終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -Last note-
◆もう一度
私が監視されていた独房のような個室は、捜査本部ビルの地下に位置していたらしい。私は無言のまま、Lの後ろを静かについていく。廊下には電気がついていなく、ただ静かだった。
白い長袖に洗いざらしのゆるい水色のジーンズのLと、いつもの青いワンピースの私が静かに歩き、その後ろから黒いスーツを紳士に着こなすワタリさんが、私達を見守るように、人一人分のスペースを開けてコツコツと磨かれた革靴を鳴らして付いてくる。
「捜査員の皆さんは寝ています。動くのは私達だけです。」
「ということは、キラとの決着って……」
「はい。皆さんには内緒です。」
そんな、悪戯のようなノリで平然とLは言ってのける。私は笑い返したかったけれど、まだノートの所有権を持っているので演技を続けなければいけなかった。なので、あくまで俯き、不機嫌でいることに徹した。
私達三人は、打ちっぱなしのコンクリートが無機質に続く回廊を抜け、ガラス張りのエレベーターに乗り込んだ。このまま上に、捜査本部のメインルームにでも向かうのかな、と思ったところで、「少々お待ちください」と、ワタリさんが一旦エレベーターから降りる。
一瞬、Lと二人きりになる。
「………。」
「…………。」
気まずいような、久しぶりのような、ちょっぴり嬉しくもなったけれど、まだ演技中の私は素直な気持ちを言う訳にはいかなくて、私はガラス張りの窓の向こうへ目を向けた。
「わ……綺麗。」
思っていたよりもずっと、目を奪われた。
東京の夜明けが綺麗な黄金色になって窓ガラスの四隅に反射して差し込んでくる。
オレンジ色だった光が、次第に色味を失って白んでいく。空は青でもなければ赤でもない。曖昧な紫色だ。徐々に色彩の移ろう虹色にも見える。
きっと今日は乾いた快晴なのだろう。
一睡もしていないはずなのに、長い夜が明けてさっぱり目が覚めたみたいに、元気が出てくる。
「L、外、見て!」
これくらいは言ってもいいかな、と声を掛ける。すると足元をじっと見ていたLの頭がすこし揺れた。視線だけを窓の方へ向けたのかもしれない。
「朝日はいいんですが……眩しいです。」
その言葉になんとなくデジャブを感じる。どこだっけ、いつだっけ、と考えて、すぐに思い出せた。
Lと初めて会った日だ。
今見えているのは朝焼けだけれど、目に染みるようなきれいな空模様は、Lと初めて会った日の、ふとカーテンを開けた時に見えた夕陽によく似ているのだった。
遠くに海が見えて、手前には大きな観覧車とデジタル時計、いくつかの高いビルが見えていた。
__「夕陽はいいんですが、眩しいです」
ずっと警戒心剥きだして私を観察していたLは、急にカーテンを開けた私に、初めてびっくりしたような表情をみせてくれたんだっけ。
「あはは、L、一年前と同じこと言ってる。変わってないんだね。」
「今のはわざとです。」
「えっ覚えてたの。」
「当然です。」
Lは眩しさに目を細めながらも、窓の外を見ていた。
あの日の私は名前がなくて、やっともらったのはスイーツ係という役目だった。お菓子を運んだり、隣に座ってからかわれたり、ずっと何もしないでただ、Lの味方でいるだけの、他愛もない存在。
本当は、そういう選択肢もあったのだ。
物語を極力変えず、何も知らないふりをしてずっとスイーツ係としてすごして、【夜神月の投身】の瞬間を待つ。
そのタイミングで「腕時計が気になる」とだけ言えば、Lの命は救えたはずで、自らノートに飛び込んで、その効果を偽る必要なんてなかったんだ。
「そっか。懐かしいな。」
あったかもしれない別の日々を想い、それでも後悔はなくて、私はただ懐かしんでみた。でも、Lは親指の爪を噛んだ。
「懐かしいのは同意しますが……私は戻ろうなどとは思いません。」
「………。」
「このあと、どんな結末が待ち受けようとも、私は自分の選択と、命を賭してきたすべての勇気を誇りに思います。」
__すべての勇気。
__すべての命。
「どんな結末が待ち受けようとも……」
「ええ。私は勝ちますが。」
そこはあくまで確定なんだ。
たとえ強がりでも、私はLのそんな言葉が大好きだと思う。
また頬が緩み、でもやはり誤魔化そうと私は反対側の窓を見た。鳥が飛び立っていくのが見えた。
「私は……。」
穏やかな日々を選ぶことは出来たけれど、選ばなかった。たくさんの嘘をついているし、今だって、Lのことを騙している。
「本当はずっとLの傍に居たかったのに、でも、そうできなくて……」
私はたとえ演技でも、命の価値を自分よりも大事と言ったLの前で人を殺そうとした。でも、そうしたかった。ノートのない世界を見るために、Lが悲しんでもいいと思ってしまった。自分が痛むくらいいいと思ってしまった。
だから、私は、自分への言い訳のように、一番大好きな人に失望されても、監禁されても、拘束されても、二度と隣に戻れなくなっても、当然の報いだと思おうとしていた。
「……なのに、どうしてですか、L。」
__Lはいつの間にか、私の手を握っている。
優しい力が、指の先から伝わる体温が、鼓動が、全身をくまなく巡って、私も、Lも、いまこの世界を生きているという暖かな実感になる。
「そうでしょうか?夕陽はずっと私の隣にいてくれたと思いますが。」
またもや平然と、視線すら向けずに言う様子に「え、」と思わず声が漏れる。
何食わぬ顔で相変わらず、手は繋いだままだ。
「……どうして、どうしてL?私は容疑者。現に、夜神月を殺そうとしたのに……」
「だから、『分かっています』と言ったじゃないですか。」
はた、と息が止まる心地がして、私は手を放しそうになる。実際振りほどこうとした。けれど、より強い力でぐっと引かれてしまった。
「夕陽、貴方はずっと嘘をついていた。私の隣で、ずっとノートがその手に渡る瞬間を、知らないふりをして待っていた。」
「そん……なこと、ないよ」
「そしてノートがこちらに渡る瞬間、夜神月がキラに戻らないよう……いえ、新たなキラが生まれないよう、自分が犠牲になる形で身を挺してノートの所有権を引き受けてくれた。違いますか?」
「………。」
違いますか?と聞かれたら……違うんだと思う。
私がノートを手に取ったのは、「ノートがその人をも変える」という嘘を証明したかったから。月君の手にノートが渡ることは__証拠も、拘束も含め__ナオミさんがいることでとっくに阻止できていた。
「あの場で所有権が移るとしたら、拘束されていた夜神月と南空さんのほかは、Lである私か、捜査員の誰かか、夕陽しかいない。夕陽、貴方はさしずめ、自分が所有権を手にするのが最も最善だと思ったのでしょう。……だから、私が「ノートの所有権を夜神月に返せ」と言ったときにあんなにも拒んだ。」
ノートのルールが嘘でない限りは、その推理に穴などない。完璧だった。
でも__それにしても__よかった。上手くいったんだ。
「新たなキラが生まれないように」と言ってくれたということは、あのルールは、信じてくれているようだ。
……なんて私は、また、上手に嘘がつけたことに安心してしまっている。一番正直でいたいはずのLを相手に、安堵してしまっている。
「……ごめんなさい。」
だから私は、謝ることしかできなかった。謝りながらLの目を見て、「今までずっと黙っていた」ということが何を意味するかを、考えた。
「未来を知っているのに、それを黙っていたという事は……もっと救えた命があったかもしれないということなのに……なのに、どうして……」
__どうしてたくさんの犠牲を知っていて、それを秘密にしてきた私を、もう一度隣においてくれるのですか?
最も恐れていた質問を、口にしてしまう。言葉はしどろもどろで、言っている間は自然と視線は落ちて、Lを見ることができなかった。
「夕陽、私を見てください。」
肩に力を感じて顔を上げると、Lの顔が目の前にあった。朝日を背景にして、また私は目を細めてしまう。
でもそんな眩しい光の中でもちゃんと目が合い、想っていたよりもずっと柔らかなその眼差しに、私は息をのんだ。Lはふっと口元を緩めると、私の頭に手を置いた。
「私も同じです。」
Lの手を握る私は、心から言葉をなくしてしまった。ただ、次に何を言うのかと見上げる。
「事件の解決は、必ずしも誰かを救っているわけではありません。悪だけで救われる人がいても私は正義を優先します。趣味なので、「助けて」と懇願されてもより楽しそうなケースを選びます。より被害者が多い方が心動かされます。それに、」
__「Lの傍に居るのが嫌になりましたか?」と、ミサの監禁を見た私が失望することを怖がっていた日のような言葉を並べているのに。
ただ、不敵に、勝気に、笑みを浮かべる姿に、私は胸をかきむしりたくなるほどの痛みを覚える。
「え、L!……える……もういい分かった……!」
自分でも訳が分からなくなりながら私はLのシャツの胸のあたりを引っ張って、それ以上の言葉を遮った。
聞いていられなかったのではない。それ以上、言わせたくなかった。
その言葉がどこまで本当かどうかは、やっぱりわからない。もしかしたら全部偽りなく本音かもしれないし、優しい嘘かもしれない。もしかしたら優しさなどない、どうでもいい、思い付きの嘘なのかもしれないし、かっこつけているのかもしれない。
「そうですか。それなら簡単な話です。」
「簡単?」
「はい簡単です。夕陽、私たちは似ているってことです。」
__同じ、似ている……。
ずっと背負っていたものがいとも簡単に、容易く、こともなげに取り払われる、あるいは光に溶けていくような感覚が胸を掬った。
似ている二人。それがLと、夕陽という二人だとしたら……。
心が凍ったようだと言われる探偵と、理想ばかり掲げる嘘つきのレプリカ。
私達は決して進んでいない、なにも変わっていない。何も、好転はしていないけれど、今、私がもう一度Lの隣にいられることと、手を繋いでいることへの後ろめたさがなくなったように感じられた。
「……。」
「夕陽、もしかして泣きそうですか?」
「う、嘘です!これは嘘泣きです。」
「どちらにしてもまだ泣くのは早いです。……夕陽の望みはなんでしたっけ?」
「……ノートにキラの名前を書く……こ、こと……!」
「はいそうでしたね。」
心の中は既に泣きじゃくっていた。でも、もう少し、私はこの役を演じないといけない。Lは全て見抜いているようだけれど、ここだけは最後の一歩で、譲れない。どんなに素直になっても、「私はノートに操られている」と、主張だけは変えない。
「お待たせしました。」
ワタリさんが穏やかに笑みを湛えて戻ってきた。
両手にカーキ色のミリタリーコートと、私がミサからもらったパンクなジャンパーが抱えられていて、黒いアタッシュケースを提げていた。
「ありがとうワタリ、そのノートは夕陽に渡してくれ。」
ノートが入っているらしい、妙にごついロックのついたアタッシュケースを受け取った。これはどうやって開ければいいのだろう?
「おや。仲直りされましたか。」
私とLが手を繋いでいるのを見て、ワタリさんが茶化すように言う。Lは不機嫌そうに指を咥えた。その姿があまりに素っ気ないので、私が代わりに「はい、たぶん」と曖昧な返事をした。
Lは私達にじとりと、睨むような強い瞳を向けた。
「このままヘリポートに向かいます。夜神君がもう待っているはずです。」
__月君、あなたの記憶を戻すのは完全に予定外のこと。
私が知っている未来はもう底をつきて、ここから先は何が起きるか予想もつかない。Lは一体何をしようとしているのか、記憶が戻ったとき月君がどうするのか、全く見当もつかないけれど。
でも、それでも私は信じている。キラやノートがなくても、世界は変わっていける。月君とLが協力するような未来があれば、きっとそれは容易く叶ってしまうんじゃないかって思う。
__L、月君、二人はどう思う?
Lは私にもう一度隣にいてくれていいって言ってくれたけれど、それもきっとほんの少しの間だけだ。
ほんの少し、先延ばしになっただけだ。
__例えわずかな時間でも、また隣にいていいっていてくれて、光の中へ救い出してくれてありがとう、L。
やっぱりいつまで私がこの世界に居られるかは分からないから。