第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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__夕陽
____夕陽
__……そうだよ…その名前だよ。私は"透間 空"じゃなくて、夕陽。
Guardian -第五章-
◆手錠
__夕陽!
__L?……Lの声?
__そうだ、どうして忘れていたんだろう。私は、買い出しに行こうとしてホテルの前で倒れて……。
__寝てる場合じゃないや、早く起きなきゃ。
「__夕陽?」
縋りつくような、小さな声はLの声だった。薄く目を開けると、ベッドサイドの椅子にLが丸くなっていて、指を咥え、心なしか悲しそうに私を覗き込んでいた。
「…………L……?」
瞬きをしながら、視界に入る範囲で周囲を見渡す。ここは青を基調としたホテルの客室だ。
__あれ?じゃあ今までの病院は一体……?
あれは確かに現実だった。夢なら夢とわかる。あそこではむしろ、”ここ”が夢だった。テレビのニュースでキラ事件が流れていたし、点滴がよれると痛かった。
むしろ夢の中の存在だったのは夕陽の方で、この日々ごと全部、Lのことも月君のことも思い出せずにいた。
目の前にLがいる。これは夢なんかじゃない。そう思って瞬きをすると、じわりじわりと視界が霞んで、急に込み上げてくる気持ちがあった。
「L!良かった、もう会えないかと思った……!」
飛び込むように抱きつく。すると、ぽんぽん、と子供をあやすように竜崎が背中をさすってくれた。大きな目も、クマも、白いシャツも、その声も、本物で、そこにあった。これを忘れたままで夢だと思ってたなんて、なんて悲しいのだろう。
本当に良かった。また会えた。
わたしの日々は、ここにあるんだ。
「私も、こんなところで夕陽を失ってしまうのかと……守れなかったのかと……怖い思いをしました。」
最近は泣いてばかりだな、なんて恥ずかしく思いながらもLを涙で濡れた顔で見上げる。すると今度は頭をぐしゃぐしゃ乱暴に撫でられた。たけど手がとても暖かい。懐かしい暖かさだった。
「心配……かけてごめんなさい。私……夢じゃない、よね?」
「ええ、しっかり現実です。……悪い夢でも見ましたか?」
竜崎の声がしんと胸に響いて、服越しにしっかりと鼓動が伝わってきた。こんなにはっきりした感覚、夢なわけがなかった。
__でも、とさっきまでの情景を鮮明に脳裏に浮かべる。
ベッドの枕元に”透間 空”と名前があって、私はさっきまでそれが自分だとはっきりと認識していた。
__もしかしてあれは、空の記憶?
__でも、だとすると変だ。透間 空にとってこの世界は物語、別世界のはずで、彼女の世界ではキラもデスノートも存在しないはず。キラ事件のニュースが流れるはずがない。どうしてキラ事件を当たり前に知っている?どうして、あんなにも助けたいと言っていたはずのLのことを知らない?どうして、私__夕陽のことを夢として認識している?もしかして……
__空は、透間 空という人間はいま、この世界のどこかで生きている?
でも、それがもし本当だったら、すごく嬉しい。自分のために願いを託して死んだと思ってた親友が、生きてくれていたら、それはとても素敵なことだ。
「邪魔するようで悪いけれど、竜崎。僕もいるんだ。Lと呼ばせていいのか。それともLが本名なのか?」
高いところから別の声がした。視線を上げると、月君が屈んで、呆れるようにして腰に手を当てていた。Lの本名に言及しているのにも関わらず、その様子は「心底どうでもいい」といった様子だった。
「そっか私……月君が解放されるかどうかっていうタイミングで倒れちゃったんだ……。」
月君の腕を見る。じゃらりと重そうな鎖が、竜崎の手首へと繋がっていた。二人とも、互いに手錠で繋がれていた。その長さの制約が、月君を中途半端な体制で屈ませていたらしい。
私の視線に気づくと、竜崎はぷいっと月君と反対方向を見ながら吐き捨てるように言った。
「………月君さえいなければ。」
「なんだよ竜崎。僕さえいなければ何だって言うんだ。」
「ご想像にお任せします。」
「……当てつけはやめろ。嫌なら今すぐ外してもらったっていいんだからな?」
「それはあり得ません。すべてが分かるまでは私たちは離れない約束です。」
調子がでてきたのか、とぼけて冗談を言う竜崎に、月君が反論する。意識を取り戻すなり二人がそんなことになっていて、私はぽかんと取り残される。
「あ、あの二人とも……」
大丈夫かな。このまま殴り合い始めたりしないかな。そう思って声を掛ける。
月君は私の様子に気づくと、困ったように「これは……」と言いながら手錠の掛けられた方の腕を掲げて見せた。私が手錠について説明を求めていると思ったようだった。
「これは……つまり、竜崎の作戦なんだ。僕は相変わらずキラ容疑者ってことで……」
「この手錠は月君を監視するためのものです。夕陽、私が正義です。」
「……竜崎。正義って言えば何でも許されると思ってないか?」
あくまで真剣な月君は、前に会った時とやっぱり印象が違う。どことなく真っ直ぐさっぱりとしていて、感情豊かに見える。あの時、無理に笑っていた表情なんか絶対に浮かべなさそうで、なんだか安心してしまう。
「あの、えっと……月君も元気そうでよかった。監禁とけたんだね。安心した。」
「ああ、僕も君が無事そうで安心したよ。竜崎なんか昨晩は「私が夕陽の隣にいなければ」とか言って寝てないからな。……まぁ、だから僕も寝てないんだけどね。」
「……月くん、それは言わない約束です。」
「ん?約束なんてしたか?」
「とぼけてると蹴り入れますよ……」
「別にいいじゃないか。夕陽だって過去、何度僕にむかって「竜崎が好き」みたいな話をしてきたたことか……。お互い、仲がいいのはいいことだろ?」
「……………………………………………いいことです。」
「あ、あぁぁ月君?!私そんなこと言ったかな?記憶がちょっと混濁……あ、そうだ、竜崎!わたしが寝てる間、事件はどうなったの?な、なんか月君と相棒っぽくなってるけれど……!」
月君、記憶がなくなったのは知ってるけれど、なんだか天然ぽくなってしまっている!
そんなテロ発言にあわあわと誤魔化すように事件のことを尋ねると、月君がリアクションするより早く、今度は竜崎が体ごとこちらに乗り出した。月君が不満そうに引っ張られ、私は布団の中で後ずさりした。
「……夕陽にはお伝えするのが遅くなってしまいましたが、月君も、弥も、あの場のテストでは「キラでない」という結果となり、解放しました。現在はこのような状況ですが、当分は一緒に捜査していくことになります。弥も監視状態にあるので、会いたければ会えますよ。」
「……そっか。……教えてくれてありがとう。大丈夫、きっと二人が協力すればすごいパワーだよ!今のキラもすぐ捕まるよ!………ところで私って、どれくらい寝てたのかな?」
竜崎の視線が宙に浮き、再び戻ってくる。
「ちょうど24時間ほどでしょうか。」
「一日……よかった、もっと時間が経ってたらどうしようかと……。」
そっか、と思った。
どうりで竜崎は疲れた様子だった。それもそうだ。あれだけ意気込んで作戦を立てて、あとちょっと、というところまで来たのに、結果はシロだったのだ。昨日の今日なら、竜崎にとっては落胆するのも仕方ない。
「二人とも、お腹空かない?」
私はよいしょ、とベッドから身を起こした。
倒れる前に考えていたように、やっぱり元気づけよう、と思った。
「私、なにか食べられるもの用意するね!」
「いやいや、夕陽、今日はもう無理しないでこのまま休んでいたほうがいいんじゃないか?」
「月君は夕陽の心配しなくて大丈夫です。その呼び捨てもいつからですか?……夕陽、今日は私も早めに捜査を切り上げるので無理せず休んでいてください。」
「………分かったよ。僕も一緒に切り上げることになるんだな。」
「繋がってますからね。」
「……その言い方はやめろ。」
__あれ、なんだろう。この二人、何気に息ピッタリじゃない?
「………ふふっ」
私は、思わず笑ってしまう。もっと仲良くなってくれたらなんだか嬉しい。こちらを見て不思議そうにする二人に向けて、私はぐっと拳を握って見せた。
「……どうしました夕陽、なにをそんなに楽しそうに笑っているんですか。」
「うん、なんか二人……お似合い、って感じ?相棒みたい、というか」
「「はぁぁ!?」」
思ったままを口にすると、予想通りに不満の声が上がった。でも、異口同音。私はますます嬉しくなってしまう。口が揃った二人は驚くほど素早く互いを睨むように視線を合わせると、ぷいとそっぽを向いた。竜崎は親指の爪をがじがじとかじり始めた。
「粧裕みたいなこと言うなよ……。夕陽だって前に言われて困ってたじゃないか。僕とお似合いとかなんとか。」
「そ、その節はまぁ、なんとも思ってないから……あはは。」
それを言われると気まずい。竜崎を見ると、親指の爪を齧ったままじとりと恨めしそうな視線を返された。私はひっと飛び上がる。さっきまでと優しかった竜崎はどこに。
「おおよその察しはつきます。月君はモテますからね。それで夕陽ともいつのまに名前を呼び合う仲に?」
「……………散々目の前でイチャついておいて、随分な皮肉だな。夕陽が目を覚ました瞬間はわざわざ空気読んで黙ってやったんだからな?」
「私は別に空気を読めと頼んではいません。」
またもや不穏な空気になる二人に、私は本来の話題を戻すことにした。そう、たしか、捜査を早く切り上げるかどうか、あとは私が無理してないかどうか、みたいな話題だったはず!
「……ま、とにかく私ならもう大丈夫だよ!さすがに24時間眠ったままでお腹すいたし、なにか甘いもの食べたいし!……ただ、ちょっとシャワー浴びてもいいかな?」
シャワーと言ったところで、竜崎は人差し指を口元にあて、きょとんと静止した。月君は、なんだか驚いたようにしてから目を逸らした。なんだろう、月君はこの前からそんな仕草を良くするような。
竜崎はにやりとして手錠の鎖をもう一方の手でじゃらっと引っ張る動きをした。
「……ええ。そういう事なら。行きましょう月君。」
竜崎は私に向けていたそのにやり顔をそのままゆるりと月君に向けた。何かを面白がっているようだった。視線に気づいた月君は神経質そうに眉間にしわを寄せる。
手錠のついた両手を竜崎はポケットに突っ込み、客室のドアの前で立ち尽くす。ドア開けないのかな、と思っていると、その後ろからため息をつきながら、仕方なさそうに月君がドアを開けた。私は二人の様子に笑いをこらえつつ、手を振った。
「じゃあ竜崎、月君、また後でね!」
「はい、ではまた後程。」
「あぁ、……おい竜崎いきなり引っ張るな!」
最後の月君の声は、遠ざかりながら聞こえてきたものだった。あはは、と笑いながら、ドアがかちゃりと閉じた。
まさかあの二人に対して嵐が去ったような、なんて感想を抱くとは思わなかった。
静かになった部屋は、電気が灯されていない。窓の外はすっかり暗くなっていて、もうほとんど夜だった。
さて、スイーツ係のお仕事だ。
残念ながらチョコレートフォンデュはまた別の機会に、という事になりそうだけれど、材料も、出来合いのお菓子もたくさんストックはある、何をもっていこうかな。
でもその前に、と私はリンゴを一つ手に取った。アップルパイを作った時の余りだった。
「はいリューク。月くんと話せないの寂しい?」
「イヤ、リンゴがあればオレは元気だ!おー、サンキュ!ケケケッ」
「……結局、居座るのね。」
投げつけるようにもう一個リンゴを投げると、今度はヘタなどきにせず頭から「うひょーっ」と丸のみするリュークだった。
竜崎と月君が手錠で繋がってしまった今、竜崎がここで眠ることはしばらくなさそうだ。私は自室でまた一人だった。でも、どうやら一人ではないらしかった。
「よろしくな夕陽!」
死神大王が咎めるまでは、しばらくはリュークが私の話し相手になるかもしれなかった。
リュークならどうせ忘れちゃうだろうし、相談してみてもいいかな。
「……リューク、私どうしちゃったんだろう。」
林檎にがっつく死神に、私は尋ねてみた。その答えなど知るよしもないのに、ただ、不安を吐露したかった。
「急に倒れたと思ったら、死んだはずの親友の意識の中だった。もうここに戻れないかと思った。こんなこと、また起きるのかな……?」
しゃくしゃくとかみ砕く音ののち、リュークが私をまじまじと見つめた。今更、珍しいものでも見るような視線だった。
「…………レムがお前のことを話してたぜ。普通じゃないのは分かってたが、珍しいもんだ。……ノート嫌って死のうとして、でも仲良しだった人間に寿命をもらって、その人間の姿で、しかもショックで記憶なくしてこっちに来たんだってな?しかもこの世界、別世界どころか向こうじゃ物語なんだってなぁ?」
ショックで記憶をなくした……という訳では無いだろうけど、そうまとめられてしまうと何とも突飛だ。そして悲劇だ。いまだに実感を持てるような記憶は戻らないのだから困りものだ。
「うん、そうみたい。……変な言い方だけど、そういうことらしい……そういうことになってるの、私。」
自嘲的に笑ってみると、ごくりと喉を鳴らして、リュークがゆらりと宙に浮いた。浮いたと思ったら、ケケケケ!と部屋中に響きそうな笑い声をあげた。心底、愉快だ、とでも言うような笑い声だった。
きっと関心のないことだろう、とそう高を括っていた私は、思わずたじろぐ。
「お前、あのLを助けたくてずっと未来を変えてきたんだってな?……その親友?例の人間か?そいつが生きてるのも、そのせいなんじゃねーか?ケケケッ」
「未来を変えたせい……で過去が書き換わるとでも?」
終わってしまったことは取り返しがつかない、未来を変えても、過去は変わらないはずだ。私はリュークの言うことが理解できなかった。
「イヤ、オレが言いたいのはな。……未来を変えて物語の内容が変わるから、その人間が読むはずの……なんてタイトルなんだ?分からないが、その物語はなかったことになるんじゃねーかってことだ。……なかなか冴えてるだろ!ライトみたいだろ?ククク……」
「そんな、いきなり物語が消えるなんて……」
でも、そういわれると、辻褄が合う部分がある。__“合ってしまう”。
透間 空がお気に入りの本のタイトル__『デスノート』を思い出せなかったこと。
テレビのニュースでキラ事件が現実として報道されていたこと。
そして、おそらく__「物語のなかの人物を助けてほしい」というやり取りを、私という死神とした事実すら、なかったことになっているとしたら。
「まぁ人間界の隔たりなんて大したものじゃねーからな!」
「つまり、世界は一つに……?……空はやっぱり生きてるんだ!どこかで……。」
彼女が生きているかもしれない。その可能性がより濃厚になって、心の奥底の大きなつっかえが取れそうな心地がした。誰よりも自分のために命を呈してくれた彼女。このままじゃいけないとは思っていたんだ。
「それで空は私のことも……物語の記憶と一緒に死神のことも忘れてしまったんだ。……いや、忘れてるんじゃなく……そもそも私達、会わなかったことになっているのかもしれない。」
私の言葉を聞いて、それまでケケケと笑いを漏らしていたリュークがん?と体ごと首を傾げた。
「それは……お前がその人間から寿命を貰わなかったことにならないか?……てことは、お前も消えちまうんじゃねーか?これは笑えないぜ。ククク。」
結局笑ってるじゃん、と頭の隅で思いながら。
私は体が震え出すのを止められなかった。両腕で全身を抱き、それを抑える。
「空は、……夕陽として過ごした私の記憶を夢として見ているかもしれないんだ。……意識がつながるかもしれない。これだけ奇跡が続いているなら、例え私が消えたとしても……きっと…」
きっと日々を続けられる。Lの側で笑えるだろう。姿形は一緒だし、空は私よりずっと優しくていい子なんだ。
空になら、ここまでの記憶を、全てを託してもいい。だって恩人だから。
でも、所詮は淡くて儚い希望だった。そうだといいな、という理想だった。
「でもまだ、だめだ。だってLを助けられるのは、私だけだから___消えてもいい。けれど、せめて、もう少し、待ってほしい。」
ここまでの作戦、そして物語の先を知っているのは私だけだった。どんなに気持ちを押し殺しても、そこだけは譲ることが出来なかった。
Lの守護者でいられるのは、夕陽だけだ。