第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第五章-
◆海砂
竜崎と月君のチェスによって導き出された捜査方針で、捜査本部は当面、現在のキラの捜査に集中することになった。それは物語と同じ展開だと言える。
現在はまだ8月、ヨツバグループの不自然な成長に月君が気づくのは、10月1日だったはずだ。
捜査上、しばらくは進展はなく、私としても、当面、やるべきことはリュークにリンゴをあげて、たまに遊びに来るレムと話をするくらいだった。説得にもまだ猶予がある。
でも時間はカウントダウンのようで、自分はもう長くこの日々を過ごせないんじゃないかという予感があった。
7月の終わりに見た、透間 空の意識に入り込む夢はあれから定期的に繰り返され、この世界で皆と過ごす私にタイムリミットを思い出させるようだった。
空が生きてると考えれば、嬉しい気持ちになる。でも、怖くもあった。
忘れたころにやってくる白い病室の夢は、時刻を告げる鐘みたいで、竜崎だったらひょっとしてこんな時、「鐘の音が聞こえる」と言ったかもしれない。
Lを守るという願いでこの世界にいる私の時間は、続いたとしてあと三か月……。
何かが変わるだけなのか、それとも終わってしまうのか。
皆の前では精一杯笑って励ましていこうと思っている。でも今夜は、ふと力を抜けるように寂しい気分になって、私は竜崎の真似をして夜中に一人で外に出た。ふらっとリュークが現れるかもしれなかったけれど、死神ならまぁいいや。
まだ夏なので、パジャマ一枚で寝ころんだところで、ヘリポートは寒くなかった。大きく広がって夜空を仰ぎ見ると、東京の空でも夏の大三角形くらいはちゃんと見える。耳いっぱいに風の音がして、頭が空っぽになっていく。記憶を無くす前もこうして空が好きだったのだろうか、翼があって飛べたりしたのだろうか。
「夕陽ちゃん!」
風の音に紛れるようにして、名前を呼ばれたようで、頭だけをごろんと声の方へ向けた。長いワンピース……ネグリジェというのだっけ、に、ピンク色のブランケットを羽織った、黄色い頭が見えた。顔は見えないけれど、それはミサだった。私は慌てて立ち上がった。
「み、ミサ!何してるの?寝てなくて大丈夫?」
ミサは夏風邪を引いて熱を出していた。だいぶ良くなったとはいえ、ドクターストップで撮影をキャンセルするほどだった。
「部屋ばっかりじゃつまんないもん!竜崎さんに夕陽ちゃんが外に出たって聞いて、開けてもらったの。」
慌てて駆け寄ると、頬を膨らませる。確かに顔色はそう悪くないし、ブランケットも羽織っているいし、そんなに心配しなくても大丈夫なのだろうか。それにしても、こっそり来たはずなのに、私の行動、竜崎に把握されてるのか、と苦笑した。
「……夕陽ちゃん、私、わからない。」
唐突に切り出すと、すとんと、長居を決め込んだように隣にミサが座り込んだ。
「わからない?」
不思議に思いつつも、私も同じように隣に座ってみた。夜中にわざわざ私を探しに来たことも、ミサが自分のことを名前じゃなく「私」と呼ぶことも、よっぽどのことだろうと思った。
「私、ライトのことが好き。これ以上ないくらい。でも、いきなり無かったことになっちゃって……辛いよ。どうしてかも分からないのに。……どうしたらいいか分からない。」
「ミサ……」
__「初めまして!弥海砂です!よろしくね、夜神月君」
月君に「好きなら今の僕を見て言ってくれ」と言われて、あんなにも切り替えはやく元気に振舞っていたのに、あれは相当、無理していたということだろうか。
私の考えは顔に出ていたようで、ミサは両手を広げながら「だってミサは主演決定女優だよ!?」と弾けるような笑顔を作った。
つまりは演技という事で……。私が言葉を飲み込むと、ミサは笑顔を取り消してブランケットにくるまった。
「どうしてかライトを知ってて、どうしてか好きだった。」
__どうしてか知ってて。どうしてか好きで。
その感覚には覚えがある。
どうして、という気持ちが浮かぶときは、疑問よりも「だれか教えて」と助けを求める願いに近い。記憶を無くすことは一人になることで、翻弄されることだ。
「……いつもそう。知らない間に、全部終わってる。知らないところで、全部終わってて、ミサは知らされるだけ。……家族の時もそう。家に帰ったら全部が終わってた。犯人の釈放も、決まってから知らされた。」
「家族の時も……。」
あまりに痛い事実に、私は繰り返すことしかできなかった。ミサの目はひたすらに空虚で、淡々と夜を見つめていた。でも、「私」と「ミサ」の入り混じる言葉には、どうにか伝えようとする意志があるようだった。
「知ってるでしょ?有名だもんね。弥海砂は家族を殺された。本当のことだもん。気にしないで。」
家族という感覚のない自分と比べることができない。
でも、例えばそれが竜崎だったら、そんな風に「本当のことだから気にしないで」なんて言えるのだろうか。
初めてミサを見た日に感じた、冷たく暗い、先の見えない夜道のような静けさがそこにあった。
「いっつも全部終わってる。私は何も言えない。ただ、知るだけ。置いてけぼりだよ。ミサは空っぽ。……でも、そんな空っぽのここに……どうしてかライトは、私のここにいたんだよ。すごく好きって思える人が、いたの。」
ミサは私に詰め寄るようにして「ここ」といって自分の胸のあたりの布をくしゃっと握った。それを見ていたら耐え切れなくなて、私はミサを抱き寄せた。
「それがなくなるくらいなら……!私は、キラでもなんでもいい。竜崎さんの推理が本当なら、私は第二のキラで、ライトを助けてたんだよね?最高じゃない!……いっそのこと思い出して、ちゃんと好きだった頃に戻りたい…!!」
絞り出しても届かなかった救いの声に、手を差し伸べてくれたのがキラという存在だったように。
ミサにとっての月君は自分の意志ではっきり好きといえる存在、空っぽじゃなく心を感じられる存在。それを失いかけて、ゼロから組み立てようというのは、確かに残酷な話だった。
「ごめんねミサ……全然、気付かなかった。そんなの、辛いよね。」
知らないところですべてが終わっている。
ミサにとって「それ」は、一体何度目なのだろう。
「それでも誰かを愛そうとする、ミサは……すごく強いね。だから……放っておけないよ。キラとか記憶とか関係なく、ミサを放っておけない。」
____死神のジェラスも、レムも、ミサを放っておくことなんか出来なかった。
「愛する……?違う。何も見えなくなるたびに、そこにいてくれた人の為に生きようって思うだけ。こんな命……パパやママと一緒に本当はもう終わってたはずなの……」
「それでもミサ、誰かのためでもいい。……自分のために誰かを愛して、それで生きて。……お願い。」
何かが終わるたびに彼女の視界は闇にのまれる。
それなのに彼女は立ち止まらず、寿命すら賭して、先へ進むことを願った。
残る道しるべは夜神月という消えそうな光かもしれない。だけれどまた、前を向いてほしい。今度は、命を使わずに。
「……夕陽ちゃん……誰かにそうやって心配されたの、何年ぶりかな。」
ぎゅっと力を込めてから離れると、ミサが私をみて、目を見開いた。きっと私が泣いてしまっていたからだろうと思う。喉の奥がつんとする感覚を我慢しながら、私はできるだけまっすぐミサを見つめた。
「ミサ。これからは、誰もいなくならない。私はずっとミサの友達でいたい。竜崎は……まぁ変態に思えるかもしれないけれど、でも、悲しむ人の居ない世界を作ろうとしてる。月君と一緒。ミサは一人じゃないよ。」
月君と一緒、と言ったところで、ミサの瞳が揺れた。
私はどうにか届いて、という想いでまたミサを抱きしめた。
このままミサが一人悲しく沈んで行ってしまったら、いつかまたその寿命を削ってしまう。レムの命を賭してさえ、その未来は……それだけは、駄目だと思った。ただ、救い出したかった。一時の夢じゃなく、この世界でずっと、生きていてほしい。
「これからは何も、知らないところで終わったりしない。皆、ずっとミサと一緒にいるから……だから、どうしてって言わなくていいように、空っぽにならない様に、一緒に考えよう。一つ一つ、理由を__思い出を皆で、今からでも作っていこう?」
「……どうしてそんなに、優しいことが言えるの?ミサ、わがまま言ってるのに……。」
「わがままじゃないよ。私も記憶喪失だったし……あと優しいのは、優しい人の真似してるだけだし。」
__竜崎の、あるいは月君の、とは言えなかったけれど。
「あはは、なにそれ。」
腕の中でミサが笑う。ようやく笑ってくれた、と胸をなでおろしていると、急に静かになったミサが勢いよく顔を上げた。彼女の髪が目に入って、私はとっさに反り返って涙目になる。
「……!?」
「え、ちょっとまって夕陽ちゃん、記憶喪失だったの!?」
「そ、そうだよ?」
「どうしてそんな大事な事黙ってたの?」
どうしてと言われましても。
そこそこシークレットな情報だし、つい最近までミサは監禁されてたし、そもそもこうやって二人きりで話す機会もなかったし……。
私は涙目になりつつもあははと笑って取り繕った。
「そ、そんなに大事な事かな?まぁたしかに夕陽って名前自体、竜崎にもらったものだし、最初は不審者扱いされて軟禁状態だったし、部屋を出たいときもメールしなきゃ開けてくれなかったし、そのくせ勝手に忍び込んできたし……。」
取り繕うつもりが出てくる出てくる、あの頃の思い出は、懐かしさ半分と呆れ半分で、いくらでも話し続けられそうだった。途中でミサが「はぁ!?」と声をあげて遮った。
「ってことは夕陽ちゃん、いまも記憶ないの?それに、その名前も竜崎さんがって本当?」
「そうだよ。」
やっぱりあはは、と笑うほかない。
「そ、それで、どうやってそんなに仲良くなったの?……お願い!教えて!」
先ほどまでのシリアスなミサはどこへ消えてしまったのか。ぐいぐいと詰め寄る大きな瞳に私はすっかり気圧された。
恋愛話は一通り済ませなかったでしたっけ、と頭の隅で考えながらも、私は元気になったらしいミサに安堵した。
「……えーっと、その教えて、というのは……?」
「もちろん!ライトに好きになってもらいたいってことだよ!ミサは一人じゃない。一緒にいてくれるって今言ったじゃない。だから、友達で元不審者の夕陽ちゃんを参考にしたい!」
__元不審者……。
「どうすればいいかな?一緒にキラを捜査すればいいのかな?」
「……ミサ、月君のほうがキラより大事?」
それは避けては通れない質問だった。いずれ、物語ではそう言うはずだけれど、ここまで心を開いたミサはきっと別だから、私はここにいる彼女にこそ、訊かなければいけなかった。
ミサは迷う間もなく「もちろん!」と言った。
「当たり前じゃない!ミサ、キラ肯定派だけど、もしもライトがキラに邪魔者だって殺されちゃったらって考えると、ライトの方が大事だよ?それに、夕陽ちゃんも、竜崎さんがどうにかなったら悲しむでしょ?」
晴れ晴れと笑顔を浮かべる姿に、ちょっと曲解の気配を感じつつも、これはこれでいいのかもしれないと思った。私は「そっか」と小さく返事をして、ミサの先の質問にどう答えたものかと頭をひねった。
「記憶喪失でゼロからだったけれど……その分、私はたくさんの時間を竜崎と過ごした。昔の自分なんかに負けないくらい、たくさんの時間を一緒に過ごしたかな。」
「うーん、時間かー。でもライトは忙しそうだし、ミサもお仕事があるし、夕陽ちゃんみたいにずっと隣にはいられないかなぁ。」
ミサは至極真面目に、宙を見上げる。一緒に夜空を見上げて、ふと思いついたことを言ってみることにした。
「だったら、支えてあげるとかはどうかな?月君は優しさで自分より他人を優先しちゃって無理するところがあるかもしれないから、それを助ける感じで!」
分かったようなことは言えないけれど、月君にそういうところがあるのは散々見てきたことだ。ミサは要領を得ない様に引き続き指を口元にあてて首を傾げた。
「それってかわいい下着着てお帰りって言ってご飯作ってあげたりとかそういう事?」
__違うと思います!
「……いや、背伸びしないでミサらしくでいいと思うんだ。」
「……ふーん。………あ、なんか分かったかも!」
なんとなく不安になる間をおいてから、ミサはアイドルの本気、真夜中なのに元気いっぱいの笑顔を浮かべた。
「夕陽ちゃんみたいに笑ってればいいのかな。ライト、笑顔に弱いよね!」
笑顔に弱い、という根拠がどこか来ているのかは分からなかったけれど、それは本当に、冗談抜きでいい考えだと思った。
決めポーズのまま、ミサがくしゃみをしたので、私たちは慌てて室内に戻ることにした。
「おい、いい加減寝ろよ二人とも……。」
「夕陽、風邪ひきます。」
「あはは!心配ありがとうライト!……と、竜崎さんも!」
「……??」
「二人ともごめんね、ミサ追いかけなきゃ!おやすみなさい!」
途中で心配して見に来た月君と竜崎とばったり会い、早速ミサは無意味にも「あはは!」と笑うなり、元気に階段を駆け下りてってしまう。呆気にとられる二人を見ながら、手錠で繋がってる訳でもない私はミサを追いかけた。
その日だけは一緒にいようと、私たちは一緒に寝ることにした。
レムが見ていたことに、私は気付かなかった。