第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「__いや、Lの命だ。警察や潔白はどうとでもなる。」
___Lの、命……?
「……っ」
スローモーションのように、手元から角砂糖がぼろぼろと落ちていく。白い立方体たちはガラスの机の上を跳ね、床に落ち、やがて静かになる。もう、手元の皿の中にはなにも残っていない。空っぽだ。
__今のは……胸の奥をすっと通り抜けた氷のような気配は……。
Lの命、そう言い放った月君の声は、まるでキラのようだった。
記憶がない、殺しの方法も分からない、キラはもうここにいないはずなのに、何故?
「……夕陽っ?」
「おい、大丈夫か?どうしたんだ?」
__いや、「何故」なんて疑問がそもそも間違っているのか。
「ノートは人格さえも変える」という筋書きは、私がこれから描く、嘘であり、作り話だ。現実じゃない。
キラはまだ存在する。つかの間の日常が、その事実を忘れさせていた。
竜崎が数少ない手掛かりで事件の全貌をほとんど読み解いているのなら、月君も同じこと。ましてや本人だ。たとえ実感がなくとも、真相にたどり着くのはたやすいことだろう。
ノートが火口のもとにある限り、その秘密は明かされないとはいえ。
__Lを排除し、潔白を証明するという選択肢があると分かってしまったら。
__「そんなこともできる」と、可能性が訪れてしまえば。
__月君は、ノートを初めて使った瞬間のように、「そちら」を選び取ってしまうこともあるのではないだろうか。
「……君の前で話すことじゃなかったな。……気づかずに悪かった。夕陽、立てるか?」
顔をあげると、先程までのひんやりとした空気は気のせいのように消えていた。透き通った瞳を向けながら、月君が手を差し出していた。
「月君、竜崎も……私こそごめん、ちょっと考えすぎちゃったかな。」
肩を竜崎に支えられ、私は身を起こす。いつの間にか、膝までついてしまっていたようだ。私は差し出された手を取りながら、月君に笑いかけた。
「月君……あのさ」
「ん?」
ふと、咄嗟の思い付きで、私は願うように問いかてみることにした。
「月君は、まさか……キラの立場になっても竜崎を……Lを殺そうだなんて、思わないよね?犯罪者を殺して平和な世界を作ろうとするキラは、そんなこと考えないよね?」
それはいつかと同じ質問だった。東応大学のキャンパスの前、桜の下で初めてキラとしての夜神月と交わした会話。月君は、覚えているだろうか。
「夕陽、僕は………。」
あの日の月君は、あっさりと「そうだな、Lは世界に必要だ」と笑い飛ばしてしまった。微笑だけど、お世辞と同じような、心の読めない笑顔。殺意を笑顔でくるんでいた、あの日の夜神月。
__いまの月君は、なんて答える?
しかし、今度は__月君は、決して笑い飛ばさなかった。俯き、静かに口元に手を当てると、「分からない」と言った。
「キラだったなら……僕は、自分こそ正しいと考えてしまうかもしれない……だが僕がいま思うことは……L……竜崎とは一応友達だし、夕陽が悲しむのも見たくない。」
一つ一つ言葉を選ぶ様子は、やっぱりあの時の月君とは違う。それだけで十分だった。無理に笑って、嘘で固めない優しさを見られただけでも、嬉しかった。
「ありがとう、月君。それが聞けて良かった。」
だから、ノートを手にした日の月君と、ここにいる月君が、違う考え方をしてくれたら。
変わるかもしれない。
「……………?」
「月君は、いつでも自分より他人のために笑ったり怒ったりするよね。……初めて会った時、すごく驚いたし、不思議だったんだ。どうしてそんなに優しくできるのか……正義って何?優しさって何?って……。」
思うままに「そのままでいてほしい」という願いを形にしようとすると、不思議と言葉は次々と溢れ出た。二人を困らせていないかと様子を見るも、月君はただこちらを見返すだけだった。竜崎は静かに口元に指を当てていた。
「……世界一の探偵が言ってた。正義では救えない者も、悪でしか救えない者もいる。でも、正義には他の何よりも力があるって……そしてその力は、強さじゃなくて優しさだって。」
おずおずと、ナオミさんから聞いた話をする。すると竜崎と目が合った。目を丸くしたので、私は曖昧に微笑み返した。
「……粧裕ちゃんが言ってた。月君は、自分でさえ怖くて大変でも、絶対に逃げたりしないでみんなの前に立つから……自分にもできるんだって、勇気をくれるって。」
太陽のように笑っていた粧裕ちゃんの姿を思い出す。私は月君の手に力を込めた。彼女にとって、月君はヒーローだ。きっとその背中は、ほかの人の心をも動かす。
「……月君なら、キラみたいに犯罪者を殺したりしなくても、きっと世界を変えられる!私はそう思う!……だから……だからこの先もし、例えば、「世界のために、自分だけが犠牲になればいい」と、キラに戻るような事があっても……」
いつの間にかぽかんと口を開けていた月君と、ルークを手に持った竜崎を順にみて、にっと笑ってみた。精一杯の空元気、そして宣戦布告だ。
「……私と竜崎が止めるから!」
「………あぁ。」
月君は小さな声で頷くと、目を細めてこちら凝視した。何かを確かめるような、眩しいような。反応に困る。
「夕陽、君は……本当に何なんだ……どうして竜崎なんかの所に居るのか……。」
「……………月君、見すぎです。もしかして夕陽に惚れてますか?言うまでもありませんが駄目です。」
__なんでそうなる!?
言葉を返し損ねていると、竜崎から遠くへ呼びかけるように大きな声で「夕陽」と名前を呼ばれる。
「……!ごめんなさい、私、かなりチェスの邪魔しちゃってたよね!」
「……いえそうではなく、夕陽、そろそろその手を放してほしいのですが。」
「手?」
その手、と言われて竜崎の視線を追うと、私は月君の手を両手でぎゅっと掴んでいた。それどころか、私は大見得を切りながら無意識に立ち上がっていたようで、座ったままの月君の手を立ち上がって握るという、王子様みたいなポーズをとっていた。
「あーー!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」
私は二人に向かって頭を下げた。なんとも情けない話である。
すると月君が肩を揺らして笑い出し、竜崎がそれにじっとりと睨み返す。それを皮切りに、二人はまたチェスを再開した。
私は角砂糖を拾い集めながら、一歩引いて二人を眺めた。そうしてみると、二人の姿は実際よりもずっと遠く、物語を読んでいる錯覚に陥って、胸が鈍い痛みを覚えた。
__でも、真実は、夜神月がキラなのだ。
どんなに信じても、どんなに変わっても、火口というキラを逮捕した瞬間、物語はそこに行きつく。
その瞬間私たちは、ここでは言及しない問題に直面しなければならない。
__正義はどこにあるか
__悪はどこにあるか
__罰するべきは何か__誰か?
罰するべきは…………。
__きっと竜崎も、月君も、とっくに気づいているはずだ。
避けられない問いと選択に。
それこそが私が最後にやるべきことなのだけれど、こうして変わっていく二人も、また私の知らない答えを出すことになるのだろうか。
「月君。チェックメイトです。」
ひとしきり場が落ち着いたところで、竜崎が唐突に宣言した。
向かい側の月君はそれを受けて盤上を眺め、首を傾げた。
「……おい竜崎、チェックメイトな訳ないだろ。そこにルークがあったはずだ……取っただろ。」
どうやら、キングを守っていたルークを、月君が目を離していた隙に竜崎が掠め取ったという話らしい。しかし、不正を指摘された側の竜崎は、むしろ堂々とキングを倒した。大きな動作で倒された駒は、音を立ててガラスのテーブルから床へと投げ出された。
「……正解です。月君が気づかないうちにこっそりと盗みました。」
「……。」
「………。」
「キラの計画ですが、自白、監禁、空白期間、記憶喪失、おとりのキラ、捜査協力、逮捕……すべてが揃った、と思わせておいて、肝心な何かが一つ足りない……そうなったら面白いと思いませんか?」
竜崎はごそごそとポケットを探ると、中から黒のルークを取りだした。私達の視線は、自然と吸い寄せられる。
「キラにはもう一つ駒があった。しかし、それは私の手中にあります。記憶が戻ったとして、それは使えません。月君にそれが何なのか明かすことは叶いませんが……。」
私はその黒いルークが、ノートの紙片のことだとはっとする。
竜崎は言葉を区切ると、ふいに目を大きく、とぼけた時によくするような表情で月君に首を傾げた。
「ところで月君、いま何時でしょう?私たちどれくらいチェスしてたんでしょうか?」
「は?」とその場違いな質問に疑問を呈しながら、月君の視線は竜崎の後方__監視カメラの映像に映し出されたデジタル標記の時刻を確認した。
「……そんなに経っていない。25分間だ。」
「そうですか。参考になります。」
再び不可解な言動をとる竜崎に、月君は腕を組む。手錠がじゃらりと引き摺られる音を聞きながら私は__竜崎の意図に気付いた。
__時刻を聞いて腕時計を見るかどうか試した……?
もしかして月君が今つけている時計も、あの時のレプリカ?様々な憶測に答えが欲しくて竜崎を見ると、彼はにたりと、死神にも見える笑みを浮かべた。それは勝利宣言の如く確信的で、大胆不敵な笑みだった。
「月君の協力のおかげで、とるべき方針が見えてきました。このまま現在のキラを逮捕し、敢えてキラの策略に嵌りましょう。……でもまずは、現在のキラの逮捕からです。」