第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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ロビーに降り立った。オレンジや赤、金色の装飾のなか、賑やかに人々が行き交う。
私は竜崎の姿を探して、ソファーの並ぶエリアへと歩をすすめた。白いシャツ、白いシャツ、と色で大雑把に探していく。
「夕陽」
胸に響くような、低い声が頭上から降ってきた。
私は瞬間的に「あ、そういうパターンね」と思った。
竜崎に用事がある際に地味にあるあるな、真後ろから声を掛けられるアレだ。
「おはよ、」
私は驚きもせずに、ほとんど接しているといってもいいほど至近距離の竜崎をくるっと振り返った。
しかし、そこで一瞬だけ言葉が詰まる。
「う」
「…どうかしましたか」
「い、いえ!あいや、なんでも」
「何ですか?いつも以上に私のことを見過ぎです。」
自分の背中と竜崎の胸あたりがほとんど接している状況で振り返ったので、対面した状態でかなり距離が近い。
その距離で視線を上下にその服装を眺めてしまったのだから、明らかに怪しかっただろう。
「ううん、別になんでもないよ、上着着てるの、珍しいなーって」
私は素直に答えることにした。
竜崎の服装に思わず目を取られてしまったのは、特段、おかしな格好をしていたからではない。
ただ単に、初めて「白シャツに青いジーンズ」ではない竜崎を見たからだった。…それを着ていることは一緒なのだが、今日の竜崎は屋外でのお出かけ使用に、カーキ色のミリタリージャケットを羽織っているのだった。
前を開けっ放しにしたコートはとてもラフというか、ワイルドというか、それは本当によく似合っていたけれど、竜崎はそういう服が好きなんだな?と不思議な気持ちになる。
さすがに真冬にシャツ1枚とはいかないよね。
…それでも十分、寒そうだけどね。
「コート、かっこいいね」
私はお世辞のような気軽さで感想を口にし、その袖をぽふぽふと触ってみた。
竜崎は何も言わず指を口元にやり、私の服装を見て何か言おうとする。
「夕陽は…」
「?」
「いえ、なんでもありません。行きましょうか。」
「?はい!」
言いかけたことを引っ込られて釈然としない気持であったが、手ぶらのまま両手をポケットに入れて前を行く竜崎に、慌てて小走りで追いつく。
追いつくと、竜崎は私を振り返り、「よく寝れましたか」と聞いてきた。
「はい!明け方から朝までぐっすりと!」
「…明け方から、朝まですか」
ほとんど寝ていないので、阿呆なことを言ってしまった。彼はただリピートして、しかしそこにあえて突っ込みをいれることなく1歩先を歩いた。
「そういう竜崎は?」
「私は寝てません。寝られませんでした。」
「……そ、そっか」
なんでかな、と思いつつ。そもそも竜崎はいつ寝ているんだろう。
少なくとも、自分が部屋に戻るよりは後だ。では朝方?
今更ながら不思議に思っていると、竜崎がホテルの正面で立ち止まった。どこへ向かうのか完全に任せっきりだった私はその背中に当たりそうになる。すると彼は片手をゆるっとした動作で上げ、脇に見えていたごく普通の黒いタクシーを呼び寄せた。
「竜崎、今日の買い物ってなんなの?」
竜崎に促され、おずおずと後部座席に乗り込みながら聞いてみた。
「東応大学の過去問です」
竜崎も、隣に乗り込みつつ早速両足をシートの上にあげながら答えた。
「へ、過去問……?」
タクシーを呼んで乗り込むところからして意外な展開だった。わざわざ二人で、しかもいつもと違う、普通のタクシーで?そして買いに行くのが過去問…?竜崎って勉強するの?それなら自分ひとりで買いにいける。ケーキより買うのは簡単かもしれない。それを何故?
「はい、把握しておこうと。というよりも、日本の大学受験問題というものに多少興味が沸いただけですが。」
「そ、そうなんだ…」
そういうものなのか。と相槌を打ってから気づいた。
あまりに私は自然に竜崎の言葉を受け取りすぎている。
竜崎はこのあと夜神月に接近するために東応大学に入学するつもりだ。それを直接は聞いていないのだから、今からでも聞き返すべきか。
「月君が受ける大学だね。」
「その通りです。」
「キラ容疑者と接触するって、このことだったんだね。」
「ええ。」
これ以上は何も言わない方がいいだろう。
「未来がみえるかも」といった、曖昧な表現でここまでやってこれたのだ。
私は竜崎の様子を見るのをぐっと我慢して、窓の外の風景を眺めた。そして、「どこへいくのだろう」と無理やり思考をそらす。
本を買うならば、近場でいくらでも書店はあるだろう。
それが、タクシーは走り続ける。市街地を抜け、幹線道路のようなところに乗り上げ、もう20分ほどは走っているのではないだろうか。
窓開けたら、気持ちいいかな。寒いかな。
そんな風に考えているうちに寝不足がたたって、意識がうっすらと眠りの中に落ちていった。
中地半端に眠りと覚醒状態が入り混じる意識の中、車の揺れや、ウィンカーの音が聞こえる。そんな意識下でこっくりこっくり揺れていると、やがて車が小回りに減速しだした。
「夕陽」
「ん……」
起こされると同時に、後部座席のドアが音をたてて開かれる。薄く目を開けた私はあっと息をのんだ。
「竜崎ここ…どこ!?」
「湾岸の方の地区です。……以前のホテルから見えていた辺りですね。」
開かれたドアから見えるのは驚くほどの青空と、きらきらと光る海だった。眩しい太陽の光を受けて、すぐ近くにそびえるのは大きな観覧車だ。タクシーの座席の中まで、ちょうど方角の加減で海風が入ってくる。
冬だけど、日差しもあってすごく良い気候だ。
「夕陽、驚きましたか」
「うん…!」
驚いたなんてものではなかった。正直、初めて見るような風景だと思った。
記憶がないせいか、「こんな場所本当にあるんだ」という気持ち。それはまるで、何も知らない子供になったような気分だった。
「それは良かったです。行きましょう。風が強いので、少々寒いかもしれませんが。」
一人でほえーっとなっていると腕ごと雑に引っ張られ、私は車から降りるということを思い出す。
…たしかに、まぁ、さすがに寒い。
「例の本ですが、そこに見えるビルの中の書店で買いましょう。それが終わったらあれに乗りましょう」
「あれって、観覧車?」
「はい」
指さす先をたどると、そこにあるのは大きな観覧車。
まさか、と思って尋ねると、「そうですが何か」といった調子の竜崎。
一瞬、いつものように理由や意図を求めようとしてしまうが、
__今、この瞬間、キラ事件は全く関係ない。
その一点だけが私の思考を停止させた。
「いいんですか?!」
___まぁ、いっか!!と。
私はその提案にのることにした。
時間にしてみれば15分とかからず、本来今日ここに来る目的であった書店での買い物は終えることができた。
「竜崎、ほんとに勉強するの?しなくても満点取れそう」
手に持った書店の袋をご機嫌にぶらぶらさせながら、私は竜崎に語り掛けた。竜崎は書店のレジ横に売っていたレモン味のロリポップをくわえている。
「ほうですね……日本の大学を受験した経験があるわけではありませんから、言い切れないのですが。」
「言い切れないけど満点?」
「そうですね。ですがそんなことはどうでもいいことです。」
「さすが、余裕だよねー…ってあ、もう真下だよ竜崎!」
天才ってなんなんだろう。なんて考えていると、いつのまにか観覧車の乗り場に到着していた。今まで自分は何を見ていたんだろう、思うほどに、近くに来てみると観覧車は大きくカラフルだった。
大きいなぁ、すごいなぁ、これに乗れるのかぁ、なんて見上げていると、竜崎はすたすたと先を歩いて行ってしまって、笑顔の乗り場のスタッフに話しかけられていた。
「こんにちは~お二人様ですね!」
そう、私の姿を素早く確認し、なんの確認もなく笑顔で言うお姉さん。
「はい、彼女と二人です」
いつにもなく平坦な返事をする竜崎。”she”って意味なのはよくわかるのに、私は反射的に恥ずかしくなってしまって、寒さをしのぐように顔の半分をマフラーにうずめた。
「彼女さん、よろしければ記念に一枚、お写真いかがですか?」
「あ、はい、彼女?!私ですか?」
「そうですよ~。記念に二人で。ツーショットで。ラブラブ写真にこの瞬間を収めちゃいませんか?」
クールにというか平常心というか、ごく普通に人数を伝え、いよいよ乗り場へと向かおうとする竜崎におくれ、私は別のお姉さんに声を掛けられる。今度のお姉さんははっきりとカップル扱いをしてくる。その声は、語尾にハートが付いているんじゃないかと思うほどに甘く、びっくりするほどに営業スマイルだ。
…ここまで大げさに営業口調で話しかけてくれれば、変にはずかしくもならないんだよなぁ、と私は苦笑し、お姉さんに答えた。
「ごめんなさい、ちょっと今日は…」
「そうですか~、あら?あ、ふーん……そういうことですね!応援してますね!」
さわやかに送り出してくれればいいものの、お姉さんは妙に鋭そうな視線で竜崎を見ると、私に耳打ちしてきた。私は「ア、ハイ」なんてしょうもない返事しかできなかった。
「いってらっしゃいませ~」
甘い声で、妙にねちっこく背中を押してくれたお姉さんの背後には、ハート型の撮影用の背景があって、ピンクやゴールドにちかちかと光っていた。
私は目をそらしてしまう。あんなの恥ずかしくて無理。…いやいや、竜崎が写真なんかとっちゃったら危ないからさ?!
なんやかんやで小走りで先を行く竜崎に追いつくと、「どうしたんですか」と彼は振り返る。
「ううん、……カップル用の写真撮らないかって、言われただけ……、いいから乗ろうっ」
「はぁ」といわんばかりに私の様子を覗き見る竜崎。…そういえば今日、あまりまじまじ近くで顔を見ていなかったな、なんて思いつつ、私は視線をそらしてしまう。
「もう、ほんとに大丈夫だから!」
耐え切れなくなって私はその背中を両手で軽く押した。力の抜けた様子で「そうですか」という返事だけが返ってきた。
……だめだ、私
……なんだか竜崎を意識してる。