第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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2004年 10月1日
『竜崎、ちょっと来てくれ』
夜神月の声で、おもちゃのカートのように椅子を乗り遊んでいた世界の名探偵、Lが振り返る。
『これ、見てみろよ』
画面を覗き込むその視線の先を、けだるそうな視線が追いかける。二カ月間そうであったように、成果をまるで期待しないようなその緩慢な動きは、いくつかのグラフと数値を確認し、初めて目の前の現実に思考の焦点を合わせ始めた。
『偏ってるだろ?それに、こっちは急成長だ。」
偏る名簿、一本だけ右上がりの折れ線グラフ。
目の色を変えた黒髪の探偵の様子に手ごたえを感じ、夜神月は確認するように彼の肩を掴む。Lは、とっくに見終えた数値と文字列を、今度は複雑な順序で再度追い、繋ぎ合わせ、次の段階へと思考を進めているように見えた。
「や……夜神君……」
夜神月に対する呼称は、名探偵の気まぐれで変わる。このタイミングでは、夜神君に定められたようだった。
「どうだ?少しはやる気が出たか?」
Lは指を咥え、夜神月の肩越に食い入るようにモニターを覗き込む。
捜査の進展がゆったりと停滞していた二カ月間ののち、ヨツバグループの存在が指摘された瞬間だった。
Guardian 第五章
◆あと一か月
「…………。」
“ケケッ何、難しい顔してんだよ夕陽”
「………ううん、なんでもない。」
パソコン画面に開かれたウィンドウ上で繰り広げられる、自分の知っている通りの会話に私は耳を傾けていた。
ホテルでの生活を終えてなお、私は捜査本部のメイン一室の音声と映像を自室のパソコンから覗き見ることができる。それはお茶を用意するタイミングを把握するのにも役立っていたし、一人で考えたいときにも役立っていた。
「ただ……」なんでもない、と言うも、煮え切らない気持ちをリンゴ好きの死神に打ち明けた。
「……あの二人は息も会うし、当たり前だけど、うまくやっていけるんだなって……。」
__私が居なくとも。
もともとが私の居ない世界での話なのだから、仕方がない。……仕方がないなんて言い方も、私のわがままだ。だから、それは、「当たりまえ」
世界は回る。
物語は進んでいく。
私が居なくても。
__あと一か月。
もしも残された時間があと一か月だとすると、何かやり残したことは無いか。
私はLの守護者だ。
けれども最近は、私は、レムが言うように、「まるで神の視点で」、皆の運命を変えようとしている。分かっていた。自覚があった。
皆の幸せを望んで意図して行動していた。
それは正しい事か?自分のやるべきことか?こんな時、竜崎や月君はどうする?空はどうする?
「はぁ……ここまできて、なにうじうじしてるんだろう……。」
弱音はらしくない、と心のどこかで誰かが叫んでいたが、敢えて吐き出すようにして口に出して言ってみた。その方がすっきりするかもしれない。
モニターの向こうではヨツバグループに着目した経緯を月君が解説していた。全世界の警察や諜報機関にアクセスできる”ものすごいパソコン”から、日本にキラがいると仮定、報道数、死亡数の照らし合わせ、全心臓麻痺死亡者から大企業の重役の不自然な死を発見……途方もない話だった。
目を休ませるようにパソコンから目を離すと、がぱっと口を開いたリュークがきょとんとこちらを見返した。ぎょっとして一歩後ろに下がる。
“うじうじ?……よくわからないが、あの二人は「やっていける」?いや、やっていけないだろ。ライトは、あのLのこと、殺そうとしてるだろ?”
何言ってんだ?と続けて言う。私は、その問いかけにさえ返答に詰まる思いがした。二人はきっとそういう運命からは逃れる、それは私がこの後どうにかする、問題はそういう事じゃなくて……
「いや、そうだけど、今は別に出る幕じゃなさそうというか……」
__もう余計なことをしない方がいいと思って。
と、続けようとした時だった。
モニターの向こうから、竜崎でも月君でもない、第三の声が聞こえてきた。
『これ、僕も結構手伝ったんですよ!』
松田さんだ。
月君はヨツバグループの推理を説明するのに必死で目もくれないが、必死に竜崎に自分が頑張ったことを伝えようとしている。竜崎も、きっかけと結論を述べたのが月君なので、松田さんには意識が向いていない様だった。
『これは僕も頑張りました。』
物語では、まるで「そういう人」だから、とそれでいいように見えていたけれど……でも、こうしてみていると……
“お?お?何するんだ?”
内線を手に取った私に、煽るようにリュークが声を上げる。
私はメインルームの番号を打った。モニターの向こうでは会話の区切りで月君が受話器を取り上げ、発信元を確認してモニターを切り替えた。パソコン上では別画面でこちらを見る月君が映し出された。
私は助走のように、すうっと息を吸った。
「……月君すごい!」
できるだけ大きな声を上げて、モニターを見た。捜査本部ではパソコンの小さなカメラが私を映しているはずだった。
『夕陽?いきなりどうしたんだ?』
「部屋で聞いてたら思わずびっくりしちゃって……一人で全部推理したの?」
先の松田さんの主張についてはあくまで聞こえていなかったのように振舞った。月君は画面上で少し体を横に寄せると、背後に立っていた松田さんをカメラに映し出した。松田さんが自分の顔を指さし、「僕?」みたいな顔をしている。
『いや……松田さんにも手伝ってもらったんだ。』
「そうなんだ!松田さんのおかげでもあるんですね!私、密かにすごいと思ってたんです!」
熱を入れて説明すると、画面の向こうで月君が松田さんを見やった。
『あぁ、そうだな。松田さんはマネージャーの仕事の傍ら、よく僕を手伝ってくれるんだ。』
月君の評価を受けて、小さく映り込んだ松田さんはこちらのカメラに手を振ると、気合を入れるように両手でガッツポーズを見せてくれた。
「あはは、今後の活躍に期待して、私からもあとで差し入れさせてくださいね!」
今後の松田さんの活躍__ヨツバグループへの潜入__に、心の底から期待しながら、私はにこりとした。
竜崎たちにとっては苦労の種かもしれないけれど、成果は上がるうえにミサの面接にもつながるし、松田さんには本当に期待しています。
月君に替わって、松田さんが会話に加わった。
『ありがとう夕陽ちゃん。本当にすごいのは月君や竜崎だけどさ、僕も頑張るよ!』
月君と松田さんと、私と、にこにこと和やかなムードが内線を通じて流れるなか、唐突にカメラの死角から竜崎がぬっと顔を出した。
__怖い!
小さなウィンドウに映るものが、竜崎の隈深い黒い目だけになってしまった。
『夕陽、貴方は私のスイーツ係ですので私優先です。』
「はっ、はいはーい!……あっ」
がちゃん、と勢いで受話器を取り落とす。
あまりにびっくりして、元気な返事をするだけのつもりが通話まで終了してしまった……。
……まぁいっか。
“なんだったんだ今の?”
自分でやっておきながら、嵐をやり過ごしたように脱力していると、リュークがまた目をきょとんと見開いた。私はちらりと見返し、枕の山にダイブした。ぼすんと沈む布たちは、ひんやりと冷たかった。
「松田さんのフォロー……のつもり。」
自分の行動の速さには自分でもびっくりだった。少し頭を落ち着かせなければならない。リュークは右に傾けていた頭を、今度は左にぐるんと傾けた。
“フォロー?さっきまで出る幕ないとか言ってなかったか?あの刑事のフォローがどうしてもケーカクとやらに必要なのか?”
そんな的確で冷静な指摘を、あくまでぽかんと口を開けて述べるリュークだった。
「あはは……ううん。ただ見てられなくなっちゃっただけだよ。」
私は苦笑しながらリンゴを投げた。
「……どうにかできるかもしれないのに見ているだけって、やっぱり難しいや。」
しゃくしゃくとリンゴをかみ砕くリュークは、いかにも理解があるという風に「ほうほう」と数回頷いた。私はなんのことだろう、と見返す。
“夕陽はやっぱりライトと同じだ。世界を今より良くしようとかそういう事考えちゃうやつ。面白いよな、クク”
「世界を良くしようと……」
“あぁ、どうしてだろうなぁ?世界なんて、勘違いだと思うんだけどなぁ?誰にも世界なんて見えやしねぇ。死神だって、誰かを見下ろすことしかできねーのになぁ。ケケケッ”
確かに、世界なんて言葉は途方もなくて、見えている人なんかいない。私だって、ごく数人の運命を知っているだけだ。
だから、本当に見ているのは世界じゃなく、特定の誰か。大切な誰かか、大切な自分かもしれない。それはモノかもしれない。
世界と言うのは、その人が生きる世界、その人の未来のことだ。
「それは、私も、月君も、大事な人が…」
__無意識に口にして、気付いた。
散々リュークの言っていた「夕陽はライトと似ている」という言葉の意味。リュークがそこまで意識しているとは到底思えないけれど、今、自分の中で綺麗につながった。
私達は、「大切な人が生きる世界を良くしたい」、そんな理想を描いている。
月君は、きっと粧裕ちゃんだ。今はいくらか違うかもしれないけれど、物語の中の月君はそうだったらしい。
私は竜崎の命を助けたくて、彼が生きていくかもしれない、これからの幸せを理想に見ているんだ。
以前は「キラと似ているなんて心外」なんて毎回リュークの言葉に腹を立てたこともあったけれど、今なら__夜神月とも、それなりの時間を過ごした今なら、分かる。
「まさかリュークに気づかされるとは思わなかったよ」
”その口振りはすごくライトっぽいけどな。”
「……それはたまたま。」
大切な人のために世界を良くしたい。それは、キラにまでなった夜神月をも突き動かした大きな願い。願いには正しいも間違いもない。
あと一か月。
そのタイムリミットが本当だとしたら、限られた時間で何を成し遂げたい?竜崎を助ける計画の実行だけでなく、何かを遺せるとしたら?
「私は、知らなくちゃいけなかったんだ。」
迷わないために、私は、自分の願いをもう一度自分で知るべきだ。
あと一か月しかない。
その前に幸せを見届けさせてほしい。
願わくは、自分がそこに加われますように。
それがだめでも、竜崎が「私には何もない」なんて言わなくてよい日々を願おう。
布団に埋まったまま目を閉じると、いつかの竜崎の姿が浮かんだ。
__「私には何もありません」
事件を解決する名探偵のLとしてではなく、一人の人間として語っていた姿。遠くて高くて、とても届きそうになかったその先は、とても眩しくて、あるいは、寄せ付けない闇のようで、知らないままでいいのかと思っていたけれど。
そろそろ手を伸ばして、私は知らなければいけないのかもしれない。紐解く時が来たということだろう。きっと嘘つきおばけを自称する竜崎のことを知るのは、とても大変だ。
「でもまぁ、思うようにやってやるさ。」
なんとなく、昔の口調らしきものが出たところで、リュークが愉快そうに笑い声を響かせた。