第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆守護者
「……」
「……」
「えっ」
「えっ、じゃありません。恋人です。夕陽。聞こえましたか、こ」
「あー!き、聞こえてます……!」
瞬間、ぼっと音がしそうなほどに顔が熱くなるのわかって、真面目な話の最中だが私はマフラーに再び埋まった。言葉も意識してタメ口で話そうとしているのが解けて、敬語になってしまった。できれば、竜崎と同じように両足を抱えて、そこに頭を抱え込みたい。そういうわけにもいかないので、私はこわごわと視線をとなりの竜崎へ移す。
「つまり、キラ容疑者…、月君ですよね?…の前で、恋人のフリを……これ…真面目な話、なんですよね…?からかってない……ですよね?」
「はい。真面目です。私が正義です。」
…ふざけているようにしか聞こえないが。いや、竜崎のことだから真面目な話をしながら、それとは別にからかっている可能性もあるが。
「もちろん、協力します。…でも、どうして?」
「夕陽もキラのまえに出る可能性がある以上、下手に隠れたり逃げたりするよりも、こちらのほうが有利だからです。いくつか私もキラに対しては仕掛けますが、それに加えてさらに仕掛けられる、という利点付きです。デメリットは…あなたの協力が絶対に必要なので、イヤと言われてしまったら採用できない策であるという点だけですが。」
「でも、それって、私が弱みとして相手に付け込まれるんじゃ…」
「ですので、”キラにだけ伝える”んです。私たちが恋人であるという事実を利用し、どちらかを脅したり付け込もうとした瞬間、奴は尻尾をだすことになります。」
「な、なるほど…!」
「もっとも、キラはそういう俗なことをする性格ではないと踏んでいますので、これはあくまで仮定のケースです。ですが、恋人ともなれば相手は確実に警戒します。個別に抹殺しよう、といった行動もとれない状況に置くことができます。夕陽が何もしなくても、キラは間違いなく動きづらくなるでしょう。」
単純に、すごい、と思った。
久々に、竜崎が探偵なんだと思い知らされる。
「納得していただけましたか」
「…はい!すごい、それでいいと思います!…ううん、いいと思う!もちろん協力するよ!」
「そう言っていただけると思いました。……あ、もう一番高い場所ですね。」
唐突に、竜崎が窓の外を見る。
横顔が眩しかった。
「私も見る!」
「……どうぞ」
竜崎が左の窓を眺めて、私は右側からずいっと覗き込むようにして、同じ風景を眺めた。目の前に竜崎の頭があって、レモンの香りがした。窓際によって、竜崎の背中に体が触れた時、ふと、数日前にみた悲しい雨の中の竜崎を思い出した。
「竜崎、あのさ」
夢の中の触れられなかった竜崎と、目の前の竜崎とをどうしても比べてしまう。二人きりで、冗談を交えながらも、たのしく外を眺めて、事件を離れて。こんなにも幸せな時間が、この先もしも二度と来ないかもしれないと思ったら…
私は、竜崎に言わなければならない、と思った。
さっき見つけた答えと、そろそろ変わらなければいけない自分の決意のために。そして、二人きりでいま話すことができる、この瞬間に、私は宣言しなければいけない。
ぐるっと一周する観覧車。
帰りの半周、この残りの数分で、私も竜崎に伝えきれるだろうか。
「昨日の話なんだけど。私が、竜崎のことを心配してたって話。……そのことについてなんだけど聞いてくれるかな。」
私は窓の外を見たままの竜崎に問う。
今までずっと自分の中だけで消化してきた心のうちの話をするのだ。論理的で、決して情緒的とはいえない竜崎に長々と話すのは気が引ける。だが、どうしても話したかった。
竜崎は至近距離ながらも真っ直ぐに私を見返し、ゆっくりと口を開いた。
「やっと話していただけるという訳ですね。」
その意外な返答に胸がきゅっと締められる思いをこらえながら、私は「ありがとう」と言って、ひとつ、頷いた。
「今日着てる、この服。実は、竜崎の部屋で倒れてたあの日、ここに来た日と同じ服なんだ。」
出会った初日のことを思い出す。頭を打つ感覚がして、目が覚めたら、ひんやりとしたフローリングに転がっていたこと。床に置かれたノートパソコンに”L”の文字が表示されていたこと。侵入者と間違えられて竜崎に組み敷かれ、「なぜLの顔を知っているのか」と、疑われたこと。窓の外から、夕陽と……この観覧車が見えていたこと。
竜崎は小さく「ええ」とだけ言って、私の言葉を待っているようだった。
「知っての通り、私はおかしな記憶喪失でいきなり表れて、どうしてか竜崎のことを「守りたい」なんて言って、すごく不思議だったんじゃないかな。もしかしたら…不気味だったかもね。……だけど正直、自分でも、どうしてか分からなかった。理由なんてなかったの。」
そう、自分の中でずっと燻っていた、借りっぱなしのような違和感。それは理由のない、空っぽの決意のせいだった。
「自分でも、気持ち悪いと感じた。だけど、目をつむって過ごしてきた。……理由もないのに、ただ「守らないといけない」なんて使命感だけがあった。……過去を思い出しだわけじゃないけれど、まるで、昔の自分にそうさせられているみたいな感覚だった。」
途中から声が震えるのが分かった。久しぶりに、竜崎に話をするのが怖いと思った。
この感覚自体も、初めて竜崎にあった日と同じだ。自分が得体のしれない存在であることを明かす感覚と、それを否定されることを恐れる気持ち。
「未だに、記憶は戻らない。過去の自分がどうだったか、わからない。……だから」
私は弱々しく、文脈もたどたどしく途切れそうになっている自分に活をいれる。姿勢をただして、言う。
「今、ここにいる私。夕陽として、今の話をしたい。」
私は立ち上がり、竜崎の前で片膝をついた。
「竜崎。
私は、竜崎のことが好き。
好きだから、守りたい。」
言ってしまった。竜崎が目を大きくしたように感じる。
ちゃんと、伝えられただろうか。
「………………」
「…りゅうざき?」
「……おどろきました。」
…まぁ、そうだろうな、と私は苦笑する。
竜崎はあっけにとられたような、ぽかんと両目が開いたような表情で静止した後、何かを思い出したように、親指を口元に持っていった。
私はそんな竜崎に、片手を差し伸べ、話の続きをした。
「ごめんなさい、竜崎。さっきの恋人のフリをするっていう話、一回ここでナシにして。」
私はゆっくりと、願うように、言葉を選ぶ。
「協力する代わりに、ひとつ条件を、出させてほしいの。」
私は深呼吸をした。竜崎は注意深く、何も言わずに私と目を合わせてくれる。瞳の中に自分が映り込む。
私は目を閉じて、思い出したくないひとつの情景を浮かべる。冷たくて暗くて……そう、あれはきっと未来だ。このままだときっと叶ってしまう、最悪の未来。
「……夢を見たの。竜崎が、雨の中で一人で濡れている夢。私がいないって言って、諦めたように、誰かに別れを告げてた。
これは私のわがまま。だけど、そんな夢、もう見たくないから
竜崎、エル・ローライト、
お願い。
私を、あなたの守護者にしてくください」
言葉を紡ぎながら一度俯き、そして竜崎を見上げた。胸に手を当てた自分は、なんだか騎士みたいだな、と頭の隅で可笑しくなってしまう。だが、偽りは一切なかった。それでいいとさえ思う。
数秒の沈黙が、私と一緒に竜崎の言葉を待ってくれた。
窓の外の風景はぐんぐん低くなって、やがて高層ビルの窓をも見上げられるほど、もとの世界に近づいてきた。竜崎は俯き、その表情を前髪の中に隠す。しかしゆっくりと、私の瞳をまっすぐ見据えて言った。
「……いいでしょう。ですが、命を投げ出すような真似はしないと誓ってください。お願いします。」
そう答える竜崎は、今までにないほどに真剣に見えた。まるで釘を打つように、いつか私がとるかもしれない浅はかな行動を、咎めるように。
__彼は私の目を見て、心の内を透かしている。見透かしている。私は確かに、自分の命を差し出してもいいと、言えてしまう。
きっと過去にも、Lという人物を慕った人間は数多くいたことだろう。恋愛に限らず、様々な理由を内包する親愛、あるいは敬愛によって。自分がLであるから、というだけの理由で目の前で命を失った経験が、あるのかもしれない。
だから、それで彼を傷つけるのは、_それだけは、避けたい。
「うん、約束、誓います。」
そう口にして竜崎の瞳を覗き込んだとき、明らかに何かが昨日までの自分と変わった気がした。
記憶喪失、という言葉で、借り物のように過ごしてきた日々があった。竜崎のやさしさにぶら下がっていた私は、辻褄合わせのように多少の命を救ったけれど、はやり空っぽの決意だったように思える。
__だけれどこの瞬間からは。
この胸にあるのは、ごまかしのない気持ちと、揺るぎない理由。もう決して、「なぜかわからないけれど」なんて言う必要はない。
一緒に刻んだ今日までの時間の実感を持って、わたしは新たな一人の人間として生きていける。
それだけの時間を、十分、私は竜崎にもらったと、胸を張って言うことができる。
張りつめていた何かが緩んで、思わず笑ってしまった瞬間、座席の上の竜崎が、私の頭に片手をぽんと乗せた。
「話はまとまりましたが。この際ですので、明かしてしまいましょう。」
「え、明かすって、何を?」
私の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でながら、反対の手で竜崎はびしっとこちらを指し示した。
「好きです。夕陽。」
…
…
「……、あ、え、あ、はい?!!?」
「好きだと言っているんです。」
「竜崎が、えっと、ホワット…?」
「とぼけないでください。せめて "who" でしょう。…私が、夕陽をです。」
「…本当に…?」
「私はうそつきお化けです」
「………?」
「私は自分がうそつきお化けだと思いますしうそつきお化けはうそつきですが、今のはうそです、本当です。……どちらでもいいことですが。」
___?!?!
___ど、どっち?!
「む、むずかしいことはよくわからないけど……じゃあその、要するに、両思いだけど……い、いまはその、月君の前でだけ、恋人っていうテイ…なんだよね」
「そうですね」
「だよね!いまはキラ事件の真っただ中だから本当につ、付き合うとかはちょっとあれだもんね?!フリ、だよね??」
「………………」
「な、なんで黙っちゃうの…?」
話しながら、身が持たなくなってきた。強がってた私は再び顔が熱くなるのを感じて、それでも恥ずかしくてマフラーに埋まった。
「いっそのこと本当に付き合ってしまって恋人になる。それもいいかもしれません。でも、せっかくですので」
言葉を区切って、ふふっと、珍しくご機嫌な調子で笑う。
竜崎の手が私のマフラーをよけて、頬に触れる。
「楽しみは、未来に残しましょう。約束です。この事件がおわるまで、一緒にいてくれますか?夕陽」
「…はい!もちろん!」