第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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今日の捜査本部は、豪華な花瓶と金色の装飾にこだわりを感じる大きなスイートルームだった。
「夕陽ちゃん浮かない顔だねぇ……」
「はい松田さん……どうしてでしょう。」
本部の中央のスペース、いつもだったら竜崎が座り周囲に指示を出す定位置にいるのは、竜崎をまねて話す私と、苦笑しながら横に座る松田さんという構図だった。
Guardian -第五章-
◆恋愛
私は足を抱えて三角座りで、竜崎のために用意したスイーツを自分で食べていた。
「改めて思ったけど……本当にここまでする必要あるのか?竜崎……」
「私だってしたくてしてる訳じゃありません」
物語で何度も読んだ二人のやり取りが、隣の客間から聞こえてくる。竜崎と月君はさっきまで私を含め三人で横並びに座っていたのだが、ミサを出迎えるために隣の区画にある客間の応接スペースに移動していた。
客間から聞こえてくる二人の会話になぜか元気を無くしてしまった私は、げんなりと竜崎のポーズで自分の膝に埋まっていた。その様子をみて不思議に思ったのか、「浮かない顔だねぇ」と隣に腰かけたのが松田さんだった、という訳だ。
「……というか夕陽ちゃん、今更だけどどうしたんだい? さっきまで普通だったのに、急にお茶の用意して戻ってきてから竜崎みたいになっちゃって……元気もないし……。」
頭をかきつつ首を傾げる松田さんに、私は力なく目だけを向けた。そして紅茶のカップを膝に乗せ、「別に……どうもしませんですが」と言いながら角砂糖をとぽとぽと5個ほど落とした。
「はは……そんなに甘くするんだね。」
「竜崎ですから甘くしないとです。……お茶をいれて戻ってきましたら、竜崎はどこかにいなくなっていましたので、私が代わりに竜崎になっているだけです。松田さんは月君の代わりになりますか?」
「うむむ……どうして代わりになる、という発想が出てくるのかな?竜崎の口調なんか違うし……。」
「だって、せっかく用意しましたのに食べなきゃもったいないですから。」
私は金色の包み紙の付いたモンブランのてっぺんの栗を指で持ち上げた。せっかく食欲の秋に入り始める旬なのになぁ、と思う。こんなに黄色い栗をほったらかして竜崎は月君と隣の部屋に行ってしまったんだ。松田さんの目が栗を追うけれど、そのままぱくっと口に入れた。
「……私は竜崎の椅子に居座る。あ、松田さん。」
「ん?」
「イスに居座る。……もしかしてこれは……駄洒落、ということでしょうか。」
松田さんは椅子を倒す勢いでガタっと席を立った。
「夕陽ちゃんなんか変だよ!?竜崎の真似もちょっと違うし……なにか悪いものでも食べた?栗?そのモンブランのせいかな?」
__私の勝手なイメージによる竜崎の真似、そんなに変だったでしょうか?
明らかに好奇心や心配を通り越して引いている。でも、松田さんも気持ちも分かる。だって、自分でもどうしてこんな奇行に走っているかよくわからないのだ。ただ、
「えっ……24時間行動を共にするってこういう事!?」
「男同士でキモイよ……竜崎さんってそっちもいける系?夕陽ちゃんの前でそういうの、ちょっとどうなの……」
「私だってしたくてしてる訳ではありません」
__ただ言えるのは、隣の客間での会話が耳に入るたび、私は胸のあたりがきゅっと苦しくなって、ふざけていないと身が持たないということだ。
だから松田さんの言う通り、私はちょっと変でどうかしてしまっている。
「はい。正直、すごく変です。」
「…………。」
閉口する松田さんをよそに、私は上を向いて、指先で掴んだアポロチョコを口に放り込んだ。甘い。美味しい。竜崎は毎日こんなものばかり食べて過ごしているのですか。私も竜崎になろうかな。
「甘いです。松田さん。砂糖の甘さで推理力アップです。」
「………君、実は竜崎のこと馬鹿にしてないかい?!」
思わず突っ込みの為か、立ち上がったまま声のボリュームを上げる松田さんだった。でも、私も松田さんも多分忘れていた。ここは捜査本部、基本的には仕事中。
私語厳禁。
遠くからごほん、という咳払いが聞こえてきたので、松田さんが声のトーンを抑えてすっと席に着いた。その声の主の足音がゆっくりと近づいてくるので、私は引き続き無言で竜崎のように座っていた。
「松田。」
足音にさえも威厳をまとった夜神さんは私たちの真後ろで立ち止まり、やはり威厳のある声で一言そう言った。松田さんの首が縮こまった。
「……す、すみません。つい、ノリで。」
「……夕陽君も夕陽君だ。」
「はい……。」
私は丸まって座ったまま膝を抱えた。この体制、縮こまるのにちょうどいい。なんだか安心する。振り返ると、夜神さんは両手を腰に当てていた。ちゃんと座りなさいと怒られるのかと思ったが、夜神さんは私の顔をみると、困った様子で息をついた。
「……そんなところでいじけているくらいなら、夕陽君も客間に行きなさい。」
思わぬ言葉に、私は頭をかくんと傾けた。
「……え、私、いじけてますでしょうか……?」
私の言葉を受けて、夜神さんは一瞬目を見開き、盛大なため息をついた。何故か、隣の松田さんもはぁ、とため息をついていた。二人の呆れのような空気感に挟まれた私は、膝を抱えたままただ困惑するばかりである。仕方がないのでモンブランを一口掬って食べた。
「あなたの前でキスとか……しろっていうの?」
「しろなんて言ってませんよ?しかし監視する事にはなります……」
__ほら。今も二人の会話が聞こえるたびにもやもやと思考が陰る。
私は首を傾げながら、答えを求めるように思うままに、思いついたことを夜神さんに問いかけた。
「私は、竜崎が遊んでる訳じゃないと分かってるつもりなんです。でも、会話が聞こえて、なんだか元気がなくなっていって……筋が通らないんです。だから変なのは自分で、気を紛らわせようと。……こ、この変な気持ちは、いじけていただけ……?そんなに単純なものだったのですか?」
「全く」と、目を伏せながら夜神さんが隣のスペースに腰掛けた。
「竜崎もそうだが、君たちはなんだか……不器用だな。親のような口を利くなと思うかもしれないが、時々、見ていられなくなる。」
呆れた様に、夜神さんはもう一度ため息をつくと、微かに頬を緩めた。
「……すみません。お父さん。」
「一旦、ふざけるのをやめなさい。」
「はい。」
「……ぷふっ」
「松田!」
急に真面目モードになり切れず思わずふざけると、松田さんが小さく噴き出した。遠くの月君がちらりとこちらの様子をうかがうのが分かった。
松田さんが静かにログアウトする様に椅子をくるりと回してパソコンに向かうと。そこでやれやれ、といった様子で夜神さんはあらためて私に向き直った。今度こそは私も息を落ち着かせて、足も下ろしてまっすぐ座った。あのまま竜崎の真似をしていたら本当に怒られそうだった。
「夕陽君、君にとって竜崎がとても大切だということは見てれば分かる。友人や恋人という関係以上の絆だということも私なりに分かっているつもりだ。君は自分の個人的な感情以上に、竜崎の正義を尊重したいのだろう?」
「…………。」
あまりに見透かされていたことで、私はただこくりと頷くことしかできなかった。
夜神さんは私がしっかり言葉を受け取ったのを確認してから「しかし」と強い口調で諭すように私の瞳を覗き込んだ。
「だが、正義と人間らしい感情との間に挟まれて、一人でため込むのは良くない。……私だってライトのことは息子として見てしまうくらいだ。」
「夜神さん……。」
「だからこそ私は監禁まで申し出たんだ。」
その視線が弧を描き、やってきたミサも交え三人で戯れる息子たちに放り投げられた。
「えええ?何それ?やっぱりあなた変態じゃない」
私もつられて様子を見ると、飛びのきながら竜崎に対して悲鳴のような声を上げるミサの姿が目に入った。竜崎は真面目だし、ミサのことは好きだ。好きなのに、また椅子の上で丸くなりたい気持ちに駆られた。
__そうだ、これは、大学のキャンパスで学生たちの中でつかの間の人気者だった竜崎を見て感じたのと同じ気持ちだ。好きなのに、じゃなく、好きだから。離れた場所から見ているともやもやとするんだ。これは正義じゃなくて、人間らしい感情の方か。
「……そうですね。私はもしかしたら、混ざりたかった__いえ、ただ一緒に遊んで欲しかっただけなのかもです。」
素直に認め、気持ちを吐露すると、夜神さんは急に快活そうにはっはっと笑った。
びっくりして見上げると、次に続いた言葉は、部屋の向こう側の月君と竜崎に負けず劣らず楽しそうな口調だった。
「ああそうだな。遊んでほしければ「入れて」と言えばいい。………一人でいじけて竜崎を茶化すくらいなら__あそこに行って竜崎本人にぶつけるといい。」
その瞳は、おそらく別の意味で輝いていた。夜神さんはちらりともう一度客間に視線を送ると、なにか言いづらいことを切り出す準備のように、小さな咳ばらいをした。
「まぁその……偉そうに話しておいてなんだが……父親としてライトが少々心配なんだ。正直、「複数の女性と交際していた」なんて聞いた時からキラ事件とは関係なく心臓に悪かった。」
「……ちなみに夜神さんが若いときは?」
「馬鹿言いなさい……私は、いや、それとこれとは別だ。」
遠慮がちに声を落とす夜神さんに、私は笑いをこらえ、目の前にあった緑色の包み紙のチョコレートを一つ、手渡した。でも、きっとにんまり笑ってしまっていただろう。隣で松田さんの肩が震えているが、夜神さんは気づいていない様だった。
私は冗談みたいに大きく敬礼した。
「了解です、では夜神さん、私ちょっと月君の恋愛関係を探りに突撃してきます!」
◇
◇
「ミサ、わがまま言うな。ビデオを送ったのが君だというのは確定的なのにこうして自由にしてもらえただけでもありがたいと思うべきだ。」
なにも持たず気合だけで客間に乗り込むと、ちょうど月君がミサを宥めているところだった。「探りに行きます!」なんて言ったはいいものの特に作戦はなかったので、私はなんとなく竜崎の隣に並んでみた。
「ん」という声とともに、竜崎が指を咥えて私を見た。それは一体どんなリアクションなんだろう。
「プライベートを我慢してるのは竜崎だって一緒なんだ。」
月君は私の姿をみて説得するように付け加える。するとミサが最後に会った時のように飛びかかってきた。
「夕陽ちゃん!久しぶり!!」
「わわっ」
「……ミサ。いきなり飛びついたら危ないだろ。」
バランスを崩すと、月君がたしなめるように言う。ミサはご機嫌に私に笑顔をみせると、今度はご機嫌斜めな様子で私に体を預けたまま月君を振り返った。長い髪の毛が鼻先をくすぐった。
「ライトは注意してばっかり……。ミサは彼女だよ?恋人の事信用してないの?今のは危ないだろ?じゃなくて大丈夫かい?でしょ?」
「大丈夫だよミサ!きっと月君は彼女のことすごく心配してるけど恥ずかしくて言えないんだよ。」
私の胸にしがみついたままのミサは再び私を見て目をきらきらとさせる。本当によく表情が変わる子だ。
「……本当!?そう思う?そうだよね、ライトは優しいもんね!」
きっとキラの月君だったらそこで話を終えていただろう。
しかし、記憶を無くし、限りなく正直になった月君は狼狽えるように反論する。
「か……彼女と言っても……君が「一目ぼれした」と言っていつも一方的に押しかけてきているだけで……」
「じゃ…じゃあ「好き」と言われたのをいい事にやっちゃえってキスとかしたんだ?」
ミサは月君に掛け寄ると、ぽかぽかと胸のあたりを両手で殴るようにして責めた。正直、私も物語を知らなかったら一緒にミサとぽかぽか殴りながら「サイテー」と言いたい。
「ええっ月君、えー。」
なので曖昧に、オブラートに包んで非難することにした。「月君はいい人だけれど、その辺の緩さは改善するべきだと思います!」、とミサの手前、心の中だけで叫んだ。
「全く……夕陽まで……。」
「月くん、普通はどれかだと思いますよ。本気で好きでキスするか、嘘でも好きなふりをしてキスするか、好きじゃないと言って突っぱねてキスしないか。」
私はぎょっとして竜崎を見上げた。深い意味を考える以前に、竜崎がその発言をしたという事実が私をはっとさせた。なんだろう、この胸がざわざわする感じ……キス……したからか?いや……関係ないはずなのに、自分が引き合いに出てきてしまう。好きな人の一言一句に反応するミサの気持ちがわかる、と思った。
「み、ミサ~。なんかこの話怖い……。」
そこで私は甘えることにした。女子同士、きっと分かり合える。
ふらふらとミサの方に身を寄せると、目論見通りというか期待通りというか、ぎゅっと抱きしめてくれた。ミサは厳しい表情でかばうように竜崎を睨みつけた。
「あーほら、夕陽ちゃんまで傷つけて、やっぱり竜崎さんはやばい人?」
「そうだ、竜崎、そうとも限らないだろう。」
まるで加勢するように月君が私と竜崎の間に割って入った。
「………。」
「………。」
端的に言って、それは失言だった。流石のミサも沈黙した。一方、月君は「皆どうしたんだ?」とでも言うようにきょろきょろと私とミサと竜崎を見比べた。夜神さんには報告しないでおこう、と思いながら私は遠慮がちに声を掛けた。
「………いや、今のタイミングでそれは、月君が言っちゃだめなやつじゃないかな?」
だってそれ言っちゃったら、「一方的に好きと言われたから、好きかどうかわからないけど押しかけられるままキスしました」ってことになりますし……。
「夕陽の言う通りです。恋愛ですから、好きか、どうでもいいか、どっちかです。そうでなければ、恋心を利用している、という事になりますが、ほかに何かあるでしょうか。………脅迫……報酬……それともただの性欲ですか?」
またもやぞっとするような発言をする竜崎がそこにいた。これが恋愛に関するものでなければ竜崎が普通に推理しているだけで日常の風景なのに、カテゴリが恋愛になった途端に、なぜか恐ろしい。
「……ライト……それでもミサはライトのこと信じてるし好きだよ。」
竜崎の言葉を受けて、ミサは瞳を潤わせた。
ああもう耐え切れない、と私はちょっぴりやけくそになって皆の間に割って入った。出来るだけ明るい声を上げた。
「ま、まぁまぁ、好きな気持ちに無自覚ということもあるしね!」
「!」
「!」
「…!」
フォローは自分の心の安寧の為でもあった。
しかし意外にもその場の注目を集めてしまった。竜崎は指を咥えニヤリと口角を釣り上げ、ミサはぱぁっと顔を華やがせ、月君は目からうろこ、と言った様子で口を開いていた。
「夕陽ちゃん……そうだよね、きっとライトは思わずキスしちゃったんだね!これから自覚していくなら、ミサがんばる。」
「……無自覚……まさか……っ…」
「それは実体験に基づくお話ですか?」
ミサは両手を小さく胸の前で握り気合を入れていて、月君はなぜか顔を赤くしている。なにと戦っているのだろう、「辻褄があってしまうじゃないか」みたいな表情を浮かべている。二人とも独り言を漏らしていた。
竜崎だけがとぼけていて完全に私をいじるモードで問いかけてきた。ちょっと懐かしい。
「うん、実体験だよ。」
私はそのいじりを回避しようと、こともなげにあっさりと答えたつもりだったが。
「____あとで二人きりで詳しく聞かせてください。」
「…………竜崎、僕もいるんだ、忘れるな。……夕陽……それってまさか竜崎のことか?」
「あ、はっはい……」
あ、まずい。
そう思って捜査本部に目をやると、夜神さんと相沢さんがぷるぷると堪えるように目伏せていた。どこからか戻ってきた宇生田さんと松田さんはスポーツ観戦のようにこちらを見守っていた。目がキラキラしている。
もう、秘密設定とかいいんですか?という気持ちで竜崎を見ると、ただにやりと笑うばかりだった。
「よーし、じゃあ夕陽ちゃんの話とりあえず聞こう!ミサもなんで竜崎さんなの?ってすごく不思議だったし。」
「嘘でしょ……。」
まさか月君もミサも食いついてくるなんて……大ピンチだった。
真面目な話、竜崎が居るので致命的なことは話さないで済みそうではあるけれど、少なくとももう「キラ二人にだけ付き合っている体裁で」という従来の作戦は撤廃確実だった。
今度は捜査本部公認、という形で過ごさなければいけない。
いろいろ事情や約束があってただの両思いなのに、不思議な話だ。
でもそれ以上に___知ってる展開と違う。これは、脱線しすぎている。
「では夕陽、聞かせてもらいますよ。」と竜崎が、指を咥え、接近してする。無駄に大きな目がぎょろりと向けられて、うん、これは変態、といいたくなる気持ちが分かる、と思った。
「あ、あはは……」
頑張って笑いかえすも、乾いた笑いになる。私はわなわなと手が震えるのを感じた。竜崎が数センチにまで接近し、でも月君もミサも注目していて……心臓もばくばくする。恥ずかしさか焦りか、顔が熱くなってきた。
「楽しみですね。時間はありますので順を追ってで結構です。まずは無自覚が自覚に変わった瞬間の話から聞いていきましょうか。」
__だれか早く止めて!!と私は心の中で隣の捜査本部に助けを求めた。