第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「あはは……無自覚が自覚にかわった瞬間…つまり、好きと気づいた瞬間ってこと……?」
それは単なる思いつきか、それとも名探偵の頭脳が必要とする足掛かりか、いずれにせよ私は物語の中でも最も個性的な三人にがっちり捕まってしまったのである。
あはは、と笑うと、三方向からとんでもない目力が浴びせられて、私はそれだけでくらくらと倒れそうになる。
恐るべき顔ぶれは元キラ・夜神月、元第二のキラ・弥海砂、世界の切り札・L(けしかけ犯)
__逃げられません!逃げられるわけがない。
「僕もこう見えて普通の大学生だからね。全く興味がないと言うと嘘になる。捜査の息抜きにもいいだろうし、こうして親睦を図るのも悪くないだろう。夕陽をあまり困らせたくない気持ちはなくもないが、残念ながら僕はいま竜崎と手錠で繋がってしまっているし……竜崎にのるよ。」
「月君、流石です。」
でた、親睦。
唯一、頼みの綱だった常識人候補の月君も妙な食いつき方をしてきた。何となくきざっぽいし、キラの記憶が抜けて以来の饒舌ですが、何か隠し事でもしているので?
「あ、あはは……」
……なんて皮肉を言う訳にも行かず、実際は乾いた笑いが漏れただけだった。
手が震えて、心臓がばくばくうるさい。
でも恥ずかしいとかそれ以上に、話がずれすぎていることが問題だと、冷静な自分が告げていた。これはちょっと脱線しすぎである。どうにか話の運びを軌道修正しなければ、竜崎が青山での記憶のことをミサに尋ねる会話がなくなってしまう。
「……ミサ……ここじゃ恥ずかしいな…」
私はまた困ったようにミサにアイコンタクトをとった。
「おっけー任せて!」
そして、相沢さんあたりが堪えきれなくなるまえに場所を変えなければ。私はミサに甘えることにした。
ミサはポーズを決めるようにウィンクしてオッケーを作ると、月君の腕をぐいぐいと引っ張った。そして手錠の先の竜崎を見た。
「竜崎さん、ミサの部屋、ライトの部屋とコネクティングルームになってるのよね?」
「そうです。中からも外からもこのカードキーを使わなければ開かない様になってい」
「じゃあ開けてください!」
「……構いませんが。」
食い気味に言うミサに、竜崎はつまらなそうに指先でカードキーをぶらぶらさせた。
こうして半ば強引にミサの滞在する部屋に移った私たちは、どうにか捜査員の皆の視線から逃れることができた。夜神さんには申し訳ないけれど、また後で収穫があったら当たり障りない報告をしよう。
しかし、場所を変えて皆でローテーブルを囲むように席に着いたことで、私は自分が間違っていたことを悟る。
「夕陽がどうしてもと言うので皆で場所を変えました。」
「でも大丈夫、ここなら恥ずかしくないよね!ミサのおかげかな?」
「捜査の邪魔したら悪いからな。夕陽も気を遣ったんだろう」
優雅にソファに腰掛ける三人に囲まれ、なんだかより一層、「皆で恋バナをしましょう」みたいな空気になってしまった。さらに言えば、皆が目に見えない「いい加減あきらめろ」という威圧感を放っている。
私は意を決して口を開いた。
「今年の初めに竜崎と二人で観覧車にのったんです。その時に。」
さらっと簡潔に。
そう思ってそれだけまず述べた。
「…あの時……ですか。そうですか……。」
竜崎が興味深そうに口にすると、視界の端でぴっと腕が伸ばされた。ミサから早速ストップが掛かったらしい。
「ハイ!ちょっと待って!どうしていきなりデートから話が始まってるの?距離感近くない?」
「デートではありません。」
竜崎が、いかにも他意はありません、という様にミサを見た。そういえばそんな建前だった、たしか大学の過去問を買いに行ってたんだったな、と私は竜崎越しにうんうんと頷いた。
「うんミサ、一応買い出しっていう目的があってのお出かけだったんだよ。観覧車はたまたまそこにあったから!」
「ええ、…まぁ結果的にデートになってしまった訳ですが。」
「………竜崎、一回黙ってくれないか。」
茶々をいれつつ私を困らせているのが、面白がる表情から見え見えの竜崎だった。月君とミサは私に向ける興味というよりも、竜崎に非難の眼差しを向け始めていた。
いけすかない、と言いそうだった。
ともあれ、話し始めてしまった以上、あまり長引かせたくないので私は一気に続けることにした。
「……その時、何となく私、竜崎を意識していたみたいで、でもそれがどうしてなのか分からなくて……観覧車というのは思っていたより狭い空間で、おろおろしてたら…」
「…………。」
___近!
いつのまにか音もなく竜崎に顔を覗き込まれていた。
「……竜崎……ちょっと離れられる?」
話の途中で立ち上がり私に噛り付くように背中を丸めていた竜崎が、微かに後ろに下がった。
「…………失礼。続けてください。」
……気を取り直して。
「…その狭い観覧車の中でおろおろしていたら、向かいに座っていた竜崎が隣に移動してきて__もっと近いはずなのに、どうしてか逆に安心して、居心地がいいと言うか…ちょっぴり嬉しくもあって。」
「おい竜崎、椅子に戻れよ。」
「………仕方ないですね。」
月君に声を掛けられ、再び至近距離で私の顔を覗き込んでいた竜崎は、渋々という様子で椅子の上に丸く座った。
「それで竜崎が言ったんです。『私たちはこうして座るほうが落ち着いて話ができます。そう思いませんか?』て。それで、気づいたんです。安心したのも、嬉しいのも、この場所が好きだからだって。竜崎の隣が__竜崎が好きだからだって。」
最後の一言は、無意識に竜崎に笑いかけていた。目が合い、驚いたように竜崎が膝を抱え直した。
__……なんだか無駄に気持ちが入ってしまった。
おそるおそる皆の様子を見ると、ミサは身を乗り出して「素敵…」と感想を漏らし、月君は額に手を当て首を垂れていた。げんなりとしている。
「……竜崎……お前、そういうところあるんだな。」
「月君ほど恥ずかしい事言ってましたか私?」
竜崎は涼しい顔でとぼけていた。月君は意外にも思い当たったのか、ぐうと口をつぐんだ。
「それにしても不思議です。それ自体に深い意味はなかったはずなのですが。」
「ふ、深い意味はなくても…!」
竜崎の質問に、私は思わず立ち上がった。
「それで謎が解けることはあるんです。パズルのピースみたいにぱちりと嵌って、ずっと謎だったことがすべて恋だったとわかることが……それが私にとってはあの言葉だったんです。」
だから、忘れられない、たとえ他愛なくても。
実際、私はその直後に告白してしまうのだけれど、さすがにそれは言わないでおこう、と思った。
「………すべて恋だった……ですか。」
「……?」
言葉の一部が小さく反芻された。なにか、とっかかりになったのだろうか。ほんの一瞬だけ、竜崎の瞳が明らかに変わった。
「すごーい、素敵だけど……『私たちはこうして座るほうが』ってどういうこと?」
ミサが首をひねる。私はなんと言ったらいいものか…と思いつつ、そのまま伝えることにした。
「それは、その、なんとなく私、竜崎の隣に座るのが普段から習慣になっていて……」
「ちなみにそれを言い出したのは私です。」
補足した竜崎に、ミサがのけぞって引いた。
「ええ?なにその関係性?それで無自覚って……ちょっとミサは理解できないかも……」
「だよね……でも私も何度、竜崎の突飛さにどきどきしたか……」
「……どれだけ自覚ないんだよ、お前は。」
「鈍いよね、あはは。」
呆れた月君に、ついにお前呼ばわりされてしまった。まぁ、でもこれで竜崎や月君と、ミサも互いに親近感とか持ってくれないかなーなんて目論見があったりなかったり。だって、私達、一応、友達だし。
「ここまで夕陽に言わせておいて自分はどうなんだ、竜崎。」
月君は立ち上がると、腰に手を当てて竜崎を見下ろした。それはまさかの展開だった。竜崎は珍しく月君に対して目を見開くが、躊躇せずに口を開いた。
「私は……自覚したのは確か、観覧車に乗る前日です。それから起算点はおそらく」
「ま、ままま待って竜崎」
あまりに淡々と明かされる(自分にとっては)衝撃の事実に、私は両手をわらわらと揺らして竜崎の言葉を遮った。
「そこまで言っちゃうんですか!そこまでは別に言わなくても…むしろ聞きたくないというか……!」
「いいじゃない夕陽ちゃん!聞いちゃいなよ!」
「……うう。」
ミサに物理的に羽交い絞めにされた私は、泣く泣く俯き黙る。その様子に、竜崎はからかうことを思い出したかのようににっと笑った。
「これからも__と笑って言われたときです。その時私も、『これからも一緒にいて欲しい』と、思ってしまいました。」
いつの話?と首をかしげる私に反して、竜崎の視線は、遠くいつかの日を見ているようだった。
「その時に私は、この日々が続く限りは何度でも夕陽の笑顔を繰り返し思い浮かべてしまうのだろうと……それはつまりそういうことだという結論に達したわけです。」
中途半端にぼかされつつも、初めて聞いた竜崎の気持ちがちょっぴりくすぐったく感じて、私は思わず
「……あはは、なんか、あははごめん。嬉しいというかくすぐったくて、つい……」
また笑ってしまった。
本当に自分でも、そればっかりだな、と思った。
「夕陽……多分そういうところだぞ、お前……。」
月君が嘆くように私の肩に手をかける。私はその手をちらりと見てから、そういうところだと?と月君を見返した。
「……月君だって笑ってばかりじゃない。私、知ってるよ。いつかそう言うのじゃなくて、死ぬほど笑わせてやるから待ってろ!」
「っ!」
ちょっぴり大げさな仕草で不満を漏らすと、肩に掛けられた手が勢いよくどけられ、顔がぶんと逸らされた。やりすぎたかな、と少し反省する。
……まぁ、それはそれ。
竜崎の言っている過去がいつのことだったか、思い出せないけれど。
思い出せないほどに他愛なくて遠い記憶なら、それはそれで嬉しいと思ってしまった。
「んー、まぁそれっぽいからいいっか。」
まぁいっか、という様子のミサだった。
「ミサは好きなになったのも、自覚したのも最初にライトを見た時だよ。一目ぼれだったもん。」
「その一目ぼれですが、5月22日の青山だったんですよね?」
__あ、話が軌道修正された、と気づく。
私は例によって、会話を遮ることがないよう、ちょうど立ち上がっていたこともあって部屋の隅へ移動し、大きな出窓に腰を掛けた。
「その日何故青山に行ったんですか?何を着ていきましたか?」
「だから何となく行ったんだって何度言わせるの?あの日の気持ちとか着てた服なんて本当に覚えてないの。理由がなければミサが青山ふらふらしちゃいけないわけ?」
窓の外の車や歩行人を眺めてから、私はふと、知ってるはずのその会話に目を向けた。そして竜崎の様子に違和感を覚える。
__あれ、竜崎、そんなに笑ってたっけ?
竜崎は私は物語でみたよりもずっと謎めいた、不敵な笑みをゆらりと浮かべていた。
「そして青山に行って帰ってきたら一目惚れした月君の名前を知っていた。」
「はい」
本来は、ただ質問を重ねるだけのはずのこの光景が、違う意味を持っていた。
「どうやって名前を知ったのかは自分でもわからない」
「はいそうです。」
ミサが二度、「そうです」と肯定すると、竜崎は口元に手をやり、一層、いっそ不気味ににやりと笑みを強めた。それは笑顔ではない、確信に満ちた、別のなにか。その竜崎が、遠くにいる私に体ごと振り向き、一言。
「ひとつだけ、分かりました。夕陽のおかげです。」
「えっ」
「……すべて恋………はい、そのとおりです。」
あ、そういえばさっき、私の言葉からその部分だけ繰り返してたな……と思い当たる。でも何故?私はきょとんとする他なかった。
「なんのことだ、竜崎。」
手錠に引かれた月君が訝し気に、歩き出した竜崎の後を追う。
「はい。つまり、共通点はただ一つ、「恋」だということです。……一人で考えたいので、失礼します。」
一人、と言いつつ繋がっている月君とともに竜崎は部屋を後にする。私はミサに手を振り、二人を追いかけた。
今の会話で何が分かったのだろう、と私は竜崎の推理に期待を膨らませた。