第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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"なぁ、ライト、このルール、なんの意味があるんだ?"
骨のような歪なペンでノートを引っ掻きながら、リュークは必要以上に大きな声をあげた。
Guardian -第四章-
◆月光
あの後、空と一旦別れてから本部に合流すると、すぐに竜崎から司法取引のビデオをテレビ局に送る案が提案された。第二のキラの動向は推測しかできないから早い方がいい、と空に助言され(というよりも念押しだったのだろう)、自室に帰るなりリュークに頼んだのだった
リュークのことだ、どうせ答えても忘れるだろう、と思いながらもベッドから身を起こし、その文字を覗き込んだ。
『本人の意思に関わらず、このノートの所有者は必ず誰かの名前を書き続けなければならない。』
シンプルで抽象的なルールだ。だが、シンプルであればあるほど、その意味するところの可能性は広がる。それこそ、現代の法律のように、解釈のしようで意味は変わる。
"こんなの書いてノート持ってたら、私が殺してます、ってジハクするようなもんじゃねーか?罠なんじゃないのか?"
「あぁ、リュークの言う通りの考え方もできる。」
しかし、そもそも「守るべきルール」であるのか、「強制力をともなうルール」であるかすら、この文言だけでは分からないのだ。
曖昧な文面である一方で「殺し」と核をついている以上、警察やLは実証してその真偽を確かめなくてはならない。
その「実証」の段階で、ルールを編み出した空が自ら名乗り出るという。
であれば必然的に、そのルールの意味は彼女の嘘や演技に委ねられており、言い換えれば彼女の思いのままになるということだが……
おそらく、否。ほぼ確信をもって。
「だが、これはむしろ、罪を免れるために用意されたルールだろう。このルールが言いたいのは……」
__所有権を得た時点で、殺人は避けられない。
__それでも人を殺すことに抵抗のあった夜神月はせめて犯罪者の名前を書くことを選択した。
十中八九、そういう事だろう。
……さらに恣意的に上乗せするならば、「ノートに人格までも変えられ、所有権を捨てようとも思わなかった。」と強引なこじつけもできるが……
”ケケケ!なんだ夕陽、けっこうライトの味方なんだな!”
「……いや、あくまで彼女は、こちらが捕まった際のことを想定しているんだ。捕まらないように計らっているわけじゃないんだよ、リューク。」
“ほーう?クククク。それはまた、面白いな!”
__最悪の事態を想定してだと?ふざけるな。
偽ルールは自分自身でも幾度となく考えたし、その中にこういった自分を庇うようなルールもあった。
それでも却下したのは、自信の負けを想定するのがナンセンスだからだ。
僕であれば、捕まったとしても、再び手に取ることを考える。
キラが捕まって終了、というエンディングはあり得ない__たとえそれが無罪だとしても。
「面白がってるところ残念だけれど、どっちにしても、こんなルールは使うこともないさ。」
空が「死神が見える」と名乗り出た、その日の情景を思い出す。
__まさか、正義感の強い月君が、Lを殺そうだなんて思わないよね?
空は笑っていた。
遅咲きの桜が散る中で、ひらひらと花の一部のように首をかしげて。
しかし、その瞳を覗き込めば。
すべての目的がそこに凝縮されたように、生きる目的のように、すべての理屈を吐き捨てるように、極限まで収縮した瞳孔は、脅しと、敵意と、殺意を湛えていた。
その笑顔は、今でも時折顔を出す。
隠しきれていると思っているのだろうか。
夜神月は、いずれ愛するものを殺す人間だと__彼女は僕を、そういう目で見ている。
当然だ。
竜崎のあの行動パターンからして、空の言うような「竜崎が死ななければキラがいてもいい」などという永遠の追っかけっこなど起こり得ない。空も奴の傍にいる以上、あの幼稚で負けず嫌いな性格は承知のはずだ。
キラの勝利条件はLの死、Lの勝利条件は、キラの逮捕だ。
協力すると言って、こちらに流す情報は確かに偽りのないものだ。竜崎に何か話している様子もない。だが、彼女の目的はいずれ、夜神月の逮捕へと向かうはずだ。
罪を軽減させる目的のルールを提示した時点で、「捕まってほしくない」という発言は嘘であるとはっきり露呈していた。
"使わないのかよ!"
大袈裟にペンを取り落とすリュークを横目に、そのノートを手元に寄せた。頬杖のようにノートに体重を預けていた彼は、「うおっと」と転ぶように空中で翻る。
「考えてもみろ。このルールを使うということは、僕がLに負ける時だ。なんなら、あの場ですぐに拒否してもよかったくらいだ。」
"……ん?じゃあなんでオーケーして夕陽ルール書いたんだ?それも作戦か?"
「……それは、」
夕陽ルール……。
その適当なネーミングセンスに呆れつつも、なぜか勝手に言葉が詰まった。
__「……私の前で、そんな顔、しなくていいから。」
ふいに告げられた、あの言葉のせいかもしれない。
ただの愛想笑だった。ほんの一瞬、行き場を亡くした苛つきを誤魔化すだけの他愛もない笑顔だったのに、彼女はそれを苦しそうに否定した。
今まで、ただの一度もそんな風に心配されたことはなかった。他の人間相手なら、「優しいね」などと言われてそれまでだ。
笑うことしか知らないようなのは空の方なのに、そんな言葉を掛けられる理由が、全く理解できなかった。「人のこと言えないだろ」と言い返してやりたかった。
"…………ま、別にどうでもいいけどな、ケケッ"
返答を待つこともなく興味をなくしたリュークは、寝がえりの如く空中で一回転し、そのまま勝手にくつろぐ体制になった。手元には”夕陽ルール”の書かれたノートが残る。
そう、本当にどうでもいいことだ。書いても書かなくても、使わなければ一緒なのだ。意味などない。
だから、このルールを書いたことと、あの場の彼女の態度とは何の関係もない。
……しかし、厄介だ。理解できないことは、たとえ頭の隅でも、しばらくは繰り返されてしまう。
「笑うのは友達なら普通だろう」なんて誤魔化したはいいけれど。
あの言葉も、まるで「竜崎を守る」という目的に関係なく、自分を心配してくれたように思えて……。
___「ありがとう。……やっぱり、月君と話せてよかった。」
次の瞬間にはしんみりと、何かをふっきれたように微笑む姿を見て、思わず、目を逸らしてしまった。
「……っ、なにが”やっぱり”だよ…。」
それじゃまるで、ずっと知っていたみたいじゃないか。ずっと話したかったみたいじゃないか。
死神、ノート、死神の目、彼女はすべてを知っていながら、竜崎の隣で隠し続けていた。そんな息苦しいはずの環境で、そんな笑顔をされたら__何故?__と考えてしまう。
__「私、竜崎のことが本当に好き。」
__空は何故、竜崎なんだ。
…………情が移ってはいけない。
Lの側にいる以上、いつ完全に敵に回るかも分からないんだ。……馬鹿はたいてい、それで失敗するものだ。
「お兄ちゃんー、大学の友達、女の子が来たよー!」
意識を引きはがしたところで、階下から粧裕の声が聞こえた。どたどたと足音が大きい。なにかはしゃいでるか、慌てているときの様子だ。
大学の女の子といったが、住所まで知っている"友人"なんていないはずだ。
「忘れ物届けてくれたんだってー!早くー!」
考えるより早く、階段を駆け下りた。
ついさっき、リュークと話す前に、テレビで例の司法取引が放映された。このタイミング、そして「キラを見つけました」という発言。
粧裕は空を知っている。ということは……
「は、初めまして。弥海砂です…。」
黒いドレスに身を包んだ少女は、おずおずと恥じらうように自己紹介した。しかし、その手には堂々と黒いノートが握られていた。
__ひた、と手を触れると。
視線をあげた先には、__空の言う通り__骨のような死神が佇んでいた。
月光に照らされて浮かび上がるように。彼女が言うように、真っ白だった。
「彼女にしてください」
その少女を欺瞞の両腕で抱きしめる。
笑いを堪えられなかった。
空、残念ながら、君のルールの出番はなさそうだ。
そろそろ、竜崎も空の動向に不信感を抱くころだろう。
「第二のキラと顔を合わせる」と言って約束を取り付ければ、空、君はまた別の理由で出かける理由を竜崎に伝えるのだろう?
竜崎が嫉妬やら興味やら、それっぽく理由をつけて付いてくるのを、拒否できやしないだろう。
「海砂……君は僕の目だ。」
「うん、ライト……好きになってくれるようがんばる。」
そこで海砂に名前を見せる。
竜崎が死ねば、それは僕の指示かもしれないし、海砂が勝手にやったかもしれない。空__君には知り得ないことだ。
空、君はきっと優しい。
でも、君が悲しむのは、世界のためには仕方のないことだ。