第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第五章-
◆キラと記憶
「ミサさんの5月22日青山についての聴き取りから、ひとつ分かったことがあります。」
待ちかねたように竜崎が告げる。
さすがに場所は捜査本部へと移して、私たちはガラスのテーブルを四人で囲んだ。目線の位置に、同じくガラスのような透明な階段があり、その向こうにコンピュータが見える。
竜崎と月君は、それぞれ簡易に絆創膏で手当てされた状態で向かい合う形になった。竜崎は口元、月君は額を切っていた。私とミサとで慌てて貼ったのだった。
改めて出された新しいスイーツを摘まみながら、「まずは前提から整理しましょう」と竜崎は話し始めた。
「ミサさんの記憶は、かつて「キラか恋愛か」のどちらかで構成されていた。そして「キラの記憶だけ」が消えた……この論理で行くと、色々と説明がつきます。」
「……なにそれ、ミサ馬鹿にされてる?」
不服を申し立てるミサを置いて、月君は興味深く耳を傾けていた。私もこれから竜崎が話そうとしていることが何なのか見当がつかない。
「5月22日青山で一目惚れ。ここをターニングポイントとして考えてください。まず、「どんな気持ちで青山に行ったか」……ミサさん?」
私と月君に留意点を明示すると、竜崎は手に持ったスプーンをマイクのようにミサにかざした。あからさまに拒否しながらも、真剣な月君の様子を見てミサは渋々と、答えた。
「だから、なんとなくです!覚えてません。」
「では着ていった服は?」
「だから覚えていません!」
ミサの横で月君が、なにか気づいたように「あ」と声を上げる。確認するように竜崎は月君にアイコンタクトを取った。
私はまだ何も掴んでいなかった。同じ質問を繰り返して、どういうつもりなのだろう。
「……一目惚れの直前までの行動や記憶は、「第二のキラとしての行動」だったので覚えていない。……つまり、家を出る時の気持ちは「キラを見つけるため」、服装を覚えていないのは「監視カメラを危惧して変装したから」と考えられます。実際、ミサさんらしき人物は映っていませんでしたからね。」
__なるほど。そう考えれば整合性は取れる。
「ということは、一目ぼれの後の行動は……」
「恋愛感情が絡んでいる部分のみ、語ることができると……?」
ゆっくり理解し始めている私の横で、数歩先をいく思考の月君がまとめていく。竜崎はええ、と肯定した。
「「名前を知った」という事実は語れるのに、その方法が分からないのは……言うまでもありません。……それが「キラの記憶」だからです。第二のキラは顔だけで人を殺せた……名前を知る能力があったとしても不思議ではありませんから。」
滔々と進んでいく理屈に目を回しそうになる。月君は、まずは論理を理解しようとしているようだった。口元に手を置きながらも落ち着いていた。
「監禁時、ずっと黙秘していた月君の存在を、急に「彼氏」と明言しだした……これは夜神月という人間を黙秘する理由、キラの記憶が消えたことで、恋愛の記憶だけが残ったからと考えられます。」
これだけ例示があれば、理屈自体は随分と説得力を持つように思える。事実、それが真実だということを私は知っているけれど、そんな切り口があるとは思わなかった。
初めて聞く月君や、ミサ本人はどうなのだろう、と様子をみるも、二人とも案外、記憶がないせいか激昂するようなそぶりは見られなかった。不自然ではない形で記憶が失われるとはいえ、自分たちも違和感があったという事だろうか。
「ということは、二人が第三者に操られていたという線は、消えます。あり得ません。」
そこまでが一つのチェックポイントであるかのように、竜崎は高らかに述べた。
「ちょっと待て。どうしてそうなる?」
眉間に手を当てた月君が制止の手を伸ばした。
これは竜崎あるある。
お決まりのように飛躍した帰結に、同じく天才である月君も付いていけないようだ。
「キスです。」
と、竜崎の返答はまたもや斜めに飛んでいくような返答だった。突飛というか奇抜というか。
その声で捜査員の何人かがちらりとこちらの様子を覗き見た。
「………分かったよ竜崎。……とりあえず説明してくれ。」
なんだかんだと月君が竜崎におく信頼は絶大なんじゃない、と思った。月君は、竜崎は説明を求めればちゃんと納得のいく回答返してくれると思っているようだ。
私は一人関係ないことを考え、二人を見比べた。
竜崎は「はい」と答えるとともに、口の端を釣り上げた。からかいモードだ。ただならぬ空気を纏っている。
「月君はミサさんとキスしたんですよね?」
ただならぬ気配のまま身を乗り出した。テーブルを超えるようにそれはもう、それこそ、そのままキスできてしまうんじゃないかという距離まで月君に接近していた。
心身ともにパーソナルスペース無し。私とミサは目を背けた。
「…………あぁ。」
けれど月君は動じなかった。竜崎の奇抜な行動にもそろそろ慣れてきた、という様子だ。追い打ちをかけるように竜崎は目を剥いた。
「その時、どんな気持ちでした?」
「………っ」
月君は目を伏せ逡巡した。それは言葉に詰まるというよりも、真摯に答えるために記憶をたどるようだった。途中で不安げなミサが「ライト?」と声を掛けると、月君は諦めた様に顔を上げた。
「ミサが押しかけてきて、キスしたことを覚えている。……だが気持ちは、分からない。覚えていないだけなのか………竜崎……まさか……」
「はい。そのまさかです。」
からかいモードではなく、また別の笑みを浮かべた竜崎に、私はその意図するところを察した。
キラの記憶、恋愛の記憶はなにもミサに限ったものではない。「キラの記憶かそうでないか」、それを区別する例としてたまたま明確なのがミサだっただけなのだ。
「つまり、ミサさんは純粋な恋愛感情として、一方、月君はキラの記憶の一部としてキスの事実を認識しているということです。」
「……えーっと、でも二人とも覚えてるんだよね?」
これは私だった。分かっているようで整理しきれない。二人とも覚えているのに、キラの記憶か恋愛の記憶かが違う?
「夕陽、この場合、問題となるのは「事象」ではなく「理由」の部分です。ミサさんは、「月君が好きだから」キスした。……月君は、「ミサさんが第二のキラだから」キスした。こう考えるとすっきりします。」
「……!」
「!」
「つまり、別々の意図__片や恋愛、片や恋愛感情を”利用する意思”を働かせていた………二人とも、間違いなく自分の意志で動いていたことになるんです。操りであるなら、二人まとめて動かす方が合理的だ……ベクトルが異なるはずもない。つまり、二人を操る第三者など、存在しないんです。」
__さっき確信していたのは、これだったんだ!
これは、物語との大きな相違点といえる。第三者の操りという可能性に落胆していた物語とは、天と地ほどの違いだろう。
しかし、あまりに重すぎる。
驚きや怒りを通り越して、沈み切ったミサは、力なく月にもたれかかる。流石に月君もその肩を支えていた。
真相を知っている私すら、今回の竜崎の推理には「もう十分」と言いたくなるほどの重圧を感じた。
竜崎はここからが本題だと言わんばかり、口調を強く言い放った。
「操る者がいないという事は、この状況すべてはキラが自ら望んだこと、彼の計画であり、思惑、そして、私達にとっては大きな罠の中なのです。」
__この状況。
一言で表してしまえばたった四文字に過ぎないが、それは膨大な思考量だ。物語を知っている私はいくらか竜崎がどこまで考えるかを推測することは出来るけれど、きっとその予想を超えた可能性まで考えているに違いない。今、全てを語っているとも言い切れない。
これが、竜崎が「一人で考えたい」と言っていたことか、と今更思う。
「………竜崎、それがつまり僕の計画だって言いたいのか?」
「はい、そうです。……ですが、先ほどからの月君の言動を見て、確信……いえ、信じてみたいと思ってしまいました。月君は__今、ここにいる月君は__シロです。」
__え。
私は思わず声を上げそうになった。
月君も、身を乗り出そうとする。
「いえ、二人が無実という意味ではありません。仮定の話です。」と竜崎は素早く補足を加えた。
「私はここにいる月君を、記憶のないまっさらな状態として信用し、そして、記憶を無くす前の月君を真のキラとして考えようと思います。……罪の所在はまた別です。……なので、月君も、「もしも自分がキラだったら」と、真剣に考えていただきたいんです。」
「…………。」
__それは、捜査協力を願うが、自分を有罪足らしめるかもしれない、という事でもある。
「……分かった。僕はキラじゃない。だから……。」
しかし、向かいの月君はまっすぐな瞳を竜崎に向けた。
見る限りでは迷いの色など全くなく、精悍な決意しかなかった。
「…………自分がキラだったとしても__その計画すら暴いてみせる。自分の中のキラを死刑台に送って見せる。……竜崎が言いたいのは、そういう事なんだろ?」