第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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2004年10月2日
__警察はキラ事件に関与しない。
その方針変更によって強要されたのは、Lと捜査を続けるか、警察としての身分を失うか、という残酷な二択だった。
「覚悟を決めたものは、私と一緒に警察庁に、辞表を出しに行くんだ。」
選択を迫られた捜査員が立ち尽くす背後で、私は竜崎の隣で静かに座っていた。知っている未来を前に、去ろうと決めるものを止めることは出来たかもしれない。
「もう警察を辞めなければ本気でキラを追う事はできない。」
夜神さんの声に続き、戸惑いが捜査員の間を駆け巡る。
「……私は、」
各々の考えがそれぞれ議論となるより早く、椅子の上で小さく座る竜崎が、ぽつりと声を上げた。皆の意識はその声の小ささに反比例するように、一斉にもたげられた。
「皆さんは警察に戻るべきだと思います」
__迷う隙も与えずに、述べられた、それが竜崎の考え。
この状況がやってくることは、遅かれ早かれ必ず来るものだと、竜崎は知っていた。それは、警察と合流すると決めた直後、あるいは合流するとという選択肢と同時に飲み込むべき未来だったのかもしれない。「私は初めてLとして人前に出る」と、そう決めた時から、ずっとそこにあったのだろう。
皆の注目の中で、右を見れば、いままさに竜崎が口を開く。
これからどんなにその言葉が誤解を招こうとも、擦れ違おうとも、私は声を出してはいけない。この現実を、私は受け入れなければならない。私は、竜崎のように膝を抱えた。推理の為ではなく、竜崎との約束を守るためだった。
「もともと私は一人でしたし、警察のほとんどの者がキラに殺されたくないから私には協力できないとすぐ背を向けた。」
話し始める竜崎の姿に、あの日の竜崎の姿が重なって、フラッシュバックする。
まだ私が竜崎と出会って間もないころ、二人の距離感は今とは随分と違っていた。危険だから来るなと言う竜崎に対して、がむしゃらに捜査本部に合流したいと駄々をこね、泣きはらした直後の話だった。
Guardian -第五章-
◆命の価値
__2003年12月末
私が強く希望して捜査本部に合流することを許してもらった直後、今まさに警察と合流するためにホテルを移るという移動途中のことだった。
__「夕陽、話があります。」
ワタリさんが運転するリムジンの中で、小さな声が深夜の高速道路の静寂を破った。小さな声は、ゆっくりと明瞭で、「聞こえなかった」と聞き返す余地もなかった。私は車の揺れで眠りかけていた意識を引き戻し、慎重に竜崎のほうを見た。
「はい。」
その時はまだ半分以上竜崎を怖がっていたので、「どうしたんですか」とも「なんですか」ともいう余裕がなかった。意識にあったのは、これからされるのはどんな話で、彼はどんな表情をしているのだろう、という不安や警戒に近い気持ちだった。
しかし、まず告げられたのは全くそれとは温度の違う言葉だった。
「私は一人でもやっていけます。」
出だしはそんな孤独な一文からだった。
きっと言葉にできない驚きは、顔に出ていただろう。私は「あの……」くらいは返答した気もする。反応に困る私を置いて、竜崎は続けた。
「ですが、普通はそうではありません。皆、事件の外に生活があり、愛する者がいます。」
普通は一人ではない。と竜崎はあくまでぼんやりとした口調でもう一度言った。
「普通」と「皆」、私はそれらの単語が、捜査に命を懸けると言った、あるいは懸けないと言った捜査員たちのことを指しているのかと思い、「はい。」と頷いた。
しかし、私の思考を呼んだように、予想を裏切る形で竜崎は切り出した。
「警察官だけでなく、犯罪者だってそうです。」
「犯罪者?」
繰り返すと、竜崎はシートに上げた足をずらすようにして、私の方に体の向きを変えた。
「私が解決した事件数を知ってますか?検挙人数を知っていますか?」
突然、数字の話が出てきた。私がその話を聞くのはナオミさんと話してからだったので、その場では気まずく頭を振った。
竜崎は指を咥えて、「3000件……、人数はおそらく……」と呟く。3000、という数に圧倒されていると、ふと計算を取りやめたように目を上げ、私を見ながら大きく見開いた。その急な変化にも私はびくっとする。
「数はどうでもいいことなんです。多すぎますし……。重要なのは……残されたものの人数の方が圧倒的に多い事なんです。」
「……残されたもの。」
言葉の中でも、私は特に強調された部分を復唱した。物?者?それとも概念的な話?その意味するところは一体……?
「あるいは、残されるかもしれない者でもあります。どんな事件の当事者にも愛する者はいて、彼らは外から眺めるか家で待っていることしか出来ません。事件を知らないかもしれません。」
「……。」
「たとえば殺人事件があったとします。被害者が一人とします。被害者の家族、犯人の家族、警察官が殉職した場合、警察官の家族も……皆、残されるんです。」
「……。」
家族や愛、という言葉に、まず「意外だ」と思ってしまった自分に情けなさを覚えた。それは一種の偏見のようで、気まずさや罪悪感も一緒になって追いかけてきた。そんな私の戸惑いは相当顔に現れていたのか、無言の私に、竜崎は話を区切った。
「……らしくないと思いますか?」
「い、いえ……。」
否定しきれず、それでもひらひらと曖昧に手を振る私に、竜崎は不可解にもうっすらと口角を上げた。
「分かりやすく目が泳いでいますね。私が事件を解くのは趣味ですし、家族というものも実感としては知りませんから当然です。」
咎めるのでもなく、怒るのでもなく、事実と論理でがっちり覆われたその台詞には、まるっきり立ち入る隙がなかった。変な奴だ、と一蹴する人間にとっては、きっと隙すらもないだろう。飄々とした奴だ、とジョークに捉えられるしれない。
「………。」
なんとなく、その様子が間違っているような違和感を覚えつつも、当時の私は、不確かな気遣いと怯みが入り混じってしまい、返す言葉がなかった。
「ですがこの話は大事なことなのでしっかりと心に留めておいてください。」
竜崎は、咥えていた指を離し、両手で膝を抱えた。動作の途中伏せられていた大きな目は、ゆっくりと私を見た。
私は泳いでいるかもしれない目をできるだけ彼に合わせ、次の言葉を待った。
「事件の外にいる者には……彼らには言葉がありません。そこには意志も思想も選択もなく、当然、正義も悪もありません。ただ、気が付いたら取り残されているものなのです。」
真に迫るように響く声に、心が締め付けられた。
__それは竜崎のことでもあるのですか?
決して口に出すことは出来ない、そんな余計な思考をかき消すように、私はただ足元に目を落とした。彼は続けた。
「今まさに危険にさらされようとしている命は、助けることができます。ですがそれも、事件の中にいてこそです。外部の彼らには__無力な彼らには、何もできません。」
何故だか、その話は竜崎の深いところに根差しているような気がしながら、私は彼の鋭い視線の先を見ていた。見ているのは過去の事件だろうか。3000件と言ったか、たとえ対面でなくとも数字やデータで知るだけだとしても、それは十分すぎる。
それは「目の前の命が失われることを許さない」というその正義とも繋がっているように思えたけれど、詮索するのが怖かった。
「ですが加害者、被害者、そして捜査にあたる者……当事者はいつも気付いていません。「命を懸ける」と言っても、気付いていません。残されたものの悲しみは__死と同等だと。」
「死と同等……」
「自分が死ぬのと同じくらいという意味です。……分かりづらければいくつか具体的な事件の話をしても結構ですが、聞きたいですか?」
「い、いえ!それは、結構というか、その……!」
しどろもどろになる私にを安心させようとしてか、微かに口の端をあげ、竜崎は「約束してください」とこちらを覗き込んだ。
「今後、キラ事件に合流する捜査員には警察を離脱する可能性や、殉職するという可能性が残念ながらあります。」
「……はい。」
途方もない過去や世界の話から、急に現実へ、キラ事件へと焦点が合わされた。初めから、話しの要点はキラ事件にあって、今までの話は、さんざん感情的に「行かないで」と泣いてしまった私を納得させるための話だったのかもしれない。
「ワタリにはもしもの場合の、捜査員への経済的援助を約束させましたが、そのことは言わないでください。少しでも家族や愛する者を気に掛けるようなら__彼らは去るべきです。彼らが命を失えば、残されるものは死に匹敵する悲しみを覚えるのです。「お金があれさえすれば自分は死んでも大丈夫」、などとは私の前では絶対に言わせません。」
未来を知っていた私は、その場ですぐにどの未来のことを指しているのかを自分の中で紐づけることができた。随分と先の話になるなぁ、とぼんやり思いながら、その強い決意に、私は「はい。」と約束したのだった。
「約束ですよ。命は、お金で買えません。」
急に、気の抜けた声を出しながら、竜崎は話を締めくくった。しかし、あくまでどうでもいい蛇足のように、補足として指を咥えながら最後に付け足した。
「残される者、愛する者……幸い、私にはなにもありません。命を懸けるのは、私のように……何もない者だけで十分なんです。あるいは、愛する者を殺すのと同じくらいの意地があるか。」