前編

フェニックスはラリイに留守番を任されて、ラリイがいなくなったのをしっかり確認してから、
ラリイの家を出て、家から近い森の奥に洞窟を見つけて、
そこで本来の姿に戻り、自分の体調などを確認した。
バハムートにつけられた背中の怪我もしっかり治り、魔力なども十分に回復している。
いつでも、人間界から飛び立ち、異空間に戻ることは可能であった。
だが、今はまだ戻ったとしても、バハムートに見つかれば、
また同じようなことになるだろう。フェニックスは考える。

「人間界にこれ以上居るのは嫌ではあるが、だからと言って、
異空間に戻って、またバハムートに追い掛け回されるのも嫌ですね。
どうしたものか・・・」

考えている内に、ラリイの顔を思い出し、ハッとする。
そうだ、ここまで人間に世話になって、何もお礼しないのも、
流石に幻獣の名折れではないか?
自分はあの有名なフェニックスなのだぞ。
それを最後の別れも告げずに消えるなど、恥ではないか?
大の人間嫌いであったフェニックスは、自分がそんな事を
考えるようになっていた事に心の中で笑ってしまった。

「どうやら、自分はラリイと言う人間に毒されたらしい。
いつ裏切るかもわからない人間を信じて、何になると言うのか。」

フェニックスは幻獣の姿に戻って、冷静になる。
これ以上、本来は関わるべきではないのだ。
住む世界が元々違うモノ同士が、どう仲良くなれると言う?
それこそ、奇跡でもない限り、フェニックスは人間を本当に
信頼することなど出来ないだろう。
いくら、あのラリイでも、自分があのフェニックスだと知れば、
城の者に知らせ、自分を捕らえ、城の者に売り渡すだろう。
そうすれば、一生遊んでも有り余る程の報酬と名誉が与えられることになろう。
所詮、人間など欲深く、汚い生き物なのだ。
あのラリイであっても、きっとそうだと、フェニックスは決めつけていた。
が、心の中では、ラリイはそうであって欲しくないと願う自分がいる。

「どうであれ、お礼はしなければなるまい。近い内に別れることになったとしても。」

フェニックスは、洞窟内で、再び人間の姿に戻り、ラリイの家に戻って来た。
フェニックスは幻獣の姿の内に何枚かの羽を抜いていた。

一方、ラリイは、実家で母と対面していたが、良くない状況であった。
久しぶりに再会した母はベッドの上で、苦しそうに寝ており、
何とかラリイの事に気づき、声を掛けてくれるが、その声は弱々しく、苦しそうであった。

「ラリイ・・・来てくれたのですね。」
「お母様・・・そんな・・・いつから、こんな病気に?」
「もう・・・1年前ほどですかね・・・ラリイが前に来てくれて、すぐ後に、流行り病に罹ってしまって・・・げほげほ!!!」

ラリイとの会話の途中でも、母は激しく咳き込む。

「お母様!無理しないで下さい!俺は側に居られるだけでいいですから!!!」

ラリイは母の側に駆け寄り、泣きながら無理はしないでくれと訴えた。
けど、母はそんなラリイを見て、優しい顔をして言う。

「ラリイ・・・帰って来て、貴方の家に。あの人も、あの子達も、
あの時はラリイに酷い事を言ったかもしれない。でもね?
今は、仲直りしたいと思ってるの。本当よ?私にはわかるの。
お願い・・・ラリイ・・・げほげほ・・・ぐっ!!!」
「お母様!!!」

ラリイは泣きながら、苦しみ、倒れ込んだ母に寄り添う。自分の所為だと感じた。
きっと母は、自分を心配してくれるあまりに、そのストレスで、
体調を崩し、こんな重い病気になってしまったのだと。
こんなに母を苦しめることになってしまうのなら、父や兄達に、
どんなに疎まれ、憎まれようとも家に居れば良かったと後悔した。
この家から逃げ出した弱い自分を憎んだ。
でも、今は後悔してる場合ではないとラリイは思い立った。
母の側に一緒居たローダに聞く。

「この流行り病を治す薬は?それか治療法は?」
「わかりません。偉いお医者様にも聞いたのですが、今は
まだ模索中で・・・ないに等しいと・・・」
「そうか。わかった。俺は今の家に戻って、かき集めた本などを再度調べてみる。
お母様の側に居たいのは山々だけど、俺は自分が出来ることを試してみたい。
ローダ・・・お母様を頼む!」
「ラリイ坊ちゃま!!!」

ラリイはローダの声に反応はせずに、実家を飛び出した。
思い切り全速力で、フェニの待つ家に帰る。
そして、つい勢い良く、玄関のドアを開けてしまう。
フェニックスは一瞬驚くが、玄関のドアを開けたが、
ラリイだと、気づくと笑いながら嫌味を言った。

「なんだ?もう仕事が嫌になって逃げて帰って来たのか?
ん・・・?ラリイ?」

フェニックスは、いつものラリイらしからぬ態度に、眉を顰める。
一瞬だけ嫌な事を考えしまう。
ラリイが裏切り、自分を城の人間に引き渡そうとしているのではないかと。
けど、すぐにそれは違うとわかる。
ラリイは悔しそうな顔をして、大泣きしていたのだ。
フェニックスは、今度はそんなラリイが心配になり、ラリイに声を掛ける。

「どうしたラリイ?何故、そんな顔で泣く?何があった?」
「フェニ・・・悪い。今は詳しく話してる時間がないんだ。
母が・・・流行り病の重い病気に罹ってしまって、今から、
俺は書斎に籠って、調べものしたいんだ。
帰って来て早々に悪いんだけど、しばらく、俺の事はほっといてくれ。」
「わかった。邪魔はしない。」
「有り難う・・・フェニ・・・助かる。」

フェニの答えに、ラリイはやっと少しだけ笑顔に戻って、お礼を言って、小さい部屋の書斎に入ってしまった。
それから、長く感じる夜が訪れる。
フェニックスも、ラリイの事をどうにかしてやりたいとは思うが、
どうしたらいいものかと思案する。
ラリイはラリイで、色々な本を何度も何度も読み返すが、
母の病気に役立ちそうな情報は見つけることが出来ず、イライラし、
そのイライラを越えた時に、今度は深い絶望へと変わっていった。
やっぱり、こんな無力な自分では、母を助けるのは無理なのだと。
ラリイが、そう思い始めた頃に、フェニックスは決心した。
翌日の朝、ラリイは絶望の中で目を覚まし、痛ましい姿で、
フェニックスに弱々しく、朝の挨拶をする。

「おはよう・・・フェニ・・・昨日はごめんな。」
「私の事は気にすることはない。それより、ラリイ。
いい方法は見つかったのか?」
「ダメだった・・・俺の集めた本くらいじゃ・・・
やっぱり、無駄だったみたいだ・・・母はあの調子じゃ、
数日も、もう持たないかもしれない・・・フェニ、俺って
情けないよな・・・ううぅ・・・・」

ラリイは、心の底から自分の無力さに悔しくて泣いた。
大の男が、知り合って間もない友人の前で大泣きするなど、
恥ずかしいことではあると思うのだが、それでも我慢出来なかった。
フェニは、そんなラリイを見て、初めて心が痛いと感じた。
人間はこんな涙を流す生き物なのかと。
あんな普段笑っているラリイが、こんなにも泣くなど、
想像も出来なかった。

「ラリイ・・・」

フェニックスは、ゆっくりラリイの側に近づき、
ラリイの目の前のテーブルにあるモノを置く。

「ラリイ、気をしっかり持て。そして、私の話を聞け。」
「フェニ・・・?」

いつになく、力強いフェニの声に、ラリイは我に返る。
フェニは表情こそ穏やかだったが、ラリイを見る目は、今までに
見たことがないほどの光を帯びていた。

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