第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第四章-
◆約束
それは、レムと話して一晩中泣いた次の日のことだった。
あのあと私はベッドに入って、そのまま寝てしまったらしい。ちゃんと起きた朝も、頭が重く、視界はぼんやりと霞んでいた。
午前5時。鏡の前に立ちながら、泣き腫れた目を冷たい水で冷やした。
「お菓子、甘いもの……早く竜崎に持って行かなきゃ」
ミサの監禁初日、寝ずに監視すると言った竜崎は、やはり仮眠のためにこの部屋に戻ってくることは無かったようだ。隣のもうひとつのベッドは、しわひとつなくピンとベッドメイクされている。
一晩中、文字通り、あのまま監視を続けていたのだとしたら……。
「大変だ、竜崎がお腹を空かせてしまう!」
竜崎がお腹を空かせたら、きっと角砂糖ですらない、さらさらの白砂糖をティースプーンで掬ってでも食べてしまうに違いない
__と、私は捜査員の皆の反対や海砂の悲痛な声、ワタリさんなしで一人で思考する竜崎の姿を思い浮かべながら、現実逃避した。
竜崎にも心細さや孤独という気持ちはあるのだろうか。分からない。
本を開いて物語を読むたび、感じていた。“この先の竜崎はまるで独りぼっちだ”と。
初めから一人で過ごすよりも、反対意見にさらされ、否定され、阻まれることの方がより孤独を感じるというのなら、竜崎は、この先、どんな気持ちで捜査に当たっていくのだろう。
分からない。でも想像しただけで悲しい。だって、物語の中では、結局最後まで、竜崎は非道だと言われていた。その後も、あのやり方はひどいとか、やりすぎとか……。
あ、手が止まっていた。
「よし、パンケーキでも焼こう。」
悲しい気持ちには甘いものだ。手を動かして、元気になろう。
無理矢理また思考をよいしょと動かしたところで、いくつか必要な器具を捜査本部用の客室に置き忘れていたことに気づく。仕方がないので、ちょこっとだけお邪魔しよう、と手ぶらでドアに手を掛けようとしたところだった。
ドア越しにピッと軽い電子音が響き、同時にドアがこちら側に開かれた。
はっと、ぶつかる距離から一歩後ろに下がったところで改めて顔を上げる。入ってきた人物もドアを開けながら人の気配を感じたのか、ゆっくりと様子を見ながら一歩を踏み入れてきた。
この部屋に入ることができるもう一人の人物、竜崎だった。
「夕陽……?」
竜崎はドアから手を離すと、すぐに指を咥えた。名前を呼んだきり、私の顔を見てなにも言わない。
「竜崎、…あ、L!おはよう!」
「……。」
どうしたんだろう、と思いつつ、今更じぶんの顔が泣き腫れていたことを思い出し、私はおどけているように、ぱん、両手で頬を抑えた。気合を入れるようなイメージだった。
「…なんか起きちゃった!L、お腹すいてる?パンケーキ焼こうとおもっ…」
しかし、空元気は途中で中断せざるを得なかった。
ぐっと強い力を感じて上体が引っ張られると、次の瞬間には背中に暖かさを感じた。影に覆われた視界の目の前が白いシャツだと気づいたとき、私はとっくにLに抱き寄せられていた。
「………っ」
状況がつかめず、もぞもぞと私は彼の腕の中で無意味に動いた。顔がそのシャツにあたるたび、背中に回された腕により力が込められた。
「なにっL…どうしたの?」
「……嫌ですか?」
頭上から降ってきた声に、私はぴたりと動きを止める。
「……嫌、ってわけじゃない。ただ…」
嫌じゃない、そう言いながら、私はLの腕の中で遊ばせていた自分の腕を、これでいいのかなと彼の背中に恐る恐る回した。
「……どうしたらいいか分からなくて……えと、これで合ってる?」
ちょうどいい位置に自分の手が行きつくと、今更照れくさくなって、私は成り行き上、密着していた頬を引き離し、ぐっと見上げるようにした。下から見ると、Lの表情はよく読み取れない。
「あと、急にだから、……なんとなく心配だった。……L、どうしたの?大丈夫?」
「私は心配ありません。」
そう言いながらも、背中の腕には力が籠められる。そうして片手が私の頭を撫でた。
「えへへ、なんか暖かい。」
思わず心地よくなってそんな感想が漏れてしまう。
「……夕陽」
「なに、L?」
「……泣いてたんですか。一晩中。」
「え、あ、いや……」
口ごもると、すかさず背中に回された腕の力がぎゅっと音がしそうに強められる。誤魔化しを見透かされているようだった。
「……弥のことですか。」
答えあぐねていると、Lはぽつりとつぶやいた。後ろめたそうな声に合わせて、込められていた力も弱まる。
「夕陽は昨日、捜査本部に戻ってきてから、急に一言も話さなくなりました。」
黙っていると、探偵らしく、Lは抱きしめたまま、私の行動を淡々と指摘し始めた。逃げられない。
__違う、泣いていた理由は、レムとの会話だ。
「そして今朝、目を腫らしていました。」
Lの片手が、そっと私の頬と目の間をなぞった。その優しさに負けて、全て話してしまいそうだ。こんなに優しいLに、嘘をつきたくない。
「……。」
窮屈な腕の中で、私は無言で首を振った。しばらくLも沈黙する。少しして、諭すような声でLがぽつりと話し出した。
「夕陽……私は貴方の心配をするフリをして、ただ怖いだけなんですよ。」
私は耳を疑った。Lが怖い、って言った。
その目はこちらを見下ろすも、やっぱり表情が分からない。ただ、その声は、優しく心に響いてくるのに、すごく苦しそうで、胸を締め付けた。
「夕陽、」と再び名前を呼ばれてから、一呼吸分、躊躇うような間があった。
「私といることが嫌になりましたか?Lは人の心も分からないのに人間のフリをして、人を抱きしめていると、そう思いますか?」
「__そんなこと思わない!!」
思わず叫んでいた。その腕から抜け、顔が見えるように一歩離れた。私は、悲しくも、どこか怒りを抱えていた。それがLに対してなのか、それを言わせた自分になのか、それともこの物語になのかは、分からなかった。
向き直り、Lの二つの大きな目を正面から見つめる。いつものようにニヤリと笑ってはいなかった。
「思う訳ないよ。私は貴方が好きなんです。どんなLでも……どうしようもないくらい大好きなんです、L。」
口から出たのは、理屈も理論も、理由すらない、そんな頭の悪い言葉だった。
Lは大きく目を開き、指を咥えて沈黙した。
「……大好き……ですか。」
あ、泣いた理由を説明していない。それを数秒後にはっと自覚し、私は “半分だけ”偽装して答えることにした。
「昨日は、監禁のやり方が非道だと指摘する捜査員の皆がいる中で、私はどうしてもLの味方をしたかった。なのに、友達だと言ってくれたミサを仕方ないとも割り切れなかった。……二つの気持ちに挟まれて、言葉がなくなってしまった。」
半分偽装、と思ったけれど、これはつい先居間で考えていた心配事そのものだった。Lが理解されず、孤独になるんじゃないかという心配、どうしたら味方でいられるのかという疑問。
本当に私はLが好きなんだなぁと思うと、笑うところじゃないはずなのに、途中で笑みが漏れてしまった。
「あはは、でも泣いてみて……結局のところ、事件が解決すれば誰も悲しまないんだろうなって思って……だから、私はやっぱりLの味方をするべきなんだなって。」
結局のところ、「割り切れないから分数で答えを出しました」みたいな話だった。言い切ると、呆けるように口を開けていたLは、再び神妙な面持ちになって、上目遣いで私を見た。
「夕陽が見た通り、これがLなんです。事件の解決のために、非道と言われることもします。法も侵します。」
「知ってるよ。でも、私がLが好きなんだよ。」
「嘘も結構つきます。」
「知ってる。」
「私も夕陽が大好きです。……と言った方がいいでしょうか?」
「あはは……えと、それも……知ってるって言った方がいいのかな?」
私が一言返すたびに、Lは背中を丸めたまま、試すように一歩ずつ私に接近した。指を咥え、覗き込むような体制のLがもう数センチのところまで近づいたところで、私はその肩を両手でぱしっと抑えた。
「L、この先、私はどうしたらLの味方でいられる?……えと、なんていうか……事件の解決のために、捗るように!」
Lにも孤独や不安に悩まされるのだろうか、そんな心配をしているとストレートに感じ取られたくなくて、私は言葉を濁した。
彼は自分の肩に置かれた手にちらりと黒目を動かしてから__ようやく__いつものようににやりと笑みを浮かべた。
「そうですね。夕陽は私の隣に座って、スイーツを出してください。……そしてたまに食べさせてくれれば最高です。」
そっか、いつも通りでいいんだね、なんて返しを飲み込んで、私はぐっとその肩を引き離した。
「……捜査本部内であーん、とかはちょっとどうかと。」
「では私が捜査中、夜神さん達に怒られて落ち込んだら、元気を出すために食べさせてもらえますか?」
言葉尻をとらえた言動に、わたしはぐぬぬと口を歪める。
「……ふざけすぎです。」
Lは満足げだった。私もからかわれつつも、この空気に安心感を覚えていた。大丈夫、またやっていける、と。
「夕陽、この先はきっと、お互い辛い気持ちを抱えることもあるはずです。とくに夕陽は月君とも仲がいいですし……」
そこまでいってから、Lは視線を一度足元に向け、再び言葉を選ぶようにした。
私は少しだけ笑って、「ねぇL、」と先に口を開いた。
「昨日、涙が止まらなかったとき、前にLが言ってくれてたこと思い出してた。……“せっかくだから、楽しみは未来に残しましょう”って。……だから、L、約束するなら、なにか未来のことにしよう。」
事件が終わるまで一緒に、なんて何度でもYESと答える。私は、終わっても一緒にいられるような、そんな未来を抱いて頑張りたいと思った。欲張りだけれど、きっと闇にさす光なんて、そんなものだ。
Lはその提案にのってくれたようだった。口角を引き上げ、数秒、窓の外の青空を眺めるようにぼんやりと指を咥え、そしてゆっくりと振り返った。
「ではこうしましょう。一緒に飛行機に乗って、イギリスに行きましょう。おいしい紅茶もスコーンもあります。それに鐘の鳴る大聖堂にも案内しましょう。」
それと、と付け食わるようにLは指を立てた。
「キラ事件の解決について、ちょっと自慢、いえ、話して聞かせたい相手が二人ほどいまして。」
__一緒にイギリスへ。鐘の音の鳴る大聖堂と、おそらくニアとメロのことだろう。
それはとても素敵な思い付きに聞こえた。
「うん、約束。ワタリさんも一緒がいい。」
私の言葉を受けて、Lは「ええ」と頷いた。青空を背景にして、約束とともに新たなスタートを切ったような朝だった。
唐突に、Lはくるりとドアへ向かった。今度は優しさではなく、挑戦的に、不敵な笑みを浮かべていた。
「では捜査に戻るとしましょう。昨晩、早速、夜神さんに、月君の腕時計への捜査許可、及び証拠保存の証人になる旨を承諾していただきました。ナオミさんも、捜査機関の協力をFBI経由で取り付けたそうです。準備は整いました。__夕陽、パンケーキよろしくお願いします。」