終章 -Last note-
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -Last note-
◆演技と監督
10月21日
アイバーがコイルとして会議への同席を要請された。
「夕陽は立ってるだけでいいからな。」
「はい、コイルさん。」
いよいよ出番だ、と勇んでヨツバ本社に潜入した私は、しかし油断していた。
甘く見ていた。
舐めていたと言ってもいい。
裏の世界のプロたる詐欺師のアイバーが上手く交渉するので、人見知り設定の私はただ後ろに立っていればいいはずだった。
しかし、実際に行ってみるとそこはまるで針の筵だった。
コイル氏とその諜報スタッフ。
予め定めた通りのキャラクターで卒なく自己紹介をし、さぁ臨時会議に出席だ、となったタイミングで、ハーバード卒の秀才である奈南川が気難しそうに沈黙し、ぽつりと呟いたのである。
「いや、彼女は必要ないだろう。」
冷静なその意見を発端にして、
「あぁ、情報が外部に漏れるリスクは極力減らしたい。」
「そうだな。万が一口封じするにしても二人より一人の方がいいしな。」
「おい!軽率なこと言うな。」
次々にそんな声が上がり、一時は私が同席することが危ぶまれた。
蛇に睨まれた蛙の如く、私は人見知り少女の設定など関係なく、アイバーの背中にしがみつくほかなかった。怖い、というよりも、焦りやたどたどしさなど、余計な表情を読み取られてしまうのではと思ったのだ。
__一体この状況、どうしたらいいんでしょうか?
そんな気持ちを込めて、アイバーの背中の背広をくっと引っ張ると、彼はニヤリとして社員達の前に躍り出た。
「なんとまぁ、彼女のことをリスクと言いましたか?リスクなんてとんでもない。彼女こそ私のリスクヘッジなのですよ。コイルの次に彼女の前でリスクなどは存在しません。」
「………?」
「………。」
なにか始まったぞ、という雰囲気を前方の社員たちからありありと感じる。
「彼女はこう見えてLにも負けない諜報力を持っているのです。こうした企業相手の案件では欠かせません。あなた方の情報をいくつか当ててみましょうか?」
__??
思わず背後でぽかんとしてしまった。
アイバーの言葉はまるで呪文だ。私がどのようにリスクヘッジなのか分からないし、諜報担当が企業相手の案件に欠かせないと言う理屈も分からない。詐欺師の魔法でそれっぽく聞こえているだけだ!
それに、「言い当てる」?誰が?私が?__できません!
今度は「何言ってるんですか無理です」という気持ちを込めてさらに強くアイバーの袖を引っ張る。ついでに、こんな言葉で果たして皆、納得するのだろうか?と向こう側の様子を見る。
「……ほう。それはおもしろい。」
「余興として聞くのも悪くないな。」
予想外に皆、前のめりだった。
珍しい宴会芸を前にしたように、どことなく期待と挑発の視線も集まってきた。
__嘘でしょ……貴方たち詐欺師に騙されてるんです!そんなカモになってしまっていいんですか?
そんな心の叫びの一方で、本当に私はどうしたらいいのだろう。実際に諜報などしていないし、服のシワを見て何かを言い当てるようなシャーロック・ホームズ的芸当もできない。
無言でアイバーの服を掴んでいると、耳元の通信機からプツっと通信の入る音がした。
『……夕陽、聞こえるか?』
月君の声だ。
『カメラに写ってる。頷けばいい。』
言われた通り、私はヨツバの社員からは視えない様にこくりと頷いた。
『よし。じゃあ僕の言う通りに話してくれ。……なんだよ、竜崎?……あぁ、キャラがあるのか。それは夕陽、悪いが自分でどうにかしてくれ。』
通信の向こうで、ご丁寧にも竜崎が私のキャラ設定に配慮してくれたようだった。声を出せない私は突っ込むことも拒否することもできない。どちらにせよ、のっぴきならぬ状況ではあった。
とにかく私は、月君の言う通りに喋ればいいと。
私は覚悟して、両手をミサに借りたところどころ破れた黒いパーカーの前ポケットに入れ、うつむき気味で社員たちの前に躍り出た。
「……。」
「な、なんだ……?」
期待と警戒の入り混じる声が上がる。私は視線をあげなかった。
__素ならまだしも。
「エキセントリックでデンジャラスな人見知り少女」なんて役柄、今にも吹きだしてしまいそうだったのだ。
「………私には分かってます。」
私はもったいぶるように前置きを挟んだ。
『よし。大きなところから行こう。「尾々井……」』
「……尾々井、さん……」
「なんだ、私か。」
サングラスをつけた、色黒の恰幅の良い男が一歩踏み出した。受けて立とう、という様子だった。
「……あなたの先日の発言。録音してます。」
「……。」
私は耳元からの指示を聞き逃さないように口調のペースを合わせた。
「具体的には……「Lでもコイルでも、ミサイルを撃ち込めばいい。」という悪趣味なジョーク……のようですが……。」
尾々井はふんと鼻を鳴らした。笑ったのかもしれない。
「そんなこと言ったか?言ったかもしれないが、大袈裟にとらえられても困るんだ。」
『……いいぞ。続けてくれ。』
順調そうに月君が続けた。私はそれを適宜ペースを落としながら詰め寄るように耳から口へ流す。
「………ご親族が防衛省幹部だそうですね。私達のネットワークで独自にミサイルを打ち上げLを攻撃し……あなたの仕業だと、発言を利用することはできるんです。」
『ちなみにそういうネットワークは実在します。どうでもいいことですが。』
竜崎から冗談とも本気とも取れない補足が入る。いや、冗談だとしても嘘とは思えない。そして本気でも竜崎はにやけてそうだ。
『今はとりあえずCLNの上層部とでも言っておけば大丈夫です。』
__ええっと、シーエルエヌ?
「CLNの上層部であれば、いつでも連絡がつきます……。」
「………!」
そこで社員の数人が「なんだと」と声をあげた。後から竜崎に聞いて知ったのは、それは表向きには知られていない軍需産業の大御所だとかなんとか。日本ではヨツバの幹部しか知らないはずということだった。
『夕陽、今ので終わりだ。あとは適当に締めてくれ。』
また月君の声に戻った。あとは適当に締めてくれ?決め台詞的な?
__よし、ちょっと頑張ろう。
私はサングラス越しに顔を強張らせる尾々井に、俯いたまま一歩二歩と接近した。相手がたじろぐのが分かった。
「尾々井さん………軽率すぎますよ。防衛省__いえ、日本がLを攻撃したとなれば、このキラ時間の最中、あなたの発言一つで、ヨツバどころかこの国ごと陥れることになるんです。」
「…………くっ。」
ついに尾々井は声に出して社員たちの中へと後ずさった。
「………失礼。これではまるで……脅迫のようですね……。」
今のはアドリブだった。調子に乗って勝ち誇ってしまった。
『ずいぶん格好つけたな夕陽。』
「………。」
耳元で月君が関心したような声が聞こえた。呆れられていたのかもしれなかったが、今の天然ぎみな月君なら、今のは間違いなく関心していたのだな、と何故か予想がついてしまった。
どっちにしても、指摘されてみると外連味を意識しすぎた気がして、私は今にも逃げたいほど恥ずかしかった。
恥ずかしさのまま、私は思い出したようにアイバーの背中に逃げ隠れた。何かを噛み潰したように苦い顔で、尾々井がアイバーに歩み寄った。
「し、信じられないが……。コイル、彼女は本物なんだな?」
「ええ、当然、本物です。恐ろしいでしょう?彼女はこの調子ですからいつでも国境を書いたり消したりできるんです。敵に回したくないでしょう?ですが安心してください、今は皆さまはクライアント、彼女は頼もしい味方ですよ。」
得意げに両手を広げるアイバーに、皆が息をのんだ。
__いつでも国境を書いたり消したりできるんだ……
それは確かにデンジャラスでエキセントリックだ。
と、心の中で詐欺師の話術に突っ込みを入れるも、先程の竜崎の「実在しています」発言であながち虚言でないことも頭の隅をちらついた。なんて世界なのだろう。二重の意味で。
『ちょろいですね。』
耳元から竜崎の声が聞こえた。すると、今度はプツっと通信が切り替わるような音がした。
『じゃあ私も参加』
尾々井一人で十分な空気だったのに、クールにウエディが便乗してきた。私は指示されるままに、今度は三堂の「趣味はフェンシング」なんてシンプルな言い当てをした。
「あ、当たってる……!」
国家レベルの話の後で場が温まってなければ誰も驚かなかっただろう。温める、という宴会芸のような表現もおかしいけれど、詐欺師的にどう表現すればいいのか分からなかった。
また、プツッと通信が切り替わる音がして、私は耳元を抑えた。
『せっかくですので私も。あてずっぽうですが当たるでしょう。』
ついには面白がった竜崎も参加してきて、樹多の「趣味は眼鏡集め、嫌いなものはコンタクトレンズ」なんてさらに小規模な言い当てをすることになった。
「……な、なんでわかったんだ…?」
『なんとなくです。』
しれっと言う竜崎だった。
「今のはなんとなくです。」
だって竜崎がそういうのだもの。
「……な、なんとなくだと……!」
やけっぱちになって耳から口へ、そのまま伝えると、樹多は余計に驚き目を見開いた。もはやノリしかないように感じる。
結局私は傀儡の如く、8人全員分の推理を披露させられた。
「……分かった。彼女の同席を認めよう。いや、コイル、是非ともまた彼女に繋いでくれ。」
面接への同席許可どころか、私の次の仕事のオファーがかかっていた。Lと夜神月とウエディが背後にいたのだから、仕方ない。
「さ、さすがに……疲れました…。」
「まぁ、よく頑張ったよ。お疲れさん。」
国境を書いたり消したりできるらしい、デンジャラスな人見知り少女もさすがに憔悴しきっていた。
「合格です。」
「……へ?」
捜査本部に戻るなり、椅子をくるりと回してにやりと笑みを浮かべた竜崎に出迎えられた。
「合格って、なんのこと?」
竜崎はスプーンでアイスをつついた。しかし、口には運ばず、指先でさくらんぼを持ち上げた。機嫌がよさそうだった。
「今日の様子であれば面接への同席も問題ないと判断しました。安心しました。」
「え、あ、私、試されてた……?」
てっきり、面白がるか、からかわれていたのだと思っていた。文句言ったりしなくてよかった……と呆然としていると、隣に立っていたウエディが姿勢よくクールに二回頷いた。
「ええ、私もお墨付き。それにしても、あのキャラクターは竜崎の真似なのかしら?」
「ど、どうでしょうか……あはは。」
言われてみれば、少し、そうだったかもしれない。特に後半の、追い詰めるあたりに関しては。本人の手前、私は曖昧に笑ってごまかした。
竜崎はまるで意に介さないようにさくらんぼを口に入れた。
「もしかしたら今後も、スクリプトと変声機さえあれば夕陽に各国への連絡役などをさせてみても面白いかもしれませんね。まぁ、あくまでスイーツを運ぶ合間に、ですが。」
「……あ、ありがとうございます。」
Lの連絡役。キラ事件後にはそんな大役が待っているかもしれない。それもそれで、見てみたい未来ではあった。
翌日。10月22日。
アイバーを加え、私は面接のリハーサルのため、竜崎、月君とミサの部屋にいた。
「ミサさん、あなたは「キラに会いに行く」と言って東京に出てきた」
竜崎の用意した質問を、広報アドバイザージョン=ウォレスに扮したアイバーが問いかける。昨晩のコイルの様子とは違って、いかにも南国で遊んでいそうな雰囲気を出している。ミサは目を見開いた。
「えええっ!?」
「そ、そうなのですか!?」
ソファからずり落ちるほどに大きなリアクションをミサがあげる。実際には椅子から落ちる感じなのかな、と思いながら、私も「新人ちゃんの日向」らしく初心に行こう、と叫んでみた。
「はいストップ。カットです。」
竜崎から待ったがかかった。必要ないだろうに、その手には黄色いメガホンが握られていた。指先で握られている。
「ミサさん、そこは臭くと言ってもオーバーアクションは止めてください」
竜崎の声がよく響く響く。ミサは納得いかないのか、竜崎を振り返って頬を膨らました。
「えーっ今のを迫真の演技っていうのよ」
「いいからやり直しです。夕陽はリアクションなしで結構です。」
___えええ。
「はいはい竜崎大監督~」
茶化すミサだったが、私はその大監督、という言葉が変にツボにはまってしまい、しばらく冷静になれなかった。
「ミサ、それ……監督っ、竜崎、だいかんとく…だ……っ大監督って!あははっ無理っ……」
だるっとした服装に、猫背でメガホンを当てる姿は、なんとなく芸術肌の監督っぽい。空気のように佇む月君まで、演技派の若手俳優が戸惑っているようにさえ見えてくる。
「ミサさん真面目にやっていただかないと蹴り入れますよ」
「えーっ今のは夕陽ちゃんでしょ??」
腹筋が痛いままに私は呼吸を整える。面接のリハーサルは竜崎大監督のオーケーが出るまであと4回繰り返された。
ともあれ、次は面接本番、そしてレムとの最後の交渉が待っていた。