第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「殺して」
狭い部屋に響くのは悲痛な叫び。
守ると誓った少女に請われたのは、最悪の願いだった。
私__レムと、海砂の最後の会話。
Guardian -第四章-
◆レム
外の世界がどう動いているのかも分からない、隔絶された空間に、悲痛な声が反響する。口を塞がれて掠れきった声は、無機質な部屋を一周し、再び彼女の耳に入る。
私が無言で返事をしなかったからか、彼女は涙を流しながらもう一度「殺して」と念を押した。
「……お願い、殺して。」
お願い、という言葉は、死神の私に向けられたものか。私は海砂の頼みを断らない。それを分かっていて、彼女は辛さに口を割りそうな自分の命が経たれることを望んでいるのか。
__「薬でもなんでも盛ればいい。私は負けない。貴方には屈しない。」
愚かな、と思った。
「屈しない」と、そこまで言い切る、その先にある切り札が自分の死なのか。
部屋の隅では赤く光るカメラがずっと私達を、いや、海砂を記録し続けている。
監視の中、言葉を交わすことは叶わない。
私達の会話は、だから一方通行だった。今回も、そうだ。
「ねぇ、貴方ならできるでしょ?お願い。もう嫌……殺して。何度でも言うよ、殺して。」
彼女はこのままだと何度でも「殺して」と叫ぶだろう。それは絶えられない。
私は彼女の頬に手を伸ばした。何度も涙を流したのか、柔らかく、冷え切った頬が震えている。
"海砂、それはできない。"
これがきっと最後の会話になる、そう考えながら私は語り掛けた。しかし、海砂は首を振った。それも縛られて自由のない状態、動くたびに彼女は痛みに呻く。
「もういいの……私はあの日、とっくに死ぬはずだった。」
海砂の言葉に興味を持ったのだろうか、ずっと沈黙していたスピーカーの向こうから、プツっと乱暴な物音が聞こえた。マイクのスイッチが入った音だ。そして叫び声にすら一言も反応しなかった機械音声が今更問い始めた。
『あの日?それは両親が殺された日のことか?』
「…………。」
まるで海砂を話す証拠のように扱う。そんなことを聞かれて答える人間がいるものか。つくづくあのLのいう人間は血が凍っている。死神よりも人間らしくない。
『聞こえているのか、弥?』
「…………殺して。」
この子は、ここまで来てしまったか。
“海砂……”
寿命の半分どころではない、今度はその命をもすべて差し出すというのか。
“何故……”
__愛か。
不可解なものだ。
こんな人間は初めてだった。この子は死んではいけない。嘆きや痛みを遠ざけたい。何度も自分に「何故」かと訊いた。だが、答えは見つからない。だから、不可解なそれは私自身もむしばみ始めているのだろう。
「この命は、もともと借り物……もういいの…。」
それはジェラスに伸ばされた寿命のことか。だとしても、その借り物は命ではない、ノートの方だ。
海砂、お前はもうキラよりも夜神月を愛している。であれば、もうノートは必要ないだろう。
”海砂。死ななくとも、所有権を捨てればいい“
「……っ嫌!」
あぁ、そうだろうな。すべてを忘れてしまうのなら、当然、拒否するだろう。
“心配ない……忘れるのはノートに関する記憶だけだよ。夜神月と過ごした記憶は、彼を愛したという気持ちは残るよ。”
「………ライト…。」
“ノートも死神も、悪い夢だ。お前は夜神月を愛しただけだ。”
「……っ」
海砂が嗚咽のように息を詰まらせる。その口に咥えさせられた器具のせいだ。一瞬、心配するが、よく見れば彼女は、涙にぬれながら笑っている。それでいい。もうずっと、笑っていればいい。
“海砂…ノートの所有権を捨てるか?”
荒げた呼吸を落ち着けるように、海砂の胸が上下した。そして流した涙のせいか、震える声で、しかしはっきりと喜びが分かる。彼女は口を開いた。
「……素敵……。」
伸ばせない手を私の方に精一杯伸ばすようにして、そしてまるで息を引き取るように、彼女はそのまま眠り落ちた。夢を見るように上を見ていた首か、かくんと脱力する。
『……おい、弥?どうした。……彼女の様子を…』
これで、もう彼女の中に秘密はない。海砂。お前は誰かを愛しただけで、誰も殺していない。ノートも死神も無関係だ。もう二度と、私と話すこともないだろう。
“海砂……いい夢をみるんだよ。”
彼女の足元に跪き、もう決して聞こえない声で投げかける。守ると誓った少女、海砂。ここまでだ。もう一緒にはいられない。
別れを告げ、建物を抜け、空に飛び立つ。真夜中だった。それでも、澄んだ空だった。
飛び去る途中で、バルコニーに立つ少女を見た。青いワンピースがはためいていた。
名前も寿命も見えない、そしてLの守護者を名乗る、人でも死神でもない少女、夕陽。
「__レム!」
気づいた彼女が声を上げる。夕陽。私ができるのはこんなことだけだ。あの子にはせめて夢を見せてあげる事しかできない。お前のように、彼女が命を差し出そうとした願いを、「辛い未来」だと、ただの物語だと否定できないのだ。
「証拠はもうこちらにある、今更何をしたって、キラはもう__」
今更、か。何を仕組んでいるのかは知らないが、今更脅しのような言葉をかけて、夕陽の知る物語とやらで、私がこれ以上何をするというのだ。もう海砂のもとにノートはない。一瞥し、私はそのまま赤い月の浮かぶ夜空を飛んだ。
__向かうのは夜神月のもとだ。
__だが、試してもいい。
__夜神月の描く理想か、夕陽の描く理想か。
遠くから見守る海砂が、どちらを選ぶか、せめて見届けよう。それが彼女の選択ならば……この体が砂になろうと、消え去ろうと、どうでもいいことだ。