第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第五章-
◆チェス
「チェスをしましょう」
竜崎の声を聞き、月君がすっと立ち上がった。
この捜査本部には「竜崎に引っ張られて大惨事になる前に立ち上がれ」という教訓があるらしい。
予備動作もなく無言で動き出すことのほうが多い竜崎は、こうして口に出したとして、必ずしも相手の返答を待つとは限らない。
月君は手錠での生活にかなり順応してきているようだ。
私も見習おう、と二人分のお茶を用意することにした。
「……では月君は、キラの立場で考えてください。」
紅茶とクッキーを持って戻ると、そこにはすっかりセットアップされたチェスボードと、恐ろしい形相でにらみ合う二人の姿があった。
「……ああ、いいだろう。」
__これはどう見てもLとキラ。
記憶がないはずの月君まで、なんとなく悪どい顔に見えるような。これはただのチェスではない?
「夕陽はここです。」
トレイを置いて立ち去るべきかと考えていたタイミングで、横目で私を認識した竜崎に隣のスペースに座るよう指示される。
「二人とも、大事な話をするなら、私外すよ…?」
「いや、いいんだよ。息抜きのようなものだからね。」
「はい。チェスでもしながらキラの思考を探るための簡単な思考実験をしようかと。あくまで遊びの延長線です。」
「思考実験……。」
簡単な、どころかそれは知らない単語だった。
「やることはほとんど推理と一緒だよ。……具体的なデータなしでやろうとしているからそう言ってるだけだ。まぁ、言葉遊びのようなものさ。」
__キラを悪だと思うか?たとえ過去の自分でも、そう言えるか?本当に今のお前はキラじゃないのか?
先日の竜崎の推理は、そんな風に月君を試しているも同然だった。
それに対して臆することなく「YES」と答えたのが夜神月という人間だった。
__僕はキラじゃないから……自分の計画だとしても暴こう。自分の中のキラも、死刑台に送ってみせる。
月君の返答はひとえに感情的だった。すべては「自分はキラなわけがない」という信念だけに支えられていた。あるいはプライドかもしれない。いずれにしても、その理屈には、論理の欠片もなく__めちゃくちゃだった。
だが、そのめちゃくちゃで感情的な返答をこそ、竜崎は期待していたのかもしれない。
月君が頷いた時、彼は子供のような表情を浮かべて、「月君ならそう言ってくれると思いました。」とお決まりの台詞を返していた。
思い返せば竜崎は、殴ってまで相手を叱咤する姿や、ミサの前での言動から、夜神月という人物の、時に感情的になる側面を見出していたのかもしれない。
そう考えると、恋愛話に端を発する一見脱線したような話の流れは、すべて月君を観察するための行動だったんじゃないかとさえ思えてくるが、実際のところは竜崎にしか分からないことだ。
「さぁ手早く始めましょう。白はLで私、黒はキラで月君です。後攻でも勝って見せましょう。」
竜崎の声で、私は長い長い思考の中から、チェスの駒が並ぶ現実へと戻ってきた。ガラステーブルにガラスの透明な駒たち。目の前の階段も強化ガラス製で、なんだか目がしばしばした。私は頭をしゃっきりさせたくてクッキーをひとつ口に入れた。
「極秘の調査により、殺しには特定の道具が必要だということが判明しています。」
「極秘ってなんだよ。」
「極秘は極秘です。」
竜崎はくるくると紅茶をかき混ぜる。
二人はどんどん話を先に進めた。
「殺しには道具が必要であり、決して形のない能力などではない……キラが二人いた以上、道具も二つあったと考えられます。」
「……道具については教えてくれないのか。」
「はい。そこはもうしばらく我慢してください。道具の使用方法はまだ不明ですし、これ以上は今は明かせません。」
「………。」
__「監禁時、弥は何も持たずにキラの記憶を維持していました。ノートや紙片は記憶や能力の維持とは無関係ということです。だが夜神月は肌身離さず携帯していた。つまり腕時計の中の紙片は、“道具”ということです。」
竜崎が以前話していたノートについての考察を思い出す。触れた時の効果や実際の殺人方法は不明でも、道具があると分かるだけで、こんなにも考える材料になるのだと驚いた。
それにしても「極秘」を突き通すのには、訳があるのだろうか。
「なるほど……道具が二つあったなら、二人が手を組んだ時点では、道具は一か所にあったと考えられるな。」
考えを引き継ぐ月君に、私は「あぁ、だから推理じゃなくて思考実験なんて言い方するのか」と納得する。二人とも、記録のない事象について、「そうとしか考えられない」という方法論で遡っているのだ。
「ええ。キラと第二のキラは、少なくとも互いに道具の場所を把握していたはずです。でなければ互いに殺しができることになり、手を組んだとは言えませんからね。」
手を組んだ、と言いながら、ポーンがどいてようやく自由に動かせるようになったナイトを竜崎の指が摘まみ上げた。
「だが竜崎、現在のキラは二人いるとは考え難い。……もう一つの道具はどこに?」
「ええ。私が言いたかったのはそれです。流石です月くん。」
__なんか迫力が、すごい……。
傍から見れば二人で一緒に推理しているようだが、その実は互いの思考の読み合いなのかもしれない。
それこそチェスや、テニスのような。
「可能性は二つです。」
ふいに視線をあげた竜崎が指を二本立てた。
__「もう一つの道具はどこに?」という疑問への返答だった。
「第一に、キラはその役目を止めたいと考え、役目を別のものに託し、自分は罪を逃れようとしているパターン。……この場合、道具は用無しですから、もう一つの道具はどこかに捨てたか、二人に託したがそのうち一人が使っていないかどちらかですね。」
「……あぁ、だがそれだと……。」
「キラらしくない。……月君らしくない。」
チェスも、推理も先を読んで進んでいく。
月君はわざわざ言い直された竜崎の「月君らしくない」という感想に一瞬目を上げるが、すぐに手元の駒を動かし始めた。ポーンが一つ前に進んだだけ。慎重な手だった。
「自分が罪を逃れるには確実に殺しを再開させる必要があるのに、一人とは言え、殺人を躊躇するような人選をするのは不安定です。あんなに負けず嫌いだったキラが恐れをなす人間だとはそもそも思えませんし……殺人の止まった14日間の空白期間の説明がつきません。」
「………。」
「第二……こちらが私の考えです。そして、いかにもキラらしい。現在のキラは逮捕されるために仕立て上げられたおとりに過ぎず……もう片方の道具は後程回収できるように隠してあるパターンです。」
白のビショップが黒のビショップを獲得すると、一寸の間もなく月君が竜崎の透明なナイトを掠め取った。竜崎は親指の爪を口に運び、じとりと月君を見上げる。
「………。」
「はは、悔しいのか、竜崎?」
「それはおとりです。最後には私が勝ちます。」
竜崎はその挑発的な言葉とは正反対に、膝を抱え手元のボードをじーっと注視していた。何手先まで読んでるんだろうと思いながら横顔を眺めていると、彼は思い出したように「なんだか急に角砂糖が欲しいです」と言った。
「あ、はい!待ってて!」
私は二人の邪魔にならない様に手短に返事をして角砂糖を探しにメインルーム奥のキッチンへと向かう。背後で話がさらに進んでいくのが分かったが、その場をあとにする。
「おとり?隠している?その考えだと僕は記憶を取り戻し、再びキラになろうとしているということにならないか?」
「……はい。その通りです。月君はキラに戻るつもりだと私は考えています。__この考え、どう思いますか?」
「それは、どうしてそう思うんだ?」
「残念ながら、勘です。」
「………。」
「あるいは仮定として受け取っていただいても結構です。」
「……僕は、自分がそんなことをするとは思えない。」
「ですが考えてください。月君。……もしも自分がキラであって、その記憶を失うとしたら、自分なら新たなキラを必ず捕まえる…と、そう言い切る自信はありますか?」
「……あぁ。そう言い切る自信はある。相手が誰であれ……僕も警察に助言した経験があるし、Lも一緒に捜査するとなれば、捜査を申し出るとも考えるだろう。……チェック。」
「…………。」
「…………竜崎、さっきから真面目に打ってないだろ?」
「参考になります……。では、月君の言う通り、現在のキラが逮捕され、殺しの手段も道具も警察の手に渡るものと計算されているとしましょう。そこまでする以上、現状すべてに意味があると考えるべきです。」
「すべて……か。」
「はい。自白、監禁、記憶喪失、おとりのキラ、捜査協力、そしてこの先の逮捕……全てです。道具も一つは警察に渡り、取り調べからの証言もある……相当なリスクです。その対価に見合うモノと言えば………」
角砂糖をひとやま、葉っぱ型のお皿に入れて持ってきたときだった。
二人の話はどこまで進んだのだろう?
盤上の駒はすっかり減っていて、ルークやクイーンが、いくつかのポーンだけが残っていた。
しかし、どうしたのだろう?二人の視線は盤上には向けられていなかった。
互いに見つめあい、正対し、交錯していた。
「見合う対価はおそらく……潔白の証明、警察やLの命、それとも両方か……でしょうね。」
__これは、キラの目的の話か?
もはや思考実験なんて言っていられないほどの単語を、ゆっくりと竜崎が並べていく。
その言葉が区切られたところで、月君が目を伏せる。彼は顔をあげなかった。
「__いや、Lの命だ。警察や潔白はどうとでもなる。」