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第一二章「和解」

「あった!良かった!久しぶりだね!」

ラリイはネイルの隠し部屋に辿り着き、フェニから貰った、
あのうさぎのぬいぐるみを久しぶりに抱きしめた。
ネイルに貸してから、数年は経ってるはずなのに、ぬいぐるみは、
まるで貸した前よりも綺麗になってる感じがした。

「ネイル・・・よっぽど大事にしてくれてたんだね。
私、わかるよ。
だって、フェニおばちゃまから貰った、このウサちゃん、
嬉しそうな顔してるもん。」

ラリイは他のウサちゃんシリーズのうさぎ達も見て感じる。
そこには確かにネイルの愛があると。
傷ついたり、色あせてるものは一つもない。
それどころか、ちゃんと設定に合わせて並べてあるようだ。
親子なら親子で、恋人同士なら、その様に。

「ネイル・・・本当に凄いファンだったんだ・・・」

最近、ネイルとウサちゃんシリーズの話をしてないことに気づき、
ラリイは、ネイルと急に語り合いをしたくなった。

「その為にも、ウサちゃん・・・フェニおばちゃま・・・
どうか力を貸して・・・」

ラリイは、ぎゅっと、またうさぎのぬいぐるみを抱きしめて、
ネイルを無事に救えるように願った。

「これで、一時的には大丈夫じゃろ。」

ネフィリートは悪霊が嫌う魔法陣を描き、そこにベッドを用意させ、
ネイルを寝かせるようにベアードに言いつける。
それから、悪霊の力を抑え込む、お香をネイルのベッドの側に焚き、
ネイルの額に、ある薬草を灰にしたものを少し乗せる。
しかし、これは、あくまでも気休めでしかない。

「全く。まさか自分の父を、悪霊扱いせねばならぬとはわな。
ほんに、長生きをすると面白い事に遭遇するものよ。」

言葉と裏腹に、ネフィリートは辛そうな顔でネイルを見た。
やっと最近、平穏に暮らしている2人に、こんな事件が
起こるなど、どうして想像が出来ようか。
デリケートな時期でもあっただけに、ネフィリートも悔しい気持ちになった。

「お父上・・・どうか、これ以上、ネイルを・・・自分の子孫を
苦しめるのは、お辞め下され。貴方が心配せずとも、ドラゴネス国は、
今も発展し続けておりますぞ。
貴方が望んだ、フェニキアの王族の女性を嫁に迎い入れて・・・」

ネフィリートは静かに眠るネイルの中に居る、父に話しかけるように静かに言った。

「ネフィリート様・・・」

ベアードもカミーラもその光景を静かに見守った。
この時、2人は、はっきりと確信した。
ネフィリートはやっぱり孫のネイルを深く愛しているのだと。
いつも、興味なさげにするのには、何かわけがあるのだろうと。

「ネイル・・・負けないで下さいよ。やっと、長年の想い人で
ある、ラリイ王妃と結婚したんでしょ?
悲しませてる場合じゃないですよ。」

カミーラも心の中でネイルに呼びかけるように応援していた。
ベアードも同じ思いだろうとカミーラは思った。
じっとネイルを見守っている。

「フェニ様・・・俺、絶対にラリイ王妃と一緒に、ネイルを救います。
貴女のおかげで、今の俺があるんっすから。」

ベアードはネイルを見守りつつ、過去の自分を思い出していた。
ベアードがまだ孤児で教会にいた頃、実はベアードはフェニに世話になっていたのだ。
そんなに長い期間ではなかったが、ベアードはしっかりとフェニのことを覚えている。
それはそうだ。今の自分の育ての親と巡り合えたのは、フェニのおかげなのだから。
親が居ない寂しさで、荒れていたベアードを改心させ、育ての親を納得させて、
養子にするように説得してくれたのは、他でもない、フェニだったのだから。
だから、ベアードは鳥人に対する偏見など何もなかったのだ。
むしろ、フェニの存在があったからこそ、ラリイの味方で
あろうともした。
今のベアードが部下に慕われるのも、偏見がなく、懐が深いからである。
ベアードは自分が孤児であった苦しみを知ってるからこそ、部下に
積極的に孤児など、わけありだった者達を採用している。
全てが上手くいくと正直には言えないが、それでも、ベアードの
気持ちが理解出来た部下は、今はベアードに忠誠を尽くし、何より信頼している。
ベアードがドラゴネス国で総軍団長を務められるのも、こうした小さいことの積み重ねがあってこそだった。
ベアードが自分の過去を思い出してる間に、夜は過ぎていった。
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