終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヘリの操縦までできるとは思わなかったよ竜崎」
月君が、後ろから感心したように操縦席を覗き込んだ。
ヘリはぐんぐん高度を上げていった。
「免許などなくても勘でどこをどうすればどうなるかは分かります。夜神くんでもできますよ。」
私は助手席から竜崎の指が無数のスイッチを切り替えるところを見ていた。
全部グリーンにして、メーターを見回して、実際に操作するハンドルは3つくらい?メーターとスイッチの意味はともかく、ハンドルの操作で空に飛ぶことを考えると、絶対に「できます」とは言えない。
「拘束されていては無理ですけどね」と、口角を上げる竜崎。これはジョークだった。
「夕陽もできると思いますよ。代わってくれますか?」
「えっ」
「冗談です。夕陽はそこにいるだけでいいです。」
上空にまで来てしまえば、操縦は意外と手が空くようで、私は遠慮がちに竜崎の手をとった。同じくらいの体温が暖かい。手を握るのは初めてだった。でも、ずっとそうだったようにしっくりきて、有り体な言い方だけれど、勇気をもらえる気がした。
いくつもの高層ビルと、金色の灯りに縁どられた道路を通り越した。遠くに海も見えた。そして、ヘリコプターは首都高速の上空に来た。
「あ、あれはっ」
火口の車を目で追うと、その逃げる先に、無数のパトカーがあった。すでに道路を封鎖している。
__伊出さんと、相沢さんだ!
「彼らは、こんな人数……警察内部で結束していたの?」
「………感謝します。」
息を飲んだようなナオミさんの声に、竜崎はぽつりと呟いた。ここでは言えないけれど、物語で読んだ相沢さんたちのやり取りを私は覚えている。「きっとLは見ている」と、彼らはそれを信じて、自分たちにできる事をやっていた。
「竜崎。あれ……相沢さんたちかな?」
声に出すと、なんだか泣きそうになった。
相沢さんが去った日の、竜崎の姿を思い出してしまったからだ。頑としてモニターから視線を離さず、誤解されることよりもひとりの命を優先したあの日の横顔。
「まだ、一緒に戦ってくれてたんだね。」
「ええ。」
短く答えた竜崎は、優しい表情をしていた。そして、握った手に少し力がこもった。
「おい、竜崎、火口が!」
「止めます。」
火口は停車した車を反転させるそぶりを見せた。
竜崎は月君の声とほぼ同時にヘリをホバリング状態にし、
「__ワタリ」と冷静にその名を呼んだ。
いつの間にか開いていた窓からワタリさんがスナイパーライフルで狙いをつけ
__タイヤを仕留めた。
「……す、すごい。」
「……。」
後部座席で驚く月君とナオミさんだったが、竜崎もワタリさんも涼しい顔をしていた。
開いたままの窓から冷たい夜風とサイレンの音が入ってくる。プロペラの音が大きく聞き取りづらいが、警察が火口に対してメガホンで呼びかけている声が聞こえる。
__そして唐突に、
「させません。」
ワタリさんが落ち着いた声で言うと共に、もう一度ライフルを覗き込む。
気付いた時には火口が悲鳴を上げていた。
__手を打ったんだ。
拳銃で自分を打とうとした火口を、ワタリさんが気づいて狙い打ったらしい。
安心しかけていた私たちは、それで改めて、彼に抵抗する術がないことを確認した。
「……終わったな」
後ろから月君がため息交じりに言う。
「はい……そうですね……。」
竜崎も、どことなく力が抜けた様子で返答した。ナオミさんは、いよいよこれからというように、真剣に月君を監視していた。
__これから。私も、これからだ。
「降りましょう。」
初めてのはずなのにやけに慣れた手つきで竜崎がヘリを着陸させる。
地上に降りると、現場の様子はよりはっきりと見えた。
火口には目隠しがされ、夜神さんや相沢さんはもう彼の持ち物を調べていた。
そして、その手に、黒いノートがあるのをはっきりと見た。
「うわあああああ」
それは悲鳴だった。
恐怖のあまり尻もちをついた捜査員の視線の先には、当然白い死神が__レムが居た。私は窓の外から見えるように顔を出す。
別の捜査員の悲鳴が上がる中、私はレムと
__はっきりと視線を交わした。
ミサと話した10月25日、ヨツバでの面接の日。
レムは、私のメッセージを実行してくれるだろうか。
遠くから、ヘルメットをかぶった夜神さんが駆け寄ってきた。
「竜崎。これだ。」
「ノート……デスノート……」
ついに、竜崎の手にノートが渡った。
両手の人差し指で摘まみ上げるようにした竜崎は、何気なく顔を上げるように窓の外へ視線を向ける。
捜査員たちの中にはまだ腰を抜かした者もいる。その先にいるのは、白い骨のような、人間ではないもの。
「………本当ですね。死神……。」
驚き固まる竜崎の横で、私は大きく深呼吸をした。
背後を振り返り、月君がしっかりナオミさんにマークされていることを確認する。
「竜崎。私も知りたい。……触らせて。」
竜崎は私に目を向け、ノートに目を落とし、もう一度私を見た。
その瞳には、暗がりのせいか自分の姿が映り込んだ。
竜崎は、特に迷うでも止めるでもなく、私にそのノートを差し出した。私が受け取ると、その白い袖が私の頭に乗った。そして、雑に撫でられた。なんとなく久しぶりだった。
「大丈夫です。夕陽のことは、何があっても私が守ります。」
「ありがとう。」
__あぁ、そんなことを言ってくれるなんて思わなかったな。
__ありがとう。竜崎。
__今まで、ありがとう。
「何があっても、Lなら、この事件解決できるって信じてるよ。」
ちょっぴり迷って、私はそんな言葉を返した。もうノートは私の腕の中にある。これくらい言ってしまっても、大丈夫だろう。
「__当然です。」
不敵に口角を上げるLに__大好きなLに、私はさらに笑いかけた。きっとこれが最後の笑顔になる、と思った。
名残惜しさを受け止めつつ、私はゆっくりと窓の外に目を向けた。
___レム。よろしくね。
「_____あぁぁあぁぁぁぁ!」
私は叫び声をあげた。嘘だ。
「夕陽!」
竜崎が真っ先に私の肩を後ろから支え、何度も私を呼ぶ。
私の声に、窓の外でも数人の捜査員が振り返る。しかし、もう初めての悲鳴ではない。気に掛ける様子はあっても、駆け寄ってくることは無かった。
「夕陽、やはり危険です。私がもらいます。」
竜崎の手がノートに伸びる。しかし、私は拒むために首を振った。
首を振って、微かに窓の外を見て、その恐ろしい死神から自身を隠すように__死神からノートが見えるように__ノートに額をくっつけるようにして私は蹲った。
__レム。見える?
微かにノートをずらし、窓の外を見る。レムと目が合い、彼女は無表情に、冷酷な瞳で微かに頷いた気がした。
『______』
「____分かった!捨てる!捨てるっ___!!」
レムの声はここまでは聞こえない。何かを呟き、その声に反応した火口が絶叫した。
手錠やロープで拘束作業を進めていた捜査員が飛びのく。次の瞬間にはぐったりと気を失った彼に、さらに数人の捜査員が駆け寄った。口々にいろいろな台詞が吐かれる。
「どうした?」
「まさか……死んだのか?死神か?」
「いや、脈はある?」
火口はぐったりして、そのまま眠っている。もう彼の中に記憶はなく、所有権もないだろう。
「……様子が変ですね、竜崎。」
「ええ。」
ヘリの中でも、ワタリさんと竜崎がその様子に注目している。
こっそりと表紙から中を覗き見ると、以前、リュークに頼んだ偽のルールが書き込まれていることがしっかりと確認できた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
誰にも見られないうちに、表紙を閉じて、再び私は蹲る。
額に擦れるノートの表紙のざらつきがリアルで、私は自身の心拍数が上がっていくのを感じた。
___これで、所有権は今、私の元へ渡った。偽ルールもある。
___レム、ありがとう。
___これでレムも、ミサも、きっと助かるよ。
こんな時、月君だったら「計画どおり」と笑ったのかな、とぼんやりと思いつつ、騒がしい鼓動を落ち着けながら、私はノートを抱きかかえた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
キラは戻らない。そしてノートはこの手に。
つかの間の安心感に、私は上がった息を落ち着けようとした。
「……夕陽、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ………」
ノートにしがみつく私を竜崎が優しく引きはがそうとする。肩に暖かい手が触れる。両手で、私を、もう一度その手の中に呼び戻そうとしてくれている。
「……竜崎。」
顔を上げて、竜崎と目が合い一瞬、彼も安堵したような表情を浮かべ、口元を緩めた様に見えた。それに甘えてしまいたい気持ちになったので、私はもう一度笑った。
「あっははは!」
「_______?!」
唐突に場違いなトーンで笑い声をあげ、私はノートを開く。かすかに、竜崎に戦慄が感じられた。
「ノート!本当にあったんだ!Lは正しかった!あは、ほら、こんなに名前がいっぱいあるよ!」
ノートの罫線上にびっちりと書き込まれたのは狂気的なほどに名前、名前、名前……。
途中、筆跡が変わっても名前、名前、名前…で、まるで墓標が並んでいるようだった。これがデスノート。これで人間は死んでいく。これで死神は、寿命を得て生きながらえる。
これで私は生きていた。これで空は、自らの命を絶ったんだ。
___笑えない。全然、面白くない。
「あはははははは!」
「……夕陽?様子が変です。そのノートをこちらへ__」
竜崎は私に、さっき死神に向けたような表情を向ける。白目まで見開いて、手を伸ばすのに、一歩退いたような恐怖を向ける。
「……っおい竜崎、夕陽!どうしたんだ!」
「__動かないで!」
違和感に気付いた月君が動こうとするのを、ナオミさんが咄嗟に制止する。しかし、二人の視線は私に集まった。
私はノートを守るように、再び胸に抱きかかえた。そして、竜崎がするように、にやりと笑ったまま、右手の人差し指をを口元に運んだ。
「名前を書くと死ぬって言ったよね?」
私は指を咥え、___がりっと、指を噛み千切った。血の味が口中に広がる。
「__夕陽!何をする気ですか?!」
「__!」
竜崎も、ほかの皆も、流石に私の行動に警戒心を露わにする。もうだめだ、ここにはいられない。ノートを奪われてしまっては、何も出来ない。
「あはは、なにもしないよ!事件を終わらせるだけだよ!!」
__痛い。信じられないくらい痛い。
私は笑い声をあげた。でも、あまりの指先の痛みに、口元は歪む。
笑いながら、耳当てを放り投げた。シートベルトを外そうとしたけれど、複雑に体を固定するそれを外すのは難しくて、がちゃがちゃと音を立て、ドアを開けた時には、私はほとんど落ちるように道路に転がり出た。
「夕陽!」
竜崎の声がまた、私の名を呼ぶ。
呼び戻そうとするように、あるいはどこか遠くへ行ってしまわないように、呼びとめるように。
_____夕陽、夕陽、夕陽、そこにいてください
____「"夕陽"……これって、名前?」
____「ええ。貴方を見てぱっと浮かんだものを書いただけですが。」
______好きです、夕陽
_____ああそっか、もうそこには戻れないんだ。
「___っ!」
首都高の固いアスファルトは背中を容赦なく打ち付け、一瞬、息が止まる。肺まで潰れた心地だった。
呻きながら頭を上げると、指先を切っただけなのに、目に入る範囲には赤い血があちこちに飛び散っていた。
「っあぁ……。」
__痛い。痛いけれど、ここで止まるわけにはいかない。
「夕陽!……南空さん、すみませんが彼女を!ノートを!」
「はい!」
ヘリの方から、竜崎とナオミさんの声がする。
月君とは竜崎は繋がっているし、通常の手錠もある。私の方が危険だと判断したのだろう。
ナオミさんが来る前に……
ノートに……
書かなきゃ……
「__彼女を押えろ!」
ナオミさんだけでなく、警察の方からも松田さんか相沢さんか、誰かがこちらに駆けてくる。
スポットライトとサイレンに視界がぼやけて、シルエットしか分からない。声も、混ざり合って誰のものか分からない。
全てがスローモーションに再生された。全身が痛むのに、まるで夢を見ているように、意識はゆらゆらと浮かんでいた。
ヘリコプターを振り返り、窓枠の奥に竜崎の姿を見た。
絶望に染まったように、動きを止めていた。
そんな表情をしているのは私のせいなのに、「笑ってほしいな」と、未だ日常から抜け出せない私が言うので、私は残った力で口の端を微かに上げてみた。
しかし、既に嘘の笑顔をたくさん浮かべていたので、それもかき消されてしまった。
「______っ書かなきゃ、私は!」
私はただ、ノートしか見えないというように、数メートル先のそれへと這っていく。
もはや指だけではなく、擦り傷のせいだろうか、何か所からも血がにじむ。全身が痛み、心が訴え叫んでいた。
「書かなきゃ……!」
私はノートを広げ、痛む右手を伸ばした。指先からはまだ血が滲む。ほんの数秒しかもう残っていない。もしかしたら銃で撃たれるかもしれない。でも、書けるだけ、あの名前を、書かなければ……。
夜
神
「あはは、ノートに名前を書けば!」
無機質なアスファルトに反射する無数のサイレン。
いろいろな怒号と色彩が入り混じる。ここはどこだろう、分からなくなりそうだった。
「動くな!」
あと少しで書き終わってしまう
すんでのところで、死角から誰かに取り押さえられた。
____間に合った。
「あっはははははは!」
うつぶせに這いつくばる私は終わりを告げる声とともに組み敷かれた。誰かは分からない。でも、声はきっと、夜神さんだ。
ノートが目前で取り上げられ、血の滴る指先はノートの端を滑った。
指先をちょっと切って、背中を打っただけなのに、全身が痛んだ。中から張り裂けてしまうんじゃないかというほどに手足がびりびりと痛みを訴える。
「痛い!痛いよ!どうしてだろう、あははは!」
「___夕陽。もう終わりだ。」
血とパトカーのサイレンで赤くぼやける視界の隅で、数人の足が私を取り囲む。そんなに何人もいらないのに、と思った。
抵抗するように身をよじると、背中と、手錠の付いた手首が痛んだ。
「うああっ……。」
痛みに思わず声が漏れる。
あぁ、でもよかった。間に合った。
ほっとしながら私はそれでも抗うそぶりを続け、身体は手慣れた様子で次々と拘束されていく。
__L、最後にもう一度……!
目隠しをされる刹那、私はもう一度Lの顔を見ることができた。
ヘリの上から、取り残されたように大きく目を開いて、私を見ている。
__「さよなら」
それがLの顔を見た、最後の瞬間だった。
最悪の別れだと分かっていた。
それが貴方を傷つけるかもしれないという事も。
_ねぇL、覚えてるよ
命の価値と、残されるものの話。
もし私が居なくなったら、きっと悲しんでくれると思う。
私はずっとこの瞬間を待っていた。
この瞬間が怖くて、でも、ずっと願っていた。
この瞬間の為に私はこの世界にいて、
いつ消えてもおかしくないのに、世界は待っていてくれたんだ。
これこそが、私のエンディングなのだから。
あとはまかせたよ、L
最後に事件を解決するのは、やっぱり貴方じゃなきゃ。
「あはははは!!!!」
私は泣いたり叫んだりする代わりに、笑った。
涙が溢れたかもしれなかったけれど、きっと竜崎からは見えないだろう。
「__夕陽、拘束しました。」
そして時間切れのように目隠しが私の視界を覆い、
____世界が暗転した。