終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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あの物語では【ありえなかった可能性】
Lが願った【もう一つの未来】
私はもう見届けることができないけれど、
それはきっと、誰かの正義のように、優しい結末を迎えるだろう。
Guardian -Last note-
◆優しい結末
ここから先は、夕陽の言葉で語るだけの【優しい結末】であり、空想かもしれないひとつの物語だ。私は実際に見たわけでもなければ、見届けたのでも、夢見たのでもない。
だって私は、もうとっくに消えてしまったのだから。
「話し合おう、L。世界にキラは必要だ。」
「いいでしょう。どうせもうすぐお別れです。気が済むまで聞きましょう。夜神くん__これも勝負です。」
夕陽が居なくなったことに気付かず、二人の視線が交錯した。
しかし勝負と言ったものの、二人の間に交わされた会話とその結末は、あらかじめ決まっていた勝敗を確認するようなものだった。
【もう一冊のノートの在処を明かし、ノートの所有権を放棄する】
Lの望む事件の終結は、文字通り__【キラ】を処刑台に送ることだった。
「L、僕が自白しなくとも、13日後には強制的にキラ容疑は確定する……ここで僕に所有権を戻した目的はもう一冊のノートの場所を明かすことにある。そうだろ?」
「ええ。さすが夜神くんです。分かってるじゃないですか。」
夜神月は、記憶が戻った瞬間に全てを理解した。逃げられないことも、夕陽の意図も、Lの考えも、自分の置かれている状況も、全て、一瞬で。
「あぁ、全部簡単だった。考えるまでもなかったよ。」
キラは終わる。
ならば、どう終わるか。
だから最期に、夜神月はその正義を試そうとした。
「L、教えてくれ。キラは世界に必要だ。僕が逮捕されるのはいい。だが、お前はどうだ?Lなら、夜神月という人間よりもうまくやれるかもしれない。」
「………。」
「腐った世の中…政治…司法…教育…世の中を正していける者がいたか?しかし、誰かがやらなければならない。」
「………。」
「ノートを手にした時思った。僕がやるしかない。いや…僕にしかできない!どうしようもない世界が、輝いて見えた。」
夜神月は、夜神粧裕の言う通りの人間だった。彼は、逃げなかった。
__「お兄ちゃんは何があっても逃げない。立ち向かう。そしてやり遂げちゃう。それを見ていると、勇気が出るんです。全然すごくない私__普通の私たちにも、ひとつひとつやっていけば、なんでもできるんだって!」
「人を殺すのが犯罪なんて事はわかっている。しかし、もうそれでしか正せない。いつかそれは認められ、正義の行いとなる。僕がキラとしてやるしかなかった。僕は自分の利益など一度も考えたことはない!」
心身ともに摩耗しようとも、それは世界の為にはどうでもいいことだった。
__「クールぶってるくせに、実はすごく大変で、それなのに迷わず前に立ってくれるのが、私のお兄ちゃんなんです!ヒーローでしょ?……やっぱり夕陽さん!好きになっちゃいますか?」
好きになっていた……そうかもしれない。
私は一度だってキラの正義そのものをを否定しきることは出来なかったのだ。
今になって思えば、私はLを守りつつ、夜神月をも守ろうと必死だった。
「だが、お前だけは違う、L。近くで見ていて思った。初めはキラを止める極悪人だと思ったが……お前は自分自身よりも正しさや思いやりを優先する。周囲の誰がそれに気づかなくとも、僕は知っていた。」
「………。」
「ノートを拾ったのがお前でも、きっと僕のようにやっていた!僕しかいないと思っていたが、L、お前ならできるはずだ。そしてこれから先もできる。世界を変えていける!そうは思わないか?」
夜神月は、キラが生まれたのはすべてがノートのせいだと逃げるのではなく、立ち向かった。
キラの正義と、Lの正義に。
「思いません。」
「………そうか。」
だが、結論から言ってしまえば、夜神月は、とっくに変わっていた。
ノートがなくても世界が変わる可能性を、信じ始め、揺らぎ迷う自分にとっくに気が付いていた。
ならば__正義の在処に揺らいでいた自分ではなく、一度として崩れることがなかった絶対的なLの正義にこそ、とどめを刺してもらうべきだと、そう考えたのかもしれえない。
いっそ一思いに。
ただし、立ち向かう形で。
勝負の形をとって__敗北という形で。
キラは、逃げずに負けなければいけなかった。
「いいか。L。もはやキラは正義。世界の人間の希望だ。」
夜神月は語り掛けた。それは、あの物語のなかの遠い未来、夜神月が最期の瞬間に語るものとよく似ていた。
「今の世界ではキラが法であり、キラが秩序を守っている。これは事実。
人間は幸せになることを追求し、幸せになる権利がある。しかし、一部の腐った者の為に、不意に、いとも簡単にそれが途絶える。
悪は悪しか産まない。意地の悪い人間が悪事を行い、世にはびこるならば、弱い人間はそれを習い、自分も腐っていき、いつかはそれが正しいと自分を正当化する。
悪い人間は裁かれる………。人に害を与える人間も裁かれる。それだけで人間の意識は変わってくる。」
「………。」
Lは微動だにせず、その言葉を聞いていた。
受け流さず、視線をそらさず、無用な相槌を打たず、ただ「ここにいる」と、「私は聞いている」と、キラの言葉を受け止め続けた。
「世の中が変わってくれば人間も変わってくる………………………。優しくなれる………。正義が行きつく先は優しさだと……お前の考えと同じだ。変わりつつある人々の意識を戻していいのか?」
「お前の考えと同じだ」と言ったところで、夜神月は目を細め、遠くを見るようにしてLの言葉を待った。
それで終わりだった。言うべきことはすべて出し切った。
ひとしきり聞き終えて、最後にLが言った。
「私は認めます。
私はキラを悪だと考え、今の話を聞いても全く同意はできませんでしたが……それも一つの正義であるとも思いますし、世界にはキラを正義とする者がいる。事実です。
ですが夜神くん。世界が変わる前に、貴方が一番、変わってきているのではありませんか?
人は変わり続け、人はどこでも常に死んでいきます。人を裁く神などいなければ、行きつく先に天国も地獄もありません。
死の前では、全ての正しさと間違い、善悪、強きと弱きは無に帰す。
……ですから、生きている間に何を想うか。何を愛すか、何を信じるか、何を守りたいか、と私達の正義は、勝手なものです。
信じるものの為に動いているだけ……それが私たちの正義の在り方なのです。
私は悪が許せません。目の前で人が死ぬことも許せません………。
しかし、夜神くん、貴方はキラという正義を信じたことをすべて過去形で語っています。
……貴方は、キラという正義を疑い始めているのではありませんか?」
Lの口調は穏やかだった。まったく風が吹かない青空を背景にして、すでに見えているものを描写するようなのんびりとしたものだった。
「…………。」
夜神月は驚くそぶりを見せず、ただ視線を彼に張り付ける。
彼もまた、とっくに見透かされていた心情を書き起こされただけだった。驚くような目新しい言葉はその中になかった。
「もうとっくに気づいているはずです。夜神くん。迷っているのはノートのせいです。」
Lの言葉はしかし、ノートの所有権を捨てさせるよりもより残酷で確実なキラへの死刑宣告だった。
「ノートに操られているはずの、【キラ】である、いまの夜神くんですら揺らいでいるくらいですから__本来の夜神月は、もっと優しい人間だと___私はそう感じましたし、確信しました。ですから夜神くん……いえ、キラさん。貴方の言う通り、優しさは必要なんです。ですから、そんな優しい夜神月くんが世界に必要なんですよ。」
のたのたと緩慢な動きでLは夜神月の至近距離に移動すると、まじまじとその顔を見つめた。
「…………。」
「いや、違う……僕はキラじゃなく、ちゃんと夜神月だ。でも、お前の言う通りかもしれない。そして夕陽が言った通り……ノートがなくても世界を変えられると……そう、信じたいのかもしれない。」
「いえ。貴方はキラです。ノートを捨てれば夜神くんに戻ります。」
かぶせる様にきっぱりと述べられた言葉は、本気か冗談か分からない。本音か嘘かも分からない。あるいは建前かもしれない。
しかし、それは夜神月という人間ではなくノートこそが根源だとするLの結論だった。
「………っ。」
こんなに優しい結末が、この事件の果てにあっていいものかと、夜神月は一瞬、言葉に詰まる。
「なにを狼狽えているんですか。もしかして照れてますか?」
「……っやめろ、近い。気持ち悪い。」
「それに、夜神月君は私の初めての友達です。」
「……お前の推理でいえば、その友情はキラとのものってことになるだろう。」
夜神月は後ろに退きながら、今更さして重要でもないことを問い返した。ほんの気まぐれで生じた疑問か、全く意味のない戯言だったのか、それは私には分からない。
「あれは嘘です。ですが、今のは本当です。」
「………。」
「さぁ所有権を捨てますか。捨てると言ってください。」
ずっと沈黙していた死神のレムが二人の間に降り立ち、ノートを引き受けるために白骨のような手を前に出した。
夜神月はその手とLの顔を見比べ、わざとらしくため息をついた。
「………馬鹿だな。L。先に【捨てる】と言ったらもう一冊のノートの場所が分からなくなるだろ。」
「ほとんど自白ありがとうございます。キラさん。」
「いや、はっきり言うさ。ノートの在処は、___だ。」
にやりと笑ったLに、夜神月もまた笑みを浮かべた。そこに浮かんでいたのは、どんな感情なのだろう。
いつも笑っていた彼の笑顔だったから、厳密にどのような気持ちだったのかは、誰にも分からないことだ。
「……それと、ひとつだけ言っておくが。僕が所有権を捨てたからと言って、ノートに触れさせるなよ。紙片もだ。それだけで記憶は戻る。」
「それはご丁寧に。ありがとうございます。」
皮肉に笑うLの肩を叩くと、夜神月はゆらりと立ち上がった。
目を閉じてゆっくりと呼吸をし、目を開ける。そして一切の迷いなく、曇りなく、澄んだ声ではっきりと言った。
「………そうだ。僕がキラだ。夜神月はノートを拾って、新世界の神になろうとした。……だが、捨てる。デスノートの所有権を捨てる。」
「………夜神君、大丈夫ですか?」
膝を付き、ヘリポートの屋上でLに顔を覗き込まれている自分に気が付き、夜神月は目を瞬かせた。
数分前までの記憶があるのに、その間の記憶だけきれいに抜けている。
「L……僕は……。」
おそらくそうだろうな、と思う顛末がある。
それを確かめるために、まだ焦点の心もとない目で周囲を見渡す。
すると、遠くに開いたままのアタッシュケースが投げ出され、空っぽになっていた。そして、そこに入っていたはずのノートは、見渡す限りどこにもない。
「……僕は……自白したんだな……。」
Lはじっと黒い目を夜神月に向け続ける。なにも読み取れずに、彼は訪ねた。
「という事は僕はキラなのか。死刑か?ミサもか?」
「いえ。」と、Lは静かに立ち上がり、階段の方を見た。数歩歩きだし、もう戻ろうとしているのだと分かる。
「キラは私が処刑台に送りました。」
穏やかに、既に終わったことを報告するようにさらりと聞かされた顛末に、夜神月は呆然と立ち尽くす。しかし、右腕に覚えのある痛みを感じて視線を落とす。手錠が付いていた。
「……何をぼーっとしているんですか。もう一冊のノートを掘り起こすまではまた手錠ですよ。それとも、このまま引きずられたいですか?」
「………。」
仕方ない。どうせ記憶もないのだから、自分の理解が追いつくのを待つしかない。
身を起こしてLの背を追おうとして、ヘリポートを後にする道すがらに投げ出されたアタッシュケースを拾い上げる。そして、ふと、気付いた。
「おいL、夕陽はどうしたんだ?」
「彼女ならドアの脇のベンチに____」
ぼんやりとした口調で言いかけたLが言葉を区切り、弾かれたように走り出す。夜神月もなにか不穏なものを感じてその後を追ったので、引っ張られて転ぶようなことは無かった。
Lは焦っていた。
ベンチの位置からは今までのやり取りが聞こえていたはずだ。
この結末を前にして夕陽は、姿を現さず、大人しく座っているなんて__ありえない。
夕陽に限ってそれは___ありえない。
「夕陽!」
夕陽はそこにいなかった。
座っていたベンチには何も__Lのコートすらなく__館内中のカメラを確認し、セキュリティシステムの入退館履歴を調べ、彼女の自室を覗いても、どこにも夕陽はいなかった。
夕陽の自室には、彼女がいないどころか、物がなにひとつなかった。
彼女の私物ではない、コーヒー豆やスイーツの材料、買い置きの茶菓子、そういった物品はあったが、彼女の服やアクセサリーの類は、Lが彼女に着せたミリタリーコートを含め、全て、どこかへ消えていた。
夕陽は、ある日現れた。
それと同じようにして、ある日、消えてしまったのだった。
「L……。」
「……夜神くん、まずはキラ事件を終わらせましょう。」
夕陽が監禁された日のように、平坦にぽつりと述べると、Lは着々と捜査員たちに連絡をいれ、すぐにでもノートを掘り起こしに行けるように準備を進めた。
それについてはなにも言うまい、と夜神月は思った。言うべきではないし、今は思うべきではない。