第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -断章-
_________死神と少女
「ある世界に、一匹の死神がいました」
空は語り始めた。
その死神には固有の名前がありませんでした。
人間からはドッペルゲンガー、死神からはヒトガタ、レプリカと、いろいろな名前で呼ばれていました。
死神は本来、人間には姿を見せずにその寿命をいただくもの。
しかしその死神は、目についた手頃な人間に擬態し、その存在を保ち続けるループのなかで生き続けていました。そして「混乱を招く前に、擬態した人間を最優先でノートに書け」と、決して破れない掟を課せられていました。
人間の姿になって、同じ顔の人間を殺し、その寿命で生きながらえ、さらに繰り返す。そんな不毛な命で神と名乗るも、死神のなかでも異端として扱われ、人間からは忌み嫌われました。歩み寄ったこともありましたが、上手くいきませんでした。
もう、生きていても仕方がない。
「もう、終わりにしよう」と死神は考えていました。
人の名前をノートに書く行為をやめて久しく、気が付けばその死神の寿命は、30日足らずにまで減っていきました。
最後の数日間を、死神は人間界で過ごそうと考えていました。
死神は人間も死神もどちらも嫌いでしたが、砂ばかりの死神界よりも、青やオレンジ色に変わる空を眺めていられる人間界の、どこか高いところでぼーっとしていたいなと考えたのです。
「むやみに人間界に居座るな」というルールも、もうすぐ死ぬ自分には関係ない話でした。
死神は人間界を見下ろし、いつも屋上で一人本を読む少女に興味を持ちました。
屋上に舞い降りると、当然その少女と顔を合わせることになります。
少女と顔を合わせても、とくに問題はない、と死神は思いました。どうせ自分は死ぬのだから、と。
死神は、堂々と臆せず少女に話しかけます。
「いつも何を読んでいるんだ?」
顔を上げた少女は、無言で目を丸くします。死神は続けました。
「怖がらなくていい。人間はよくドッペルゲンガーを見ると自分が死ぬ、なんていうが、あれは私という死神の仕業だ。でももうやめることにした。お前は殺さないから安心しろ。」
「…………えーっと、……つまり、あなたは、死神?」
少女は怖がるどころか、自分と同じ顔のその死神に興味を持ちました。
珍しいこともあるな、と死神は少女にノートを託し、彼女に憑くことにしました。
「呼ぶなら、レプリカと。ヒトガタだのドッペルだのと言われるよりは幾分響きがいい。」
「じゃあ私は空って呼ぶね!」
少女は自分の名前を死神に与えました。
「……なんだそれ、ややこしくないか?」
「だってほら、私たち、似てるし。」
少女は彼女が死神であると知ると、その実在に喜び、自分のお気に入りである、とある物語を教えました。
物語『DEATH NOTE』。
そこには死神やノートのこと、人間にノートを渡した死神や混乱する人間界について書かれていました。興味深く覗き込む死神に、少女は瞳を輝かせました。
「死神って、このお話の中にしかいないと思ってた!この世界は実在してるの?リュークって本当にいる?この世界に行けたりもするのかな?」
「実在はする。死神界から降りる分には人間の世界の隔たりなんてさして問題ではないし、特定の人間を探して見下ろせば、そこに行くこともできるだろう。もっとも、この人間界からでは別世界、行けないだろうが。」
「そっかぁ残念。でも……死神界にいける貴方なら行けるの?その世界に」
「行ける。」
「すごい!……じゃあ、お願い!一生のお願い!助けてほしい人がいるの!」
「断る。」
人間界にいるのは、余生を過ごすため。
少女と無駄な時間を過ごすのも、暇つぶし。寿命が尽きるまでの時間をどう使うか、ただそれだけでした。
「私の命はそう長くない、お前の願いも叶える義理がない。」
「むう、いじわるー。」
そうして死神と少女は、人を殺すことなく、ノートはただの二人の契約の媒体として、
二人で同じ時間を過ごしました。
入れ替わってみたり、互いの話をしたり、二人はいつしか親友のようになっていました。
少女も、人間の中でも特異な存在でした。
自分より他人を優先し、体調を壊し、死神にだけはこぼす愚痴も「お腹すいた」といった当たり前の欲求だけで、部屋を一歩出ればすべてを微笑みながら受け入れる姿は、人間らしさのかけらもありませんでした。数百年以上、近くで人間を見てきた死神には分かりました。少女には、自分の望みらしい望みがないのだと。
「お前、もっと自分のやりたいようにやった方がいいんじゃないか。」
「私は平気だよ?」
「やりたいこと、やりたくないこと、そういうのないのか?」
「あるけれど。……でも、それって、この世界じゃ叶わないから。分かってるし、諦めてるの。……だから、なにかを選ぶ必要も、拒む必要もないでしょう?」
一生のお願い、と彼女が一度だけ話した、「ある人物を助けたい」という願い。
少女にとっては、物語の中の世界こそが彼女の願いのある場所で、彼女の生きる世界のものは等しく同じに映っているのでした。
自分が世界に希望を持たないのなら、世界にとっても自分は基本的に無価値なのだと。だから、必要とされたときには拒むべくもない。
それこそが、自分がここに「生かされている」ことへの唯一の対価なのだから。
「世界はきっと、そうやって差し引きゼロになるようにできているんだよ」
「そんなことはない。人間はもっと欲望に忠実であるべきだ。その生死を決める死神だって、特に理由もなく人間を選んでいるんだ。」
「だって、そうじゃないと私、なんのためにここに生きてるのか、分からないもの。」
少女は、未熟であるはずのその年齢の割に、完成されきっていて、終わりきっているような、そんな生き方を、独りぼっちでしていました。
そんな少女の姿に、人間に近すぎた死神は禁忌を破り、自らの寿命の残り日数を少女に告げます。
そして近いうちに別れが来ることを伝えました。
それは彼女の身を難じてのことでした。
自分はもうすぐいなくなるが、これからもそんな風に生きられるのかと、お節介にも叱咤のつもりでした。
「そっか。分かった。」
しかし、彼女は自分の名前をノートに書いたのです。
自らの寿命の間際に、彼女に手渡されたノートを受け取りながら、死神はその事実を知りました。
少女に残された時間は、すでに数分となっていました。
「死神のためなんかに、お前が死んでどうする。」
「どうする?どうもしない、かな。」
死ぬ間際になってもなお、少女は微笑みを浮かべました。死神には、少女の気持ちが理解できませんでした。
「自分が死んだら、なにも意味がないだろ。その想いも、願いも、すべて消えるんだ。意味なんて残らない。」
「…だとしても、思うの。生きるか死ぬか、なにを遺すか……じゃなくて、何に命を燃やしたかが大事だって。あなたを助けられるなら、私の命くらい、あげたっていい。」
少女は、初めて自分の意志で誰かを助けたのでした。
「……この命、貴方のためにあったんだね。……私も死神だったら、あの世界にいけたのかなぁ。……私の代わりに、あの人を、助けてくれないかな?…」
「……お前は馬鹿だ。」
「…あは、馬鹿だけど、…幼稚で、負けず嫌い…なんだよ」
「私は、死神だ!……人間を生かすことなんて、できない!」
ずるい人間だと、死神は思いました。しかし、
「だいすき、だったよ。……どこにでも行ける、私の友達。うらやましいな…私の代わりに、幸せに、なってね。」
その言葉を最期に、彼女の命は消えてしまいました。
その瞬間、死神は決して解けることのない呪いにかかったのです。
「私の代わりに」と、その言葉に縫い付けられてしまいました。
死神は過去の自分を捨て、心まで彼女に擬態することに決めました。
死神界に舞い戻り、彼女が助けたいと願った人物を見下ろしました。
そして少女の姿に擬態したまま”堕ちて”、死神としてのすべての記憶、そして少女との日々すらも封じ込めたのです。
死神の手元に残ったのは、少女の願いと、一緒に読んだ物語の記憶、その二つだけでした。
そう、童話の読み聞かせのように語る空は、「おしまい」といって”私たちの”物語を終わらせた。
「これが__”私たち”の物語」