第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「残される者、愛する者……幸い、私にはなにもありません。命を懸けるのは、私のように……何もない者だけで十分なんです。」
__あれから約、一年。
状況は変わった。
私も竜崎も、変わった。
でも、その約束は変わらない。そして、残されるものに課せられる悲しみも、変わらない。
「……それでも今まで残ってくれた皆さんのその気持ちだけで__」
今、まさに捜査員は竜崎に試されているところだった。
「私は一人でもやっていけます。」
一番大切なものは何か。
愛する者か、それを犠牲にできるほどの信念か。
覚えのある台詞に、私はただその横顔を見守った。
精悍に、凛として、迷いのない視線は前を見据える。
だけれど、その座り姿がいつもより小さく見えるのはどうしてだろう?
「そして……必ず警察に……キラの首を土産に皆さんに会いに行きます。」
ひとしきり竜崎が話し終えると、月君が早速、声を上げた。片手をあげ、手錠を指し示した。
「竜崎、僕が居る限り、一人ということはない。この約束もある。夕陽だっているだろう?」
「そうでした。夜神くんはキラを捕まえるまで行動を共にしてもらいます。夕陽のことを忘れていました。すっかり自分の一部のように考えてしまっていました。」
__えええ。
「………。」
「…………。」
「竜崎、私は当然残るけれど、いいわね?」
「ええ、南空さんも残られますね……しかし皆さんは警察に戻られた方がいい。」
ちょっとした寄り道を挟みつつ、やはり話は警察の方へと戻ってきた。夜神さんは前を見据え「再就職するしかないな」と晴れ晴れと言うと、一歩踏み出したのは松田さんだった。
「決めました!僕も警察やめて局長たちとキラを追います!」
気合を入れるように話し続ける松田さんの言葉に、狼狽えたのは妻子ある相沢さんだった。
秘密はもらさない、開き直って警察へのスパイと考えたらどうかと様々に提案するも、警察はもう信用できないという事で却下となった。
見かねたように夜神さんが相沢さんに手を添えた。
「……相沢、ここでやめても誰も責めはしない。」
「ず、ずるい…ずるいですよ……俺だってここでやりたいです。俺だって本当にいつ死ぬか分からない覚悟でやってきました。」
ずっと抑えていた個人的な感情を露わにし、相沢さんは誰に対してともつかぬ心のうちを吐露する。
「……くそ、なんで警察に努める刑事がキラ追っちゃいけないんだ」
『竜崎』と、スピーカーの奥から聞きなれない声が流れた。
『あなたはこの捜査本部の者に何かあった場合、例えば警察をクビになった場合でも、そのものと家族が一生困らないだけの経済的援助をすることを最初に私に約束させた。なぜそのことを言って差し上げないのですか?』
部屋中に響く音量で、ワタリさんがスピーカーを通して声を上げる。
「余計なことを言うなワタリ」
『あ、はいすみません……聞いていられず、つい……。』
申し訳なさそうに言う姿が目に浮かぶようだった。ワタリさんは、本当に、聞いていられなかったんだ。
「竜崎」
沈黙を破り、冷めた声が響いた。相沢さんのものだった。私は、竜崎のように膝を抱えた。推理力アップの為ではなく、竜崎との約束を守るためだった。口を開かない。声を出さない。ただ、竜崎を信じていた。
「俺が警察をやめて一緒にやるかどうか見てたのか?」
その場の誰もが指摘しえなかったことを、避けていた言葉を、相沢さんは問いかけの形で問い詰めた。その後気の強さは、ほぼ確信していると言ってもいい。彼の様子に、慌てて駆け寄ったのは夜神さんと松田さんだった。
「ち、違うぞ相沢。竜崎はそういうことを自分で言うのが嫌いなだけだ」
「そ、そうですよ。竜崎ってそういう偏屈なところあるのはもう分かってる事じゃないですか。ね、夕陽ちゃんもそう思うでしょ?」
「……私は……。」
黙ることを決め込んでいたところで呼ばれ、私はとっさに言葉に詰まってしまう。
「…………。」
「……夕陽ちゃん……。」
二人は相沢さんの家族の心配をしているし、無理に引き留めようとしている訳でもない。きっと竜崎と相沢さんのすれ違いを見たくないという良心に突き動かされているのだろう。でも私は、「そうだね」と軽く笑う事もしたくなかった。
「いいえ。試してました。……どっちを取るか見てました。」
言葉を無くす私の横で、竜崎が私達には目もくれず、モニターに視線をおいたまま言い放った。
「………。」
「……。」
二人の必死のフォローもむなしく、室内には静寂が訪れる。
何かを取り落としてしまったような、もう決して取り消せず、取り返しも付かない事実が無機質な空気となって捜査本部を漂っていた。
おそらくそれは、Lという人物への、失望。
____これがLなんです。
あぁ、そういえば、竜崎はミサが監禁された時、そんなことを言っていた。
竜崎はたしかに恐れていた。あの日。
言葉もなく突然抱きしめて、
「私と一緒にいるのが嫌になりましたか?」と震えていた。
____竜崎は全然平気なんかじゃない。
___それでも守り通すのは、自分の正義。
その失望や誤解があまりに苦くて、私はさすがに何か言いたい、と竜崎の横顔を見る。しかし、気付いているはずなのに彼はモニターから視線を離そうとしなかった。まるで「これでいいんです」と強く指示を出しているようだった。背後で相沢さんが一歩、二歩、と体の向きを変えた。竜崎に背を向けたのだった。
「……っ分かった。俺はここを辞めて警察に戻る。俺は局長たちのようにすぐ決断できなかったし、警察に戻るほうに傾いていた。」
「お、おい相沢……。」
すべてを清算するように言い放つ相沢さんに、夜神さんが再び駆け寄る。松田さんも口を開きかけたところで、空間を割くようにかつかつとヒールを鳴らして割って入った者がいた。南空ナオミだった。
「……相沢さん。私が口を挟むべき場面ではないことは分かっていますが、ひとつ聞かせてください。」
ナオミさんは焦点を合わせるように、相沢さんと正対し、凛とした二つの目を細めた。
「……貴方、竜崎の考えが、本当は分かっているんでしょう?」
その問いかけに、相沢さんの立ち姿がぐらりと揺れた様に見えた。
ナオミさんはキラを追う立場でありながら、同時に愛する者をキラに殺された、「残された者」でもある。その心を持つナオミさんは、竜崎の考えを察したのかもしれない。
彼女は迷いを見せる相沢さんに対して包み隠さず牙を剥いた。
「……私は、竜崎に助けてもらいました。竜崎がいなければ……もしかしたら、私は死んでいたのかもしれません。」
__バスジャックの証言のときの……!
私がナオミさんに声を掛け、竜崎のもとに連れてきた際に、キラによる「証拠隠し」から逃れる策を竜崎は提案した。その際竜崎は、近道の解決よりも、目の前の勇気ある証人の命を守ることを優先していたのだ。
「……分かってるよ、竜崎がそういうやつってことは。……あぁ、分かるよ!お前が何を言いたいかくらい。」
相沢さんは開き直ったように声を荒げた。お前、と言い、相沢さんは竜崎に視線を投げた。
「さくらテレビに行こうとした俺たちを、一番必死に止めようとしたのは竜崎だ!……あぁ、わかるよ!……どうせ、家族が悲しむから、とかいう理由なんだろ?」
「……。」
言い当てられてもなお、竜崎はモニターに視線を向け、無言を貫いた。凛として相沢さんに詰め寄っていたナオミさんも、一歩引いて相沢さんの言葉に耳を傾けていた。
「だったら何故、そうと言わない?」
__「だったらどうして心配だ、と言わないんですか?誤解されそうじゃないですか。」
「そもそも試す必要ないだろ?……信用してないのか?」
__「私が「家族が死ぬほど悲しみますよ」と言ったところで、皆、冗談だと思うでしょうから。」
「それでも「私は一人でいい」って、これだけ一緒に捜査しておいて、少しも歩み寄る気はないのか?」
____「誤解されるくらいでいいんです。命は、私がどんな人間かより、ずっと大事ですから。」
あの日の会話が、今日という日を待っていたように綺麗に重なっていく。心の中で言葉を紡ぐことができないほどに、胸が苦しかった。
___「………そんなのって、竜崎ばかり嫌われていくよ………。」
「そういうところが、竜崎が……そのやり方が、俺は嫌いだ。」
___「それが普通です。夕陽。」
「それが普通です。相沢さん。」
捜査を円滑に進めるためには、当然、不和などない方がいいに決まっている。誤解は無いに越したほうがいい。
それでも誤解を解かないのは、そうできないからだ。それならば、誤解されたままでも、確実な方法で。それが竜崎だった。……でも、相沢さんはそれでも歩み寄ってほしかったのだろう。
「……っとにかく俺は辞める。」
再びドアに歩き出した相沢さんを、ずっと黙っていた宇生田さんが呼び止めた。
「……相沢。」
いつもは威勢のいい宇生田さんが、険しい顔をしていた。目の前の相沢さんにだけ聞こえればいいように、小さな声で話し始める。しかし、皆の注目が集められていた。
「お前、さくらテレビで第二のキラがビデオ流した時、真っ先に俺を止めてくれたよな。……俺は、お前に命を救われたと思ってるんだ。」
相沢さんの肩を、宇生田さんが叩いた。
「……お前はそういうやつだ。竜崎と同じだ、そう悪く言うな。……事件は俺が引き継ぐ。あとは任せろ。」
__宇生田さん。
起きるはずだった彼の死は、私の視点からはナオミさんのバイクでの突入で防がれたものだったけれど、相沢さんがドアの前で制止しなければ、起きうることでもあった。
宇生田さんにとっては、相沢さんが命の恩人だった。
「……あぁ、頼んだ。宇生田。」
「私も相沢さんみたいな人は好きです、宇生田さん。」
遠くへ放り投げるように竜崎が言った。口調はあくまでも平坦だった。
「こ、こういうことを白々しく言うところがまたどうしようもなく嫌いなんだ!俺はここを辞める!」
「お疲れさまでした。」
歩を速める相沢さんに、はっと気づいて私は椅子を飛び降りて後を追った。入り口のところでどうにか引き留め、「相沢さん!」と声を掛けた。息が上がった。
「夕陽……お前までなにか言いたげな顔をするのはやめろよな。」
「いえ。これを。相沢さんの一番大切な人に、と思って。」
私は黄色い、リボンのついた棒キャンディを手のひらにのせて相沢さんに見せた。娘さんに渡してくれたら、と思った。竜崎の約束を守りつつ自分ができることは、こうしてお菓子を用意することくらいだった。
「……ありがとう。」
「事件を終わらせて、相沢さんに必ず会いに行きます。竜崎も。」
こっそりと囁くと、相沢さんはことのほか優しい表情で小さく頷いた。そして肩で風を切りながら勢いよく身体の向きを変えると、足跡を響かせ無言で自動ドアを後にした。
ふぅ、と息をつきながら振り返ると、椅子の背もたれにへばりつくようにこちらを睨む竜崎が居た。
「夕陽、相沢さんに何渡してたんですか?監視カメラからバレバレです。私にもください。」
「……はい!あれ、いっぱいあるから待ってて!」
背後で数人が「竜崎!」と咎める声を聴きながら、私はキャンディをとりに捜査本部を後にする。
物語には存在しなかったナオミさんが、宇生田さんが声を上げてくれたことに少しだけ嬉しかったのは内緒だ。それでも孤独を感じさせる竜崎の様子が気がかりだったけれど、ひとまずはキャンディを大量にプレゼントしよう。杞憂を吹き飛ばしたくて、私は小走りになって走った。
相沢さんに渡したキャンディのようにリボンはかけられないけれど、喜んでくれるといいな、と思った。