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第四章

名前変換 Who save his life is...

主人公について
記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。

平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き

本名は番外編等で登場する予定です
Lに付けてもらった名前は?
本名(下の名前)は?
適当に自分で考えた苗字は?(偽名)
本名(苗字)は?




「レム このノートの所有権を放棄する」

 所有権の放棄を宣言した瞬間に、ミサに憑いていた白い死神のレムの姿は見えなくなった。去り際に羽ばたいた風だけが頬をかすめた。やはり、リュークの側のノートさえ持っていればレムの記憶がなくなることは無いようだ。

 __それにしてもレム。お前が人間界にノートをもう一冊持ち込んだおかげで僕はこんな目に遭うことに……。恩返しだ、愛だと、個人的な感情がキラの邪魔を……。

「本当にいいのか?ライト」

「あぁ……ここまで来たらもうこうするしかない……」

夕陽が欲しがってたけど、ノート預けないのか?」

とっくに除外していた方針だ。そういえばそんな提案もあった。

「……」

の協力はもはや不要だ。どれだけ協力を申し出ようが、彼女のLへの協力の態度は揺らぎないものだ。ミサと接点を持って以来、あんなにもしつこく付きまとってきた彼女がぱったりと僕への協力を申し出なくなった。
所謂、「夕陽ルール」を僕に書き込ませてから、あえて距離を取ったように感じなくもないが……。

「あぁ。あいつには渡さない。その方が確実、それだけのことだ。」

前にリュークに話した通り、あのルールをこちらに提案してきたという事は、キラが捕まることを望んでいることに他ならない。ならば、彼女の言葉の真偽はともかく、L側に物証となるミサのノートをみすみす渡すのは愚かな選択だ。

「まぁ、夕陽ルール書いてたもんな。……書かなくても良かったんだろう?」

リュークは遠くの空を大きく口をあけながら仰いだ。それはミサのノートのことを言っているのか。
ミサが初めにノートを託してきた際、ついでにそちらのノートにもリュークにルールを描かせたのだった。書いておいて損はない。

"Notwithstanding of its intention, the owner of this note must keep writing someone’s name"

『本人の意思に関わらず、このノートの所有者は必ず誰かの名前を書き続けなければならない。』

の考えた偽のルール、それと併せて別のルールも書き足した。
僕の考えたルールはこの後の作戦で必要になるものだが、のほうは、特に出番はない。彼女のルールに頼るようなキラの敗北は、これからの作戦においてありえない。

「念のためだよ。書いて損はないんだ。」

どうでもいいことをいつまでも何度も指摘する死神だ。このあとに大事な打ち合わせをしなければいけなのに、ちゃんとその頭に入るのだろうか。
ため息をつきながら返答すると、「ケケケケ」と笑いそうなリュークが、裂けた口を開けたまま一時停止のように、笑顔という名の真顔で静止した。

「なぁライト。でもお前ちょっぴり夕陽好きになっちゃってないか?」

「………。」

「お、図星?」

「…………いいかリューク、埋めたノートはまだ土の中に隠しているだけであって……」

__とにかく、この場は早くLのもとに行かなければならない。

との会話も、リュークのノートの所有権を放棄する以上、その記憶の大部分が失われるだろう。だが……

__「ら……月君って、結構お人好しとか、いい人だったりする?」

__「……私の前でそんな顔、しなくていいから。」

__「どういたしまして!」

大学のキャンパスで夕陽の逆光の中で最後に彼女が見せた表情がまだ頭から離れない。あの時、竜崎との会話で張り詰めていたせいか、唐突に自分に向けられた笑顔に分かりやすく顔を背けてしまった。彼女が、ポケットに両手を入れたあの竜崎のもとに走っていく後ろ姿が気に食わなかった。
明日の僕にとってははただのL側の人間の一人であり、もはや秘密を共有する仲ではない。だが、もし自身がキラであるという記憶なしに彼女に会ったら?

__どうでもいい。そんなことに流されるものか。

「いくぞリューク。」

「おう。」





Guardian -第四章-

◆投身





朝の準備を終え、私は数人分余分にパンケーキを皿に盛り、30センチほどの高さまで積んだところで、現在ミサの監視が行われている捜査本部の一室へと向かった。

「っとと」

銀の手押しカートの上で、積みあがったパンケーキがぐらぐらと揺れ、シロップの瓶ががちゃりと音を立てた。竜崎の分を多めに、それから徹夜組の捜査員にも少し腹の足しになればと盛りすぎてしまったようだ。
不安定な手元を抑えつつ。捜査本部のドアをカードキーで開錠する。

「っこら弥!ふざけるのもいい加減にしろーっ!」

ドアが開き、数人分の熱気が肌に触れると同時に真っ先に聞こえてきたのは、松田さんの怒号だった。丸く座った竜崎の頭上からミサの監禁部屋へと通じたマイクを引っ張るようにして、声を荒げていた。

『……こ、怖い…な、なんなのもう、こんなの嫌だ!離してよ、放してよ__!!』

__ミサ……もう記憶が……。

そういえば昨晩、飛び去って行くレムを見た。声を掛けても、彼女は遠く飛び去ってしまった。

ミサにはもう記憶が無いのだろう。前日まで勝気に強い口調で竜崎の質問から逃れ続けていた彼女は、もう怯え、取り乱し始めている。分かっていたけれど、叫ぶ声があまりにひりひりと悲痛すぎて、私は「おはようございます」も言えずに、静かに竜崎の傍らに立った。マイクのスイッチも入っている。

『なに言ってるの?自分の彼氏知らないわけないでしょ?』

淡々と質問を続ける竜崎に、ミサは月君という名前でいくらか明るい声を上げた。それでも、元気というよりは半狂乱と言った方が近いかもしれない。その言葉を聞いた竜崎はミサの変わってしまった様子に、分かりやすく戸惑った。

私は物語を知っているけれど、こういう竜崎にアドバイスをすることはできない。二人の様子に胸のあたりが締め付けられるような感覚を覚えながら、私はコーヒーとシュガーポッドをデスクに置いた。

「あ、どう」

どうも、と竜崎が言いかけて、相沢さんも一歩こちらに近づいてきた時だった。
竜崎がポケットの携帯の着信に気づき、目の前に持ち上げた。

「月君からです。」

__物語が動き出した。月君がまもなくやってくる。
私は捜査本部の様子を眺めるために部屋の隅に下がった。すると、不思議そうに竜崎を眺めていた松田さんがすすっと私の脇に立ち、さりげなく耳打ちしてきた。

「あのー……、夕陽ちゃん、あの二人の仲ってどうなってるの?携帯電話なんか、僕たちだって知らないのに……。」

「……月君はずっとまえから竜崎にマークされてますから。携帯電話も友情も、きっと捜査に必要なんです。」

「携帯電話…友情……。」

「はい、作戦です。信じましょう。」

私は苦笑しつつ息を殺すように答えた。「作戦です。」ガッツポーズをして見せると、松田さんも納得したのか、胸の前で小さなガッツポーズをして「なるほど!」と気合を入れなおしたようだった。
視線をちらりと竜崎の方へ戻すと、夜神さんがいつの間にか立ち上がって、竜崎の横で通話の行く末をじっと見守っていた。

「はい……はい、はい……。わかりました。ここはKの2801号室です。」

「息子がここへ来るのか?」

「はい……。」

まるで落ち着かない、という様子の夜神さんが尋ねると、簡潔にYESと答えたきり、竜崎は口をつぐんだ。そしてコーヒーを丸めた膝の上にのせて、神妙に「夜神さん」と声を上げた。

「証人の件、頼みましたよ。」

瞬間、一気に空気が張り詰め、私は部屋の隅から夜神さんの緊張を感じ取った。しかし間を開けることなく、重苦しさを纏いながらも「分かっている。」と答えた。
夜神さんは眉間を抑え、それから何かを振り切るように頭を振った。

___それからは物語で読んだとおりだった。

___月君。夜神月の、投身。




「竜崎、電話でも言ったが…」

「はい」

「僕がキラかもしれない」

捜査本部に足を踏み入れた時から、月君はすでに懺悔をする罪人のように首を垂れていた。気難しそうに、神経質そうに、自分の内面を覗き見るように、彼は額のあたりを悩まし気に抑えていた。

「ば、馬鹿な!何を言っているんだライト!」

夜神さんが月君につかみかかる。竜崎はただじっとその様子を下から見上げるように注視する。
月君は饒舌と言うにはあまりにも苦々しげに、語り始めた。

「竜崎があのLなら世界一の探偵だ。そのLがキラだと決めつけているきっと僕がキラなんだ。」

__理由。

「FBI捜査官レイ=ペンバーが日本で調べていた人物、婚約者だった間木照子がキラと指摘した人物、5月22日に青山に行った人物、そしてミサが真っ先に口説いた人間……すべて僕だ。」

__説得。

「僕に自覚がないだけで、僕がキラなのかもしれないってことだ。」

__偽の自白。


大半の言葉は、夜神さんや捜査員の同情を煽る色を帯びていた。
しか竜崎に対しては、「こんなに説得力があるのに、それでも決め手がないんだ。捕まえることは出来ないだろう」と言っているように聞こえた。
竜崎は黙って話を聞いている。捜査員の皆はその言葉に圧倒されている。私は壁によってただそれを眺めるつもりでいたけれど、

「___そうだね、状況的には完全に月君がキラだね。疑いも恐怖も深まるばかり。気持ちわかるよ。」

__口を挟んでしまった。立て続けに繰り出される嘘に耐えられなかった。
そこで初めて、「演じる」ことに徹していた月君が、氷で刺すようにこちらを睨んだ。
__何故お前がそこで口を挟む?と。

竜崎に対して「おまえの捜査は空振りだ」と言わんばかりに立ち回る姿が咄嗟に許せなかった。
もうそれだけ言ったら十分でしょ、と思った。

「ら、月君!そんなことはない、反証はあるよ。」

静寂ののち、フォローを入れるように口を開いたのは松田さんだった。焦ったようにこちらと月君を見比べるようにした。

「……月君が情報を得ていない犯罪者が死んでいったんだ。それは監視カメラが証明してくれた。五日間も見続けていたんだ。絶対月君はキラじゃないよ。」

「い、いや…」

月君の背後から相沢さんが鋭い視線を向けた。

「あの時は捜査員不足もあり在宅時しか観ていない…まぁそれで十分と考えていたわけだが……五日間24時間監視していたわけじゃない。家にいないときに殺人をする方法があったのかもしれない。」

……それは竜崎以外、誰もが考えたことがなかったのか。
捜査本部は今度こそ静寂に包まれた。遠くから俯瞰するようにそれを見ていた私は、もう一度口を開いた。

「私も…相沢さんのおっしゃる通りだと思います。私達は殺人の方法を知りませんから。方法が分かれば……。」

遠慮がちな発言を装いつつ、私は月君の背中に向けてはっきりと言った。流石に相沢さんの指摘もあってあからさまに月君はこちらに視線を向けることは無かったけれど、ぬけぬけとノートの存在をとぼける私を不気味に思ったのだろうか、むしろ「こちらを見ない様にしている」様子を感じた。竜崎も肯定した。

「そうですね、あの場での私の判断は「キラではない」という判断ではなく、「キラとしてのボロは出さない」という判断でした。」

「……僕はやっぱりキラなのか?僕なりの推理をしても…可能性は高く思える。」

月君が頭を抱えて夜神さんに投げかけたところで、かちゃりと、カップをソーサーに置く音がした。それは大きな音だった。全員が竜崎に注目した。

「何か、私には少し話の展開が気に入りませんが……いいでしょう。」

がりっと音がしそうに、竜崎はその親指の爪を噛んだ。

「夜神月を、手足を縛り長期間、牢に監禁。その代わり、やるなら今からです。一度も私の目の届かぬ場所に行く事なく。」



竜崎の声が響き渡り、ちらりと、月君と視線が交錯した。
それは「分かっていたのか」と鋭く問い詰めるような視線だったけれど、私の勘違いかもしれなかった。
どちらかわからなかったので、とりあえず笑い返した。また、勢いよく目を逸らされてしまった。



月君は、その後、夜神さんと家族への言い訳などを話し合い__監禁が決まった。
竜崎の指示を受けた相沢さんが滞りなく手錠、目隠し等を準備し、黒一色に着替えた月君は捜査本部を出ていく。

四つ並んだ監視モニターは移動途中の月君を映し出した、全員がその様子を、まったく変化がないにも関わらず無言で見つめていた。牢に入るまで幾分時間があり、そこで初めて竜崎は手元のパンケーキに手を伸ばした。

「……冷めてしまいましたね。すみません。」

ブルーベリーを摘みながらぼそりと、竜崎は私にだけ聞こえるような音量で、内緒話のように呟いた。
「いえ」と手短に答えると、竜崎は私にポケットから取り出した携帯電話を手渡した。

夕陽、南空さんに連絡を。私はこのモニターから離れられません、彼女が到着したら、夜神さんと証拠保存、始めてください。」

「は、はい!」

__そうだった、このタイミング。
携帯電話を受け取りながら、ナオミさんの番号をダイヤルし、私は耳に押し当てる。その間、竜崎がちょこんと座る椅子の横に、月君が脱いだ洋服や携行品がひとつの紙袋にまとめられているのを横目に見た。とあるフルーツパーラーの紙袋だった。
振り返ると、夜神さんが苦し気に「仕方ない。……南空というのは?」と答えた。

「間木照子さんのことです。彼女は結構鋭くて……月君の前でなければ偽名は必要ない、との事だったので、今後は南空さんと呼ぶことにします。」

「竜崎、ナオミさん、20分で到着するそうです。」

「っ……分かった。それで証拠というのはどれのことを」

「「腕時計です。」」

竜崎の声と、電話を切った私の声が重なった。二人の驚く目が合い、私ははっと両手で口をふさぐ。途端に顔が熱くなったのを誤魔化すようにカップを持ち上げた。
夜神さんは困ったように咳ばらいをするも、「到着しました」という相沢さんの声とともに、ついに映し出されてしまったモニターの中の息子の姿に言葉を失った。

「っ……竜崎。」

「なんですか夜神さん。」

「あれは私が贈った腕時計なんだ。ライトも大事に、肌身離さず大切にしてくれている。それが何かの……こういう犯罪の一助になっているとは思いたくない……だが、私の責任でもある。結果がどうあれ、私が見届けよう。……しかし潔白を信じている。」

「……夜神さんならそう言ってくれると思いました。」

息子を強く信じる父の姿がそこにあった。竜崎も、私も、正しき父親というものを知らない、だけれど、息子を思い、ときに感情的になる姿には胸を打たれていた。

そしてほどなくしてナオミさんがやってきた。
しかるべき手順があるようで、そこは夜神さんの指示のもと、ナオミさんの作業でその腕時計は重厚なアタッシュケースに保管された。

「それでは、こちら、お預かりします。」

「お願いします。」

「……よろしく頼む。」

凛と告げるナオミさんは、疲れ切った様子の夜神さんを見て、より一層深く頭を下げた。私も一緒にお辞儀した。この先の運命を変える鍵となるひとつの銀色のアタッシュケースは、この後、国内外で別個に調査されるそうだった。

「さぁ、イースターエッグは見つかるでしょうか。」

「竜崎、遊びじゃないんですよ!」

竜崎の独り言に、松田さんが声を荒げる。私は何も言わずにすとんと竜崎の隣のスペースに座った。きっとこんな場面はこれから続くのだろう。松田さんたちの気持ちも分かる。だから、その言葉を浴びるのが竜崎一人の背中だけにならないよう、私もしばらくここに座っていよう。
陶器のカップに自分の紅茶を注ぐと、竜崎はまた小さな声で私に問いかけた。

夕陽、大丈夫そうですか。」

「うん、ここに座ってるよ。」

それは二人の約束だった。私はここに座って、竜崎と同じ目線で、ただ隣で同じものを見るだけだ。絶え間なく甘いものを出し続ける係だ。
竜崎が角砂糖をスプーンに並べ始め、私はモニターに視線を戻した。

__月君。あとは私に任せて。

目隠しを外され、虚空を見つめる月君に呼び掛けた。
きっと月君は、私がキラ逮捕を目論んでいることに気づいているだろう。もしかしたら、賢い月君は、あのルールの用途も、私の計画もほとんど読んでいるかもしれない。

__もうなにも、思い出さなくていいよ。

月君。貴方の正義にはノートも死神も必要ない。

その記憶は、私が戻させない。



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