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後編

最終決戦は、フェロニアとサドルティスの境界線で行われた。
もちろん、フェロニアにはロヴァール軍もいる。
サドルティスの方でも、これが最後の戦いだと覚悟しているのだろう。
軍の中には、若者の姿も多かった。ラリイは、自ら望んで、前線で戦っていた。
だが、昔の様に殺すのは極力抑えていた。アルゥイントの力を借り、
相手を気絶させたり、傷も致命傷にはならない程度に抑える。
とにかく、敵に一時的に戦意を喪失させることだけを考え、
ラリイは行動していた。
もちろん、この事は仲間には内緒だ。戦争中にそんな甘い考えを
していれば、裏切者だと、罵られてもしょうがない。
最悪は、ラリイが国から処刑されてしまうだろう。
でも、それでは意味がないのだ。
そのまま、何もしないままで死んだら、ラリイも悔いが残る。
ラリイは、自分の出来ることを、精一杯しようとしただけだ。

「人間の俺に出来ることは、こんなことくらいなもんだ。
後は、早くこの戦争が終わればいい。」

ラリイは、がむしゃらに戦った。ラリイの周りには多くの敵兵が、
昔の様に転がっている。
ただ、昔と違うのは、敵兵はほとんど死んではいなかったことだ。
すぐには戦えない状態にあるものばかりになっていく。
ラリイは、即時、自分の戦う場所を変え、また同じように戦う。
これを何度も何度も繰り返し、ラリイは時間の感覚すら、失っていく。
早朝から始まった、最終決戦は、正午に差し掛かろうと
しているところだった。
ラリイは、敵の本陣まで、後少しと言う所まで迫っていた。
が、敵国の若い戦士達に囲まれてしまう。

「まるで・・・過去の俺みたいだな・・・俺もこの歳ぐらいに、
初陣したんだよな・・・」

ラリイは汗だくになりながら、顔の汗を拭き、少し笑いながら、
自分の過去を思い出し、敵国の若い戦士を見ていた。
15,6歳と言った感じか・・・殺したくはない。
敵国の人間とは言え、将来のある若者を。
もしかしたら、いつかの自分の様に、幻獣と仲良くなって、
友情や、場合によっては、愛し合うようになる者もいるかもしれない。
ラリイは、ここに来て、急激な疲れに、襲われる。
早朝から、今の今まで休みなく、神経を研ぎ澄まし、戦ってきた
ツケが出てしまう。しかも、敵の本陣も間近。
敵側の攻撃も、更に激しさをます。ラリイの身体に、どんどん傷が出来ていく。
ラリイはもう攻撃する気力もなくなり、何とか敵達の攻撃を
かわすのだけで手一杯になる。
ほんのわずかな隙だった、まだ少年とも言える様な年齢の
敵国側の戦士が、ラリイの横っ腹に剣を突き刺した。
ラリイは、血反吐を吐きながら、地面に倒れ込む。
ラリイを刺した敵の戦士は、顔を真っ青にして、止めも刺さずに、
逃げ出してしまった。
どうやら、初めて人を刺した経験をしたのだろう。

「可哀想にな・・・ぐぅ・・・あれじゃ、しばらく・・・
トラウマ・・・だろうな・・・ぐはぁ!!!」

ラリイは敵国の若い戦士を憐れんだ。
それから自分がこのまま死ぬのだろうと予期した。
いや、最初から、戦場で死ぬつもりでいたのだから、ラリイは
これで良かったと思った。
ラリイは、激しい痛みと戦いの疲れから意識が朦朧とし、目を閉じた。
ラリイが倒れた後で、すぐにロヴァールはサドルティスの本陣を
攻めることに成功し、この最終戦争は、フェロニアとロヴァールの
戦勝で決着がついた。
両国には、多くの犠牲者が出たが、死者の数としては、
サドルティスは少ない方であった。ラリイの裏での努力が実ったのかもしれない。
ラリイの命は、風前の灯火だった。
もう、痛みさえもわからない。ただただ眠い。
そんな感覚の時に、誰かに全身抱きかかえられる。

「ラリイ・・・お久しぶりですね。」

懐かしい声がした。それに、美しい顔に銀色の長髪。耳の辺りには、
アクセントの様に赤い毛。こんな存在は、あいつしかいない。

「フェニ・・・?」

か細い声でラリイは、懐かしい親友の名を呼ぶ。
最後の力を振り絞り、目を凝らし、フェニの姿を確認する。
そこには、誰よりも優しい顔をして、ラリイを見る、
フェニの顔があった。

「もう、少しで・・・死にそうな俺を・・・見届けに来てくれた・・・のか?」
「そうですね。でも貴方が望むなら、すぐに回復もさせられますが?」
「あはは・・・それは・・・いいや。俺・・・自分の人生には
満足してるからさ。」

フェニックスの申し出にラリイは弱々しい笑顔で断る。
今なら望めば、フェニックスはすぐにでも、ラリイを元の身体に
戻してくれるだろう。
けど、ラリイは何故かそんなことは頼みたくなかった。
それを頼むことは、親友のフェニでなく、幻獣フェニックスとして、
親友を見ることになってしまうと思ったからだ。

「ラリイ・・・貴方は本当に・・・」

フェニックスもラリイの気持ちがわかったのだろう。
最後の言葉を飲み込み、薄っすらと涙を流し、ラリイを見る。

「フェニ・・・また逢えて良かった。俺さ・・・お前に言いそびれてた事あったんだ・・・」
「何ですか?」
「今度、生まれ変われるなら・・・俺、またフェニと暮らしたい。
前みたいにさ・・・穏やかで馬鹿みたいに笑いあって・・・
そんな何気ない生活を・・・またフェニとしたい・・・」
「ラリイ・・・それが貴方の最後の望みですか?」
「うん・・・迷惑・・・かな?」
「いいえ。私も嬉しいです。ラリイ。」
「そっか・・・良かっ・・・た・・・」

ラリイは最後にフェニに微笑みながら、フェニックスの腕の中で、
静かに息を引き取った。
死に際まで、ラリイは欲に負けず、フェニをフェニックスとは見ずに、
大事な親友として扱い、人生に後悔することなく、亡くなった。
フェニックスは思った。人間を愛しく思うことが自分にも出来たのだと。
そこへ、エナが数人の従者を連れて、やって来る。
最終決戦が終わり、落ち着いた戦場で、ラリイを探していたのだ。

「フェニ・・・さん?あ!ラリイ?!!」

フェニックスの腕の中で、ラリイを発見し、エナは息を飲む。
エナから見ても、ラリイが亡くなったのは明白だった。
エナは、フェニックスの側に駆け寄り、ラリイを見ながら泣いた。

「ラリイ・・・やっぱり無理して戦ったのね。
戦うのが嫌いだった、貴方が最近は特に自ら望んで、前線に
出ていたのが、不安でしょうがなかった。
いつか、こうなるのではないかと・・・」

エナは優しい手つきでラリイの顔を撫でる。
もう目を開けることがない、幼馴染の顔を。
フェニックスもその姿に痛々しさを感じていた。
が、エナを見ながら、フェニックスはある申し出をする。

「フェロニア国の姫、エスカティーナよ。願いがある。」
「え?」
「我は幻獣フェニックス。親友ラリイの最後の願いを叶える為に。
ラリイの遺体を貰い受けたい。」
「?!」

フェニックスに、唐突に言われ、エナは驚く。エナの従者達も
驚いて、フェニックスを見ていた。
自分の正体がバレていたのも、驚いたが、何よりも、あの幻獣フェニックスが
幼馴染であるラリイの遺体を欲しがった事が一番の驚きであった。

「フェニさんは・・・幻獣フェニックス様だったのですね。」
「そうだ。」
「ラリイの身体をどうするのですか?」

エナは、真面目な顔でフェニックスに聞いた。
フェニックスは、何の迷いもなく、エナに告げる。

「ラリイの最後の願いを聞き入れ、ラリイを転生させ、
私とまた生きて貰う。今度は人間界でなく、私のいる世界で。」
「そ・・・そうですか。」

エナは一瞬、躊躇った。ラリイをこのまま引き渡しもいいものか。
けれど、考えれば、ラリイは人間界で、また生きるよりも、
親友だった、フェニックスの元に居た方が幸せだろうと思った。
人間界では、常に戦いがあるが、幻獣フェニックスのいる
世界なら、平和そうだと。

「わかりました。ラリイの家族には、私が伝えておきます。」

エナは王族らしく、フェニックスにしっかり答えた。
フェニックスは、有り難うとだけ短く返事をして、元の姿に戻り、
ラリイの身体を背に乗せて、飛び立った。

「ラリイ・・・生まれ変わったら、今度こそは幸せになってね。」

エナは心の中で、大好きだった幼馴染とフェニックスを見送った。

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