第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第五章-
◆一回は一回です
「……。」
立ち尽くす。
現実に起きているものとは思えなくて、ただ眺める。
既に一度、人が吹っ飛んだのだろう。
部屋の隅でミサがあわわと縮こまり、部屋にあったソファや観葉植物が綺麗にひっくり返っている。惨状。
「……説明しろよ、竜崎。ここ数日、ずっとだんまりで、いきなり「やる気が出ない」だと?」
手に熱湯を持った私は部屋の入り口から動けないでいた。怒り心頭で声を震わせる月君の視線__もしくは手錠の先には、竜崎がいた。
「どれだけの人を巻き込んだと思ってるんだ?警察、FBI、ニュースキャスター……それにミサや僕を監禁したのはお前だろ?」
竜崎は壁を背にしてぐったりと俯いていた。
白い袖は、痛々しそうに口元の血を拭っている。駆け寄りたい衝動にかられつつも、止めてはいけないような気がして、私は手に力を込めて、堪える。
あがる息に肩が揺らしてから、竜崎は鋭い視線を向けた。
「月くんの言いたいことはよく分かりました。しかし理由がどうあれ__」
両腕で上体を固定し、大きく振り上げられた竜崎の足が弧を描き__
「__一回は一回です。」
__平淡な言葉とは正反対に、いっそ殺すんじゃないかという勢いで月君の頭部を直撃する。たっぷりの遠心力によって体重以上の衝撃を受けた月君は、張り詰めた手錠に引かれて竜崎もろとも部屋の反対側に飛んでいく。
はわわ、と微かに声を漏らすミサと、部屋の隅で光る監視カメラのランプの点滅のほかは、しんとした沈黙が訪れる。私は閉めかけていたドアから中を覗き見た。
横転したソファの影からむくりと頭を起こしたのは竜崎だった。
__あれ?
その姿を見て、私は違和感を覚える。
前髪の影で、口の端だけが微かに上がっている。
__竜崎、なにか確信してる……?
「言い方が悪かったかもしれませんね。……私は、このまま捜査を続けていてもキラの思惑に嵌る予感しかない……このままでは駄目だといっただけです。」
その姿は、やる気のなさを叱咤され戸惑っているというよりはむしろ、相手の激昂になにかを掴んでいるような……。
「キラの思惑?」
月君が身を起こしながら聞き返す。
私も心の中で同じように聞き返した。やっぱり、私の知る場面とは竜崎の様子が違う。
物語では確か、「二人が操られていたとすれば、捜査はゼロからとなり、無駄に動いても損するだけかもしれない」と落胆し、それを見かねた月君が殴る、という流れだったはずだ。
だから、捜査を先に進めるような可能性__「キラの思惑」というものに言及しているわけがない。
「……ええ、この状況こそキラの思惑の中です。」
「やる気がない」という発言すらも月君に向けられた挑発の一つだとしたら。自分の考えが一つ正しかったことを確認する様に、竜崎はまた口元の血を拭った。
「キラの思惑……いや、月君……の思惑と言った方がっ」
すべてを言い切る前に、月君の拳がまっすぐ竜崎の顔に入る。私はうっと顔をしかめた。目も瞑った。恐る恐る見れば、やっぱり鼻が折れるんじゃないかというほどど真ん中だ。今度は二人とも吹き飛ばされず、竜崎がのけぞる形で膠着状態になる。
「一回は一回ですよ?私結構強いですよ?」
めり込む拳を上体を逸らして耐える竜崎は、あくまで挑発的だった。いや、本当に強いのだろうけど……でも流石に痛そう過ぎる!挑発し、反応を見ているだけならもういいはずだ。見てられない!
私は足元にポットを置いて二人の前に躍り出た。
「__も、も、もういいでしょう?!……あ、そうだ!松田さんが大事なお話があるそうです!」
しかし、記憶の限りで喧嘩の仲裁などしたことがない私に、的確な言葉を投げかけることは不可能だった。冷静になれたなら「止めて」とかでいいのに。すみません松田さん。
引っ込みがつかなくなって、私は責任を押し付けるようにぴっと内線を指さした。二人の視線が向けられる。
「………。」
「…………夕陽。」
「ごめん、私、内容までは聞いてなくて……。」
えへへ、と両手を広げてとぼけると二人のリアクションが芳しくなかったので、私は監視カメラに向かっておーいと手を振って見せた。見てるのは知ってるので、例の電話、かけてきちゃってください!と。
やがて見かねた様に、内線がプルル……と鳴りだした。
「……はい。」
上体を落としたままの竜崎が、野性味あふれるポーズで受話器を摘まみ上げる。受話器越しに微かに松田さんらしき声が聞こえてくると、竜崎はあからさまに目を半分にして呆れた。
月君が「なんだ?」という表情を浮かべるより早く、受話器はがちゃんと乱暴に落とされた。
竜崎はぱんぱんと無意味に両手をはたいていた。
「なんだったんだ?」
冷静、もとい呆れ顔の月君が聞き返す。すでに真面目な話ではないことは感じとっている様子だった。鋭い。
「………どうでもいい松田のボケです。」
会話の内容はエイティーンの人気投票と、映画への主演決定だったっけ。
無茶ぶりした私も共犯だけれど、何故その話題を選んだのか、今度松田さんに聞いてみよう。
「……まぁ松田さんは天然だからな。」
そうして月君はちらりと私を見ると、ふふん、と鼻で笑った。
__!?
どうしてそのタイミングで私に笑いかけるんでしょう。
「……なんかいま、月君にとても馬鹿にされたような気がする……?」
「いや、なんでもないよ?この捜査本部は本当に個性的で賑やかで、飽きないなって。」
「………。」
首を傾げて、あくまで悪気のない月君だ。だけれど、なんだろう、この釈然としない気持ち。真の天然は月君だと思っていたけれど、やっぱり世間知らずの私の方?
当渋い顔をしてしまっていたのか、面白がるように指を咥えた竜崎が私と月君の間に割って入った。けろりと、すっかり気の抜けた表情だった。竜崎は指を立てて提案した。
「夕陽、私の分一回残ってるので、殴っていいですよ?それか蹴り方を教えましょう。」
……その人差し指は「一回」という意味なのですね。
「竜崎の分を一回……月君を殴る権利を一回……。」
ふむ、と一拍考えた。
考えた結果、その提案には全力で乗るほかなかった。殴り合いも友情なら、むかついたときたときに殴るのは、それもまた正義だ。積もりゆく無用な憎しみこそが人間の争いや善悪の根源。殴って解決するならそれが一番!言葉で通じ合えないなら拳しかあるまい。でもせっかくなら拳よりも足技、すなわちカポエイラを。
私は神妙な面持ちで竜崎を見返した。
「うん、蹴り方を__蹴りの方を、是非!あれはかっこいい。」
「……かっこよかったですか。」
「はい……!」
にやりと笑う竜崎に、私は両手をぐっと握りしめきらきらとした視線を返す。
茶番だ。
茶番ながら興に乗ってそんな戯れをしていると、竜崎の肩に手が掛けられ、その耳元から月君の顔が覗いた。
「……竜崎。夕陽も、悪かったよ……一回落ち着こう。」
その距離感に近さに驚かされつつも、私は「はーい」と二人から離れた。
竜崎のノリの良さはなかなか心地よくて離れがたかったけれど、そろそろ真面目にやらなければ今度は相沢さんか夜神さんからお叱りの内線がかかってきそうだ。
やれやれ、と月君がため息をついた。
「いきなり殴ったのはすまなかった。だが……聞かせてもらえるか。キラの思惑って何のことなんだ?」
「ええ。もちろんです。」
そういって竜崎はわざとらしく散らかった部屋をぐるりと見渡した。植木鉢の土と、ミサによって踏みつけられてしまった可哀そうなショートケーキ、さかさまのソファ。座れる場所などどこにもない惨状だった。
「適当にかけてください。」