当たり前のように、「鍵どこにやったっけ?」と家族に聞かれたときのように言う。
「お兄ちゃんなら、私なんかよりもずっともっと正しい理由を言ってくれるし、キラにだって、きっと”こんなこと間違ってる、止めなさい”って言ってくれると思う!」
驚き、レスポンスの遅れた私に対して、粧裕ちゃんは続けてとんでもないことを言い放った。
「それこそデート!二人っきりでお話したらいいと思う!ほんとに夕陽さんとお兄ちゃん、いつもなにか考えてそうなところとか似てるし、いろいろと合うんじゃないですか?……あ、でも夕陽さん好きな人いるんですよね……じゃあその人には内緒にしときますね!」
改めて、今更、話の出発点がこういった他愛ない話だったことを思い出した。でもせっかく仲良くなれたんだから、と私は精いっぱいの空元気を振り絞った。
「あはは、その人って!駄目だよ。大体私、名前出してないよ?」
「え、いつも差し入れくれる人じゃないんですか?」
「…………。」
__だ、大丈夫。粧裕ちゃんは竜崎とは接点がないはず。影響はないはず。それに肯定も否定もしなけれな、いや、否定すればいいのか。
「………こういうときは”粧裕ちゃんが知らない人だよ”って答えるんですよ!」
「あ、そっか……」
__結局否定し損ねた!?
もうこれ以上やらかしたくないです。女子高生怖いです。月君は絶対こんなやらかししないでしょ、と私は頭を抱えた。慣れないノリで無理をするのは非常によくなかった。粧裕ちゃんも無意識なんだろうけれど、カマかけというか、交渉術というか、兄に劣らず十分賢い。
「夕陽さん可愛いとこあるー!」
「……粧裕ちゃんお願い、アイスもう一本で許して!」
「オッケー!」
すがすがしく悪い笑顔を浮かべる粧裕ちゃんの隣で、"あの未来"でない彼女は一体どうなるのだろう、と思いを巡らせる。
きっと凛として、賢くて、強い女性になるんじゃないだろうか。
____夜神粧裕。
彼女も救おう、と私はプランも根拠もなく決意したのだった。