第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆リフレイン
何かが変わる気がした。
___答えを出すにはまだ早いが。
ドアノブを放した手を、ポケットに引っ込めた。
背中を向けて立ち去るはずのドアを見つめたまま、思案する。
思い返せば、あの夜のことだ。
未だに何度もリフレインする。
どうしても離れない、
彼女____夕陽の声。
__「わたしは付いていきたいです。お願いします!」
彼女にキラ事件から離れた場所で待機するようにと指示をした際、なぜそんなに頑なに拒むのか、不思議だった。
キラ事件がただの偶然ではなく何者かの仕業だとされたその日、日本国内でも選りすぐりの経験と実力、自信も誇りもある数十人の捜査員たちが名乗りを上げた。
なかには成り行きで加わった者もいたかもしれない。そこにいること自体が自分の意向ではなかった者もいたかもしれない。だが、命の危険が現実のものとなった瞬間、正義を語った捜査官たちはひとりひとりと捜査本部を後にし、最終的に残ったのはたったの数人だった。
今更言うまでもなく、それは自然なことだ。予想できたことであり、彼らにとっては当たり前だ。こちらにとっては合理的でもあった。
だが、夕陽は彼らと同じではない。
捜査員ではない。警察でもない。「そういう生き方」を選んだ身ではないのだ。
彼女は逃げても隠れても良い。
身を守るべき存在、という認識で間違っていなかった筈だ。
ふと、出会った日の彼女の姿を思い出す。
何も持たず、何も望まず、ただ、警戒されることを恐れた弱々しい姿。
見知らぬ部屋で目を覚ましたのも関わらず、自分を恐れるどころか
「何故かあなたのことだけは分かる」と、まるで希望の光を見たように微笑む姿。
彼女は望む望まないにもかかわらず、ただ成り行きで危険な事件の渦中に放り込まれていただけである。
少なくとも、自分より人の身を案じて「手の届かないところに行かないで」なんて、言う理由がないのだ。
「こんな場所もういや。早く帰して。」
そう言ったっておかしくない状況だったというのに。
__……分からなかった。
____「行かないで…こんな早く……置いていかないでくださいっ!」
どうして彼女があの時、涙を流したのか。
ただ、そのときは、理由もわからず胸が苦しくなった。正直、彼女の不自然さと行きすぎな善性の違和感によるものだと思った。__だって彼女は、ただの一度も、「帰りたい」と、「思い出したい」と、「怖い」と、「不安だ」、と口にしなかったのだから。その彼女が、初めて涙を流したのだ。「あなたが心配だ、行かないで」と。おかしい。何かが間違っている。
彼女の言動は一つ一つがひどくアンバランスだ。記憶喪失、そして記憶しているものも、自分に対する言動も。そして、アンバランスなものには必ず嵌るべきピースがあるはずだとも。
そう考えて、できるだけ彼女を自分のそばに置き、ことあるごとに言葉をかけるようにしていた。
隣に座らせたり、
からかったり、
そのたび、彼女の反応を観察した。
それは騙していたようであるが、彼女もまた何かを隠しているのは明白だった。
彼女は多少、口調が砕けるようになったり、言い返す場面が増えたものの、確信に触れるような反応はいつまでも示さなかった。何かを隠す、不自然な善性とアンバランスさ。その肝心なところは、出会ったときから何も変わらなかった。
だが、あの日。
__「はじめての気持ちです。」
いつものように
隣に座らせた彼女に、私はふと呟いてしまった。
それは自分でも受け流す程度に、どうでもいい感想を漏らしただけのことだ。
ただ、純粋に、他意はなく、「隣に誰かいるのも悪くない」と、そう思っただけだ。
どうでもいいからこそ、素直に口にした。
彼女の反応なんて、期待も予想もしていなかった。その程度の戯言だった。
だが、彼女は
__「そっか、じゃあ、ここに座ってるよ」
恥ずかしげに、でも神妙に、大真面目に、というのが正しいか、
ゆっくりと頷きながら、その言葉を受け止めた彼女がいた。
__「名前をくれて、居てくれていいって言ってくれて、嬉しかった。……ちゃんと言えてなかったけど、ありがとう。これからも、よろしく…ね!」
そしてこともあろうか、まるで恩人に言うように緊張しながら、たどたどしくそう告げる彼女に、先に折れたのは自分の方だった。
あのとき、気づいてしまった。
___「これからも、」
彼女の言葉を借りるならば
___これからも、願はくは彼女に”居てほしい”と、
そう、願ってしまった。
だから今夜、彼女に話をしたのは、ひとつの「確認作業」だった。彼女がもし変わることなく、キラ事件に、周囲に、Lという自分に向き合おうとするならば。
私自身もきっと、このリフレインから、逃れられないだろう。対処が必要だ。
__いつものようにからかいつつ、「キラと直接対峙していく」と告げた。
彼女からの答えは簡単に得られた。
彼女は変わっていない。それどころか、より強く、まるで「止めはしないけど、私は勝手にあなたを守りますから。」と言わんばかりだった。
__……思わず撫でてしまったのは置いておくとして
彼女が変わらないことを確かめ、そしてどうやら自分の気持ちも、取り返しがつかないことを確認した。この気持ちがどうありたいと望むのか、そもそもどういう感情なのか、答えを出す必要はない。捜査において支障にならないように、そして彼女の安全を確保できるように折り合いをつけて対処するだけだ。
そのために、明日、彼女の協力を仰ぐ必要がある。
「夕陽、貴方は私を守りたいと言うが」
___私のことを、どう思っているか
「私はまだ、知りません」
___必要がない。それは聞かないでおこう。
……
世界の切り札は、自覚と無自覚を併せ持ちながらも、それでも冷静だった。
頭の半分でキラ事件のことを、もう半分で自分と少女のことを、それぞれを思案しながら自室へと戻っていった。
記憶喪失の少女は、ベッドの中で眠り、その夢の中でまた物語のページをめくる。
探偵は理解されないひとりぼっちの天才。
そういう物語。
物語が、変わるのだとしたら。