終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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2004年10月26日 犯罪者は裁かれなかった
2004年10月27日 犯罪者は裁かれなかった
2004年10月28日 火口がキラであると確定
もし今日が最後の日でも、「さよなら」は言えない。
貴方を守るためには、まずは秘密を守らなきゃいけなくて、
「今日が最後かもしれません」
「いままでありがとうございました」
「大好きでした」
そういう言葉たちをうっかりと言って、「夕陽の様子が変だ」と、思われてはいけない。
お茶を淹れるように、お菓子を取りに行くように、行きつくべきは、終わりという淵。
明日がなくても、明日があるように。
最後の日だとしても、「いつも通り」という嘘をつこう。
「夕陽、なにを笑っているんですか。」
「ううん、なんでもない」
あなたが私のことを「いつも笑っている」と言ってくれるなら、最後まで笑っていることにしよう。
Guardian -Last note-
◆信頼
__10月28日、捜査本部メインルーム
『先ほどのアクシデント…大丈夫ですか?もうやめますか?』
『いえ……もともと危険は承知です……!』
テレビの向こうで、松田さんが熱弁を振るう。キラの視線から逃れるための衝立が倒れ、建て直された直後だった。
『正義のために殺されようと最後まで頑張ります!』
テレビ画面の中で、ぼやけたシルエットが両手でガッツポーズをする。松田さんのよくやる仕草だ。
「松田さんすごい、本当に演じ切ってる……」
私はちょっと尊敬のような気持ちを向けた。スモークガラスと変声機も相まって、大げさな仕草がよりドラマチックに焦燥感と使命感を引き立てている。
「松田さんはもともと結構演技できる方だからな。」
「ええ。それで命拾いしたようなものですから……。」
腕を組んだ月君と、真剣に複数のモニターと向き合う竜崎が当然のように同意する。
確かに、松井マネージャーとしての日々の業務も、酔っ払いのフリで生き延びたことも、タフな演技が必要だ。
なかなかできる事じゃないと思う。
__流石、松田さん!
勇気ある証人が「やる」と言った以上、番組が中断されることは無い。証言を止めることは出来ない。ましてやいつ殺されるか分からない状況での企画続行は、「キラの正体は最後」と銘打った番組の進行をも前倒しにしかねない。
キラは_火口は、相当焦っているはずだ。
「__来たー!!」
ミサの興奮した声とともに、シャカシャカと音の割れた着信メロディが流れだした。
秘密を暴露されることを恐れた火口は、早速ミサに連絡を入れたようだ。周囲の視線が集まるも、作戦通りにミサはそれを鳴らせっぱなしにした。電話にはでない。
「まったく筋書き通りで怖いくらいだな…」
「怖がらず喜びましょう夜神くん」
現在、捜査本部には同時に複数の情報が入ってくる。
松田さんを映すテレビ、火口の通話、行動範囲内のカメラ、盗聴器、アイバーとウエディを含む捜査員からの通信。
そのどれもが現在、竜崎の筋書きに沿った情報を、予想通りの時刻に発信してきていた。
とはいっても、膨大な情報が忙しなく入ってくる局面だ。私はできるだけ邪魔をしない様に、モニターの前で周囲の動向を見守っていた。
『おい、ヨツバの火口だが前にいた松井太郎って本名じゃないのか!?』
火口は今度は模木さんに連絡を入れている。
しかし、模木さんの返答はこうだ。「松井の本名は履歴書でも見ないと分からないが、生憎事務所の者は現在、社員旅行で沖縄に来ている。自分で事務所に行って資料を見てほしい」
「段々聞き方がストレートになってきてるね、火口のバカ!」
「余裕がなくなってきている証拠です。」
小気味よく「にしし」と笑うミサと、確実に手ごたえを感じている様子の竜崎だった。
松田さんの出演する番組の終了__キラの正体発表まで、あと二時間、問題は火口が果たして筋書き通りに事務所へ向かうか、という事だったが、竜崎はそれについては疑いを持たなかった。
「絶対に行きます」と、竜崎は角砂糖を噛み砕いた。
『__火口確認 所持品はバッグのみ 追います』
バイクのエンジン音をバックに、ウエディから通信が入った。
それは火口が自宅から出て、車に乗り込もうとしているという事だった。私もインカムからその音声をはっきりと聞いた。
竜崎は三角座りのまま身を乗り出した。
「ウエディ、バッグの中身は確認できませんでしたか?」
『ええ。ドアからドアまでの移動よ。バッグなんか開けないわ。』
「……分かりました。追跡お願いします。」
竜崎は所持品の中にノートがないか確認をしているのだろうと思った。殺しの方法が見られなくとも、道具であるノートを手元に持った状態で押えてしまえば、ミサの録音した音声と犯罪者裁きの中止という事実がある以上、あとは自白で事足りるのだ。駄目もとで確認して損はない。
『夕陽、聞こえる?No.5の車よ。』
「了解です!繋ぎます。」
火口は、複数台ある所有者のうちの、No.5とウエディが呼ぶものに乗り込んだらしかった。監視カメラと盗聴器の設置に関連して、連絡を手伝っていた私は、モニターへの出力方法を知っていた。
「助かります、夕陽。」
「えへへ。」
大したことは無いけれど、ちょっとした竜崎へのサポートだった。
テレビ画面を映していたモニターが二つあったので、そのうち一つを車内の映像に切り替えた。
「ここまでは思惑通りだな」
「はい」
映し出された映像に、竜崎と月君が慎重に注視する。憎悪のような表情を浮かべた火口の様子は、車載カメラによって近距離かつ鮮明に確認できた。彼の焦りは容易に読み取れた。
『__レム どう思う?』
無人のはずの車内で、火口が誰かに語り掛けた。独り言にしては明瞭すぎた。
『……いや、俺は捕まらない。まだ捨てない。』
「……捨てる?無線か?仲間がいるのか?」
月君は共犯や無線の可能性を指摘する。竜崎は爪を噛んだ。
「いいえ。あそこにあるのはこっちの盗聴器、カメラ、発信機だけです。ウエディの仕事なので確かです。」
「……。」
「それにしても”捨てる”ですか、どこかで聞き覚えが……。」
それは、月君が言った言葉だ。
けれど「プライドを捨てる」という文脈だったので、思い出すのは容易ではないはずだ。
そう、もう一度どこかで聞けない限りは……。
ちらりと振り返ると、後ろでミサがぐっとこらえる様にモニターを見守っていた。軽率な火口の行動に冷や汗さえかいてそうだった。
私と目が合うとミサは無理矢理口を左右に広げ、笑顔を浮かべた。竜崎はモニターを無表情に見つめたまま独り言のように口を開いた。
「もしあそこで会話してるなら………死神、ですかね?」
もうすぐ、火口が監視カメラの下でノートを使おうとするはずだ。
__「ノートのようなものの存在を確認した時点で、夜神月を拘束します」
その命令を受けたナオミさんはじっと私と竜崎、月君の背後で待機している。月君は一切、反論せずにその提案を受け入れていた。「自分はキラじゃない」と、その信念がある以上、それもまた彼の意地なのだろう。
「……ついたみたい。」
車から飛び出すように降りた火口は、先ほどまで模木さんの立っていたヨシダプロ入り口に映る。彼は奥の階段の闇へ消え、程なくしてデスクの並ぶ事務所内に入ったようだった。
モニターの中の火口を、私たちは俯瞰するように監視する。
竜崎の視線がはりつく。
「______」
__さあどうやって殺すんだ、見せてみろ!
無言の眼差しの中に、力強い声が聞こえた。
そして、火口は
カバンから
黒いノートを取り出し
松 井 太 郎 と
名前をかいた
「ノートだ!」
竜崎が声を上げる。膝を抱えた指には力が籠っていた。
「……ほぼ決まりです。名前を書きました。」
__ガチャリ、と金属音が響いた。
「夜神月。今から貴方を拘束、監視します。」
「っ………。」
ナオミさんは素早く監視体制に移行した。月君の両手は、竜崎につながった手錠はそのままに、さらに後ろ手に普通の手錠で固定されていた。
__月君。あとは任せて。
苦し気な表情を浮かべた月君は、それでも反論せずに、ただ目を伏せた。長い睫毛が影を落として震え、決して目を瞑っているわけではないことが分かる。
「夜神月……くん。」
ナオミさんは口を開き、一度躊躇うようにしてから意を決したように月君の肩をもち上げた。彼はナオミさんを見返す。
「貴方は以前、私に「キラの死因が心臓麻痺以外にもあると証明できなければバスジャックの仮説は成り立たない」と言ったわよね。」
「……確かに僕は貴方に言いました。でもあれは……いえ、辻褄が合うのは分かっていました。」
「ええ。ヨツバのキラが心臓麻痺以外でも人を殺せると確定した時点で、私の中での貴方の容疑は確定した。でも、同時に、現在のキラがみすみすそれを明かすような行動をとっていることで、明らかに貴方とは別人だとも考えた。」
月君は認めるように瞳を揺らした。鋭い二人は、きっととっくに同じように推理していたことだろう。残るは互いの信念のみだったはずだ。
「今のあなたはシロ。数か月見ていて、それは間違いないと思います。記憶もないんでしょう?あなたは竜崎に手を上げるほどに、人一倍犠牲になった警察官やFBI捜査官の死を偲んでくれていることも分かります。____だから、少なくとも再びキラに戻る事だけはさせません。全てを、あのキラを捕まえることで終わらせます__貴方には指一本、あのノートは触れさせません。」
ナオミさんは、凛とした声のトーンを落とすと、頭を下げた。
「今まで__きつく当たってごめんなさい。お互いに、今日で、終わりにしましょう。」
「……はい。こちらこそ。」
それは、事件のことではなく、彼女の内面の何かを終わりにするような響きを持っていた。
『くそっ死なない!』
車内に戻った火口が声を上げる。それは「殺しの作業が完了した」という事を物語っていた。竜崎にとっては、もう十分だったのだろう。彼は椅子から飛び降り、私達を振り返る。
「___もう十分です。皆さん、」
『レム、取引だ』
竜崎の言葉の途中で、火口は再び死神の名を言った。
「!……レム、まただ。どういう意味だ?」
後ろ手に固定されたまま、月君が冷静に指摘する。
「取引?独り言の可能性は消えるわね。……でも、だとすると何かが変わったと?」
ナオミさんも自らの考えを呟く。「取引」という単語をを口にした火口の動向を全員が監視した。__その言葉の意味は。
「……死神?もう少しだけ、様子を見た方がよさそうですね。」
しばらく走行したのち、スピード違反だろうか、火口は白バイに誘導され、路肩に停車した。
『免許か、あったかなぁ』
「……手元が視えませんね……」
竜崎は爪を噛む。
車載カメラでも足元の暗がりでは何も見えない。火口の動きは一見、ごそごそと免許を取り出そうとしているように見える。「えーと免許どこだっけなぁ」と人がよさそうに独り言を漏らす火口は、しかし突然顔を上げ、ハンドルを握った。
車は急発進し、白バイ隊員を振り切る。
『____火口、白バイを振り切って逃走しま____あ、し、白バイの方は大破しました!』
通信が入り、瞬間、緊張が駆け巡る。
__取引
__大破、事故死
「死神、目を見せ合う、取引……」
竜崎が思い浮かぶままに単語を並べる。
「名前がなくとも、第二のキラ……ノートはあの中に」
追従するように、あるいはそれを引き継ぐように、月君も手掛かりになるような言葉を並び立てていく。
__かちり、と竜崎が通信をオンにした。
「__皆さん!」
すべての回線、すべての捜査官への通信が開かれた。
『「皆さん、火口をこれ以上動かすのは危険と考えし火口の確保に移ります。」』
竜崎は前を見据え、睨みつけるように声を上げた。
インカム越しに、目の前の竜崎と同じ音声が重なって聞こえる。
『「彼は凶器を手元に持っています。ノートの形をとっていると思われます。さらに、火口は第二のキラ同様”顔だけで殺せるキラになった”その考えの元での確保です」』
___この時が来た、その事実だけで胸が高鳴った。鼓動が一気に早くなった。
だけれど、この胸にあるものの正体が高ぶりか、緊張か、プレッシャーか、恐れか、考えている暇はない。
私はまだ、ひとつ、交渉をしなければいけない。
一緒に、竜崎と、ヘリに乗り込まなくてはいけない。
「竜崎、私は____」
指示を終えた竜崎の背中に声を掛けた。白い背中に手を添える。
思わず口から出かけた、___「この時の為に、ここにいるんです」という言葉をぐっと喉の奥に押し込めた。
__散々、自分の中で決めたはずだ。
__ここが最後だと、気付かれたら計画は失敗すると。
「あの、私……。」
なにか、違う言葉を選ばなければならない。
何でもいい、ただ、「ついて行きたい」と、いや、「ついて行かなければいけない」と、わがままじゃなく、説得力と必然性を持って伝えられる言葉を、何か、何か___
___何か
___嘘でいい。
___建前でいい。
___何か
「夕陽、来てください」
「えっ」
「えっ、ではありません。来てください、と言ったんです。」
竜崎はからかうような言葉で、私を睨みつけた。それはさっき、回線を通して指示をしていた時と同じ瞳だった。
__有無を言わせぬ、強い瞳だった。
そこに、私が映り込んだ。
ひどく驚いた顔をしている。覚束なそうに、口をあけている。
私は、言葉を失った。
「連れて行ってください、と言おうとしたんでしょうが、お見通しです。」
___どうして、だろう。
どうしてなんて、もう、どうでもいいのに、理由を考えてしまう。理由を考えて、思いつくのは、どれもがLらしくて___蓋をしようとしていた感情が、溢れてきてしまう。
「ずっと隣にいたんです。私達は。夕陽が「手が届く場所に居たい」と泣きながら言ったその日からずっと。夕陽にも正義があってここにいることくらい、分かります。」
__心配していた自分が恥ずかしくなるくらいに。
__嘘と建前で誤魔化す必要がないくらいに、信頼があった。
「竜崎、あの……」
__それでも言葉にできない。
何を言っても、やっぱり余計なことを言ってしまいそうで。でも、竜崎のその言葉は、私以上になにかを分かっているようで__
「言いたいことが沢山ありそうですね夕陽。私もありますが、時間がありません。帰ってきてから話しましょう。」
何も言えないまま手を上げたり下げたり、不思議な身振りをする私を見て、竜崎は急に真剣な表情を崩した。
「……ふふっ」
今、笑ったのは、竜崎?
頬を緩め、目も少し細め、「仕方ないなぁ」とでも言うように、笑ったようだった。見たことのない表情に呆気に取られていると、そんな顔が、ほとんどくっつくくらいの距離まで近づいてきた。
彼は私の頭を左右から挟むようにすると、真上から言い聞かせるようにわたしの名前を呼んだ。
「夕陽、もうなんでもいいので、ついてきて、ただ、隣にいてください。……時間がありません、イエスですか、ノーですか。早く。」
あまりに優しいその口調に、私は久々に顔が熱くなるのを感じた。
でも、そんな場合じゃない。私は両手で顔を冷やし、ぎゅっと目を瞑てから、意を決して目を開けた。
「____イエス、です!」