終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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”This is such a big city, such a big operation. ”
"We came so far from those humble beginnings, that little room in that little town where it all started."
__「東京は、大きな街ですね。ここまで来てしまいましたか。」
__「……私達は、はるか遠くまで来てしまったようですね。あの慎ましい小さな町の、小さな部屋にはもう、戻れないようです。思えばあそこが全ての始まりでした。」
「どうしたワタリ。」
それは、夜神月との手錠を外した直後のことだった。
薄暗いモニタールームの中で、ワタリの視線の先には、東京の上空を映し出す一つのモニターがあった。霧か、曇った空気によって灰色に濁ったその画面の中に、いくつかの赤い灯りが煌めき浮かびあがっていた。
英語だったのは、相当懐かしんでいるということか、とその瞳を見返す。青い目の端で、しわの深い目じりが下がっている。頬も上がっている。
__小さな町に、小さな部屋?すべてが始まった場所?
「それは、私がワタリと初めに会った場所のことですか?……ウィンチェスターは小さな町かもしれないが、あそこは小さな部屋とはとても言えません。貴方が趣味で財をつぎ込んだ、無駄に豪奢な施設です。」
「はい。少々、出会った時のことを思い出してしまいましてね。Lは大きくなりました。私もいい歳です。」
「……いい大人の私は、懐かしんでいる暇があればいつでも飛行機で飛んでいけます。この事件が終わった後にイギリスに行こうと、夕陽とも約束しています。」
「そうですか。自分から帰ろうなど……夕陽さんが来てから、変わりましたね。」
どこまで心が籠っているのかわからない哀愁たっぷりの退役軍人のような口ぶりで微笑むと、ワタリは部屋を出ていく。私の不機嫌を見透かしたように、戻ってきたときにはいくつかのチョコレートと、マシュマロの浮かんだココアを手に持っていた。
「夕陽さんの所に行く前に。まずは甘いものでもどうぞ。拘束は私が解いておきます。」
Guardian -Last note-
◆正義 -1-
夜神月は一人で座っていた。
東京の朝を一望できるベンチで、寒そうに風をよけながらポケットに両手をいれて、俯いていた。その背にある空は、まだ黄金味を帯びた、薄く淡い紫色だった。高層ビルの電灯は消えつつある。彼は、俯いていたのではなく街並みを眺めていたのかもしれない。
ヘリポートに上ってきたのは私と夕陽の二人だけだ。ワタリとは一つ下の階で分かれた。
風が強い。朝方の冷え込みもある。私は厚手のミリタリーコートと着て、夕陽も弥に貰ったらしい、派手なロックテイストの上着を大事に着込んでいる。
風が強い上空では、階段からヘリポートに出るドアを開けただけでは夜神月の位置まで音が届かないらしい。彼は振り向かなかった。
「行きましょう。」
「……はい。」
私は夕陽の手を引き、夜神月の座るベンチへ近づいていった。
しおれた花のように項垂れる夕陽の小さな手には、デスノートの入った黒いアタッシュケースがあった。史上最悪の凶器、それが彼女の手の中にあるのは酷く不釣り合いであるが、未だ包帯にくるまれたその右手を見ると、10月28日の悪夢が今でも再生される。
私は用心のためと、ごく個人的な感情で夕陽の手を握っているが、夜神月の後ろ姿を見て、何かを堪える様に握り返す力が強くなったことだけは分かった。
「っ夕陽!」
4メートルほどの距離に近づいたところで、音というよりも気配かフェンスに反射した像で気づいたのだろう。夜神月は立ち上がり、こちらに駆けよるそぶりを見せた。
「っ……竜崎、何故だ!どうしてここにいるんだ!」
それが夕陽のことを言っているのは明白だった。彼とはこの時刻にここに来るよう話をしている。夕陽に伝えた様に、「事件を終わらせる」と言った。だから、この場で「何故だ」などと声を荒げる理由は一つしかない。夕陽だ。
「夕陽を拘束する理由はもうなくなりました。」
「なら所有権は、」
「いえ、まだ夕陽のもとにあります。」
なぜ夕陽がいまここにいるのか?
監禁はどうなったのか?彼女は自分を殺そうとしたのではないか?
「っら、……。」
声にならない声を発して自分を制したのは夕陽だった。夕陽は一瞬、何かを訴えかけるように夜神月に視線を向け、私の手を振りほどこうとするが、すぐに歯を食いしばるように俯き、ただ握る手に力を込めてきた。
夕陽が言おうとしたのは、「キラ」か、それとも「月君」か?
夜神月は彼女の様子を見ると、咎めるように私を睨みつけた。聞きたいことは沢山あるはずだ。
「説明しろよ、竜崎。」
「Lで結構です。」
もはや名前を偽る必要はない。
「………L。」
「はい。Lです。」
東応大学の入学式ぶりにそんな名乗りをして、自分でも意外なほど愉快な気分になっていることに気付く。
きっと笑みを浮かべているだろう。夜神月は不快そうに、あるいは訝し気に目元を険しくしてこちらを見返す。
冗談だと思われているなら、それもいい。冗談ついでに彼には常日頃から聞いてみたかったことがある。
この際だ、聞いてみるとしよう。
「夜神くん、ひとつ聞きたいんですが__」
「……。」
「生まれてから一度でも本当のことを言ったことがあるんですか?」
___………。
不思議だ。
時間が止まったように、風の音が止んだ。
思わず周囲を見渡してしまう。誰かが音を消してしまったようだ。
「え……。」
何故か、夕陽がそんな声を漏らし、私の手をぐっと強く握る。そしてさらに背中に隠れる。何をそんなに恐れる必要があるのか。知っている未来に引っかかるのだろうか。
夕陽に気を取られていると、夜神月は不満そうにこちらを睨み返し、一歩踏み出した。自分でもどうしてかわからないが、私は余計に愉快な気分になった。
「答えてくれませんか。私、聞きたいです。」
「いい加減にしろよ。」
「聞かせてください、夜神月くん。」
「…………。……僕は、誓って言うが……」
「………………。」
「僕は、お前に嘘なんか__一度だってついていない!」
背後で夕陽の肩が揺れ、息を飲むのが分かった。
早朝の無人のヘリポートで声はただ突き抜け、残響もない。
「L。嘘ばかりついてるのはお前の方だ。何も考えていないようにとぼけたり、知らないふりをしたり、捜査員を試すような真似をしたり、姿を隠したり、名前を隠したり、いい加減、本当のことを言ったらどうなんだ。」
堰を切ったように溢れ出る、夜神月という人間の本音。思っていた以上だ。
しかし、何故だ?__どこか、期待通りだったような__安堵を覚えるのは……。
「夕陽のことだって、一緒に考えるって言っただろう。どうして夕陽はここにいる?……いつになったら__いつになったら僕は信頼される?たとえキラだったとしても、それでも数か月一緒に捜査して、これっぽっちも相棒だと思ってくれないのか?」
「…………。」
__これが夕陽の言っていた、夜神月の……
__「月君なら、キラにならなくても世界を変えられる」か
__なるほど。もうこれ以上はいいだろう。
「信頼ですか。相棒ですか。思ってますよ。」
「なっ……」
「とはいっても私のいう事は全部デタラメですから。一言も信じないでください。」
これ以上、前置きもジョークも必要ない。
こんな悪い冗談は早く終わらせるだけだ。
「夕陽とはある取引をしたんです。」
「取引?」
「ええ。彼女はまだノートを所有し、問いかければ”キラの名前を書きたい”と言うでしょうが、その取引によって今は利害が一致し、ここに来てもらっています。」
私は夕陽の様子を確認した。
俯いたまま、いじけた子供のようにその顔を見せようとしない。だが、手だけは放そうとしなかった。一瞬、本当に問いかけてみようと思うが、彼女の様子に躊躇われた。それは必要ない。
「夕陽」
「……はい。」
控えめな返事が返ってくるも夕陽はもう覚悟を決めたのか、手際よくアタッシュケースのロックを解除し始めている。そういえばロックの解除法を伝えていなかった。しかしどこで覚えたのか、ウエディの影響か彼女は2秒ほど考えてから番号を打ち込みはじめ、黒いノートが姿を現した。
私から初めて手を離し、ノートを胸の前で抱えると、夕陽はふらつくようにして夜神月に近づく。
「……月君、このノート、返します。」
油断はできない。ここにいるのは自分たちだけだ。夕陽自身もまだ、確実に安全とは言い切れない。
「夕陽?何言ってるんだ、僕はキラじゃない。」
「キラじゃなかったら、そうと分かるだけ。」
信じられないものを見てしまったように、夕陽に向かって目を見開く夜神月は、一歩、二歩と後ずさった。無自覚なのだろう。
「どうしたんだ夕陽、おい、やめろよ……。」
「受け取って。月君__」
こちらに背を向けた夕陽がどんな顔をしているのかは分からない。ただ、低く、冷たく、喉元で感情を押し殺そうとしていることは確かだった。
ついに半ば無理矢理押し付けられたノートがその指先に触れ__夜神月は硬直した。指先だけでノートを掴み、息が止まったように、ただ夕陽を見返していた。
「っ__あ、__」
「お願い、「受け取る」と言って!」
懇願するような夕陽にしばらく視線を縫い付けたままの夜神月は、急に脱力したようだった。
「………分かった。受け取るよ。」
__?
叫んだりはしないが、諦めただけか?夕陽に折れただけとも考えられる。
しかし、どちらにしても、所有権はこれで夜神月に移動したはずだ。キラであれば、その記憶は、人格さえも変わると言うのなら、監禁以前の夜神月に戻っているはずだ。
「L、たった今……僕は夕陽に向かって、「受け取る」と意思表示をした。これで所有権は今、僕にあると考えていいんだな?」
口元に手を当て、あくまで冷静に、状況を整理する夜神月。冷静すぎる、という見方は恣意的すぎるだろうか。
最も、目の前で所有権を受け渡した以上、人格が変わったり記憶が戻ったとしてもそうとは分からないように演技するだろう。
「そのはずです。」
「__L!!」
__と。
視界の端から夕陽が飛び込んできた。そのまま服にダイブして、抱き着いてくる。
夕陽は__いつも隣にいた夕陽はこれで戻ってきたと、考えていいのだろうか。
「夕陽、もう少しです。もう少しだけ、一緒に待っていてくれますか。」
そう言って、もう一度自分より小さなその手をとった。ノートに名前を書こうとしても、それを結局一度も使わなかった夕陽は、記憶までは無くさないということだろう。あるいは、やはり知っていた未来に含まれていたという事かもしれない。状況の判断は一瞬でできたようだった。
「……はい!ごゆっくりどうぞ!」
「はい。ではゆるりと。」
夕陽は今度は俯かず、力んだように目に力を籠め、前を見据えた。合わせてみたものの、可笑しな言葉選びや、むしろ見ていて気が抜けてしまう程に気合を入れた姿に笑いそうになってしまうが、今はそう頬を緩めている場合ではない。
「夕陽、L、つまりはそこにいるのは死神か?」
「ええそうです。レムさんです。」
「そうか。まぁノートに触れたら見えるものとは聞いていたし、いまは所有権も手元にあるんだ。驚きはしない。」
レムと私達を見比べ、夜神月は思案するように目を瞑る。
冷静と言うよりも、穏やかだ。諦めたような様子でもない。
彼は遠くの空をぼんやりと眺めると、今更何かを思いついたように、緩慢な動作で両手を広げた。
「なぁL。こんなこと早く終わらせよう。」
__今更ここにきて、一体何を言い出すつもりだ?
「ええ。当然、私も長引かせるつもりはありません。」
夜神月は大げさな動作で一つ、ため息をつき、首を振った。わざとらしい。
「こんなことになっている以上、状況的には僕がキラだとほぼ確定しているんだろ?その証拠はなんなんだ、教えてくれないか。」
私の警戒心に呼応するように、夕陽の手にも緊張が走るのが分かった。
__夜神月。ここにきて何を言い出そうと、どう振舞おうとお前がキラである事実は揺らがない。いいだろう。望むなら、端的に、簡潔に、聞かせよう。
「夜神月が隠し持っていたノートの紙片、それは火口を殺す為の仕掛だった。そしてノート本体には「13日ルール」の記載。仮にキラの計画が完遂されていれば、監禁時の14日間の殺しのない空白期間、13日ルール、火口の死、これらが全て夜神月と弥海砂の潔白を証明する材料となる。13日ルールは偽ルール、これで夜神月はキラだと繋がります。」
「………なるほど。」
追い詰められている様子など全く見せず、まるで雑誌を捲るようにつまらなそうに、夜神月はノートのページを一枚捲った。
「13日ルール……あぁ、このルールのことか。それで、試したのか?」
「試す必要はありません。火口の身柄は確保しています。13日間、彼の生存を確認すれば済む話です。」
「なるほど。つまり、現時点では僕は__夜神月は、自白をしない限りはキラとは断定されないってことか。」
「………。」
ここにきて屁理屈か?時間稼ぎか?
しかし時間を稼ぐ必要もないだろう。死神はノートを取り出すそぶりはない。夜神月だって、ここで誰かを殺せば、自分がキラだと明かすようなものだ。狙いはなんだ?
「L。お前はどうして今僕を逮捕しない?腕時計とノートの紙片があるんだろ?それを試して、今すぐにでも逮捕すればいいじゃないか。」
「さっきと同じ答えです。試す必要もありません。」
捜査員からも何度も投げかけられた言葉を、いまさら夜神月が私に投げかけてくることからして妙だ。その案はありえない。それではもう一冊のノートは行方不明のままだ。別の人間が保管している可能性もある以上、キラの自白をとり、二冊目のノートの在処を明かすまでは、この事件は終わらない。
「ここでどんな会話を交わそうと、夜神月の容疑の確定は時間の問題です。自白してください。そして、もう一冊のノートの場所を明かして、所有権を捨ててください。」
「なんだ。……そうか。分かったよ、L。腕時計の証拠で僕が逮捕されてしまったら、お前が望んだとおりの結末では事件は終結しないという事か。」
「………。」
「いますぐ僕が逮捕されるのは困るが、13日待てばどちらにせよ同じ結果ということか。逆に言えば、13日経つまでは、僕は自白をしない限り無実……。」
「夜神月…………何が言いたい。」
夜神月がもはや「キラではない」という主張を諦めたのは明らかだった。諦めたのではなくて、止めた、という方がより近い。自白だけはしないが、そう思われてもいいとでも言うように、彼は進んで、その主張を捨てている。しかし、まだ読めない。
「はは____ははははは!!」
唐突に、愉快に、愉悦に浸ったように空を仰ぎ、夜神月は笑った。
「はははは、面白い、なぁ、知ってたか?L。」
夕陽が目を剥く。手に力が籠る。
「お前はこう言うこともできるんだよ。【夜神月はもう一冊のノートの場所を明かし、一冊目の所有権をも捨て、ノートは二冊とも燃やしてしまった。夜神月も弥海砂も、火口卿介も、ノートを介して死神に操られていただけだった。事件は終結した。】と。」
頬を割くように笑ったその表情を、一度でも見たことがあっただろうか。それが死神の顔か、それともキラの顔か、手錠でつなぎ行動を共にした夜神月とは全くの別人だ。
「……………Lがノートを隠蔽……キラに味方するとでも?」
「そうだ、L。お前はそう言って、実際にそうしたと見せかけることができる。嘘をついて、ノートを隠し持つこともできる。キラを逮捕しないこともできるし、キラになることもできる。」
「月君、何を……。」
掠れた声で夕陽は夜神月に近寄ろうとする。しかし、手を離すわけにはいかない。
何を言い出すか分からない今は。何が起こるか分からない今だけは、彼女の手を離すわけにはいかない。
「話し合おう、L。世界にキラは必要だ。」
____なんて幼稚なのだろう。負けず嫌いにも程がある。
_____夜神月は、キラではなかった。
______少なくとも、今朝、ノートを受け取る前の夜神月は。
「な、なにいって……月君……嘘。信じてたのに……。」
絶望したように夕陽が震え、膝をつく。手を離さないとは言ったが、これ以上は耐えきれないか……と、そう思って彼女を近くのベンチに座らせ、ミリタリーコートを脱いで羽織らせる。
「夕陽、すぐに戻ります。待っていてください。」
「L……。」
震えたまま、名残惜しそうに伸ばされた手を最後に一度だけ両手で包み、背中を向ける。夕陽には、もう少しだけ待ってほしいと切に願う。必ず戻る。もう少しで終わる。このふざけたゲームを、終わらせる。終わりを見届けて、そして、笑ってほしい。
「いいでしょう。どうせもうすぐお別れです。気が済むまで聞きましょう。夜神くん__これも勝負です。」