第一章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◆捜査本部
理由づけにすこしひっかかりつつも、私は部屋に戻って服やボトル系の日用品などをドアの前に置かれていた黒いカバンに詰め始めた。
デスノートについての手記は、別のカバンに仕事手帳などと一緒に持ち歩くことにした。これだけは絶対誰にも見つかってはいけない、私の分身のようなものだからだ。
記憶の中では曖昧な夜の時間だったが、ちゃんと時計をみると時刻はもう真夜中を回っていた。いつものリムジンに乗り込み、あとから竜崎が乗り込んでくる。ワタリさんが乗り込んでこないのは、壁で仕切られた運転席にもう待機しているからなのだろう。私は黙って荷物を支えたまま、竜崎とぽつりぽつりと言葉を交わし、ひたすら窓の外を眺めた。
2003年12月31日。今年が終わる。時間も迫る。
街は真夜中でもきれいな夜景が保たれており、リムジンはその夜景を別のアングルから眺めることのできる場所にわずかに移動しただけで前と同じような大きなホテルの前に停車した。時間は10分とかからなかった。
「では、私とワタリはやることがありますので。夕陽は準備ができ次第予定の時刻に間に合うようにお茶の準備をいつものようにお願いします。私を入れて・・・6人分でいいはずです。」
手ぶらの竜崎に大まかに指示をうけ、私は自室のカードキーを受けとった。
いよいよ始まる・・・そんな想いを胸に携え、私は鏡を見た。
調度品として置かれている背後の地球儀と、青い服の自分が映し出された。これからの緊張感に、自然と眉間にしわがより、口角が下がった。瞳がこころなしか潤んでいる。
険しくなった表情を、両手で頬をひっぱってほぐす。
「だめだめ。笑顔で行かないと。」
にっと無理に笑い、私はいまの服装に薄手のジャケットを羽織った。できるだけ捜査本部と言う場に馴染むように、異常な存在であることが目立たないように。・・・そっか、ちょっとお化粧もしないとね。
背後でお湯の沸く音が聞こえ、お茶の準備もととのった。私はわきに置いたノートパソコンに《come in》というメッセージが表示されたのを確認して部屋を後にした。
ピーっと、カードキーが認証され、広い部屋が開かれた。
こちらのホテルに移動してから、捜査本部としてメインになるこの部屋に入るのは初めてだ。寒色の自室に比べ、広めで室温もすこし高い暖色の部屋だった。
数人のスーツの人間がすでに立ち上がり、言葉を交わし動いている。無意識の知った顔を、竜崎を目で探す。すると、こちらに背を向けた一人用ソファーの上から黒髪が動くのが見えた。竜崎がいる。知っている。私はこの場面を・・・知っている。
「携帯電話は、電源を切ってそこにおいてください。」
ソファーから白いシャツの袖がすっと伸ばされ、脇のテーブルを指差した。これも知ってる場面だ。私はそれを見て、ふう、と小さく息を吐いた。堂々としていればいい。私は、死なないのだから。・・・いや、死んでもいいのだから。
私はトレーを携え直すと、意を決して彼らに近づいて行った。
「竜崎。」
トレーを持ち、竜崎の傍に立って、できるだけはっきりと、凛と一言声をかける。すると、スーツの捜査員たちは初めて私に気付き、ばらばらに振り返って目を見開いた。そしてほぼ同時に竜崎に視線を送り始めた。どこか説明を求めるような、トラブルでも起きたような表情で。それは怪訝そうでもある。「どういうことだ?」「だれだ?」と、口にせずとも彼らの疑問が感じ取れた。
竜崎はそれらの表情になにも揺り動かされることなく、ゆっくりと顔をあげ私を指した。
「皆さん紹介します。夕陽、彼女もこちらの人間です。」
平坦な竜崎の声に、私はぺこりと頭を下げた。
「キラ事件日本捜査本部のみなさん、はじめまして。日向夕陽と申します。名前しか教えられなくて、すみません。」
顔を上げると、少しだけ間が空く。私はひるまずまっすぐ立ち続けた。足らない説明に、多すぎる疑問のアンバランスが、ただただ沈黙を招いた。しばらくして重い空気を突き破って、捜査員の中で一番年配の人物が口を開いた。
「よろしく、私は夜神総一郎だ。」
そこまで言ってから、彼ははっときづいたように横目で竜崎をちらっと見た。どうしたのだろう、と一瞬考えてから、一つの事柄に思い当たる。私の記憶が確かなら、彼は竜崎に対して、出会いがしらに本名をフルネームで名乗り、「バーン」とされたはずだ。そのことを思い出したのだろうか。当の竜崎はもう二度とやるつもりはないのか、新しいスイーツに手をつけている最中だった。夜神さんの視線に気付いてすらいないようだ。
私は思わずふふっと小さく笑った。
「よろしくお願いします夜神さん。私のことは気軽に夕陽と呼んでください。」
夜神さんの自己紹介を川切りに、相沢さん、摸木さん、宇生田さん、松田さんが挨拶してくれる。私はひとりひとりに「よろしくお願いします」と返しつつ、その前にお茶を置いた。
「しかし竜崎・・・名前だけを紹介されても、彼女は一体・・」
「夕陽は“こちら側”の人間の一人です。この事件では私のもとで働いてもらいます。」
「それはつまり・・・彼女はLの部下として捜査に協力するということか?」
竜崎はなぜだかつまらなそうに唇をひっぱるようにした。
「いえ、彼女の仕事は主に私のスイーツの調達です。・・・しかし“こちら側”の人間である以上、捜査に関する情報はすべて開示します。皆さんもそうしてください。」
最後の一言にわたしは驚き、竜崎を見下ろした。それは初耳だった。先日言った「私も協力したい」という旨をくみ取ってくれたのだろうか。それとも、「超能力」の線に望みを持ってくれているのだろうか。
「夕陽、言い忘れましたが、自室のパソコンからこの部屋の音声を聞けるようにしてあります。」
「は、はい!」
どちらにせよ、その意図はわからない。そして驚いたのは私だけではなかったようだ。捜査員の皆も、かすかにどよめいたように感じた。
「スイーツの調達って・・」
「しかし彼女は若い・・・開示する・・・」
「何者なんだ・・・ただものじゃないのでは・・・でも普通の・・・」
ひそひそと、断片の会話が聞こえる。竜崎の隣に戻った私は口を出さずにそれを聞いていた。「私」に関する捜査本部内での立ち位置は、竜崎がおそらく説明するのだろう。先ほどの説明だけでも、だいぶ含みを持たせた言い方に感じた。
「あのー、でも、Lと外部とつなぐのは「ワタリ」ただ一人だって僕聞いてたんですが・・・」
松田さんがおずおずと手を上げながら言った。捜査員の中でも一番若く、挙動にもなんとなく親近感を覚える人物だ。
「それは間違っていません。夕陽は外部と接触を持ちませんので。」
「・・・はあ」
納得できないというよりは不思議がるように、松田さんが私のほうを見た。目が合い、私はとっさに竜崎の言葉に同意するようにこくりとうなづいた。するとなぜだか松田さんがへらっと笑顔を見せた。
「まぁ、でも捜査本部にも華がほしいですしね。まぁいっかーなんっちゃって。はは」
「松田!」
相沢さんがそれをたしなめ、夜神さんが場の空気を濁すようにひとつ咳払いをした。まるでコントのようだ。なんて息があっているのだろう、なんて場違いにも思ってしまった。
「あの、竜崎だけじゃなく皆さんのお茶も入れさせてください。あと、資料の整理だとか・・そういった雑用も手伝いますから。全体的に、私は皆さんのサポート役だと思っていただければ大丈夫です。」
かるく微笑んでそう言うと、いくらか腑に落ちるところがあったのか、腕組みをしていた夜神さんが「うむ、よろしくな」と優しく言ってくれた。続いて摸木さんが無言でうなづき、松田さんが「うん、ありがとう」と言った。よかった。思ったほど怪しまれていないようだ。
「夕陽」
「はい?」
「・・・皆さんの手伝いをするのは止めませんが、私優先です」
捜査員の皆の様子に胸をなでおろしていると、ふいに竜崎がおかわりを求めつつ私に言葉をかけてきた。戸惑いながら私は彼の耳元に身を寄せる。
「はい・・・あの、皆さんの前でそういうこと言わないほうがっ」
「しかしあなたは私のスイーツ係ですから」
途中から声を抑えるも、捜査員の皆の視線がこちらに集まるのが分かる。私はあわてて竜崎のほうにかがんだ姿勢を正し、「すみません!」といった。
「一旦戻ります。竜崎、私は自室から皆さんのお話聞かせていただきます。・・・お邪魔しました。」
一気に言い残し部屋を後にする。自室は部屋を一つはさんですぐ近くのドアだ。
ドアを開けてすぐ、私は“此処”に来た時と同じように、ベッドに身を預けた。青い天井と夜景が見えて、冷たい布団の感触が心地良く感じた。
暗い部屋に、いつかと同じようにぼんやりと光ったパソコンのモニターがある。マウスに手をやると、音声のスイッチがすぐに分かった。かちりと起動すると、両脇に設置されたスピーカーから竜崎の声が聞こえてきた。
≪・・・・・・・みなさんで見せてやりましょうよ。≫
≪正義は必ず勝つということを。≫
スピーカーごしの音声は、記憶の中のその声とさほど変わりないものだった。未来はどう終わったっけか?Lの正義は勝ったっけ?そうだなぁ。私はあえてお気楽な風を装って考えた。
Lの信じる正義はずっと夜神月の信じる正義と競い合ってきた。自分が正しいと信じて疑わず。そして最終的には・・・Lの正義が勝った。L__竜崎__亡き後もその正義を継いだ者の手によって。だから今の言葉は実現するんだ。よかったねL。よかったね。
「どの口が言うか。」
私はそうは思わない。すくなくとも、そんな未来は私の負けだ。
珍しく夜更かしをしてしまったからか、その日私はそのまま布団に倒れ込み、下げたトレーも置いたまま眠りについてしまったのだった。意識の隅で、FBI、テスト、
キラ、とさまざまな語が飛び交っていた。