第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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「夕陽、今日は先に寝ていてください」
誤解を招くような台詞を吐いて、パンダのように隈を深くした名探偵は3つ並べられたモニターの前に座った。
Guardian -第四章-
◆寝言
「ごっふぁ」
遠くで誰かがくしゃみか咳か分からないような音を立てた。お茶にむせたのだろうか。
「竜崎、その言い方はちょっと誤解が……」
これが学生や家族であればいじりあったり、笑い話にするのだろうと予想は付くけれど、あんな派手に噴出したはずの捜査員の皆さんは聞かなかったことにしている。
「今日のうちにこの後の捜査のビデオを見てしまいたいので、今夜は寝ません。ですので先に」
「あーわわ承知!わかりました!」
青山の監視カメラの映像のことですね。と返そうとしたところで、再びさっきの台詞が繰り返されそうだったので、私は「言わせません」と制するのに必死だった。
「ごほん……ところで松田、あの、アレな」
遠くからまた無理やり話を逸らすようなセリフが聞こえた。相沢さんの声だろうか。
誤解を招く台詞というのは、悲劇だ。弁解しても怪しさは増すばかり、かといって弁解しなければ生暖かい良心によって受け入れられてしまう。それが人間の大人の世界だ。なんて人間の世界は生きづらいのだろう。
「あの、その……わざわざ先に寝ていてって言わなくても大丈夫だよ?」
私はこれ以上、墓穴を掘らないように部屋の隅まで竜崎を連れていき耳打ちする。
「この前、夕陽は夜中の3時まで私を待っていたので。言わなければ夕陽が寝不足になります。」
竜崎はあくまで自然体だった。
「あ、あれは」
言い淀んで、その夜のことを思い出す。
「…………。」
この状況、まさか、自室がイコール竜崎の睡眠スペースになるなんて。
ことの発端は、私だった。
ある夜、私はワタリさんと夜中に話し、思い立ってチョコレートをいくつかもって竜崎が眠る枕元に置き、そのまま隣のベッドで寝付いてしまったのだった。
翌朝目が覚めた時は、とっくに竜崎の方が先に捜査を始めいた。特にそのことで竜崎と何かを話したりはしなかった。枕元に置いておいたチョコがなくなっていたので食べてくれてよかったなーなんて思ったくらい。
問題はその日の夜だった。自室で眠りについて、なんとなく夜中に目を覚ますと、誰もいないはずのツインベッドの片割れに、誰かが寝ていた。
「…………!?!?」
顔が見えない。けれども、黒髪が枕の上から見えていて、足先から青いジーンズの裾が見えていた。
これは竜崎だ。間違いない。そうじゃなかったら、竜崎の格好をした誰かだ。
しばしの硬直ののち、とりあえず起き上がろうとしたところ、
「……夕陽」
「!」
つっ、とパジャマの裾を掴まれた。
「りゅ、竜崎?」
「…いいえ……………える、です」
__Lです???
寝言かな。私は起こさないようにそっとしゃがみこむ。
「竜崎?どうしたの。離してくれなきゃ。」
「……こに……いてください。行かない……」
子供のような。
パジャマを掴む指先はそんな言葉の後に脱力した。
あっけにとられて、しばらく竜崎を見るも、それっきり喋ることはなかった。布団は規則的に上下し、また寝付いてしまったようだった。
「……ふふっ」
____寝言に話しかけるのは良くないんだっけ?
私は、思わず緩んでしまった頰に、無理やり思考をそらした。
そんなことを言われてしまってはどこか別室に移ることができるわけなく。
そのまま自分のベッドに戻り、朝まで寝てしまった。
次の日、竜崎があまりにも何事もなかったかのように過ごすものだから、なんとなく夜、寝れないでいた。
いや、何もなかったのだけれど。あれはなんだったのかな?と疑問は残っていて。
午前3時ごろまで、寝れなくてぼーっとしていると、平然と、ひょっこりと、人差し指を咥えながら部屋に入って来た竜崎とドアの傍で鉢合わせた。
「…………」
「…………」
「…………………」
「夕陽、まさか待っていてくれ」
「ち、ちち違う!」
からかいモード全開でにやりと笑う竜崎に、私も両手を振って全身全霊で否定する。
____この沈黙、そうくると思った!
「また、竜崎くるのかな、とかなんでかなーって考えてたら寝れなくなっちゃっただけだから!」
顔が熱いのを自覚しながら必死で弁解した。
__別に、待っていた訳じゃない。
そもそもなぜ、あの日、竜崎は隣のベッドにいたのか。そうしてどうして今夜も当たり前のように入ってきているのか。ここは私が寝たりお風呂に入ったりする自室で、そこに入ってきた竜崎と夜中の3時に鉢合わせるという状況自体がシュールだと突っ込みたい。
竜崎はいつものようににやりを張り付けたまま、無言でこちらを見返していた。薄暗い部屋で
見下ろされることで視界は暗く、立ちはだかる白いシャツは壁のようだった。
「………な、なにがおかしいの?」
「いえ。」
竜崎の表情は変わらない。
「可愛いこと言いますね。」
「………………。」
返す言葉が無い。
頰を膨らませて不服を示す私をよそに、竜崎は、いつもソファに座る時のように、私が寝ていなかった方の整ったベッドに飛びのった。わっと一歩飛びのくと、竜崎からお風呂入りたてのような石鹸の香りがふわっとした。
そのまま寝転がるのかと思いきや、三角座りでこちらをじとっと睨んだ。さっきのにやりはどうししたのか、急に不機嫌そうだった。
「……さきに私の部屋で寝たのは夕陽のほうです。」
「あ、うんそれは……」
出来心でした、なんて言葉は間違えても口にできない。
「それに好きあっている者同士ですし、昼、人前では話せないことも、自室が一緒なら話せます。ほかの捜査員もワタリも居ません。私も毎日寝るわけではありませんし、夕陽とは活動時間も違いますから着替えやシャワーなども被らないでしょう。なにか問題でも?」
竜崎はどうしてそう面映ゆいようなことをつらつらと話せるのだろう。
………私が意識しすぎなのか。
それとも、英国人だから?それとも、無意識?そもそも、これ、からかわれてる?
「………せ、せっかくの休憩、邪魔にならない?」
苦し紛れに出た言い訳のような返答はそれだけだった。
「夕陽は邪魔になりません。」
即否定された。
私はとっくに論破されてしまっていた。
言葉を失っていると、ふと思い出す記憶があり、私はふっと笑ってしまった。
「なんか…こんな会話、前にもしたね。」
ここに来たばかり、隣に座っていてほしいと言われた時の会話と同じだ。
「はい。そして昨晩もしましたね。」
___「ここにいて」と、パジャマを引っ張られたときのことか。
「あ、あれ…寝ぼけてるのかと思った。」
「私は寝ぼけたりしません。寝ぼけるのは子供のすることです。」
あははと笑うと、竜崎は心外だと言わんばかりにこちらを睨んだ。それは強がりにしか聞こえなかった。
竜崎はいつでも子供のように指をくわえ、甘いものを好み、足を抱えて座る。
「私は寝ぼけていなかったのでちゃんと覚えてます。こうも言いました。私はLです。……今後は二人きりの時はLと呼んでください。」
あの寝言はそういう意味だったんだ、と目を丸くしたのは私の方だった。
「実は、私の本当の名前なんです。」
声を殺して、思いついたいたずらの計画を明かすように楽しそうだった。
私が竜崎の、Lの本名を知っているなんて、それこそ初対面のときに明かしていたはずなのに。そして私も、幾度かその名前を口にしたことはあるのに。
彼の様子はまるで今日が初めて、その秘密を明かしたかのようだった。それこそ、2人だけの秘密、とでも言うように。
Lは決して呼び名にはこだわらない、なんてどこかで聞いた気がするけれど。
でも実際の気持ちについては。
私は、何も知らない。
ここは何も考えずイエスと答えたい。
「いいよ、L。」
改めて呼び直してみると、なんだか皆の前で名乗っている「L」という名前とは違う響きに思えた。
「はい。では今日から私と夕陽は同室ということで。」
「ま、まま待って!どうして今の流れでそうなるの!?」
「……………」
「L!」
「………………」
なんとなくいい雰囲気になったと思った矢先、これがチャンスだと思ったのかLは勢いよく布団にもぐってしまった。
どんなに声を掛けても答えないLはどう見ても狸寝入りだった。もしくはパンダ寝入りと言いたい。