序章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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◆記憶喪失
「さぁ、もういいでしょう」
しばらくの沈黙(観察)ののち、唐突にLが立ちあがりながら言った。
「場所を変えます。」
「ある人物」、おそらくワタリが到着したのだろう。Lはそう言うと、私に別室に移動するよう促した。例のうす暗い部屋をでて、ひとつのドアを通り越した別のドアが開いた。少し広めの応接間のような空間だった。観葉植物や調度品が設置されており、ホテルのような場所だな、と感じた。
部屋の奥に、黒いスーツの男が一人、コートに帽子をかぶって待機していた。男は私を確認するなり、手に持っていたパソコンをテーブルに置き、Lになにかしらの合図のような動きをした。
「(やっぱり知っている・・あれはワタリさん・・コートは脱がないのかな。私に警戒してるのかな)」
横目で見てると、Lが手ごろな椅子に軽やかに体育座りの姿勢で座った。座ったのか乗ったのか、表現が難しい。すこしだけ目を細めて記憶をたどる。私はその仕草も知っているように思えた。
「そこに座ってください」
テーブルにはいつの間にか紅茶が二つ用意されていたが、反応に困る。私はスカートのすそを直しながら静かに椅子に座ると、こちら側においてあった砂糖ポッドをLの側に押した。
「・・・では改めて聞きますが、あなたは誰ですか。」
「わかりません」
「・・・」
「・・・」
「この際、シラを切ればいいというものではありませんよ」
「わからないんです」
Lの表情はまさに「睨んでいる」ようなじとっとしたものだった。当然だろう。私はその重圧に逃げ出したくなりながらも、聞かれたことだけに答えるよう努めた。
「では、どこから、もしくは誰のもとから貴方は此処に?目的はなんですか」
「それも、わかりません」
「ではなぜ、私のことを知っている様子なのですか」
その語気が一層強くなり、私は思わず肩に力を込めた。どうして分かってしまったのだろう、それは予想外の指摘だった。Lはひとしきり私の言葉を待つと、砂糖ポットの砂糖をぽとぽとと、ぽとぽとと、紅茶に放り込んだ。
それをみて私は「あ、砂糖・・」と声をもらす。
「それだけではありません。」
それ、とは先ほど私が砂糖ポッドを彼のほうに押しやったことを言ったのだろう。
「今の反応で自白とも取れますが・・・しかし砂糖のことについては単に貴方が「砂糖を見るのもいやだ」という特殊な趣向の持ち主であるからという理由も考えられます。」
「それよりも怪しいのは、」そこまで言って、Lは紅茶をかき混ぜていたスプーンをかちゃんと音を立てて置いた。
「貴方は私に全くと言っていいほど警戒の色を見せなかった。」
「・・・!」
それは、砂糖よりもずっと予想外な指摘だった。私は返す言葉がなく椅子にへばりついた姿勢で黙り込んだ。
彼はかまわず続ける。
「貴方の話だと、あの部屋は気付いたら倒れていた見知らぬ一室です。いきなり大の男が現れた状況でああも大人しく従いますか?「助けて」や「誰」の一言も無いのはおかしい。そう思いませんか?」
「・・・」
「私があなたを連れ去って部屋に放置した犯人かもしれないのに、警察を呼ぶことを懸念していたのも状況としてちぐはぐです。やはりどこからか侵入したのではありませんか?」
滞りなく推理を述べたうえで、彼はふいに口角を引き上げた。
「・・・私がLだと知った上で。」
その言葉を最後に、彼は言葉を区切った。私の様子を観察しているのだろうか。
私はふるふると、両手を震わせていた。手が震えるなんて、初めての経験だった。
その推理力が怖いのだろうか。それともその威圧感におびえているのだろうか。
・・・いや、ちがう。
私は、Lという人物に疑いと敵意を向けられているという事実がひどく悲しいのだった。
「・・・正しいです。あなたのこと、知ってます。」
やっとのことで、私はそこにいるのか分からないような声で言った。
「でも、信じてもらえないかもしれないけど・全部言うので・・・少しだけ訂正させてください。」
Lの表情はとくに変わらなかった。
私は慎重に言葉をえらびつつ話し始めた。
「まず・・侵入してないです。多分。誰のもとからも来てないし、どこから来たのかもわかりません。倒れていたのは本当です。ただ、・・・・・その前の記憶が無いんです。」
「記憶がない?」
間髪いれずに私の言葉はくりかえされ、効果音がつくほど、鋭利に視線が向けられた。
「・・・はい。私はいま、自分が誰なのかも、分かりません。」
しかし、相手の様子にどれほど臆病になっても、どれだけ言葉を選んでも、言うことは一緒だった。論理的なことは一つもなく、むしろ作り話のような話だと、自分でも思った。そんなことを考えていたので、最後の言葉はほとんど消え入るような声だった気がする。Lにはかろうじて聞こえただろうか。私は微かに笑ってごまかしてみせた。
「・・・・・・記憶喪失は常套句です。」
案の定Lから発せられた言葉は至極当然ともいえる現実的なものだった。しかし、と彼は続ける。
「しかし、それが本当ならば、あなたが「私のことを知っていますか?」と尋ねてきた点には納得できるのも事実です。」
「そ、それは・・・自分のきた場所・・名前すらなにも分からないのに、どうしてか私はLっていう人を知っていて・・だからこの人なら私を知っているのかもと思って・・・。」
わたしは伏せがちでテーブルにおいた目をぱっと上げた。Lとまっすぐ目があった。
なぜか彼は親指を口にあてて、その目をさらに丸くした。
「・・・。とにかく、丸腰で何の荷物も持っていなかった点にもいくらかの理由づけができます」
私はその言葉に幾秒かののち、控えめにひとつ頷いた。
Lが溶け残った砂糖をスプーンですくった。背後でワタリのノートパソコンの打鍵の音が響く。
「あなたの処分が決まりました。」
「・・・えっ。」
「えっではありません。あなたの処分が決まりました。貴方の疑惑については調査が必要です。その間、長くて14日間、私の監視下に置きます。あなたが何らかの組織に属している場合、相手の出方を見る上でも身柄を拘束する必要があります。シロクロつけるのはそのあとです。」
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その後、私はいくつかの角度から写真を撮られ、どこでそんなものを用意したのか、見たこともない色々な道具を使って指紋や血液を採取された。「やることがありますので」とLは部屋を出ていき、私はワタリさんと1対1で、この「監視下に置く」とやらの説明を淡々と受けた。Lと違って、ワタリさんの声は柔らかい雰囲気の老人のものだった。
その優しげな雰囲気に「実はあなたのことも知ってます」と打ち明けたくなったが、私は何も言わないことにした。会ったことのない人物に過去や未来や趣向を知られているなんて、あまり良い心地はしないだろう。
それはLも同様だろう・・うっかりそう考えてしまった私は肩を落とした。
「Lは貴方のことを完全に疑っているわけではありません。気を落とさないでください。」
そんな私の様子を見て、ワタリさんはほほ笑んでくれた。
「もしもあなたが本当に記憶喪失で困っていると分かれば、私も力になりますよ。それまでちょっと我慢していてくださいね」
「ありがとうございます、ワタリさん」
もしかしたら私は怪しい侵入者かもしれないのに、と心の中で続けた。疑っていたとしても優しい言葉をかけてくれたことに私は思わず口角を引き下げた。ちょっと泣きそうだ。
「ほんとうに、迷惑かけちゃってごめんなさい。」
彼らの仕事を知っているうえで、改めて自分一人何かに手間取らせている事実にそう言うと、ワタリさんは小さくほほ笑みを含んだ会釈をして返してきた。「いえいえ」といった意味だろう。
行っていい場所、ダメな場所などの説明を聞き、私は小さな腕輪を受け取った。一か所小さな赤いランプが光るそれは、どうやら私の居場所を把握するための発信機らしかった。本来なら監視カメラ付きの部屋で拘束し管理下に置くところを、ひとつレベルを下げた段階らしい。私には同じフロア(やはりここはホテルだったらしい)の一室があてがわれた。
「では、自室にはものがそろっていますのでそちらでお過ごしください。用事がある際はテーブルのパソコンから指定のアドレスに向けてメールで連絡をください。指示いたします。」
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「あー。何が起きてるんだろう・・・。」
与えられたカードキーで部屋に入ると、私はベッドの位置を認識するなりそこに倒れこんだ。ふかふかの青いベッドは、ほふん、と気の抜けた音を立ててクッションの山に私を沈ませた。
「このまま寝たら、このままここで目が覚めるのかな・・?」
私は寝たら、またこの右も左もわからない空間で朝を迎えるのだろうか。今日から何日間、この部屋にこもることになるのだろう。いろいろなことをゆっくりと頭に浮かべながら、横になったままクッションに埋まってないほうの目で部屋を見渡した。紺や青でまとめられた静かな室内に、大きな窓だけがその夜景の光をきらきらと投げかけていた。それはやっぱり知らない風景だった。
_やっぱり知らないところに来ちゃったんだなぁ。それか知っていて忘れてるだけなのかも。
でも名前も分からないのはすこし不便かなぁ。
目を閉じると、脳裏に、あの大きなモニターに映し出されたLの文字が浮かぶ。
_でも大丈夫、ここにはLがいる
そんなことをまどろみかけて思った。