第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第五章-
◆初めまして
「ねぇ、夕陽ちゃんまだ来ないのー?」
“……!……ミサの声だ……”
ケーキを用意し、カートにのせて持ってきたはいいけれど、ドアに手を掛ける前から会話が漏れ聞こえた。大きなミサの声にぴくんと犬のように反応するレムは何となくかわいらしいけれど、私は中の様子を想像して足取りを重くした。
「Wデートならしょうがないかって言ってオーケーしたのに、これじゃあ竜崎さんに監視されてるデートになっちゃうじゃない。夕陽ちゃんはどこに行っちゃったの?」
「ミサさん、席を外した女性の行き先を気にするのはマナー違反ですよ……。」
……想像通り、ソファにのけぞるようにして不満を漏らすミサと、全く意に介さない様にしてちょこんと座る竜崎という図がそこにあった。
「はぁぁ?!ミサ縛って「トイレ行きたい」とか言わせたあなたがそれ言うのおかしいよ!」
私が部屋に踏み入れた瞬間に、ミサは再度どこから出ているのだろうというほど大きな声を上げた。私は見事に気押されながらも、今の発言はまったく聞いていませんよ、という風を装って部屋の中心へ踏み入った。
「あ、えっと……遅くなっちゃってごめんね」
「いや、いいんだ。無駄話しかしてないよ。」
遠慮がちに言うと、なぜか待ち合わせていたように返事をしたのは月君だった。まるで「僕も今来た所なんだ」というような様子である。その言葉に、竜崎はじろりと目をむき、ミサは文字通り月君に食い掛った。
「ら、ライトはミサがトイレ行きたいとか言うのほかの男に見られて何とも思わないの?あと夕陽ちゃんにばっかり優しくない?」
「いやミサそんなことは……あれは大体監禁だったんだから僕だって同じで……。」
気を遣いつつも迷惑そうにいなす月君を、リュークとレムが珍しいものを見るように眺めていた。私は死神二人はしばらく好きにさせておこう、とお茶をテーブルの上に並べ始める。一貫してマイペースな竜崎は、私の手元を見ると、にやりとしてカートの上のケーキを指さした。
「………そんなことより夕陽、ミサさんは甘いものが嫌いだそうなので、そこのケーキ、私が二つ貰います。」
「嫌いなんじゃなくて太るから控えてるんです!」
「まぁまぁ。」
……私が知ってるよりも三割り増しくらいで険悪な空気を醸し出しているのは何故だろうか。まぁでも、竜崎とミサはまだ顔を合わせて数日しか経っていない以上、あの監禁の記憶の方が印象として濃い訳で、そこは長い目で見るしかないのかもしれない。
「ね、ミサ、確かにデートはし辛いかもしれないけれど、これからは月くんと一つ屋根の下だよ?帰ってくれば月君の「おかえり」が待ってる感じかもだよ?」
竜崎の横に腰掛けながら、私はいくらか現状を前向きにとらえてくれないかな、とそんな言葉を投げかけてみる。ミサは口元に手を当てると、宙を仰いだ。
大きな瞳は宙を泳ぎ、そして月君を見て、私へと戻ってくる。その頃には笑顔が咲いていた。
「そうね。ミサが一人占めだね!」
ころころと変わる彼女の機嫌が上向きになって。月君の腕をぎゅっと抱きしめる。しかし、隣の月君は、それを受け流すのではなく、意外にも反応に困るような様子を見せた。
「………。」
「……どうしたの、月君?」
私の問いかけに、月君は言葉を選んでいるようだった。ミサも「ん?」と言いながら、大きな無邪気な目を向ける。月君は意を決した様子で彼女の肩をそっと両手でつかむと、静かに自分から引き離した。
「……ライト?」
「ミサ……。」
神妙な表情でミサを見つめ返していたので、私は見てはいけないものを見てしまったような気分になる。……なんだろう、このキスするか別れ話をするかの二択のような緊張感。ちなみに部屋の左右から見守る死神二人は、まるで表情が読めないので何を考えているか分からない。
私は隣の竜崎となんとなく、視線を交わした。
__様子見しましょう、と。
「ミサ。……僕は君の知ってる夜神月じゃないんだ。竜崎が言った通り、僕がキラだったら……それは全く別の人格としか考えられないんだ。操られていたかもしれないじゃないか。それで好きと言われても、自分のことのように思えないし、期待にも応えられない。」
“ッカー!クケケケケケケ!!”
相当愉快だったのか、リュークがけたたましく笑い声を響かせた。
「………知ってる。」と、ミサがまっすぐに答えた。
「……それでも好きなものはしょうがないじゃない。一目惚れ……それだけじゃダメ?」
「あぁ、その一目惚れすら、もしかしたらキラとして行動していた結果かもしれないじゃないか。」
がちゃ、と音を立てミサが立ち上がった。両手が握られていて、微かに震えている。竜崎は気配を殺しつつも、口にいちごを押し当てていた。分かりやすく呆気に取られていた。
「……っじゃあ、ミサはどうしたら!」
「………。」
ミサは今にも泣きそうで、月君は、すぐに何か言い返すでもなく、目を伏せて沈黙する。饒舌な時の姿とはまるで別人のようだった。様子見を決め込んだものの、なにかフォローすべきかなと思ったら、月君が「だから」と微かに呟いた。
「……だから、好きだと言うなら、今の僕を見てほしい。それなら……ちゃんと返せるものも返せるかもしれないだろ……。」
___月君!うわー!
「……この前の夕陽とこいつ……竜崎の話を聞いて、僕も反省したんだ。確かに僕はもてない事もないが、それで誰かに対して曖昧な気持ちを返すのは良くないことだ。」
__な、な、何それ?!
「……うぁ……むぐ……」
「しっ」
「うわ」と言いかけた口を、隣の竜崎から伸びてきた袖が塞いだ。
恨めしさにちらりと横目で竜崎を見ると、面白がるように目を大きく見開いたまま、人差し指で「しっ」というポーズで返された。
ミサの方は「もてる」発言に疑問を抱くこともなく、月君の意図するところ自体まだ理解していないようで、視線を泳がせ、首を傾げた。
「……今のライト?手錠に繋がれたライトってこと?」
「………いや手錠のことは気にしないで。つまり僕のことは……君の好きだった夜神月とは別人だと思って……好きだというのなら」
そこで月君は夜神さんがするように、小さな咳ばらいを挟んだ。言いづらいことをいうときの仕草だ、と思った。
「……好きだと言うなら、それで改めて、今から好きになってほしい……。」
「……ライト…!」
今度こそ意味が通じたのか、ミサは誰が見てもわかるほど目を輝かせた。ワンセットのように顔の前で祈るように指を組んでいる。その様子に慌てて月君が両手を振ってみせた。
「待てミサ、好きになってほしいとかそういう意味じゃないからな!」
「分かってるよ、ライト。じゃあミサのことも、今ここで初めて会った子って思える?」
「……?」
なにかを了解したようににこにこと笑顔を浮かべるミサに、月君は気難しそうに腕を組んで答えた。何を言っているのかまるで分かりません、と言った様子だ。けれどミサはその様子を見て、より一層楽しそうににっと歯を出して笑った。ミサは立ち上がった格好のままスカートのすそを掴んでぺこりと頭を下げた。
「あは!はじめまして、弥海砂と言います!よろしくお願いします夜神月くん!」
「……っ……。」
のけぞって言葉を失う月君と、「……これでいい?」とアイドルさながらに綺麗な笑顔で顔を上げるミサだった。というかアイドルの本気だった。竜崎もぽかんとしている。
__なんだろう、この空間。
物語でもこんな会話なかったし、何より、今すぐこの場からいなくなりたい。
甘いのか苦いのかよくわからないし……。
ビタースイーツ?……いや、英語にしたところで変におしゃれに聞こえて余計はずかしい……。
“………クク”
“………夜神月は………殺す……”
__レム、やめて!
視線だけで訴えかけると、レムは「冗談だ」と言って片方の口の端を引き上げた。私は「そんな表情するんだ……」なんて思いつつも、その紛らわしさに心拍数を上げていた。
「………手錠のわずらわしさを体感レベルで理解した気がします。」
空間どころか物理的に手錠で繋がれた竜崎が爪を噛みながらこちらを見る。
「まぁ、切り替えの早いミサはともかく、月君はまだ振り回されてるだけ感あるけどね」
「………私はなんとなくやる気が削がれてきました。」
蚊帳の外の私たちはそんな気の抜けた会話を交わした。
どうしてこうなったのだろう。
月君は「夕陽と竜崎の話を聞いて」なんて言っていたけれど。
私に恋愛を語るようにけしかけたのは竜崎だ。では竜崎が元凶?……いや、竜崎がからかいたくなるような「はじめは好きという気持ちも無自覚かもしれないじゃない?」なんて発言をしたのはそもそも自分だった。
大体私のせいです。
誠に遺憾、そしてただただ頭を抱えるしかない。
……でも、なんとなく前向きに進んでるような気がしなくもない、かな?
「竜崎、ちょっとお茶のお替りしたいからお湯持ってくるね」
「ええ……。」
私はそろそろ死神の二人と話をしたくなって、一旦、部屋を後にした。
監視カメラのない喫煙用の屋外に出て、誰かが来ないか分かるように手すりを背にして立った。意図を組んだのかリュークとレムは私と作戦会議のように向き合った。
「……まぁ、こんな感じで、わちゃわちゃ元気にやってるよ、二人とも。」
苦笑しつつ総括するように言うと、リュークは”オレは別にどうでもいいがな”と笑う。
“………ミサは………楽しそうだった……”
「それはなにより。」
レムの言葉を受けて、私はにこりと笑顔を返す。そのままレムの瞳を見つめ続けた。
__さぁ、どうだった?と。
和やかな雰囲気から抜け出し、いつかの夜のように、一時の静寂と間があった。
“…………ああ、夕陽……何が言いたい”
「このままこんな日々が続いてくれたら__そう思わない?ほら、よく言うでしょ、あとは若い二人に任せてって。まぁ、この場合は人間たちに任せて……って感じかな?」
冗談めかして言いつつも、きっと途中から笑顔は消えていただろう。お決まりのように横からリュークの「怖!」という茶々が入り、レムの目も、その赤い瞳だけがすっと細められる。
“……………”
「私は、Lを殺さないで、なんて単純な話をしてるんじゃないの。この世界にノートは必要ない__そう言ってる。」
しばらく見つめあったところで、遠くから大きな物音__大の大人が殴り合いの喧嘩を始めたような物音がしたので、私は踵を返した。
「じゃ、また、待ってるからね。レム。」
背後でばさりと翼が開く音を聞きながら、私は三人のいる部屋へ戻ろうとする。
そして後ろ手に持っていたモノに気がつく。
「あ、忘れてた!レム!」
私は手に持っていたリンゴを空に投げた。
それは落下することなく、きらりと陽の光を受けて、白い死神の手に収まった。
「おみやげ!」
"………………。"
リンゴと私を見比べたレムは、無言のまま空へ飛び立った。
背後でリュークが悲しげに呻いた。そろそろ戻らないと「一回は一回です」聞き逃しちゃう、なんてぼんやりと考えていた。