第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「私は、ミサを助けたい。」
声が震える。
数時間ぶりに絞り出した声は、自分でもここにいるのか不確かなほどに震えていた。
はっきりと話さなければいけないのに、手さえも震えて仕方なかった。
Guardian -第四章-
◆愛と代償
"こっちに来い。"
レムは、客室の中から外に向かって覚束ない声を上げるだけの私を見かねたようだった。
私は履いていた靴を脱ぎ棄てて、裸足のまま、バルコニーに出た。足がぴと、と無機質なコンクリートに触れる。5月も終わる。もう初夏なのに、その夜風は私の肌を容赦なく冷やした。
"本当の目的はなんだ。"
十分な距離まで近づいたところで、落ち着いた様子でレムがこちらを見下ろした。
__すぐに信用してくれる訳ないか。
重くのしかかるような威圧感をこらえ、ぐっと見上げる。
私の目線はレムの身長の半分ほどで、しっかりと見上げるためには、ほとんど空を見上げるような体制になる。
赤い月を背景にして、レムは余計に悲しみと怒りの空気を漂わせているように見えた。いくつかのビルの灯りもまた、ちかちかと赤く点滅していた。
「私の目的は、レムと同じ。大切な人を守ること。」
レムにとってはミサが一番で、いま、こうして私に問いかけをしているのも、ミサのため、助ける術を模索しているのだろう。
「……昔の私のことをレムは知ってるの?」
私の話は退屈かもしれないけれど、分かってもらうために……と私はレムに尋ねた。
まるで息をするように、骨のようなが上下に大きく揺れた。
一拍おいて、レムは私に目線を合わせるように低く、バルコニーのレールに腰を掛けるようにした。
“……よく話をしたよ。お前は、ノートを嫌っていた。どこかでとっくに死んでいるんじゃないかと思った”
落ち着いた様子で、レムは言葉を区切る。私はその視線からひりひりとした敵意が取り払われたように思えて、その沈黙の意味を想像した。
あの日、青山で無言で問いかけられた「ここで何をしている?」そういうことだろうか。
「こんな状態で生きてるのは、空っていう子のおかげ。私は昔の記憶がない。彼女の代わりに、彼女の姿で、彼女の命で……彼女の願いを叶えるためにこの世界にいるんだよ。……いまは“私達”の願いになったけれどね。」
きっとレムには興味のないことだ。
そう思って一気に、できるだけまとめて話すと、レムが肩を降らした。きっと滑稽な話で笑ったんだろうな、と物悲しくも他人事のように思った。
“つまり人間に愛されてその様になったという訳か。……愛というものは、本当に愚か者の言語だ。理解できない”
すべてが目の前に映し出されているかのように、レムは遠くを見ていた。彼女が視ているのは、人間を愛した死神の最期か、それとも、別の何かか。
「愛か……。」
ミサはきっとそんな話ばかりしているんだろうな。
“…ミサは口を開けばそればかりだ。私も、分かろうとしたが、だめだった。あれはなにかの呪文のようなものだ。人間は縛られていることに気づかないまま、愚かに縋りつく。”
__その愛が、いつかミサもレムも、二人を…。
分からない、理解できない、と言ったレムが一番、それを体現することになるのに。
「……っレム、」
口角がぐっと下がる。
「未来を変えたい。力を貸して。」
思わず、口をついて、言葉が滑り出す。はっと気づいた時には、レムがそれまでの落ち着いた空気を破り去ってこちらを睨んでした。
“それは協力してほしいということか。ミサがこうなったのは、お前が一緒にいるあのLのせいだ。奴に協力しろと言うのか”
「ち、違う!」
そうだった、まだ話は途中だった。
私は感情に任せて口を滑らせてしまったことを後悔する。
未来を知っているのは私だけということを忘れてしまっていた。__最低だ。レムからしたらミサが苦しんでいる今が、最悪の状況なんだ。
だから、どうにかしようと手を尽くして私に会いに来たはずなのに。
「私が守っているのは、あのLだけど…」
ぐっと胸に手を当てる。私は自分を宥めた。
__全部話すんだ。話せば、きっと分かってくれるはず。
「ミサも、レムも、キラも、皆の未来を変えたい。……悲劇ばかりのこの物語の行く末を変えたい。」
言い切ってレムの言葉を待つ。しかし、変わらず、レムは私を睨むように目を細め続けた。しばらくそのまま待っていると、ようやくレムの口が動いた。
“物語……それはどういう意味だ?”
ゆっくりと、慎重に、何かを確かめるような口調だった。再び、私は体の芯を冷たい風が吹いていくようなうっすらとした恐怖を感じた。なにか、自分が間違えかけている、踏み外しかけているような予感がする。
「この世界に来る前に、例の、人間の少女にこの世界をひとつの物語として読ませてもらったんだよ。だから私は、この先の展開がわかる。ミサもきっと、もっと“幸せな結末”で……」
__ばさっと。
言葉の途中で、大きな音とともに視界を何かが埋め尽くした。瞬き、そして目を開けてすぐにそれでがレムの翼だとわかる。
なんで、と思うと同時に彼女と目が合い、見下ろし、蔑むような温度から瞬間的に理解してしまった。
__あぁ、取り返しがつかない。と。
"よく分かったよ夕陽………私はお前に手を貸さない"
「ま、待って!まだ話は……」
とっさに立ち上がって彼女に手を伸ばす。無意味な動きだった。しかし、もう言いたいことは伝わった、とでも言うようにレムはバルコニーのフェンスの上へ飛び上がった。
"お前は名前も寿命も見えない、ノートで死ぬ心配はないし……「展開がわかる」と言ったな。……未来を知っていて、神のような立場だな"
その言葉からは、痛いほどに軽蔑の色が滲みだしていた。私も、自分の言葉がいかに軽率だったかを思い知った。
弁解しなきゃ、なんて情けないことを考えて言葉を選んでいると、レムの方から声が降ってきた。
”___寿命の半分だ。“
それは欠片も死神らしくない、命の重さに憂いた響きだった。
“キラに会うため、感謝するため、それだけに寿命の半分だ。分かるか?……失うもののないお前と、ミサとは、違う”
返す言葉がなかった。先の見えない暗い夜道でも、きっとその先に希望があると信じ、命を半分も賭した少女、ミサ。
対して、私は未来が視える、何が正しく、なにが間違っているのか、なにひとつ失わずに生きていける存在だった。
“「犯罪のない社会」も、「幸せな結末」も、私からしたら同じだよ。誰かを生かし、誰かを殺す。お前の描く理想はキラと何一つ変わらない。……なら私は、ミサが「愛す」といった方__キラの側に立つほかない。”
もうレムは翼を広げて空に飛びあがっていた。彼女の言葉が胸に刺さって、言葉も心も縮み上がってしまっていた。
それでも引き留めなきゃいけない。これは理想や空論の話ではなく、確実に起きる未来の話なのだから。
「れ、レムはミサを守りたい。ミサを愛している。そうなんだよね?……だったら、キラに利用され、いずれは潰える……そんな夢を叶えてもいいと思うの?」
“……私には愛など分からない。”
レムの目が恐ろしい死神のように赤く光る。不気味な赤い月を反射していた。
“何とでも言えばいい。私はお前の理想よりも、ミサの願いために生きる。あの子は……愛のために全てを擲つ子だ。お前とは違う。”
愛が分からないなんて、嘘だ。レムは誰よりも分かっているはずだ。そんなはずはない。彼女のひとつひとつの言葉が、死刑宣告のように全身を硬直させた。
「……っ…………。」
“夕陽、お前の話は聞かなかったことにしておこう。……お前の知る物語のようになったとしても、それがミサの願いなら、私は叶えるだけだ。”
__分かり合えない。今は。
__でも、まだ私は諦めない。
「……なら私も、勝手にやる。あなたが協力するキラを止めるし、ミサを救って見せる。」
笑うのはすごく辛かった。私は強引に笑顔を作った。嘘で構わない。ただ、強気になりたかった。
「でも、待ってる!いつか貴方が耳を貸してくれるって、信じてるよ。」
「……勝手にしろ。」
交渉は決裂に終わり、私たちは分かり合えなかった。レムと夕陽は似ていたのか、それとも正反対だったのか。
白いシルエットが遠くへ飛び去る。
取り残された私は、裸足でその場にへたり込んだ。
「っあ、ぁああ……」
脱力し、初めてひとりで声を上げるほどに泣いた。
別室では今もミサが監禁されている。寿命を半分明け渡して、それでもきっとあっさりと月君のために所有権を無くすのだろう。手元に残るのは愛だけ。
彼女を尋問する竜崎は、捜査員から非道だという言葉を浴びせられる。
私なんか、泣くくらい、どうってことない。
涙が溢れるのを止めることができなかった。
__「せっかくだから楽しみは未来に残しましょう。」
いつかの竜崎の言葉を思い出しながら、私はその夜を耐えた。
きっといつか、理想の、夢見た未来がくると信じるには、どうしても必要だった。