第五章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「よし!久々にたくさん買い出し、頑張ろう!」
私は一人、作戦にあたる竜崎たちを置いて買い出しに出ていた。
このあと竜崎は月君とミサのテストをする。夜神さんに演技をしてもらって、レプリカの腕時計も実際に使うか試すのだろう。だけれど、記憶のない月君は殺しの方法も腕時計の細工のことも忘れているので、ただ解放されるだけだ。
捜査本部に揃うのは、きっと疲れ切った三人と、がっかりした竜崎という顔ぶれになるだろから、私だけでも元気づけたい。捜査は表立って進行させられないけれど、甘いもの、美味しいものをせめて用意できたなら……。
「バナナと、竜崎にいちごと、あとは意外にオレンジもおいしいから、それとマシュマロも……」
ちょっとだけ豪華に、皆で食べられるものを用意しようと、チョコレートフォンデュでも作ろうかな、と考えていた。
徒歩圏内のお店に買い出しに行くために、ちょうどホテルのロビーを出たところだった。まだ、豪華なロータリーの内側で、歩道には白いレンガが敷き詰められていた。
「おう!オレにもリンゴよろしくな!ククク……」
「おっけー!じゃあリュークにはリンゴと……って」
聞き覚えのある声に自然に返事を返してから、はっとして振り返る。予想通り、背後にはご機嫌そうに笑う黒い死神がいた。なぜか丁寧に翼を閉じて、長い脚でとたとたを歩いて後ろをついてきていた。
「な、なんでリュークがここにいるの?死神界に還ったんじゃなかったの?」
「んーあぁそうなんだけどなぁ……別にちょっとリンゴ貰うためにふらついたくらいじゃ何も言われないだろ。」
「そっか、しばらくは月君からリンゴもらえなくなっちゃうもんね。」
「その通りだ!……だからしばらく夕陽のとこにいるぜよろしくな、ケケ!」
リュークは遠くの空に視線を送る。何も言われない、というのは死神大王のことを言っているのだろうか。
私は振り返りながら、「適当だなぁ」とか、そんなことを言おうとした。
__世界から切り離されたかと思った。
唐突に意識が遠のき、足元が覚束なくなり、私はその場でバランスを崩した。
スローモーションのように身体は倒れ、そのまま視界がぐにゃりと歪み始める。
__大丈夫、まだホテルの敷地を出ていない。人目もある。誰かが気づいてくれるはず。
「__おい、大丈夫か?!」
遠くから誰かが走ってくる。誰だろう、知ってる声だ。
「夕陽じゃねーか!……くそ、おい!しっかりしろ!」
__宇生田さんか。よかった、宇生田さんなら大丈夫だ。きっと助けてくれる。
__どうか私が倒れたことが、竜崎や夜神さんの邪魔になりませんように。
____そして世界が暗転した。
Guardian -第五章- Prologue
◆記憶
__頭が重い、どうしてだろう。
ずっと寝ていたように、頭が鈍く痛む。いや、ずっと寝ていたのだろうという実感が全身にあった。私は布団に埋もれていた。私は手足に絡まる布団やシーツから抜け出し、ぷはっと息継ぎのような呼吸をした。
空気はぱりっと乾燥していて、仄かに薬品の香りがした。
「……病室?」
ようやく目を開けると、そこは真っ白な部屋だった。
心当たりは全くないけれど、どう見ても病室、そして個室だった。
ベッドにくっつくような位置に、窓がある。私のすぐ右に、四角い空と夕陽が見えた。
どれくらい寝ていたんだろう?自分は何をして、こんな病院のベッドなんかに寝ているのだろう?
「___透間 空」
周囲をぐるりと見渡しながら、ベッドのヘッドボードに楷書で記された自分の名前を見つけた。
うん、私だ。
ついでに自分の服装が薄手の柔らかいパジャマで、左腕に点滴がくっついていることも認識して、ぞわっとする。でも、大丈夫、ただの栄養剤みたいな名前のラベルだった。
「でも、私は……」
私は、”透間 空”じゃなくて、ずっと……。
当たり前のように受け入れることのできる”透間 空”という名前は、同時に何かを失ってしまったような寂しさを胸にもたげた。私はその灰色の寂しさの正体がわからず、ただ、頭に浮かんだ一つの名前を口ずさむように呟く。
「ずっと、夕陽って呼ばれていたはず……」
ずっと、それこそ数か月や一年という単位で、夕陽、夕陽ちゃん、といろいろな人に呼ばれていた気がする。気のせいと言うにはあまりに現実味を帯びていて、それはまるで一つの記憶のようだ。
__でも、誰に?ずっと、っていつの話?
「……あそっか、夢の中のことか。」
ついさっきのことのように感じられる記憶は、夢の中のことだった。
夢の中で、私は世間を騒がせるキラ事件を、あの正体不明と言われる名探偵のLや捜査本部の皆と一緒に捜査しながら、日々を過ごしていたんだ。
夕陽と呼んでくれたのは、彼らだ。
L……その響きは、なんだか心が温かい。でもどんな人だっただろう?
どんな人かははっきりと思い出せないけれど、私はLの隣にいたような気がする。どれも夢らしく、細かいところを思い出そうとすればするほどに消えていく。ぼんやりとした映像だった。
それにしても、どうして私はここで寝ていたのだろう?どうして、入院しているのだろう?
そう、思い出せるのは、いつも通り、屋上にいたところまでだ。私は本当に、ただいつも通り、屋上に上って本を読もうとして__
一人じゃなくて、大好きな友達が一緒にいたはずだ。
__でも誰だったっけ?
その友達と一緒に、私はお気に入りの本を読もうとしていたんだ。
__でも、その本のタイトルはなんだったっけ?
「あはは……頭でも打ったのかな。思い出せないや。おかしいな、あんなに大好きだったのに。何度も何度も読み返してたはずなのに。」
考えても仕方ないっか。それに、ここは病院だし、私が目を覚ましたらきっと「大丈夫ですか」なんていって看護師やお医者さんが状況を説明してくれるはず。
そう暢気に構えて、私は誰かがつけっぱなしにした備え付けの小さなテレビをなんとなく眺めることにした。
『続報です。先日お伝えしたキラに関する__』
__『犯罪率また低下』『キラ』『Lの正体に迫る』、ヘッドラインに表示されたテロップはどれも同じような内容ばかりだった。
犯罪者にしても、警察官にしても、ニュースキャスターにしても、毎日、人の命が失われていく。それなのにメディアは「キラvsL」と、まるで格闘技の試合のような盛り上げ方をしている。そんな報道はただ心苦しいばかりで、私は早くこんな日々に終わってほしいと思う。
ずっと寝ていたはずの私も、キラという存在が世間を騒がせていることを良く知っていた。だって、世界中でそれは、当たり前の現実なのだから。どんなに空想じみていてもこれは現実で、病気や事故のようにキラの裁きによって犯罪者は毎日死んでいく。
「キラ事件、L、か……。」
__あれは本当に夢だったのかな?
夢の中の私はキラの正体さえも知っていて、キラともLとも一緒にいた。二人は、どんな人でどんな顔だったっけ?
キラ事件は悲しく痛ましい事件ではあるけれど、夢の中の私、夕陽にとっては日常のある場所で、守りたい人もいた気がする。でも、目が覚めてしまった今は、全く思い出せない。
「本当だったらいいな、なんて。」
全然思い出せないけれど、感情だけは__すごく、もっと続いてほしかったなぁ__なんて想いだけが胸をいっぱいにした。
でも、夢なんてそんなものだろう。
白いはずの病室を見渡した。窓の外からの西陽で、部屋中がオレンジ色だった。自分の影だけが黒く床に落ちていた。
ちょっと感傷的になってしまったのかもしれない。
そもそも病院で寝ていた理由さえ分からないほどに記憶は混濁しているし、きっと寝ぼけてもいるんだ。私はいろいろな気持ちをかき消すように頭をぶんぶんと振った。重いままの頭が鈍く痛んだ。
ドア越しにきゅっきゅっと光沢ある床に引っ掛かるような足音がして、「22号室は透間さんが……」という声が聞こえた。カートを転がすような音も一緒に聞こえたので、回診の時間が来たようだ。なんとなく寝たふりをしていようと、私はまた布団をかぶった。
できればまたこのまま眠りについて、あの夢の続きをみたいな、と願った。