中編
ある日、ラリイの家に突然の訪問者が来た。
しかも、フェニックスが留守番して居て、ラリイが不在の時に限って。
フェニックスは、その訪問者と対峙する。
幸い、女であったことに、フェニックスは少しだけ安心した。
これが、人間の男で、力の強い戦士や、魔術師や、
最悪、召喚士であったら、無事で逃げ出すことは
出来ないだろうと思ったからだ。
フェニックスをじっと見てくる、人間の女は、静かに微笑んだ。
その顔に、フェニックスは、ラリイの面影を感じる。
「初めまして。フェニ様。ラリイの母のラミルです。
息子がお世話になっております。それから、私の為に貴重なモノを下さり、
心から感謝しております。本当に、あの時は有難うございました。」
よくよく見れば、ラリイと似ている髪色の緩くウェーブのかかる長い髪に、
瞳の色をした女だった。雰囲気も良く似ている。
そのラミルは深々とフェニックスに頭を下げてあの時のお礼を言う。
フェニックスは、予期もしない事に戸惑ったが、ラリイの母で
あるのなら、害はないだろうと考えた。
「いえ、お礼を言うべきは、私です。私は息子さんに、雨の中で
助けて貰い、今日まで、お世話になっている身です。
そのお礼のつもりで、あの時はあれを渡しました。
なので、そんなに感謝されることはありません。」
フェニックスは淡々とラリイの母に伝える。
少し冷たく聞こえるかもしれないが、フェニックスからしたら、
ただ素直に真実を伝えているだけだ。
ラミルはフェニックスからの話を聞いて、気分を悪くした感じもなく、
また穏やかな顔で、会話を続ける。
「それであっても、感謝させて下さい。本当は、息子には、
自分が良いと言うまで、この家に来ない様に言われていたのですが、
命を助けて頂いたのです。どうしても私が我慢出来なくて、
私が勝手に来たのです。だから、息子は何も悪くないので、
その、息子の事は嫌わないでやって下さい。お願いします。」
ラミルの方も素直になって、フェニックスに自分の気持ちを告げた。
それから、再度、まだ深々と頭を下げたまま、動かない。
フェニックスは、ラリイの気質も、また母親譲りなのかと知り、
少し笑ってしまった。
友の母にこんなにまで、頭を下げたままにさせておくわけにもいくまいと思い、声を掛ける。
「頭を上げて下さい。私なんかに、そんな大袈裟です。」
「でも・・・」
「ラリイは、貴方の息子さんとは、良い友として、今後も居させて欲しいと思ってます。
だから、もうこんな事をされる必要はありませんよ。」
「フェニ様・・・有り難うございます。」
ラミルは、フェニックスの言葉に安心したようで、頭をゆっくりと上げて、少し涙目になる。
フェニックスは、ラミルと少し会話をすることになった。
お互い、いつもラリイが使っているテーブルに座る。
「最近、ラリイは本当に嬉しそうで。フェニ様との話も、私には良くしてくれています。」
「そうなのですか。」
「はい、親友が出来たと、それは嬉しそうに。うふふ。」
フェニックスは、笑顔のラリイの母からの話を聞いて、
内心ではやれやれと呆れた。
ラリイはどうやら、マザコンなところがあるようだ。
親を大事にすることは悪い事ではないとは思うが。
「あの子にも、また親友と呼べる、存在が出来て、本当に良かった。
一時期、あの子・・・ラリイには辛い思いさせてしまったから。」
意味深な言葉を言う、ラミルに、フェニックスは
何があったのだろうと気になって仕方がなくなる。
笑っていたラミルも、その話をして、顔が暗くなっていた。
「過去に何かラリイにはあったのですか?」
フェニックスは我慢出来ずに、自分からラミルに聞いてしまっていた。
ラミルは、自分でその話を出してしまったので、
少し悩んでいたが、フェニックスに話すことを決める。
「ラリイは、あの子は、数年前は今のような一般兵士なんかでなく、
王から国の宝である、魔剣アルゥイントを授かり、前線で大いに活躍している子でした。
酷い噂もあったんですよ?フェロニアの魔獣なんて・・・
本当は昔からあんなに心優しい子なのに。」
ラミルの話にフェニックスは目を丸くした。
あのラリイが、魔獣と噂されていた?とても、信じられなかった。
それに、本人も戦うのが苦手だと言っていた気がしたが。
その話を聞く限りでは、かなりの剣の腕前ではないのか?
「そんなラリイが、どうして今のこの生活に?」
「実は、私も詳しくないですが・・・ある任務中に、ラリイは、
突然戦えなくなってしまったそうで。
それに、夫は大激怒し、あの子の兄達も一緒になって責めて。
私は庇ったのですが、王からも責任を取らされることにまで、
なってしまって・・・」
あの頃を思い出してしまったのだろう。ラミルは、我慢できずに、
泣き出してしまった。
フェニックスは、ラリイにそんな過去があったことを知り、
唖然としてしまった。
そうか、だから、ラリイは少し時々、会話中に寂しい顔をするなと思ったのは、
これがきっかけなのかと、フェニックスは思った。
この過去に関係がありそうな話の時に思い出すことがあるのだろう。
まさか、ラリイの母から、この話を聞いてしまって、良かったのかと、
フェニックスは少し後悔した。
あのラリイの事だ、きっと自分から話したかっただろうと。
フェニックスはこれ以上は聞くのは止めようと思った。
「そうですか。」
と、ただ短く返事をした。様子を見た限り、ラミルも、深く聞こうとしなければ、
話せるような状態ではなさそうだった。
フェニックスとラミルは、ちょっと長めの沈黙の中にいた。
その中で、フェニックスはある言葉を思い出した。
魔剣アルゥイントとラリイの母は言っていた。
(魔剣だと?もし、本当にアルゥイントが、あのアルゥイントだったのなら、
遥か昔にドワーフ達にとっての神に近い存在である、
エイシェントドワーフの者が神々の戦いの為に作った武器だぞ?
もし、それをラリイが使える者なら、只者じゃない。)
フェニックスは、その事をラリイに確認した方が良いような気がした。
その事を知らない振りするには、どうしても不安を感じる。
今後のラリイに確実に関わることだ。
フェニックスは自分の知識がラリイに役立つのなら、
教えておきたいことが沢山あった。
(ラリイ・・・頼む、早く帰って来てくれ・・・)
フェニックスは心の中で、そう願った。
その頃、当のラリイは、城から呼び出され、久しぶりに王と
対面していた。
そして、その王から、ある命令をされるところであった。
しかも、フェニックスが留守番して居て、ラリイが不在の時に限って。
フェニックスは、その訪問者と対峙する。
幸い、女であったことに、フェニックスは少しだけ安心した。
これが、人間の男で、力の強い戦士や、魔術師や、
最悪、召喚士であったら、無事で逃げ出すことは
出来ないだろうと思ったからだ。
フェニックスをじっと見てくる、人間の女は、静かに微笑んだ。
その顔に、フェニックスは、ラリイの面影を感じる。
「初めまして。フェニ様。ラリイの母のラミルです。
息子がお世話になっております。それから、私の為に貴重なモノを下さり、
心から感謝しております。本当に、あの時は有難うございました。」
よくよく見れば、ラリイと似ている髪色の緩くウェーブのかかる長い髪に、
瞳の色をした女だった。雰囲気も良く似ている。
そのラミルは深々とフェニックスに頭を下げてあの時のお礼を言う。
フェニックスは、予期もしない事に戸惑ったが、ラリイの母で
あるのなら、害はないだろうと考えた。
「いえ、お礼を言うべきは、私です。私は息子さんに、雨の中で
助けて貰い、今日まで、お世話になっている身です。
そのお礼のつもりで、あの時はあれを渡しました。
なので、そんなに感謝されることはありません。」
フェニックスは淡々とラリイの母に伝える。
少し冷たく聞こえるかもしれないが、フェニックスからしたら、
ただ素直に真実を伝えているだけだ。
ラミルはフェニックスからの話を聞いて、気分を悪くした感じもなく、
また穏やかな顔で、会話を続ける。
「それであっても、感謝させて下さい。本当は、息子には、
自分が良いと言うまで、この家に来ない様に言われていたのですが、
命を助けて頂いたのです。どうしても私が我慢出来なくて、
私が勝手に来たのです。だから、息子は何も悪くないので、
その、息子の事は嫌わないでやって下さい。お願いします。」
ラミルの方も素直になって、フェニックスに自分の気持ちを告げた。
それから、再度、まだ深々と頭を下げたまま、動かない。
フェニックスは、ラリイの気質も、また母親譲りなのかと知り、
少し笑ってしまった。
友の母にこんなにまで、頭を下げたままにさせておくわけにもいくまいと思い、声を掛ける。
「頭を上げて下さい。私なんかに、そんな大袈裟です。」
「でも・・・」
「ラリイは、貴方の息子さんとは、良い友として、今後も居させて欲しいと思ってます。
だから、もうこんな事をされる必要はありませんよ。」
「フェニ様・・・有り難うございます。」
ラミルは、フェニックスの言葉に安心したようで、頭をゆっくりと上げて、少し涙目になる。
フェニックスは、ラミルと少し会話をすることになった。
お互い、いつもラリイが使っているテーブルに座る。
「最近、ラリイは本当に嬉しそうで。フェニ様との話も、私には良くしてくれています。」
「そうなのですか。」
「はい、親友が出来たと、それは嬉しそうに。うふふ。」
フェニックスは、笑顔のラリイの母からの話を聞いて、
内心ではやれやれと呆れた。
ラリイはどうやら、マザコンなところがあるようだ。
親を大事にすることは悪い事ではないとは思うが。
「あの子にも、また親友と呼べる、存在が出来て、本当に良かった。
一時期、あの子・・・ラリイには辛い思いさせてしまったから。」
意味深な言葉を言う、ラミルに、フェニックスは
何があったのだろうと気になって仕方がなくなる。
笑っていたラミルも、その話をして、顔が暗くなっていた。
「過去に何かラリイにはあったのですか?」
フェニックスは我慢出来ずに、自分からラミルに聞いてしまっていた。
ラミルは、自分でその話を出してしまったので、
少し悩んでいたが、フェニックスに話すことを決める。
「ラリイは、あの子は、数年前は今のような一般兵士なんかでなく、
王から国の宝である、魔剣アルゥイントを授かり、前線で大いに活躍している子でした。
酷い噂もあったんですよ?フェロニアの魔獣なんて・・・
本当は昔からあんなに心優しい子なのに。」
ラミルの話にフェニックスは目を丸くした。
あのラリイが、魔獣と噂されていた?とても、信じられなかった。
それに、本人も戦うのが苦手だと言っていた気がしたが。
その話を聞く限りでは、かなりの剣の腕前ではないのか?
「そんなラリイが、どうして今のこの生活に?」
「実は、私も詳しくないですが・・・ある任務中に、ラリイは、
突然戦えなくなってしまったそうで。
それに、夫は大激怒し、あの子の兄達も一緒になって責めて。
私は庇ったのですが、王からも責任を取らされることにまで、
なってしまって・・・」
あの頃を思い出してしまったのだろう。ラミルは、我慢できずに、
泣き出してしまった。
フェニックスは、ラリイにそんな過去があったことを知り、
唖然としてしまった。
そうか、だから、ラリイは少し時々、会話中に寂しい顔をするなと思ったのは、
これがきっかけなのかと、フェニックスは思った。
この過去に関係がありそうな話の時に思い出すことがあるのだろう。
まさか、ラリイの母から、この話を聞いてしまって、良かったのかと、
フェニックスは少し後悔した。
あのラリイの事だ、きっと自分から話したかっただろうと。
フェニックスはこれ以上は聞くのは止めようと思った。
「そうですか。」
と、ただ短く返事をした。様子を見た限り、ラミルも、深く聞こうとしなければ、
話せるような状態ではなさそうだった。
フェニックスとラミルは、ちょっと長めの沈黙の中にいた。
その中で、フェニックスはある言葉を思い出した。
魔剣アルゥイントとラリイの母は言っていた。
(魔剣だと?もし、本当にアルゥイントが、あのアルゥイントだったのなら、
遥か昔にドワーフ達にとっての神に近い存在である、
エイシェントドワーフの者が神々の戦いの為に作った武器だぞ?
もし、それをラリイが使える者なら、只者じゃない。)
フェニックスは、その事をラリイに確認した方が良いような気がした。
その事を知らない振りするには、どうしても不安を感じる。
今後のラリイに確実に関わることだ。
フェニックスは自分の知識がラリイに役立つのなら、
教えておきたいことが沢山あった。
(ラリイ・・・頼む、早く帰って来てくれ・・・)
フェニックスは心の中で、そう願った。
その頃、当のラリイは、城から呼び出され、久しぶりに王と
対面していた。
そして、その王から、ある命令をされるところであった。