第二章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆予知夢
__最近多いなぁ、まただ。
捜査本部のメインとなる部屋から自室へと戻った後の記憶がない。どういうわけか、部屋に戻って、眠りに落ちてしまったようだ。
二回目となれば、いくらか状況を飲み込むのも早い。
夢の中で、私はしっかりとまた、自分が夢見ていることに気づいた。
見渡す限りの上下左右のない空間、黒のような、濃紺のような、空気のなかに立っているような感覚。
……空、あの少女はいない。
足元に視線を落とすと、自分はいつも通りの服装だった。寝る前に来ていたのもこれだったかな。竜崎に用意される、シンプルな青いワンピース。その上から、白く光る、細いチェーンがかかっている。
わたしは胸に手をかざして、ひんやりとしたノート型のモチーフを握りしめた。
__心の中で、「ページを開く」と言うんだったっけ。
声に出さず、例の少女から言われたとおりに、そう言いかけたところで、夢の風景が崩れ始めた。
「え、な、に…?」
手足の感覚が徐々にぼやけて、見えている風景も明るくなっていく。すぐにそれが自分の視界そのものがホワイトアウトしているだけだと気づく。
____なんだろう。これ。
____夢の中、なのに、気絶するみたいに…風景が、変わって、回っ、て……
貧血のように、手足から何かが抜けて行く感覚、そうして回り出す風景。
全ての感覚が一度消えてから、最初に知覚できたのは、誰かの声だった。
____んな、で………
____な、ところで、なに…だ……?
この声は、確か……
なに、よく聞こえないよ?
どうしても、その言葉が聞き取れなくて右手を耳に持っていこうとしたとき、
____ザ
____ザザ、ザー_______
耳鳴りのように、音が一気に押し寄せた。
ザーッと、溢れんばかりになだれ込む音達。
同じように、一瞬で視界が開ける。真っ白な視界から反転して、灰色の、無機質な場所。ここは、ふわふわとした夢の空間でなく、どこかにあるはずの現実の風景だ。
耳を塞ぎたくなる轟音。
「……雨音だ。」
気づいた瞬間に、全身が冷たく、濡れて冷えて行く。
「寒い…」
濡れて、濡れて、重く、冷たくなっていく。
これは何の夢なのだろう?
感覚があまりにもはっきりしているので、また何か、意味のある夢なのかもしれない。
見渡す。
暗い空。ごろごろと鳴る、雷雲。
高い高い、ビルの屋上。
ヘリポートかな?
「__竜崎__そんなところで何してるんだ?」
__竜崎?
そうだ、さっきから、誰かの声がしていた。
はっとして声の方を見る。
_夜神月だ。
こちらを見ている。…自分を見ている?
でもいま、竜崎って言った。
__竜崎が、ここにいる?
今立つ場所から、一歩引く。
……竜崎。
竜崎が私とほとんど同じ場所に立っていた。
雨の中、何も持たず、ただ、一人で立っていた。
ずっと長い間そうしていたように、伏し目がちになっていた。
その右手がゆっくりと持ち上がり、
……いまは、楽しそうに、夜神月に耳を傾げて笑っている。
その光景が、表情が、ひどく怖かった。
"り、竜崎、ずぶ濡れだよ?"
__あれ、聞こえてないのかな?
寒いよ、
やめて、
こんなこと……
"風邪ひいちゃう、戻ろうよ!"
…そっか…
声が出ない。私、竜崎から見えていないんだ。
手を伸ばしても、竜崎に触れられない。
夢を見ている私に体は無くて、ただ濡れながら、意識がそこにあるだけだった。
「鐘の音が、聴こえるんです」
私を通り越した視線で、夜神月に、そう告げる竜崎。
聞こえない。
鐘の音なんか、聞こえないよ。
どうしちゃったの、竜崎?
全身で感じる違和感に、アンバランスなほど穏やかな口調の竜崎。
それが怖いのか、不安なのか、声をかけられなくてもどかしいのか、
雨の中、体がないはずなのに、体温が奪われていく感覚に、手指が痺れる。
「…今日はもう、朝からひっきりなしで。」
「あはは、何を言ってるんだよ」
それをただ、笑い飛ばす、夜神月。
「鐘の音なんか、聞こえないけど?」
竜崎の肩を掴む、夜神月。
____やめて、触らないで。
「夕陽さんがいなくなって元気が出ないのはわかるけど」
……
……私が、いない?
……
「……彼女は始めから、別の世界の方でしたので。残ったのは、私と、月君だけです。」
竜崎は表情を変えない。
髪を、顔も、雨に濡らしっぱなしで、ほとんど片目で夜神月をまっすぐに見据える。
「…本当に、何言ってるんだ、竜崎」
「寂しくなりますね。……もうすぐ、お別れです。」
「…っ、それはどういう」
言いかけて、夜神月は口をつぐむ。
雨の中、竜崎はただ空を見上げて、でも目なんか開けていられないから、目を閉じて、雨に降られていた。
脱力した両手、それはいつもどおりの猫背だけれど、不敵な笑みを浮かべず、ポケットに手も入れず、誰かを睨むことをせず、ただ、立ち尽くすひとりの、
ひとりの、
それはあまりにも、心細く、胸が苦しくなる姿だったから。
…きっと夜神月も言葉をのみ込んでしまったのだろう。
……竜崎。
……竜崎。
……お願い、そんな、あきらめたような顔、しないでよ…!
手を差し伸べられないことが悔しかった。
もし、私がそこにいたなら。
竜崎、ごめんね……。
夢の中、意識だけで手足も顔もないのに、私は涙をきっと流していた。
涙を流しても、雨がすぐに洗い去ってくれる。
竜崎と夜神月。二人はそのあと二、三言話して、一緒にビルの階段を下っていく。
私は雨の中に縛りつけられたように、両足も自由が効かなくなってきて、追いかけることができなかった。
そこで、夢が冷める気配を感じた。
風景から、音が消えていく。
世界は無音になって、屋上が、空が、ヘリポートが、また消えて、ホワイトアウトしていく。
手足の感覚が消えていく。
そして意識も、
……竜崎……。
どうか、どうか、
目が覚めたら、
もう二度とあんな表情を見たくない……!!