終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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レムは、全部教えてくれた。
__ライトは世界を良くするためにキラをやっていたこと。
__ミサを助けてくれたキラは、ライトだったこと。
__夜道で助けてくれたのは、ミサに恋した死神だったこと。
__そしてミサが第二のキラだったこと。
__夕陽ちゃんは、ライトとミサがキラだってことを知っていて、ずっと誰にも言わないでいたこと。
いままでの私の悩み事が、ぜんぶひっくり返るようなストーリー。
__………。
「………夕陽ちゃん、どうしてそんな大変なことずっと隠していたの?」
__あれ、どうしてだろう。
さっきまでずっとあんなに、「助けてくれたのにキラごめんなさい」って、「ライトをキラから守る」って考えていたのに、どうしてだろう?
真っ先に口をついて出たのは、手を差し伸べてくれた友達への想い__どうしてそんなに重いことを一人で背負っていたの?という気持ちだった。
__おかしいな。
ライトがキラでミサもキラ。サイコーってまずは言うべきなのに。
「……心配してくれてありがとう。なんだか月君みたいだね。」
夕陽ちゃんははにかんだ。
「そ、そうかな。……ミサ、ライトみたいだった?」
「うん、さすが近くで見てるだけあるね!」
そう言われると、自分らしくないなんて疑問もなんだかすっと消えて行ってしまう。
そっか。ライトみたいなことを無意識に言っちゃったんだ、ミサ。
「……二人がキラだったことは、隠していたわけじゃない。ずっと言おうと思っていた。というよりも、この時を待っていた。」
「待っていた?」
夕陽ちゃんは待っていたようににやりと笑った。
「うん。ミサがヨツバに接近して、そしてレムと顔を合わせることができる今日という日を待っていたんだよ。」
夕陽ちゃんがレム、と言うのでその顔を見る。なんかよく見たら可愛いかもしれない、と思ったら、骨の指がわたしの額をちょこんと突いた。
「……いいか。今、死神の私の姿が見え、声が聞こえる人間はヨツバのキラとミサだけだ。夕陽は例外なんだ。これから面接に戻ればミサには誰がキラなのか分かるはずだ。」
「うん。ミサは今日、ヨツバのキラが誰かを知り、そしてキラ自身も、近いうちに第二のキラかもしれないミサにコンタクトを取ろうとする。今後はミサがキラを断定しても、不思議な状況ではない。だから、どうにかして月君の計画を成功させるために、ヨツバのキラが誰かを、月君や竜崎に分からせてほしいんだ。」
どどーっと流れ込んでくる情報量。それはまるで作戦会議のようでなんとなくわくわくしてくるけれど、それでもまだ全然わからない。
「月君に、自然にヨツバのキラの正体を伝えることができるのはミサだけなの。協力してくれる?」
「お願い!」と手を合わせる夕陽ちゃんに、私は尋ねるしかなかった。
「ちょっとまって夕陽ちゃん。ライトの計画がヨツバのキラを捕まえてノートを取り戻すことっていうのは……さっきレムから聞いたけれど、夕陽ちゃんがそれに協力しているのはどうして?夕陽ちゃんは、竜崎とLの味方なんじゃないの?」
ミサ達はLを殺すかもしれないじゃない、とは言えなかった。
「それに、レムが見えるのに、夕陽ちゃんは例外ってどうしてなの?」
夕陽ちゃんは、合わせていた手をぶらんと下ろす。そして自分の姿を鏡に映すと、小さく笑った。
「私は……」
夕陽ちゃんの手が鏡に伸ばされる。
同じ姿の女の子が二人、手を触れ合わせる。透明なガラスを隔てて、手が届かないように見えた。それを見て、夕陽ちゃんは悲しそうに目を伏せた。
そして鏡に背を向けて、ミサを見た。
「私は……皆を守るためにこの世界に来た、死神みたいなものなんだ。」
その笑顔は、なんだか散りかけの桜みたいに寂しく見えた。
「あるいは、いつか覚めるべき悪い夢、かな」
__死神みたいなもの?
__悪い夢?
全然、分からない。それに「この世界」って……それじゃまるで、別の世界から来たみたいじゃない。
「だからミサ。レム。この日々が続くことを願ってくれるなら__手を貸してくれないかな?」
「………夕陽のことだ。なにか交渉材料があるんだろう。」
「交渉材料なんて冷たいなぁ。……でも、月君にとって避けるべき危機が迫っていて、私はそれを回避する案を提示できる。」
夕陽ちゃんは笑っているのに、冷たい声でレムと話す。
もしかして夕陽ちゃんも死神だったりするの?あ、でも「死神のようなもの」とか言ってた。
夕陽ちゃんとレムは暫く睨み合うように黙る。先にミサの方を向いたのはレムだった。
「………ミサ。お前は、この日々が続くことを願うか?それとも、夜神月と再びキラになりたいと望むか?」
レムの声がしんと胸に響く。
優しくて、慈しむような声。懐かしい感じがする。
死神ってそんなに優しいの?
この日々を続けるか、それともライトとキラになるか……。
「そっか。ミサに与えられた選択肢ってその二つなんだ……。」
「あぁ。夕陽はずっと前から私に協力を依頼してきたが、私がミサの気持ちを譲れないんだ。」
「………。」
「ミサが夕陽に協力するというのなら、私も全面的に夕陽に協力しよう。」
逮捕しようとしていたキラはライトじゃなくて、このままうまくいけばライトはキラになって、またミサが頼られる。
でも、夕陽ちゃんは確か、「皆を守る」って言った。
ずっとまえから……そう思ってくれていたんだ。
この先には暗い未来があって、夕陽ちゃんは竜崎さんだけじゃなく、ミサたちのことも助けようとしてくれている?
「レム。難しいよ。ミサ……選べない。」
ちょっぴり泣きそうになって顔をあげると、レムは目を大きく開いた。「どうして?」と聞いてきそう。夕陽ちゃんはじっと押し黙っている。
__今は……ライトや夕陽ちゃんがいる。すごく楽しくて、一人じゃなかった。
__でも、記憶がないだけで、命までかけたキラの記憶は、それほどまでに大切だったはず。
__どっちかを選んだら、どうなってしまうの?選ばなきゃダメなの?
「でも……知らなきゃ。」
__難しくて頭がパンクしそうでも、ただひとつ分かるのは、ライトが危ないなら、ミサは守らなきゃいけないってことだけ!
「夕陽ちゃん教えて、その危機ってなんなの?ライトの計画は、計画通り進んでいるんじゃないの?」
夕陽ちゃんは私と目を合わせて、今度は大きくうなずいた。どうしてか、その瞳に心強さを感じた。
「ミサ__私を信じてくれるんだね。」
「もちろん!」
いつもそうだ。
夕陽ちゃんはいつも「信じてくれるか」なんて確認をする。
「ミサは夕陽ちゃんが未来だって死神だってなんでもいい。一人にしないって、ずっと一緒って言ってくれた夕陽ちゃんが嘘をつく訳がない!」
こんなに信用して、また酷い目にあうぞって馬鹿にされるかもしれない。だったら、ミサやライトのことをいつでも竜崎やLに言うことができたのに黙っていたというだけで、もう十分、それ以上の理由なんていらない。
夕陽ちゃんは小さく呟くように「ありがとう」と言った。
それはほとんど聞こえないような声。独り言のようだった。
でも、それもなかったことのように私とレムに勢いよく顔をあげた。
「Lは、月君の私物の中から、月君がキラだって断定できる証拠をもう確保している。」
「……そ、そうなの?」
Lってすごい。そう他人事のように感心してから、でもそれだと、ミサもライトもどうして逮捕されないの?という疑問に変わった。
「それは、その証拠がノートの紙片だから。Lはノートのようなものの存在を疑っていても実際に見ていないし、使い方も知らないからね。」
「ということは、ヨツバのキラが逮捕されちゃったら……。」
「そう。ノートの存在をLや警察が知り、ミサと月君はすぐに逮捕されることになる。」
逮捕、と言いながら夕陽ちゃんは目を伏せる。優しいのは分かる。でもそれって、ほとんど極刑__死刑って言ってるのと同じ。
「じゃあヨツバのキラをこのままほおっておけばいいってこと?」
「ううん。ここまで接近したんだから、結局は時間の問題。」
「じゃあ、Lが証拠をつかんでいることを、ライトに知らせるっていうのは?」
「今の月君はキラじゃないよ、ミサ。」
「………。」
「…………。」
「Lを殺しても意味がない、そうだな?」
私が心に留めた、でも言えなかった質問をレムが代わりに尋ねた。
「証拠は警察でも証人をたてて保管してるから、誰が死んでも証拠の照合は止まらない。」
レムは鼻で笑うように上を向くと、「夕陽らしい」とぼそりという。
でも、助けるって話をしてくれている夕陽ちゃんが証拠を見つけたわけじゃ無いでしょう。とにかく、私はどうやってライトを助けるか、聞かなきゃ。
「………わかった。教えて。ミサはどうすればいいの?」
夕陽ちゃんは、俯いた。そして顔を上げると、今度は笑ったりしないでまっすぐに私を見た。瞳に自分が映って、同じように真剣な表情をしているのが分かった。
「ミサは月君の計画通りに、火口逮捕に協力してほしい。そしてノートが確保されるとき、月君がキラに戻るより早く、警察が手にするより早く、私が手にする。」
「手にして、どうするの?」
ミサができるのは、ヨツバのキラを見つける事。それは分かる。ほかにライトを守る手立てがないことも、分かる。でも、そのノートはどうなるの?
「私が最後のデスノートの所有者になる。きれいさっぱり__全部の罪を背負うよ。背負って、消して、決して、無かったことにはできないけれど、うまくやるよ!」
__罪を背負う。
__消して、無かったことに。
__最後の所有者になる。
謎めいた言い方なのに、まるで細かく問い詰める気にはなれなかった。怖かった。
__だってまるで、それは、十字架を背負おうとしているように聞こえたから。
「はっ、もうこんな時間!」
夕陽ちゃんは思い出したように大きな動きで腕時計を見ると、また慌てだした。
「ウォレスさんに怒られてしまいますので、戻らなければ…!」
今にも飛び出して行きそうな「新人ちゃん」の肩を抑えた。
「待って!まって、夕陽ちゃん!」
大事なことを言い残して、それで終わりのつもり?
「ミサは、まだ『やる』って言ってない。ライトを守りたい以上、断れないけれど、でも夕陽ちゃん、貴方はどうなるの?」
夕陽ちゃんは、笑った。ミサは絶対にそうやって笑わないなと思った、悲しい笑顔。
「どうにもしないよ。悪い夢が覚めるだけ。いつも通りに起きて、一日を過ごしていれば、忘れられると思うんだ。」
___………。
「夕陽ちゃん……貴方、何もわかってないよ。」
悔しかった。
理由を並べる姿は、まるでライトや竜崎さんみたい。ミサには全く崩せない理屈で、断れるわけがないじゃない。
でもそんなの、気が付いたらすべてが終わっている、今までのすべてと一緒。ミサは何も言えない。今回は優しさも混じっているから、なおさら悔しかった。
「わかった。『やる』。ミサは協力する。キラが誰か、自分でライトに分からせるように、うまくやる。でも……」
__でも、思い出せないとしても__キラの記憶までを否定したわけじゃない。
「デスノートの事、キラや死神さんに助けてもらったこと、死神の目でライトを見つけたこと、二人でキラだったこと、どれも悪夢だなんて思わない。」
ミサを助けてくれたキラは、ライトだった。ミサがライトを好きになったのも、キラを見つけようとしたことがきっかけだった。命を差し出そうとしたことも、全部、間違いだなんて思わない。
「それでも協力するのは、大切な人を守りたいって気持ちの方が今は強いから!」
それに、「守る」という気持ちを教えてくれた夕陽ちゃんにだって出会っていなかった。
「ねぇ、わからない?それはライト一人だけのことだけじゃない。「これからはずっと友達」って言ってくれた夕陽ちゃんも一緒なの!……だから竜崎さんが死んで悲しむのも嫌。」
__もうミサは、ライトさえいれば生きていけるなんて言えない。
__みんなと一緒に、この先も生きたいと願ってしまったから。
「ミサは新しい世界を生きたいんじゃない。このまま__”この日々”を生きていきたいの。ライトがいて、夕陽ちゃんがいて、竜崎さんがいる__それにまだ、一緒に買い物、行ってないじゃない?」
映画の演技みたいに声が震える。でも、このあとも面接があるから泣くのだけはどうにか我慢しなきゃ。
夕陽ちゃんは背中を向けたまま押し黙る。そのまま、何も聞こえないなんて言ったら、ミサは許さないよ。
「ミサが協力したせいで、夕陽ちゃんは____いなくなったりしないよね?」
夕陽ちゃんはどうにか私の話を全部聞いて、背中を向けながら「ありがとう」と言った。
少しだけ向けられた横顔に、涙が溢れそうになっているのが分かった。
「……その気持ちは、私も一緒だよ。」
夕陽ちゃんは黒ぶちの眼鏡を少しずらして目じりを拭った。気持ちが一緒とは言ったけれど、ねぇ、ミサの質問には答えてないでしょ?
聞き返すより早く、夕陽ちゃんは小走りになって走って行ってしまった。
____……。
____………。
ヨツバの社員も戻りはじめたか。
なら私も戻り、火口の後ろに立つとしよう。
会議室に戻ってしまえば、黒いスーツでおどおどと慌てている夕陽、それにミサは言葉も交わさない。
____夕陽
ミサはお前が何か言わなくともライトの計画を進めただろう。
それをわざわざ知らせたのはどうしてだ?
いつかのお前のように、人間に……今度はミサに情が移ったとでも言うのか?
意地か?友情か?
____愛か?
いや、そんな筈はない。
夕陽、お前はやはり嘘つきだ。
ライトに迫る危機といってミサを焚きつけた証拠だって、お前が仕組んだものだろう。
それは、ミサの為に砂になってもいいと考えている私を牽制するためのものではないのか?
____まさか私のことさえも助けるつもりだなどとは言うまい。
____全部、戯言なのだろう?
それに、「最後の所有者になる」__嘘ではないかもしれないが、何も説明していない。一体何をするつもりだ?
「……要は私にこのメモを渡すためだけにミサを巻き込んで茶番を演じたということか。」
「返すよ」などと言って渡してきた紙片はデスノートの切れ端などではなかった。ただのメモ帳の走り書きだった。
ミサに紙片を触れさせたのは私だ。その時点から夕陽は嘘をついていた。
__『私がノートを手にしたら、_______________。』
まぁ、しかし不可能ではない。
それくらいはやってやろう。