第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「さーて、かえって早くビデオ作ろっ」
前を行く、脆く儚い少女、守ると決めた少女、ミサの背中を見ながら。
自分たちから決して視線を外そうとしなかった一人の少女の姿を重ねて思い出す。
あぁ、そうだ。死神の目を通して視たあの少女には名前がなかった。寿命もなかった。
「ん?どーしたのレム?」
歩みが止まっていたか。
変装のために履いた長いスカートを揺らしながら、ミサが私のために立ち止まる。
“………何でもない。”
「そっか!」
人目も気にせず、この娘は、なんて危機感がないのだろう。
私が居なければ、ミサはどこまでも落ちて行ってしまいそうだ。壊れたって、最期まで気づかないに違いない。死神の目だって、一度は止めたのに。キラに会いたいからと聞く耳を持たなかった。だから、放っておけない。
あの少女とミサは、まるて正反対だ。
どれだけ人間らしく振舞おうとしているか知らないが、彼女の纏う空気はどう繕っても、ミサのような人間のそれとは違う。
__“人間は嫌いだ。死神も嫌いだ”
嘘ばかりついていたその死神のことは、鮮明に思い出せる。
人間の風貌を隠しながら、一人で全てを嫌っていた姿を、砂ばかりの錆びた廃屋につまらなそうに腰かけながら、口癖のようにそう言っていた姿を、忘れるわけがない。そのくせ、人間となれ合おうとしてノートを使うことを良しとしない、嘘つきの死神だった。
__"気づいたんだ、レム"
__"私が嫌いだったのは、死神でも人間でもない。こんなノートで生きる自分だ。"
__"こんな命なら、はやく終わってほしいとさえ思う"
とっくにノートを使うこともやめて、どこかで砂になっているものだと思ったが、あの姿……どこかの人間に愛されて、成り下がりでもしたか。
もしそうだとしたら、あの存在は、借り物の命の燃え屑であり、残滓だ。
__"できることなら、奪うものではなく、与えるもの……いや、守る者でありたかった。"
守る、か。お前が孤独な人間のように語っていたことはよく覚えている。
それなら、私がこのミサを見守り、共に在るのと同じく、お前も誰かを守るためか?
もう一度その顔を見て、問いかけるしかない。
お前は何と答える?何かを願っているのか?その願いは、寿命の半分をも賭したミサの想いより強いと言えるのか?
__お前は、この世界で、何をしている?
Guardian -第四章-
◆ひとつめの仕掛け
レムは私のことを知っている?
”昔の私”が、レムと面識があったのかもしれない。さすがに「この姿」ではないのかもしれないけれど。
わざわざ声を掛けてきたのだから、きっと近々、話をすることができそうだ。
死神と人間。
生と死。
そして愛というものへの不器用な向き合い方と、犠牲と守護。
この世界に来たときは、レムという死神は回避すべき未来の一つでしかなかった。しかし、竜崎や月君、そして自分の過去と向き合ったことで、違う気持ちを抱き始めた。
あの未来においてレムもまた、自分の正義のために命を燃やしたのだ。__どう生きたかより、何に命を燃やしたか__。
レムにも、守りたい人がいる。
__私たちは似ているのかもしれない。
「……ま、勘違いかもしれないけどね。」
だから、レムには私の全てを話そうと思う。
そして、そうでなくてはいけない。
「勘違い?」
しゃんと伸ばされた背筋のような月君の声で、私は現実に戻ってきた。木漏れ日をもたらす緑の葉っぱが揺れ、風がうるさいほどに吹いている。私はまた、月君と話すために、ケーキを受け取りがてら、東応大学のキャンパスにお邪魔していた。
「あ、ちょっと思い出してたの。青山で、白い死神と目が合った気がして。」
青山での捜査から数日経っていた。
月君には、セーラー服の少女と白い死神を見かけたことだけを伝えた。彼も、その場ではなにも起きなかったことが幸いと思っていたようで、それだけでも貴重な情報となったようだった。
そして昨日、第二のキラから「キラを見つけることができました」というメッセージが届いた。メッセージは竜崎やほかの捜査員の皆と一緒に捜査本部内で観た。その後、月君から「確認したいことがある」と、二人で話せるよう、声を掛けられたのだった。
「それで今日はどうしたの?確認って何?」
二人、手ごろな木のベンチに腰を下ろした。月君は視線を落とし、考えながら話をしようとしているようだった。
「……空が見た時、その女の子はノートを持っていたか?」
思い出しつつ、私は首を横に振った。
月君の意図は分からないけれど、それくらい答えても物語には差し支えないはずだ。
月君はその答えで納得するように小さく「やっぱりな」と腕を組んだ。
「第二のキラは初めから僕に会うつもりじゃなかった。それこそ監視、いや、発見のため……それで彼女は僕を見るとあっさりと帰っていったんだな?」
うん、と頷くと、月君は口元に指をあてて、静かに数秒思案するようにした。
やがて冷たい声で「リューク」と背後に呼び掛けた。
「……死神の目があればキラとそうでない者は区別できるか?」
月君は横目で斜め後ろに鋭い視線を向けた。
そっぽを向いていたリュークは、数秒遅れて射抜くような視線に気づき、さかさまに浮かびながら全身で否定を示した。
”ライト怖!いやいや!そこまでは俺は知らん!俺は死神だからな!”
「……でも多分そうだろうね。あの子は、たしかに月君を見つけたくらいのタイミングで「帰ろう!」っていって急に席を立ったんだもの。」
知っていたけれど、話を前に進めるために私は同意した。
月君は腕を組んだままとんとんと指先を動かしながら、私とリュークを順にみた。その様子からは、いらつきのような、怒りのような、ままならなさが感じ取れた。
「……つまり僕はもういつ殺されてもおかしくないし、いつ警察にキラだと明かされてもおかしくないってことだ。」
「月君は有名人だもんね。名前がばれちゃえばいくらでも……」
テニスでの優勝歴や、おそらく学習塾や予備校での記録もどこかに普通に残っているだろう。ただでさえ特徴的な名前なのに、それだけの記録ホルダーとなると、住所までたどり着くのは容易いことだろう。
「……くそっ……。」
拳を下ろし、ベンチに力を込めているその姿を見て。
あれ、月君は、夜神月は、人前でもこんな姿を見せるのだっけ、と違和感を持った。
「月君、大丈夫?」
「……空、あぁ、ごめん。気にしないで。僕はこう見えて結構大丈夫だから。」
そう言って、はは、と乾いた笑いをする。
どうして今更そのように取り繕うのか?と、とっさに私は言いようのない不快感を覚えた。その笑いをするのは、誰かに嘘をついているときのはずだ。キラだとばれないようにするため、優等生として振舞うため、優しい長男であるため……でも、事件も計画も関係ないこの場、この会話で「大丈夫だから」と笑って誤魔化す必要があるのだろか。
夜神月がキラだと知っている私の前で、無理に笑う必要はあるのだろうか。
「……私の前でそういう笑い、しなくていいから。」
気づいたら、そんなことを口走っていて、私はとっさに両手であっと口を押えた。
うわ、なに言ってるんだろう。これじゃまるで……
……まるで、なんだろう?
「ん?どういう事?」
ほら、また。
月君は首を傾げて、人がよさそうに微笑む。さっきまで第二のキラの動向で悩んでいたはずなのに、おかしいよ。夜神月は、もっと、私のことを怪しんでいて、警戒していて、一言ごとに疑ってかかるような関係だったはず。私は、キラの正体を知っていて、Lの隣にいる危険分子だ。
「……それ、その笑顔。私はキラの正体知ってるし、月君の考えも知ってるから、無理にいい人ぶらなくても……大体私はっ…」
むきになって思うままに言葉を並べると、話し終わる前に月君の腕が伸ばされた。いきなりの事だったので、無意識に目をぎゅっとつむってしまう。
額に軽い衝撃があった。
「……?……でこぴん?」
片手で額を触りながら目を開けると、呆れたように目を半分にした月君がこちらを見ていた。その片手が、ちょうど額をつついた形のまま宙に浮いている。
彼はわざとらしくひとつ、大きなため息を吐いた。
「あのな……キラとか計画とかじゃなくて、友達なら、多少無理してでも笑うものだろ、普通。」
「と、友達……。」
「……なんだよ、その意外そうな顔。とにかく、そういうものなんだよ。」
心底呆れたようなその言葉は、半ば説教の様だった。
私は私で、思いもしなかった行動と言葉に、ただ目をぱちくりと瞬きすることしかできなかった。
「ら……月君って、結構お人好しとか、いい人だったりする?」
「今更何言ってるんだよ。そうじゃなきゃ一人で世界を良くしようなんて思わないよ。」
「………。」
何気ない事のように。当たり前のように。それこそ呆れた表情のままとんでもないことを言う。
頭を殴られたように、一瞬、自分の考えが真っ白になるような衝撃を受けた。それは、竜崎の言葉を聞いて心が掬われるような、あの不思議な感覚に似ていた。人間の、眩しくて強い意志。
「ここはいずれ、優しい人間ばかりの世界になるんだ。いや、僕がそうする。」
「月君……。」
横並びに座った二人に木漏れ日が差し掛かって、ざぁ、と木々が揺れた。ひどく静かに感じた。
私も、しばらく口をつぐむ。
こうして隣で座っていると、まるで、独りぼっちでも戦うことを誓ったキラに寄り添っているようだ。世界と一人で対峙するLの隣にいるのと何ら、変わりない。
「そっか、やっと分かった気がする。」
「……?」
「……やっぱり月君と話せてよかった。」
正義という言葉に実感が持てなかった理由、それは過去のせいでも、記憶喪失のせいでもなかった。
ましてや、死神だった自分が人間の心に疎かったから、という理由でもなかった。
「…なんの話をしてるんだ?」
「ううん、こっちの話。」
泣きたいような、それでいて笑ってしまいそうな、不思議な気持ちがこみあげる。
物語を読んだだけでは気づかなかった。月君に初めて会った日にはじめて感じたこの気持ちは、なんて単純なものだったのだろう。
キラとL、竜崎と月君。
__私は、どちらの正義も愛している。
竜崎を守ると誓い、Lの正義のもとでキラと戦う、キラからLを守ると決めたから、自分の中でもう一つの正義を認めてしまうことを、受け入れられなかったんだ。
二人ともそれぞれの正義で、強さと優しさを持って、一人でも戦うと決めたから、片一方を悪とは私にはできなかった。
ただ、認めるのを恐れ、「正義が分からない」と拒否していただけだったのだ。
だから、二人とも、"人間として"この先も生きて、正義を貫くべきだ。
__この世界に、死神の力は必要ない。
__私が排除すべきは、夜神月でもキラでもなく、デスノートだ。
「月君、私、本当に竜崎のことが好き。」
「……あぁそう。」
「竜崎のことは死んでも守る。でも、やっぱり月君には捕まってほしくない。」
支離滅裂もいいところだろう。案の定、竜崎と聞いて、月君がこちらを訝しむように目を細めた。頭のいい月君相手に交渉を進めようという、この無謀な感覚はちょっぴり懐かしい。私は思わず挑戦的ににやりと笑ってしまった。
___少し早いと思ったけど、今、切り出してみよう。
「月君、つぎの竜崎の作戦は、きっと司法取引の提案だよ。」
息を落ち着かせて、できるだけはっきりと聞き取れるように、私はゆっくりと述べた。
私の独り言に首を傾げていた月君も、真剣な表情に変わる。彼は驚いたように目を一瞬だけ大きく開いたが、想定内だったのか、すぐに目を付せ、腕を組んだ。
「……なるほど。竜崎なら考えそうだ。」
「でもごめん、これ伝えたところで明確な回避策は分からないよね。第二のキラは乗ってくる可能性が低いけれど、乗ってしまった場合は……」
「……。」
__もはや逃れる術はない。
という言葉を口にはせず、月君は無言で思案を続けているように見えた。
私には分かっていた。司法取引の提案に、第二のキラ_弥海砂は取引に乗るどころか、「自分が第二のキラだ」と直々に月君に名乗り出るという正反対の行動をとることも、このことが決して月君をピンチには陥れないことも。
だけど、先を知らない月君は、見えない状況を危惧するほかない。
たしかに、司法取引が成立してしまったら、キラのピンチであり、そこは嘘ではない。逃れる術はない。
第二のキラは殺せないかもしれない。ノートが物証といて押収され、死神は証明され、もはやLや捜査本部の数人が死んだとしても夜神月が容疑を逃れることは不可能と言える状況が待っている。
だから私は、脅すように、大げさに、追い詰めるように言った。
「ね、月君。”そうなった場合”のため、考えがあるよ。」
視線がゆっくりとこちらに向けられる。冷たく、無感情にその言葉が正しいか、信用に足るか判断するように。
「私の事、信じてくれる?」
「……聞いてから判断する。」
私はそれに手ごたえを感じながら、心の中で自分を落ち着かせ、その目を見返した。
これはひとつめの仕掛けであり、楔だ。
「ノートに偽のルールを書かせてほしい。文面は……」
__” ”
私は月君の傍によって、耳元でこっそりとルールの文面を伝えた。
月君の目が大きくなり、私はそっと離れる。
「ノートを確保したとき、この文面を読んだら警察やLはどう解釈するかな?」
「……いくらでも解釈の余地はあるが、状況によっては……」
淡々と考えるように呟いた月君が、はた、と沈黙した。流石、と思った。
そして静かに口元で組んだ手を膝に下ろしながら、次の瞬間には、はははは、と派手に笑い出した。
「あぁ、そういうことか。わかったよ、空」
「……さすが月君! "実証"が必要になったら、私が名乗り出る。」
私は自分の胸に手を当てて、身を乗り出した。具体的に「なんの実証か」、「名乗り出るとは何か」、「何をするのか」は明言しなかった。しかし、月君は予想通りだというように頷く。そして数秒前あけてから、彼は腕を組んで難色を示した。
「……だがもしそうなったら、状況的には空の一人勝ちって訳だ。僕はもうキラとして君臨できなくなる。」
「逮捕されて死刑になるのとどっちがいい?」
私はあくまで挑戦的だった。まだ、挑発と脅しの口調を重ねた。
キラとして長く君臨することが月君の優先事項だということは把握している。しかし、やはり自分の死は避けたいはずだ。
月君になら伝わるはずだ。この偽ルールの提案は、必ずしもプラスになるとは限らないが、最悪のリスクの回避だけは可能だと。
「……いいだろう、リュークに書かせるよ。」
”なんだ、オレか?”
「ありがとう月君。」
どこか悔しそうな月君を横目に、私は小枝を拾って、目の前の砂利に文面を描いて見せた。
後ろの方で漂っていたリュークが、愉快に覗き込んで笑い声をあげた。
"Notwithstanding of its intention, the owner of this note must keep writing someone’s name"
『本人の意思に関わらず、このノートの所有者は必ず誰かの名前を書き続けなければならない。』