第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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___。
『コイルの諜報スタッフとしてついてくる以上、弥海砂の面接に同席するキャラもジョン=ウォレスのように演じる必要がある。……「新人ちゃんの日向」でいこう。挨拶はオーソドックスで問題ない。できるか?』
『”はじめまして。新人の日向と申します。”』
捜査本部、深夜のメインルーム。
隣では夜神月がコーヒーを目の前に置いたまま、うたた寝から深い眠りに入ってしまっている。
『んー、悪くないが……ちょっと抜けた感じでできるか?』
『抜けた感じ……了解です。……”あ、はい私ですか!し、新人の日向です!”……こんな感じでいいでしょうか?』
モニターの山の中で、自然と眺めてしまうのは彼らの”演技指導”だった。
深夜も2時を回っているのにもかかわらず、念入りに身振り手振りで打ち合わせを続けるのは夕陽と、詐欺師のアイバー。
捜査員の相沢が去るなり、夕陽は突拍子もなく「アイバーさんとウェディさんがやってくるんですよね?私もチームに加えてください!」と私の思考を読んで見せた。
いや、未来を見ていたのかもしれない。
『新人ちゃん役はそれでオーケーだ。まぁ自己紹介したらメモ持って座ってるだけだし、ヨツバもコイル側の諜報スタッフと知ってる設定だからな。クオリティは余程悪くなきゃ問題ない。それよりコイル側のスタッフとしての態度とのギャップの方が大事だ。』
危険すぎる、駄目です。と、初めは却下した。
__「私のこと、信じてくれませんか?」と
頭を下げて、再度顔を上げた彼女の瞳に折れてしまった。
その瞳の奥には、さくらテレビの報道事件の際に「警察官が二人倒れるところが視えました」と絞り出すように告げた、真実が隠されているようだった。
あの日以来、夕陽が自分の見える未来を私に告げたことは無い。
少なくとも、言おうとはしなかった。
しかし、実際のところは……。
__「これを。相沢さんの一番大切な人に、と思って。」
夕陽が相沢にプレゼントしたキャンディには、私にくれたのものとは違い、小さなリボンが巻かれていた。彼女は、あらかじめキャンディを用意していたということになる。たった一つだけのキャンディ。小さな子供の居る相沢が去ることを知っていたとしか思えない。
あの時点で夕陽には、未来が視えていた。
分かっていたのに自分との約束を守ってくれたということだ。
しかし、秘密とする意味はあるのだろうか……?
『ギャップですか?』
『そうだな……一生懸命元気いっぱいの新人ちゃん、だがコイルのスタッフとしての姿はデンジャラスな人見知り少女……これでいこう。紹介されるときはいかにも「任務以外では人が怖い」とでもいうように俺の後ろに立って俯いていればいい。できそうか?』
『……。』
『お?ちょっと難しいか?』
『……”よろしく、お願いします……コイルさん、この人たち、悪い人でしょうか?”』
『”いいや依頼人だ。いつものようにやりきれ。”………よし!謎めいてるな、悪くない。嘘が上手いな。あとはちょっとエキセントリックな服装かなんか用意できるか?黒づくめとか、パンクとか。』
「……ふっ」
必死に演じている夕陽の姿に、思わず笑みがこぼれる。
こんな姿は、夜神月には見せられない。
彼が寝ているタイミングで良かった。
私は手元のマイクのスイッチを軽く押した。アイバーと夕陽のいる部屋へと通信が繋がる。
「ストップ。面接での行動は私が指示しますので、大まかなキャラづくりだけで結構ですアイバー、続きはまた明日にしましょう。」
『ここまでか。夕陽もよくやった。この事件終わったら俺とくるか?』
「……アイバー。」
『はいはい。お嬢さんは返しますよ。それとも姫か?』
「夕陽は夕陽です。」
画面の向こうのアイバーはやれやれと大げさなジェスチャーをした。
『……俺は先に寝るよ。じゃあな。』
視界から消えるアイバーと変わって、内線を受け取ったのは夕陽だった。”エキセントリックなキャラクター”が抜けないのか、受話器の持ち方が独特だった。……私の持ち方か。
『竜崎、もどったら…ふわぁ……さっき買ったロールケーキが』
夕陽はこのところ、あまり寝ていない。
それに、前より余計に笑うようになった。
松田のフォローをし、夜神月を励まし、弥も夕陽と何かを話して以降、明らかに様子が変わった。崇拝とも変わらないような愛だったはずが、彼女なりに正義感を持って「夜神月を守る」と宣言していた。
全て、夕陽の影響だろう。彼女は文字通り太陽のように、捜査本部を明るく照らしていた。
「ロールケーキはいいんですが……夕陽、貴方は寝てください。」
『そういう竜崎は寝ないの?月君の声しないよ?横で寝てるのかな、あはは。』
しかし彼女は__夕陽は、かつてそうだっただろうか。
ずっと隣にいた私には、誰よりも彼女の変化は分かる。
身を削り、休むことを知らない彼女は、まるで「今しかない」とでも言うようだ。
彼女は、なにかを焦っている。
何かから逃げている。怖がっている。
「夜神くんなら私の隣で寝ています」
『あはは、その言い方、なんか語弊ある。』
「夕陽もそうだったじゃないですか。」
『あ、あれはツインベッドで……。』
ちょっとからかうと、むきに返してくる。今晩はいつもの夕陽らしく安心した。
安心したのは、彼女がまた、ここ最近見せる表情のせいだった。
ふとした瞬間、空虚に沈む瞳は、以前のように私を見て照れるように泳ぐことは無い。
ただ悲しげに微笑むため、細められるだけだ。
__「竜崎!未来の約束しよう?」
弥の監禁を始めた次の日。
夕陽が願うように言ったそんな甘い台詞が、”何かおかしい”と感じたのは……
未来が断片的にでも見える彼女が、「未来の話をしたい」と言ったのはつまり
__この事件の先になにも見えないということ、ではないか。
「夕陽、教えてください。」
『ん?どうしたの?』
去り際の夕陽に、マイク越しに問いかける。向こうからこちらは見えていないが、彼女は覚束ない足取りでカメラを探し、顔を上げた。
見慣れた彼女の_夕陽の顔。
どんなLでもいいと言ってくれた。
いつでも隣にいてくれると言ってくれた、私を守ると言ってきかない不思議な少女。
花のような、星のような、いや、広く抜けるような空か。
彼女の顔を見ると安心する。
カメラとスピーカーとモニター越し、隣には夜神月が居たが、この瞬間は二人だけで話しているような錯覚に陥りそうだった。
__未来はありますか?
__貴方は、いなくなったりしませんよね?
そんな問いかけを胸の奥に抱え口を開く。
「私のことが、まだ好きですか?」
__全く違う言葉を投げかけてしまった。
モニターごしにカメラを見上げる夕陽の表情が柔らかくなり、
『はい。』
綺麗な笑顔を作った。
『何があっても、どこにいても大好きです。』
視線の交わらないモニター越しの会話は、まるで世界を隔てているようだった。それでも彼女は胸に手を当て、語るように言った。
『出会えたこと、本当に、私は、幸せに思います。』
最後の一言を前に、その表情は悲しく、しかし儚げに歪んだ。その顔は、泣き笑いと言うのだろうか。
『それくらい、本当にずっと、愛しています。』
夕陽は言い切ると、受話器を置き、ひとつお辞儀をすると、はじける様に部屋を走って出て言ってしまった。
私は返事すらする間もなく、また静かな部屋とモニターの灯りの空間に取り残されてしまった。
「夕陽……。」
その名前が宙を漂う。
この事件が終わったら、手錠が外れたら真っ先に……。
「私には、貴方が居ます」__と。そう言いたい。
「私には何もない」、今ならその言葉を取り消そう。
「これからも貴方が居てくれれば、もっと強くなれる」と、そう、ただ伝えたい。
彼女を不安にさせることをたくさん言ってしまった。
それでも隣にいてくれたことに、「ありがとう」と伝えたい。
__Guardian 五章完結
次章、終章