第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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____夜神月 監禁 7日目
「月君、まだ一週間ですがさすがにやつれてきています。大丈夫ですか?」
『あぁ…自分でも格好の良い状態とはとても思えないが、そんなくだらないプライドは……』
虚空を睨みつけた夜神月は、ついにその言葉を口にした。
「捨てる」
”はいよ。……じゃーなー夕陽。”
黒い死神、リュークは合言葉に身を翻し、おどけるように壁へと身を消していく。
こうして、キラはその記憶を失う事となった。そして、私との秘密の共有も、協力関係も消えてしまった。
Guardian -第四章-
◆レプリカ
__夜神月が記憶を失い、キラでなくなってから一週間、キラによる殺人が再開した。
『ズームでもなんでもして僕の目を見てくれ!』
『僕はキラじゃない、何度言ったら分かるんだ。じゃあそこにいる誰かがキラだ!一緒に捜査させてくれ。』
月君は別人のように感情的に自らがキラでないと主張をはじめ、
『ストーカーさん、だってキラはミサの恩人だよ。誰かは私だって知りたいよ……。』
ミサは相変わらず、カメラ越しの私達を「ストーカーさん」と呼んだ。私も竜崎の隣でモニターを眺めていた。痛々しいのは、監禁状態の三人だけではなかった。隣に目をやれば、分かりやすく狼狽する竜崎が居て、毎日がいたたまれない時間だった。
「竜崎……。」
「何が何だかわからない…ふとそう考えてしまいました。」
いつでも冷静にモニターをじっと見つめるだけだった竜崎も、キラの殺しが再開された知らせを受け取った瞬間は、モニターの向こうの二人の言動を見て、眉を潜めていた。
「自覚がないとか、能力は渡っていくとか、死神に操られていたとか……私にはそんな空想じみたことしか思い浮かばないな。」
たった一度だけ、悩む竜崎の姿に耐えかねて、そんなことを口走ってしまったことがある。しかし、竜崎は閃きを得るそぶりは微塵もなく、目線を落としたまま声低く答えるだけだった。
「ええ……可能性としてはもちろん考えているのですが……死神、というワード然り……裏付けがなければ、途方のない推論は広がっていく一方、真相には永遠に辿り着けません。攪乱……それこそがキラの目的だとすれば、まんまと引っ掛かっていることに……。」
「……そうだね…ごめん。」
竜崎は人知を超えた可能性を全く考えていないわけではなかった。しかし、途方もない空想は無限の仮定を要し、論理的になればなろうとする程その可能性は際限なく広がっていく。ここまでは夜神月という人間にフォーカスして推理してこれたからこそ、想像に頼るしかないこの現状は異常事態だった。
要するに、私が何を言ったとしても、確固たる何かがなければ、それは竜崎を困らせるだけだった。
__私の動くタイミングも、まだまだ先だから……。
そう自分に言い聞かせて、ただ時間が過ぎるのをじっと待つしかなかった。
__そうして約1か月経過した。
夜遅く自室に戻ると、開けっ放しだったノートパソコンの画面上に、珍しく「Watari」という名前でメールが来ていた。暗い室内で明るいモニターだけが青白くデスクを照らしていた。
「明日の15時、Tホテル2790号室……」
差出人こそワタリさんだったが、おそらく召集は竜崎によるものだろう。同時送信でナオミさんと思わしきアドレスも含まれていた。
つまりは第二捜査本部、二回目の招集だった。
「第二捜査本部の皆さん__ワタリ、南空さん、夕陽……にはまた集まってもらったわけですが」
竜崎の黒一色で塗りつぶしたような瞳が、テーブルを取り囲む私たちをぐるっと一周した。そのテーブルの上にはスイーツがお茶会のように所狭しと並べられている。前回の招集と同じく、私とワタリさんというお茶の準備ができる者が二人が揃う場のため、豪華版である。
竜崎はどことなく楽しそうだった。両手を膝に置き、前のめりにテーブル中央のマイクへ身を乗り出した。
「それからマイクを通じて夜神さんとも通信がつながっていますね。夜神さーん、私の声、聞こえますか?」
『……聞こえている』
第二捜査本部、と便宜上呼称される私たちは、ひとつのローテーブルを囲むようにして席に着いた。四隅にそれぞれ私、竜崎、ナオミさんが座り、ワタリさんは離れたパソコンに向かっている。残りの一角は持ち運び式のモニターが置かれ、自ら志願し、現在は監禁状態の夜神さんが映し出されていた。
「……とはいっても夜神さんからはこちらは見えませんけどね。」
『そっちはどんな様子なんだ』
モニターの中の夜神さんはベッドに腰かけ、スピーカーのある方向へ顔を向けていた。形式上、席を一緒に囲んでいても、向こうからはこちらの様子は見えないのである。
「私、夕陽、南空さん、それと夜神さんの映ったモニターがお菓子を囲んでいます。夜神さんだけ食べれないのは気の毒ですので、あとで夕陽になにか持っていかせましょう。ここに並んでいるのはビスケットとトフィーと……」
「竜崎!」
ナオミさんがぴしゃりと窘めたので、竜崎は恨めしそうに口をつぐむ。大きなガラス製の器に盛られた大量の宝石のようなジェリービーンズを一粒、神経質そうな指先が摘まんだ。
『………竜崎。監禁状態の私まで、同席とは…一体この召集は何なんだ。』
「ええ。腕時計ですが、アレの調査結果が出ました。」
『なんだって!……そ、それで結果は、なにか出たのか…?』
勢いよく立ち上がりふらつく夜神さんと、唇をひっぱりながら遠くを見て話す竜崎だった。ナオミさんは腕を組み、じっと次の言葉を待っているようだった。竜崎以外に緊張感が漂う中、私はそんな周囲の様子に集中していた。
「夜神さんには確認したいことがあります。」
『確認?なんだ。』
ジェリービーンズを口に放り込んだ竜崎が、肩越しに手を伸ばす。その手にワタリさんからクリップ止めされたA4の紙の束が渡された。竜崎の目線より高い位置でぱらぱらとめくられるその資料には、様々な角度から月君の腕時計を撮影したと思われるカラー写真が見て取れた。横文字、英語の資料だった。
「あの腕時計には細工がされていました。月君本人の手によってです。……そのことはご存じで?」
『……細工?いや、知らない。どんな細工なんだ、まさか凶器が…』
『いえ、凶器や毒のような危険物ではありません。……しかし手の込んだ細工です。リューズに仕掛けがあり、文字盤の下に小さなメモ帳のような紙片が入っていたそうです。』
メモ帳、と言いながら、竜崎は小さなクラッカーをぱきんと割って目の前にかざして見せた。自然と、私とナオミさんの視線がその手元に吸い寄せられる。
「腕時計の文字盤に入る大きさの紙片ですから、とてもメモとして使えるようなものではないでしょう。……念のため聞きますが、月君には病的なまでににメモを取りたがる癖などないですよね?」
『あぁ、私の知る限りでは。』
「そうですよね。私もそう思います。どうでもいい確認でした。その線はナシです。ですので、疑いは深まりました。」
細かく言葉を区切っているようで、話題の遷移があまりに早い竜崎に、夜神さんは口をあけたまま答えあぐねているようだった。その様子をくみ取ったのか、ナオミさんがため息を一つはいて、竜崎を覗き込んだ。
「……なにかと視線を送る腕時計に、手の込んだ仕掛け、そして小さすぎる謎の紙片……その紙片は単なるメモなんかより重要な役割を持っていると考えられる、ということよね。」
「はい、南空さん。あ、レポート見ますか。」
慎重そうに低い声を出したナオミさんに対して、竜崎がぽいと、私の頭越しに資料を投げた。実際はぽーいなんて軽いものではなく、数十ページにもわたる資料はバサァッと派手な音を立ててナオミさんの膝に着地した。
「竜崎ぃ……。言ってくれたら渡すのに……。」
思わずむっとして竜崎を見ると、悪戯をしても悪びれない子供のように目を丸くして、指を咥えた。
「なるほど。細工内部から検出されたDNAは夜神月のもの……紙片には罫線のようなものがあり、そこからメモ帳やノートのようなものだと……」
かなりのスピードで資料をめくりながら、ナオミさんが呟く。
竜崎は身を乗り出し、ソファの上に立ち上がるようにしてナオミさんの持つ資料を上から指さした。
「ええ、そしてインクや付着物、メーカー等を調べたのですが…該当する結果はありあへんでひた。」
『……?………悪いが竜崎、もう一回言ってくれないか。』
ぼそぼそとしたフィナンシェを口に入れていたからか、発音が不明瞭な竜崎を、こちらの様子を見られない夜神さんが真面目に指摘する。眉間にしわを寄せる夜神さんに、思わず場違いにも笑いそうになってしまった私は紅茶を一口飲んで我慢した。不謹慎だ。
「日本、アメリカをはじめとする世界中のインク、塗料を当たりましたが、該当する製品はありませんでした。……というよりも、成分自体がそもそも何なのか不明です。調査結果が出るのがこんなにも長引いたのはそういう訳です。」
「普通のメモ帳、ノートじゃないってことですよね?」
ようやくタイミングをつかみ、私は言葉を発する。竜崎は目だけでこちらを見ると、「ええ」と口角を引き上げた。
「相沢さんが言ってたけれど……月君の勉強机の二重底、キラ事件の推理ノートが出てきたんですよね。もしかしたらそれはフェイクで、もともとはなにか別の……例えばノートのようなものが入っていたかも、と考えられないですか?」
これくらいは言ってもいいはずだ。私は口元に手を当てながら、ゆっくりと考えるように話した。ノートのようなもの、というと、ナオミさんが納得するように頷き、続きの推論をした。
「夕陽の話は十分あり得るわね。紙片があるなら、大元があるはず。……いえ、待って。竜崎。」
ナオミさんは、はた、と言葉の途中で静止した。手に持っていた資料がぱさりと閉じる。その瞳だけが記憶を追いかけるために左右に揺れていた。
「捜査資料にたしか……”5月22日、青山でノート”を、と……!」
ほぼ確信した様子で、ナオミさんは竜崎に視線を送る。拳が強く膝の上で震えていた。
竜崎はゆったりとした動きで遠くのトフィーを摘まみ、三角座りの膝の上に乗せた。それからそのトフィーが犯人であるかのようにじっとりと大きな二つの瞳で睨みつけた。
「その通り。そして弥の証言です……”5月22日に青山で夜神月に一目ぼれした”……と。」
『…!』
「!」
__物語を知っている私ですら、その場の空気に鳥肌が立った。
竜崎が前を睨みつけた視線のまま沈黙すると、私たちは言葉を一時失った。あまりに揃いすぎている、という疑念さえ生じそうなほどに状況は明白であり、自明だった。
『……竜崎。』
初めに口を開いたのは、ずっと沈黙し続けていた夜神さんだった。脱力したように、簡素なベッドに浅く腰を掛けていた。
『それでも私は、息子がキラでないと信じているし、ここで主張する。……その紙片の正体はわからないが、まぁ、あんなライトだって悪戯でもの細工することはあるかもしれない。それに今もキラによる殺しは行われているんだ。』
「………ええ。おっしゃる通りです。これはすべて推測でしかありません。」
その返答を、竜崎は真摯に受け止めたようだった。
竜崎は静かに、ただまっすぐな視線をモニターへと向けた。互いの姿は見えていないはずなのに、夜神さんも真剣な表情でマイクの方向を見つめていた。
「ですので、遅くなりましたがここからが本題です。皆さんにはこの件に関する私の結論を聞いていただきたい。」
あらためて竜崎は私達全員に呼び掛けた。背筋を伸ばして彼を見る。ふと、目についたカレンダーを脇目に、「そういえば今日は月君が監禁されてから50日目で、解放が提案される日だ」と思い当たった。
私達の緊張感に反して、中心の竜崎は力を抜いたように見えた。挑戦的ではないものの、ゆるやかに口元を緩め、彼は振り返り「ワタリ」と声を掛ける。
すると、呼びかけに素早く反応したワタリさんが、竜崎に手のひらに乗るほどの黒い立方体の箱を手渡した。
「調査結果の報告に時間がかかったのはインクの調査のせいだけではありません。」
なんだろう?と注目すると、竜崎はその箱の上半分を二本の指で、大きな仕草で取り払った。
中から出てきたのは銀色の__腕時計だった。
「例の腕時計の精巧なレプリカを作りました。同じ仕組みで開き、中にも同じ外見の紙片を入れてあります。月君には釈放と同時にこちらを返し、着用させ、殺しをせざるを得ない状況を作り出し、その用途を__月君がキラであるかを監視します。」
「レプリカ……。」
「夕陽、何か気になることが?」
「い、いえなんでも!」
思わぬ展開に、私はその単語を繰り返した。親近感……ではないが、はっとする話ではあった。竜崎はその腕時計を手に取り、頭の上で客室用シャンデリアの光に透かす。きらきらと反射する文字盤は、とてもニセモノに見えなかった。
「これには父親である夜神さんの協力が不可欠です。一芝居打っていただこうと考えているのですが…具体的な方法については直接お話しさせてください」
『わ、分かった……ここまで来たら何でもしよう。』
夜神さんが承諾すると、ワタリさんが別の回線でいくつか独房内と言葉を交わす様子が部屋の隅で見えた。モニターに視線を戻すと、脱力した様子でベッドにあおむけになる夜神さんが映し出されていて、そのまま画面は暗転した。どうやら夜神さんとの通信が切断されたらしい。
それを見届けたのち、言うのを我慢していた様子でナオミさんが口を開いた。
「それで、竜崎…もしも、その腕時計が使われなかったら……あるいはこちらの意図がばれていたら……夜神月はその後、どうなるんですか?」
確かにそれは夜神さんとの通信が生きている間は訊きづらいことのように思えた。
しかし、夜神月=キラとほぼ確信しているナオミさんにとっては最も知りたいことだろう。竜崎はぱきんと、大きな音でチョコレートをかみ砕くと、私のよく知る物語の通りの作戦を口にした。
「もしその場でキラでないという結果になったら、条件付きで__私と24時間行動を共にし、現在のキラを共に捜査することを提案します。」
視線がぐるりと一周し、最後に私を見る。とりあえず笑顔を返してみると、にやりと微笑み返された。
「現在殺しをしている方のキラが捕まれば、殺しの手段が分かるかもしれません。例の紙片……ノートのようなものが何らかの形で殺しに関係しているとしたら、仮に呼ぶとすればそうですね………」
今度はまるで死神のように不気味にゆらりと口の端をつりあげた。
「”デスノート”……なんてどうでしょう。」
その場にいた誰もが、まるでその単語を知っていたかのように目を伏せた。
「……悪趣味ね…。」
数秒開けてナオさんがと呟くと、竜崎はとぼけた様子でまたチョコレートを割った。
静寂のなか、私は意を決して立ち上がった。
スカートが落ちる音がして、ふいな行動に、皆が顔を向けた。
「よし!」
「どうしたの夕陽?」
「ちょっとお使いに行くんです、ナオミさん。」
この後、月君、ミサ、夜神さんが解放されるのなら、暖かく迎えてあげたい。事件のさなか、捜査本部の皆はそんな余裕ないだろうから、せめて私だけでも。
「今夜はちょっと豪華にチョコレートフォンデュでもしようかなーと。どうでしょう、ね、竜崎?」
場違いな発言かもしれない、でもにっこりと笑い、私は高らかに宣言する。遠くのワタリさんと目が合い、悪戯なウィンクが返された。
見下ろすと竜崎が子供のような瞳で顔ごとこちらを見た。
「いいですね。私はイチゴが欲しいです。」
__皆で甘いものでも食べましょう、というのが、会議の締めくくりの言葉だった。