第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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竜崎が指を咥え、大きく背中を丸めて海砂に接近する。私はそのあとの光景に堪えるために拳をぎゅっと握った。
物語を読んだ私は、それに続く竜崎の発言を知っている………。
「月君。」
__知ってる、「うらやましいです。ファンです。」とか言うんだよね?
私は心の中で「あーあーきこなーい!」と、叫び、足元の砂利に意識を集中させた。なにも聞こえない見えない。
「ナイスタイミングです。月君。」
__……あれ、なんか違うこと言ってる?
足元の砂利をいじけたように見つめていた私は様子を見るために顔をあげる。同じように、キラとしてLを警戒していた月君も拍子抜けした顔をしていた。
「タイミング?なんのことだ流河。」
「彼女がエイティーン3月号から海砂さんのファンで、ちょうどさっきも一緒に本屋で今月号を買ってきたところなんです。……夕陽、いま持ってますよね?」
「えっ!あ、はい!持ってます!」
こちらを振り返る竜崎に、慌てて袋を掲げる。
竜崎はふっと笑みを浮かべると、てくてくと私に寄ってくる。そして優しく頭にぽんと手を乗せると、いかにも甲斐甲斐しく海砂の前に立たせた。
ずいっと背中を押された私は大きな目で無邪気に見つめ返してくる海砂と、後ろの竜崎を見比べる。挙動不審だった。
「彼女、海砂さんの前なので緊張しているみたいです。」
___ファンの役目、私???
それらしく言い放つ竜崎に戸惑いつつも、例のやりとりが発生しないことにほっとする。
一方で、海砂は首を傾げた。
「……二人はどういう…」
どういう関係なんですか?という意味らしい。竜崎と私が秘密の恋人だと伝えられている月くんが間に立った。
「いや、海砂、べつに何でもな……」
「恋人です。」
とっさにフォローを入れてくれた月君を制して竜崎はきっぱり言い放った。
「おい竜崎、いいのか。」
「はい、いいんです。」
月君はなにか言いたげにするが、そのまま一歩後ろに下がった。ぎり、と神経質そうに口元を歪めるのが一瞬だけ見えた。牽制する、という竜崎の策がまた響いているようだった。
そういう作戦なのであれば、恥ずかしくて勝手に顔が熱くなるのは、もうこの際、無視するしかなかった。
自分のことじゃなくても恋愛話が好きなのか、海砂がぱあっと笑顔になった。
「やっぱり!えーと夕陽ちゃん?サインだったよね!」
「あ、はい!海砂さん、いいですか?」
そういえばそんな話だった、と自分を落ち着かせつつ、用意周到なことに、袋に入ってたサインペンと一緒に、エイティーンを差し出す。
「もちろん!あとライトの友達なんだし、仲良くしよ!普通にミサでいいよ!」
海砂は満面の笑みで快くきゅきゅっとサインを書くと、ついでに両手で私の手を包み込むように握手した。
ファンなんです、と言われたせいか、変に気恥ずかしかった。
「あ、ありがとう、ミサ。月君とすごくお似合いだね。」
ちょっと呼び捨てに照れつつ笑う。和やかな初対面だった。最初に青山で見た時とは印象がまるで違う。あの時は鋭くて、まっすぐで、そしてなんと言ったらいいのだろう……先の見えない暗い夜道みたいな女の子だったのに。
「うわー嬉しい!夕陽ちゃん……!流河さんもすごくいい彼氏だと思うよ!」
「あはは…うわっ」
「よろしくねっ」
月君とお似合い、で上機嫌になったミサが勢い余って飛び込んでくる。それを受け止めつつ、ちらりと視線をあげると、死神のレムがじっとこちらを見たまま佇んでいる。目が合った。
__まだ、ここでは話すことはできない。
「あ、あれミサミサじゃない?」
「本当だ!」
「え、ミサミサって?エイティーンの?」
そうこうしていると。とっくに注目を浴びていたミサが「弥海砂」だと認識され、わらわらと学生たちが集まってきた。
「わわ……」
サインをもらったばかりの私は慌ててペンとエイティーンを袋にしまった。カメラ付きの携帯電話が向けられたり、握手を求めたりと、様々な声が入り乱れる。
確か、ここで竜崎がミサの携帯電話をこっそり抜き取ったりとかするんだったな、と思い出し、私は人並みに流されるようにしてその集団から抜け出した。
「あ、誰か今お尻触った!」
「それはいけませんね。犯人は私が捕まえます。」
まるで古き良き探偵のように人差し指をたててぐるりと周囲を見渡す竜崎に、ミサだけでなく周囲の学生たちもがどっと笑い声を上げた。
「あはは、流河さんおもしろーい。」
「はは…」
竜崎は人気者なんだな。と輪の外から眺めると、きゅうっと、何故かやきもちのように胸が苦しくなった。
“お前、今は夕陽というのか。”
「……!」
人込みとその騒ぎに、月君も、竜崎も、ミサも、リュークでさえもこちらを見ていなかった。その隙に、レムがいつの間にか私の傍らに立っていた。胃の底から冷えるような声で、はっきりと名前を呼ばれた。
「……うん。…あの、レム」
“名前も寿命も見えないよ。死人と変わらない。”
疑問を先回りするかのようにレムはその答えを述べた。
“夕陽、お前は、何故キラと…”
__キラと、
その先をきくことは出来なかった。正確には、ミサのマネージャーが現れたことで、ミサの注意がレムを探し出す前に、レムは私の視界から出ていたのだった。
「ライトー!またねーっ!」
遠くでずるずると引っ張られるように去っていくミサに駆け寄りつつ私は控えめに手を振った。ばらけつつある人込み越しにミサは気づいてくれて両手で答えてくれた。
「あ、夕陽ちゃん!こんどお買い物いこうねー!」
それは大きな声だった。散りつつある学生たちも数人振り返った。
お買い物。それもいいなぁ、なんてちょっと頬が緩んだところで、このあとミサが監禁されるという事実に、すぐに笑顔はかき消された。後をついて行くレムですら、このあとの彼女の悲痛な姿はまだ知らないのだ。
「ミサ。……いつかね。」
誰にも聞こえない声で、自分のために呟いた。
そんなに遠くない未来。きっと一緒に行けるときは来るから、とその後姿を見送るしかなかった。
遠くから月君と、竜崎を順番に見た。……この場では、大人しく竜崎について帰るしかなさそうだった。
「夕陽、お疲れさまでした。名演でした。」
「あはは、恥ずかしかった。」
「どうか慣れてください。頼りにしています。」
竜崎に駆け寄って隣を歩くと、数メートル歩いたところでそのポケットから音楽が流れた。しゃかしゃかと、荒く鳴るその携帯を、竜崎は指先で持ち上げる。
海砂の携帯だろう。
人混みの中で、竜崎は巧妙なこっそり抜き取っていた。
「はいもしもし」
竜崎はしてやったり、という様子で、とぼけるように答える。電話の主は月君だ。海砂に、竜崎の本名を聞きだす思惑が破れる瞬間なのである。
はっとするほどの竜崎の鋭さに、この光景を知っているわたしも、鳥肌が立っていた。
『……なにがもしもしだ。それは海砂の携帯だ。』
スピーカーごしの月君の声がはっきりと聞こえた。機械を通しても、ため息交じりなのが分かった。
後ろに月くんがいるのに、「そうなんですか」ととぼけて、わたしにその携帯を渡す竜崎だった。楽しそうだった。
「返してくるね!」
「大切な恋人の携帯電話です。丁重にお願いします。」
指をくわえながら述べられたそれは皮肉の効いたコメントだった。
私は苦笑して、小走りで携帯を渡しに向かう。そう遠くない場所に月君は立っていた。
「はい、月君。竜崎から。」
竜崎から受け取った携帯を両手に乗せて手渡す。掌で口の裂けたキャラクターがころんと顔を見せた。
「…あぁ、ありがとう。」
「どういたしまして!」
悔しそうな月君に、顔に出てるよ、という気持ちを込めてにっと笑いかけた。
ちょっとからかったつもりだったけれど、勢いよくそっぽを向くようにして目を逸らされてしまった。
__えーっ?突然あからさまに嫌われた?
「はい……ええ」
ひとりショックを受けている私の横で、竜崎が別の電話を受けた。
「やりましたね。……ええ、すぐ向かいます。」
通話を切り上げ、すっと竜崎の視線が月君に向けられた。月君も会話の断片から、何かが起きた様子を感じ取っていそうだった。決して笑っていない竜崎の目が、その反応を観察するように月君を凝視した。
「月君にとっては複雑でしょうが……弥の身柄を第二のキラ容疑で確保しました。」
……。
………。
___ひとしきり、昼に起きたことを回想し終え、私は窓の外の白い死神に向き直った。
現在、別室ではミサが監禁、尋問されている。
手を握り、仲良くしようと言ってくれたあのミサが、一緒に買い物に行こうと言ってくれたあのミサが__手錠をし、拘束され、目隠しをされ、監視カメラのもと、夜も寝ないと言った竜崎に監視されている。
非道だ、と捜査員の皆が口々に反対する中、私は一言も言葉を発しなかった。
しばらく彼女の様子をモニター越しに確認し、それからいつも通り、竜崎の隣にただ座り続けた。
そうして夜になり、私はたった一人、結局一言も話すことなく自室に戻った。そしてバルコニーの外、夜を背景に待ち受けていたのは__もちろん、分かっていた__レムだった。
“夕陽……何故だ。”
第一声はそれだった。胸を震わせるような声に、恐ろしい、と思った。彼女の怒りは、偏にミサの監禁のせいだろう。大学で聞いた彼女の声は、こんなにも怒りのこもったものではなかった。
“何故、ミサはあんな目に遭っている?”
「………。」
”……知っていたか?……分かっていたのか?”
しかし、続いて重ねられた質問は悲痛なものだった。死神とは、こんなにも辛そうな問いかけをするものなのか……。
___いや、どの口が言う。私も”そう”じゃないか。
「何も隠すつもりはないよ。レム。」
泣きそうになりながらも、私は心からその言葉を述べた。
「__なんでも答える。そしてミサのこと……今はごめんなさいとしか言えない。ごめんなさい。」
今、私にできるのは謝罪と、質問への返答だけだった。
それでも、いつかは貴方には分かってもらわないといけない。
__今すぐは駄目でも、これだけは信じて、力を貸して下さい。
「私は、ミサを助けたい。」
レムの目が、大きな月を背にして、赤く、鋭く、細められた。