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前編

フェニに留守番を頼んだラリイは、城に来ていた。
そして、まず真っ先にある人物に会っていた。
可愛いらしいドレスに、可愛いらしい顔をした、薄ピンク色の
セミロングに瞳をした女性が、ラリイと対面する。

「まぁ!ラリイ!久しぶりですね!」
「はい。姫様もお元気そうで何よりです。」
「もう、そんな堅苦しい挨拶は止めて下さい!ラリイは
私の幼馴染で、時に相談役ではありませんか。」
「いつも、有難いお言葉有難うございます。」

ラリイは自分の主に当たる、城の姫に挨拶をしていた。
フェロニア国のフェロニア城の第一姫である、エスカティーナに。
決まった形式の挨拶を済ませると、ラリイは笑顔になる。

「エナ様。挨拶だけは、ちゃんとさせて下さい。じゃないと、俺が、
大臣とかに怒られるんですから。」
「うふふ。そうね。でも、久しぶりにラリイが来てくれたのが、
どうしても嬉しくて。
ところで、雨の中で助けたと言う、綺麗な旅人の方は、ご無事なの?」

エスカティーナこと、愛称、エナはラリイに興味深々な顔で聞く。
フェニの事を看病していると言う事は、実はエナには話していた。
そのおかげで、ラリイは2週間ほど、城の仕事しないで済むように融通して貰っていたのだ。
ラリイは実は、結構フェロニア国では有名な貴族の3男で、姫とも幼馴染と言う
こともあり、本当の仕事は姫を護衛し、時に相談役として、
姫に何か命令されれば、それに従うのが本職だった。
一般の兵士と言うのは、敵を欺く為の仮の姿なのだ。
でも、今のフェロニアは、平和であったので、ラリイの仕事は、
もっぱら姫様の話し相手が多かった。
フェロニアが平和なのは、大国ロヴァールの後ろ盾があるからである。
近々、エナは大国ロヴァールの第2王子である、アルヴァトと
結婚することになっていたのだ。
そして、ロヴァールの第2王子であるアルヴァトが、エナの国に婿入りし、
フェロニアの王となる。
なので、2国間の繋がりはかなり深いものとなる予定なのである。
だから、他国はこの2国に戦争を仕掛けるを避けていたのだ。

「で?で?どうなの?ラリイ。」

エナはラリイが、助けたフェニの事がどうして知りたいらしい。
ラリイは、そんなエナにしょうがないなーと言う顔で答える。

「今はかなり傷も治り、簡単な料理も出来るようになりました。
ただ、まだ記憶が曖昧なのか、自分がどこの国の人間でとかは、話すことがない感じです。」
「まぁ・・・」

エナは、ラリイの話を聞いて、フェニに勝手に同情する。

「記憶喪失なのかしら?」
「はっきりとは言えないのですが、そうではないかと。
名前も思い出すのにも時間が掛かりましたし、最初の頃は、食器の使い方も忘れてる感じでした。他の国の話題も出してみたのですが、どこ国の話をしても、ピンと来た顔はしませんでした。」
「じゃあ、まだしばらくはラリイの家に居た方がいいわね。
フェニさんだっけ?」
「はい、フェニです。」
「いいなーラリイは。私も会ってみたいです。お綺麗な方なんでしょ?」
「そうですね。でも、あいつは男ですよ?」

ラリイはエナがフェニに興味があるのが、少し複雑な気分だった。
ちょっとフェニに嫉妬を感じつつも、フェニの看病する為には、
エナに話すしかなかった事態もあるのだが。
にしても、ここまで興味を持たれるとは思わなった。

「もし、会えるタイミングあった時には、私にも会わせて下さいね?ラリイ?」
「はい。もし、エナ様のタイミングと、フェニの様子次第で、
会える時があれば、必ず。」
「うふふ。ちょっと楽しみだわ。私も結婚すれば、
こんな我が儘はもう二度と言えないでしょうから。」

エナは少し寂しそうな顔でラリイに言った。
エナの言う通りだろう。王妃になれば、もう城抜け出して、
息抜きをするなど出来まい。
だからこそ、エナは会いたいのだろう。綺麗な旅人のフェニに。
本当は旅人かどうか不明なのだが。
ラリイは、エナと数時間ほど会話をし、そのまま家に帰れることになった。

「ラリイの家には、まだ病人がいるのですから、帰って良いです。
フェニさんを看病してあげて下さい。私の方は、他にも親衛隊が
見守ってくれていますし、今は我が国も平和ですからね。
何かあれば、呼び出しますから。では、ラリイ。またね!」
「姫様の慈悲深い心遣いに感謝致します。」

ラリイは、深々とエナに頭を下げて、エナの部屋から立ち去った。
途中で、自分用に与えられた小さい部屋で着替えをする。
一般兵士の恰好に。実は姫に会う前に立ち寄って、着替えていたのだ。
姫に対面するべくに相応しい貴族の恰好に。

「思いかけず、早く姫に釈放されてしまったな・・・
この時間なら、父も兄達もいないから、丁度いい。母に会いに行こうかな。」

ラリイは普段は滅多に近寄らない実家に、久しぶりに向かう。
ある時から、ラリイは父と兄達が大の苦手になっていた。
父も兄達の方も、自分に失望し、嫌っているのは、痛いほどわかっている。
けど、母だけは、自分を今も心配してくれていた。
母は、子供の頃から、家族の中でラリイの一番の理解者であった、
ラリイは3人兄弟で末っ子なのもあり、母が大好きであった。
だから、母に悲しい思いだけはさせたくなかったのだが。
今の自分の状況では、どうすることも出来なかった。

「母が元気なのがわかったら、すぐに帰ろう。
長居して、父や兄達に会えば、嫌な雰囲気になって、母を
悲しませてしまうだろうから・・・」

ラリイはそう思いながら、自分の実家に着いて、こっそりと裏口から入る。
メイド達など誰にも会わない様に、願ってラリイは母の部屋に、
急いで向かっていたのだが、1人の中年の女性に見つかってしまう。

「あら?ラリイ坊ちゃんじゃないですか!!」
「しぃ!声がでかいよーローダ!!」

ラリイは、大慌てでローダに注意する。ローダは特に気に
することもなく、ラリイを見て大笑いをする。
ローダはラリイの母付きのメイドで、長年母に仕えており、
ラリイにとっては、乳母に近い存在でもあった。
長年、ラリイも面倒を見て貰った関係もあり、頭が上がらない存在でもある。
女性ではあるが、恰幅の良い女性で、優しい顔をした灰色の髪に、
灰色の瞳をした中年の女性だった。

「また、そんな泥棒みたいに実家に帰って来て。奥様が知ったら、悲しまれますよ。
いい加減に旦那様と和解されたら、どうですか?」
「また、その話をする。俺はしたいとは思うけど、父と兄達は
絶対に許しはしないよ。俺はこの家では裏切者だからね。」
「ラリイ坊ちゃんはまた、そんな事を言って・・・」

ローダはラリイの言い分に悲しい顔をする。
ラリイだって、ローダを悲しませたくはないのだが、
真実なので、そう言うしかないのだ。

「っと、ローダとも色々話したいとこだけど、母は?」

ラリイは、母との対面の時間がどんどん無くなってしまうと思い、
ローダに母の場所を確認する。
ローダは仕方なく折れて、ラリイに場所を告げる。

「奥様はお部屋で安静にされてますよ。」
「安静?母に何かあったのか?」
「ええ、奥様はかなり重い病気に罹られてます。」
「な、何だって?!」

ラリイはローダから、まさかの回答を聞いて、驚愕した。
まさか、母が重い病気なっているなど、想像もしていなかった。
ラリイは全力で走って、母の部屋に向かった。

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