第三章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆Lの正義
「そうね、竜崎の正義についてね。」
と、ナオミさんは過去をさかのぼるように、視線を宙に浮かせる。スプーンを持ったままの頬杖だった。
すぐに思い当たったのか、首を傾けつつ、
「オーケー。これはLに憧れてやまない私の可愛い後輩から聞いた話なのだけど…」
と、楽し気に語りだしたのだった。
それはナオミさんの後輩にあたる、当時は新人だったとあるFBI捜査官が、Lとともに事件解決に挑んだ事件での、Lの言葉だったそうだ。
事件の最後に、Lはこう聞かれたらしい。
__「なぜあなたは、犯罪捜査などという小さな活動を続けているのです?あなたが十人の殺人犯を追う間に、紛争地帯では市民も兵士も関係なく、百人、千人と死んでいく…『L』の頭脳と、各国警察に対する影響力は、そんな不毛な紛争の解決にこそ使うべきではないのですか?」
そう問うた青年は、自らも紛争に巻き込まれ、家族と故郷を失い、人間の引き起こす戦争という手段自体を憎んだという。
戦争自体を憎みながらも、心を殺して闇ブローカーに入り込み、その優秀な頭脳をもって人の命を多く奪う片棒を担ぎつつも、いつかは内側から組織を壊滅させ、戦争のない世界を作ることを夢見ていたそうだ。
Lは答えた。
_「……あるいは、そうなのかもしれません。」
_「ならばなぜ」と青年は助けを乞うように訴えかけた。
続けて、Lは答える。
__「戦争は、一人の権力者の暴走によって起こり得ますが、一人の頭脳で解決できるものではありません。一発の爆弾が生み出す悲劇…そこには無数の人間の憎悪や悲しみ、怒りが渦巻いています。複雑に絡み合う負の連鎖を解くためには、当事者を含む、すべての人々の知恵と勇気と努力が必要なんです」
__「戦争や紛争という手段は『悪』です。しかし、そこに関わる人々には、戦争に参加するための『正義』が存在するのです…それがエゴであっても、憎しみだったとしても…彼らにとっては正義なのです。そこに、私の出る幕はありません」
__「私にできるのは犯罪者を暴き、捕らえることだけです。」
一通り話し合えて、ナオミさんは紅茶を持ち上げてふーっと息を吹きかけた。
「どう思うかしら?ある意味、青年の問いは当然の疑問ではあると私は思うけれど。」
「………」
私は、まだなにも答えられなかった。
「その顔は、でも何か感じたことはありそうね。…言葉にならなくても、参考にはなったかしら。」
ナオミさんは決してそのLの言葉に対して何かを注釈するようなことはしなかった。
私にとっては、それは有難かった。
今はまだ、彼の過去を、事実として知りたかった。
Lがどんな人間であるかを聞かされることは、Lの過去を知ることにはならない。
どう受け取り、どう解釈するか。期待し、決めつけ、あるいは信じ、賭けにでること__それは私のすべきことだ。
それにしてもね、とナオミさんが呆れたように手のひらを広げた。
「命の恩人だからって、その後輩、Lのことを話すときはキラキラしちゃってね。あの変態に”後輩を取られる!”なんて思ったものよ。」
「命の恩人…変態…取られる…?」
色々と、突き詰めて聞きたい点があるにはある。誰だろう。どんな事件なのだろう。
「でもごめんなさいね。その後輩の絡んだ事件については、機密だから、ちょっと。」
「あ、いえ、別に…!詳細とか、事件の全貌までは、結構です。」
慌てて否定し、大事な会話の途中に私情で興味を持ちそうになった自分をたしなめた。ナオミさんは微かににやりと笑っていて、私のこともその後輩と同じカテゴリに分類しているのではないか?と思った。
「大丈夫、その後輩、男の子だから。ほんと手先が器用で仕事が早いのよね。」
ナオミさんは笑う。何が大丈夫なんでしょう。いや、男だからと言って大丈夫なわけでも__と、まんまと彼女の冗談に乗りかかった自分を制した。
「彼は器用さを買われて、今は違う部門で研修にいてね。……その子も、もしかしたらLとの縁で日本に来てたかもしれないと思うと…。ううん、考え出したらキリがないわね。」
日本で亡くなった12名の捜査官の一人だったかもしれない、ということだろう。ナオミさんの瞳が一瞬だけ陰る。
そう、私が助けられなかった、正義の人間たち。
「っ…ナオミさんが一緒に捜査した……ロサンゼルスの事件では、Lはなんと?」
「私は、そうね。実際に交わした会話は大したことがないのだけれど…」
どこか困ったような表情で、ナオミさんは宙を仰いだ。何を思い出しているのだろう。実は仲が良く、いざ思い出すとなると、くだらない会話ばかりしていたとか?
「ずばり、正義について話したわ。そう、正義が好きなんだ、と力説されたわね。」
「力説…ですか」
こほん、とナオミさんは拳を口元にあて、丁寧で上品な咳ばらいをした。
『正義は他の何よりも、力を持っています。』
「ひょえわ?!」
「…あら。そんなに似てたかしら。」
「物真似の才能あるとおもいます。」
…すごく良く似ている。目付きまで再現したうえに指を咥えたり、姿勢を低くしたり…。思わずおかしな声が出てしまった。
「そんなに真似できるなんて、どのようなペアで捜査されてたんですか?」
思わず興味津々になってしまう。しかし、ナオミさんは意外ときょとん、と首を振った。
「ニコイチで行動するような相棒らしい相棒というほどでもなかったわよ。パソコン越しのやりとりと、多少の通話のみよ?初対面で抱きつかれたけれど、蹴って撃退したし」
「初対面で抱きつかれて蹴って撃退したんですか!」
「いえ、勘違いしないであげて。…と私が言うのもおかしいけれど…あれは私に蹴られてみたかったからなんじゃないかしら」
__竜崎?!
「カポエイラの話をしたのが駄目だったかしらね。実演してほしいなら言ってくれればよかったのに。」
「あぁ、カポエイラ…」
と、私は説明するまでもく、いろいろな意味で安堵させられた。
「話がそれちゃったわ。それちゃったついでに確認するけど、」
ナオミさんは企むように顔の前で指を組んだ。
「夕陽は竜崎大好きなのね。あ、ついつい”さん付け”も忘れちゃった。」
私は持ち上げていた紅茶を吹き出しかける。というか、吹き出していないだけでむせ返したので、鼻の奥がつんと傷んで涙目になった。私は「隠したほうがいいのか?冗談か?」「冗談は勘弁して」など、いろいろな気持ちを視線に込めてナオミさんを見返した。ナオミさんは愉快そうに笑った。このお方、こんなキャラが素なの?と私は恨めしく思う。
「気にしないで、誰にも言わないわ。…そう、正義が好きなんですと言われて…」
至極真面目に、真顔で話を戻すナオミさん。途端に容姿端麗の大人の女性に変わるものだから、竜崎に負けずおとらず独特の空気を持っている。ナオミさんにはギャグのセンスがあるのでは…?と私は意識の端で思う。
「当時、私もいろいろあって自分の正義が揺らいじゃってたからね。もう正義の定義やら線引き以前に、善悪すべて滅ぶべし!くらい自暴自棄になってたものだから、その先を聞きたくなって。聞いてみたの。”力?力とは強さのことですか?”って。」
「それで竜崎は、なんと」
ナオミさんは、そこで、私の良く知る、Lを心から信頼する人間_の顔をした。
しかし再びこほん、と丁寧な咳ばらいをすると、
『違います。優しさです。』
と、その言葉を再現して見せた。
答えを出すにはまだ早い。私はまだ、迷い続ける。
だけれども、
__その言葉だけは、たとえ再び記憶喪失になっても、消えるな、と思った。