第四章
名前変換 Who save his life is...
主人公について記憶喪失からスタートするので、
Lに突然呼ばれる名前です。
平凡な人物
これといった特技はない
Lと同じく甘いものが好き
本名は番外編等で登場する予定です
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Guardian -第四章-
◆ブラフ_______
空に連れられ捜査本部に向かう途中で、タクシーに乗り込んだ。父さんからの電話で「夕陽に会った」と伝えたところ、場所は伝えられずに「彼女に連れてきてもらいなさい」ということだった。空は慣れた様子で都内のホテルの名前を告げた。本部は警視庁の中にないのか、と思った。Lがいるというのなら、いかにもありそうな話だった。
ホテルに着くと、大きなエントランスのシャンデリアが目に眩しかった。スーツケースを持った人々が行きかう。空はフロントのコンシェルジュに何かを伝えると、ケーキの箱のようなものを受け取っていた。
「いこっか。フロアを貸し切ってるんだよ。」
捜査本部の構成員数がふと気になる発言だった。フロアを貸切る規模ということはそれなりの人数がいるように思えるが、所詮はホテルの客室だ。細かく区切られている以上、住み込みで少人数という可能性もあるのだろうし、捜査員は通常通り勤務時間だけ出入りし、外部と遮断するためだけにフロアごと貸切って、数日おきに移動するなど、いろいろと考えられる。判断はできなかった。
前をいく空は、ピッとカードキーで扉のランプを緑色に光らせた。
「ここからは夕陽でお願いしますね」
なんて、楽しそうに言う。
「わかったよ。夕陽さん。」
ため息交じりに言うと、空は勢いよく扉を開いた。ピンクやオレンジを基調とした、やたら絢爛豪華な客室だった。
「夜神月くん、お連れしました。」
音もなく開いたドアは、すぐに捜査員たちをこちらに振り向かせはしなかった。空の声が凛と響き、ようやく改めて皆がこちらに気が付いた。すたすたと流河が、大学に来るのと同じ服装のままこちらに近づいてきた。
「ようこそ、夜神君」
握手を求められるが、初対面ではないだろう。分かりやすく渋ると、流河は両手ともポケットに戻し、つまらなそうに視線を背後に移した。
「月、よく来てくれた。」
流河と連れだって出迎えに来たのは父さんだった。
ちらりと空の様子を確認する。僕が流河たちと話し始めて、もう自分の役目が終わったとでもいうように、気配を消した様子で手に持ったケーキの包みをテーブルで解いていた。
「ここでは竜崎と呼んでください。私も、月君と呼びます。」
「私は朝日だ。」
父さんの名乗りを皮切りに、挨拶のように皆が偽名の名前を口にした。竜崎はともかく、他の捜査員たちからは全く警戒心を感じなかった。他の警察のように、局長の息子という扱いをしてくる。異様な空間だ。彼らは同じ場にいて、違う視点で捜査を……。ここで注意すべきは、実質、竜崎一人ということか。
「はは、じゃあ僕は朝日月ってことだね。」
柔和に笑って見せたところで、遠くでガタッと大きな音がした。
その場の全員が無意識に振り返り、注視する。かつかつとこちらに歩いてきたのは__私服の女性だった。
「こんにちは。はじめまして。夜神月。」
全身ぴったりとした黒に包み、髪も大雑把に肩で切り揃えられた漆黒のスタイルで、その中心で大きな目だけが爛々と、銃口のようにこちらを睨みつけていた。疑いか、敵意か、殺意か、攻撃的なその”何か”を全く隠す気がない。何者だ。
「FBI捜査官の間木照子です。」
流れるような動作で提示されたのは、FBIのIDカードだった。「SHOKO MAKI」日系か?何故FBI捜査官がここにいる?あの時の12名で全員ではなかったというのか?いや、そもそもここで本物のIDカードを見せるわけがない。
「月君、FBIは年末の件から独自に調査を進めていまして。今日、せっかくなので、簡単な事実確認をできればと。」
竜崎は指をくわえてとぼける。段取りに含まれていたように、にやりと笑っていた。また、テストの類を仕掛けるつもりなのだろうか。しかし、まぁ、断るべくもない。空はこの件についてなにも言っていなかった。知らなかったのか、さして問題ではないと考えていたのか、もしくは__些末なことだったのか。いずれにせよ、彼女の発言が正しいという確証はまだ得られていない。この自称FBIが本物かどうかも、どうでもいいことだ。
「あぁ、もちろんだよ。僕で力になるのなら。」
「流石です。……では間木さん、私はここで待機していますので、どうぞ。」
四人でテーブルを囲むようにして、席に着く。左隣に間木、そのさらに左__つまり正面に竜崎が座った。待機する、なんて言っているが、じっとりと張り付くような視線はこちらから外れる様子がなかった。待機と言いうよりも、むしろ注意深く観察するためにその位置を陣取ったように思えた。ちなみに右隣には空が素知らぬ様子で浅く腰かけていた。やはり、何かと竜崎の隣にいるものらしい。彼女はいつの間に切り分けたのか、自分を含めた四人の前に桃の乗ったケーキを用意し終えていた。
「昨年12月、FBI捜査官が12名、キラの尾行中に死亡したことは知っているかしら?」
場が整ったところで、口頭で間木が切りだした。竜崎の時と違い、手には何の資料もなかった。
「はい。尊い正義の命が失われた……知らないわけがありません。」
「その事件の直前、あなたは恐田奇一郎の引き起こしたバスジャック事件に乗客として遭遇し、FBI捜査官のレイ=ペンバーと接触した。間違いないわね?」
「!!」
どういうことだ?なぜそのことが警察に伝わっている?
空か?いや、彼女は乗り合わせていなかったはずだ。万が一考えられるとしてもバスの外からリュークを見かけた可能性くらいか……
「夜神月、あなたはバスジャックに遭ったと認めますか?」
……いやここはどこから伝わったかの問題ではない。調べがついている以上、認めなければ疑いが深まるばかりだ。事実確認。YESというほかはない。
「あぁ、たしかにバスジャックに遭った。その捜査官とも話しました。」
「なるほど。橋本ユリの証言と一致するわね。」
__ユリか。あの女。
しかし、おかしい。彼女から自ら証言するはずがない。警察の方から夜神月の身辺を洗ったとしか思えない。それもあのバスジャック事件に絞って、それこそ運転手に当たって裏を取ってから…という次元のマークでもなければ……何故だ。そこに至る足掛かりなどなかったはずだ。
「ごめんなさいね。”二人だけの思い出”だったかしら?……橋本ユリも恥ずかしいからと言って渋っていたけれど、夜神月の疑いを晴らすためにと言ったら、話してくれたわ。……彼女の話によるとIDカードを見たわね?」
__そんなところまで聞き込みを。それじゃあまるで、もう僕がFBIに個人的にマークされているとしか考えられないじゃないか。
「……はい。」
「協力感謝するわ。………では私の中では、あなたがキラ。そう考えてもいいかしら?」
「………!」
___なんだと。
それだけで僕を追い詰めた気でいるのか?いや、なにか決定的な断定要素があったのか?あの事件が露呈することで警察に知られることは、レイ=ペンバーの尾行対象か?キラがノートに書ける死因についてか?だとすると、過去にさかのぼって夜神月=キラと断定する要素は……
「尾行されている立場を逆に利用し、バスに乗り込む。あらかじめ恐田を操りバスジャックを引き起こし、混乱に乗じてレイ=ペンバーのIDを確認、レイ=ペンバーを操り他の捜査官のデータを入手し同時に殺害。できるのは貴方しかいないと思わない?」
「…………」
……いや。
罠だ。こんな分かりやすいひっかけ方があるか?
竜崎。注意深くこちらの発言を待っているようだが、残念だったな。空振りだ。
手掛かりは何か?僕がキラだと断定できる要素はあったか?死因の話か?……ミスは?齟齬は?そう記憶をたどる行為自体が間違っている。情報を引き出す導線そのものじゃないか。
キラじゃなければ、ただ否定するだけ。
警察に協力し、自らも正義を志す夜神月という人間は、こういう時、焦るのではなく、ただ感心するだけだ。
「……い、言われてみればたしかに……」
これは茶番だ。
逃げも隠れもしない僕を捕まえることはいつだってできたんだ。これは竜崎のやり口と一緒だ。僕を焦らせ、なにか新しい事実を露呈させようとしているだけだ。それは裏を返せば、それ以上の判断材料がないということだ。
この女は何一つ決定的な証拠を持っていない。
「……僕がキラでもそのやり方は賢いと思う。さすがFBIの捜査官です……。」
この間木という女。あまりにストレートで面食らったが、話の運びはシンプルすぎる。穴だらけだ。
こんなのが本当にFBI捜査官なのか?
「素人の僕がいうのもあれですが……でも、その推理だといろいろと前提が変わってくるように思います。キラは心臓麻痺で人を殺すが、バスジャックの犯人は確か車にひかれて亡くなったはずだ。キラは心臓麻痺以外でも人を殺せるのか?ちゃんと調べるべきですよ。FBIと日本警察なら人員だって十分に確保できるはずだ。」
「……!」
これくらいの返答、予想していなかったか?
分かりやすく言葉を失う間木という女、しかし真実だ。正解だ。こんな人物が竜崎のほかにもいたのか、といいう点においては驚かされる。もし会ったのがここでなかったら、殺していたところだ。
「月君、ケーキたべなよ。旬の桃だよ。」
「月君、いらないなら早めに言ってください。手を付ける前に貰いたいです。」
こいつらは二人そろって何なんだ。空気を読もうという発想はあるのか?それともまたとぼけているだけか?竜崎はともかく、空まで抜け抜けと。それに、あの二人のようにとぼけはしないが、敵意丸出しの間木もいる。少々、面倒くさくなりそうだ。
「……あぁ、勝手に食べろよ。」
竜崎はソファの上で立ち上がりながら、こちらの皿を引き寄せた。行儀が悪い。
「………月君の言う通りです。実は私たちはとっくにその線で捜査していたんです。ですが決定的な証拠はまだ掴めていません。」
「とっくに…だと?」
「ええ、ですので月君の家に監視カメラを仕掛けました。あ、ちなみに間木さんはレイ=ペンバーの婚約者として日本に来ていたんです。」
「……!」
___それは、危ないところだった。
この女はレイ=ペンバーの婚約者だった。……さすがにそこまでは知りえなかった。彼女の持っている情報がこれだけでなければ__もう終わっていただろう。
いっそ単独行動でこちらに接近してくれていたら、すぐにでも殺せたのに。この女……直情的なようで、このタイミングまでLのもとで行動していたということか。思っていたよりも手強いかもしれない。
「ええ。バスジャックの件はレイから直接聞いたわ。今更試すような真似してごめんなさい。」
目の炎は灯しつつも、礼儀的に間木は会釈した。
「照子さん、私のすきな言葉にこういうのがありますよ、”捜査というのは疑ってかかって、違ったら「ごめんなさい」でいいんです”って!」
空が、面白がったように明るい声をあげた。
意図的なのか天然なのか、いまの一連の会話はどうでもいいという風じゃないか。
伝えるほどの情報ではなかったとでも言うのか?それとも……
「それ、いいですね。」
乗った、という様子で竜崎が口角を釣り上げた。
「……竜崎。まさか監視カメラまで仕掛けておいて、今になって「違いましたごめんなさい」で済ますんじゃないだろうな?捜査協力という形である以上、僕の疑いはもう晴れたってことでいいのか?」
「いえ、まだ晴れていません。ここからが本題です。こちらへどうぞ。」
竜崎が指を咥え、部屋の奥に歩いていく。これから、空の言っていた通りになるのか?軽く彼女を振り返ってみる。……楽しそうに小さく手を振られた。
「月君、がんばってねー。」
「あら、意外と仲がいいのね。」
「さっき歩いてくるときに友達になったんです。」
さらりと言う空に、ふうん、と不思議そうに返事をする間木は、ついさっきまで自分をキラと決めつけていた相手だ。おそらく今でも、そう信じているだろう。そうそう気が抜けるものではないが、まぁ、空なら大丈夫だろう。
「でも、照子さんの話を聞いて、本当に月君がキラなんじゃないかって思いました、正直。」
「ええ、私もそう思う。」
まるで今その考えに思い至ったとでもいうような、白々しい嘘が聞こえてきた。自分もよくやるので人のことは言えないが…。
「持ち出しは禁止です。メモも取らないようにお願いします。」
過去の捜査資料が紙媒体でばさばさと積まれた。次にビデオが流され、背後に捜査員たちが集まってきた。紙の資料に関して甲斐甲斐しく補足してきたのに、ビデオが流れたとたんに、皆、発言を控えるようにした。空の話を聞いていたかどうかに関係なく、分かりやすすぎる。ちらりと至近距離でこちらを覗き込む竜崎を見る。
__あぁ、確かにこいつ……試している!
「これは、いままでのキラとは別だ。」
___空
「第二のキラだろう。」
「これで月君は、“ほぼシロ”です。あらためて捜査協力、よろしくお願いします。」
”ケケケ……笑いすぎだぞ、夕陽”
背後から聞こえるリュークの声に、耳を澄ます。彼女も思い通りということか。
___空、いいだろう。約束はできないが、話は聞いてやろう。