第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆Guardian -断章-
_________フラッシュバック
「おしまい。」
空の声が、しんと人のいないヘリポートに響いた。
目の前の情景が、まるでここが少女と死神のいた屋上だったような錯覚をおこした。
「ありがとう、空…よく分かったよ。」
私の正体も、この世界が何なのかも、全部わかってしまった。
「私は、死神。この体も……本当は空のもので、一番最初にこの世界に来たいと願っていたのは……空、君だったんだね。」
夢に空が出てきたのは、きっと私が彼女を忘れきることができなかったからだろう。
記憶はもどらないけれど、その話が本当だと、この身が教えてくれた。だって、あまりに痛い。
自分のために犠牲になった存在、そして親友だった存在を忘れるなんて、無理に決まってる。
「どうしてこの世界にこれたのか?どうしてLの部屋に這入れたのか?こういうとミステリーっぽいけど、真実はあっけないでしょ?」
身を抱える私をよそに、空は楽しそうだった。
きっと彼女は、そういう性格だったんだろう。話の中では優しすぎる、なんて言われていたけれど、なんとなく分かるような気がする。
あらためて、擬態とは違うけれど、そういう飄々としたところを見習おうかな、と思ってしまった。
彼女はまっすぐで、優しい。それは異常でも何でもない。思いやりだ。
「私は、もしかしたら空のひたむきさに憧れてたのかな。」
「さぁ、どうだろう?」
くくく、と今度は本当にリュークのように悪どい笑い声を漏らした。台無しだ。
……と、昔の親友に想いを馳せたところで、私には夕陽として、ひとつだけ受け止めなければならない現実があった。
それだけは、今の私にはどうしても苦しく感じてしまう。
「でも、せっかく竜崎と仲良くなれたのになぁ……死神じゃあ、しょうがないよね。」
私は自分の手足を見下ろした。
どんなに姿かたちが一緒でも、きっと人間は、死神と相容れるものではない。
同じ時間を生きることはない。やっぱり、そうはうまく回らないかぁ…なんて思っていた矢先。
「ふぅ…はいっと。」
空はひとつ、ため息をつくと、人差し指を宙でくるりと回した。途端に、勢いよく風が吹く。
「さて、ちょっと落ち込んでいる様子の夕陽さんに朗報です。」
「ろ、朗報?」
ぱちくりとあたりを見回す私に、ピンとたてた人差し指で宙をさし、空はウィンクを飛ばした。急にまたおどけだした空を前に、私は反応に窮する。
「人間の女の子が、友達の死神をかばって自らの寿命を与えました。これは重大なルール違反にあたります。」
「……ルール違反。」
「そう。特例過ぎて明文化はされていないらしいって、貴方が言ってたんだよ?」
何で知らないの?とでも言うような口ぶりに、私は狼狽えた。
過去を話してもらったはいいけれど、なにも全部を思い出せたわけじゃない。
「お、覚えてないし……。」
「たとえば、人間に恋した死神が、人間を助けるためにノートに誰かの名前を書いたら、その場で死んでしまうというペナルティがあるでしょう?」
それは知っている。物語の中でも、大きく取り上げられているルールだ。
「では逆の場合はどうしょう。……今回は、こともあろうか自己犠牲。これ以上、ノートを”使った側”に課せられるペナルティはない。であれば……」
ノートを使った人が、ノートに書かれた人と同一であれば、もうその人物を罰することなどできない。
その場に残るのは、ノートと、寿命を受け取る死神だけだ。
「ペナルティは、死神の側に…?」
「その通り。まぁ、死神のルールなんだから人間が罰せられる理屈もないんだけどね。人間に必要以上に肩入れするのが駄目なら、肩入れさせても罪は同じ…っと、これもあなたの受け売りだった。そう、夕陽、あなたはもうペナルティを受けているのです!」
__受けた、と。過去形で空は語る。
一瞬、それこそが記憶の喪失の原因なのかとも思ったが、それではノートの所有権の喪失と同じで、死神を罰するには軽すぎる。
「即ち、死神失格。…それは不死性の喪失!ノートは小さな金属片に変質して使用不可能に!人間に擬態したあなたにとっては、もうこれはただの人間と同じです!」
不死性の喪失に、ノートの使用不可能。
私は首から下げた小さな本の形のペンダントを持ち上げた。そっか、それで空は「そこに私の名前が書いてある」なんて言ったのか。
「……ペナルティで死神は砂にならないの?」
「ならない。人間を助けた死神は砂になるけど、そのノートの効果自体は有効でしょ?それに準じて、人間の寿命はちゃんと死神にわたる。あなたはちゃんと私の命を貰い受けてくれた。」
びしっと、空がこちらを指さす。
瞳の中で、炎のような光が金色に揺れていた。
「どう?いい話でしょ?…あなたはずっと辞めたかった死神としての生を、晴れて終えることができたんだよ。」
その言葉と笑顔で、いくつか風景がフラッシュバックした。
それは一部、本当に一部だけの記憶だったけれど。
「思い出した。空。君は、本当に毎日、あの物語を読んでいた。そしてLを助けたいと願っていた。死神が実在すると知って、本当に嬉しそうにしていた。」
それなのに、ここにいるのは、別の、偽物の…
それで君は良かったのか?と、思わず、昔の口調が少しだけ出そうになる。
顔を上げたところで、空が私に飛びかかってきた。何が起きたかもわからないままに、全身が二人分の重みで硬いコンクリに打ち付けられる。
「……空!?」
「……忘れないで。いいえ、覚えていて。私の願いはいつでも、”Lを助けること”だった。それが叶うのなら、手を差し伸べるのが最後には自分でなくたって構わない。……こうするしかなかった。だって、世界を渡れる貴方にしか頼めなかった。……だから、これは悲しくないの。自分の命を引き換えに貴方を助けたのは、とても合理的なことでしょう?」
押し倒されながら、身体が地面に押し付けられる。痛い。そして、彼女は真剣だった。
これが本当に空の言葉なら、納得してしまったかもしれない。
「だめだ。」
懇願するような空を、真っ向から否定した。
「それは、空の言葉じゃない。お前は、空じゃない。私の記憶だから……それは私の言い訳なんだ。」
強い口調で言ってしまった。私の言葉を受けて、空は見放されたように顔を歪めた。二つの目からは、今にも涙が零れ出そうだった。
「………どうして。私のために、私の代わりに……助けて、くれないの…?」
「うん。もうやめた。」
私はその顔を見上げた。何かをこらえるようにぐっと結ばれた唇が、わなわなと震えていた。やっぱり同じ顔だ。
こんなに悩むほど自問自答しているなんて、なんだかそれこそ笑えてしまう。
答えは昨日、とっくに出したはずなのに。
「だって私はもう、夕陽だから。君もそう。」
「……私も…?」
「うん。だから、もう過去は怖くないって言ったでしょ。私達はもう、過去にはとらわれない。縛られないし、背負わない。」
空の目が大きく開かれ、一粒だけ涙が流れた。私にもたれかかっていた力が弱められると、ゆっくりと彼女は身を起こした。そして、壊れたように鳴き声をあげた。
「昨日、とっくに決めてたんだよ。私はただの夕陽で、好きな人を守るだけ。それは誰のためでもない。だからさ」
青空を背にして、子供のように泣きじゃくる少女を抱き寄せた。
「君も、こんなところに一人でいないで、一緒に行こう。空。二人が大好きな人を、一緒に助けに行こうよ。」
蚊の鳴くような声でその名前を呼んでみると、微かに返事が聞こえたような気がした。
いつのまにか腕の中から彼女の姿は消えていた。
残ったのは私一人だけだった。冷たい空を見上げると、思い出したようにひとつくしゃみが出た。
そろそろ起きなきゃ。
「空、ありがとう。」
いまさら感謝の気持ちを口にしてみる。
空、この名前もいつかどこかで使えるといいな、と、そんなことをぼんやりと思った。