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第十一章「家族」

カミーラの屋敷からネイルはラリイを連れ戻して帰って来た。
ネイルはどうしても、我慢できなかったのだ。
今日の夜だけは、ラリイとずっと一緒に居たかった。

「でも・・・ネイルは叔父上様と夜もお勉強してるんでしょ?
それに・・・私と一緒に居っちゃ駄目だって・・・」

ラリイは、ネイルにこんな事をさせてしまっていることに罪悪感を感じていた。
これでは、またネイルが叔父上に失望されてしまうのではないかと。
だが、ネイルはそんなラリイを気遣うように言う。

「いや、今日はラリイの側に絶対にいる。ネビィル叔父上だって、
愛する妻が具合が悪くて、今日の夜だけでも看病したい
って言えば、そこまで冷酷な人じゃないはずだ。」

あんなにも、ネイルからしたら我慢したのだ。確かに原因を作ったのは自分だ。
自分が未熟者でなければ、ラリイと一緒に普通に生活出来ていたのに。
問題を指摘され、反省したかわりに、ネイルはラリイとの新婚生活をこれまで我慢したのだ。
だから、今日の夜くらいは許して欲しかった。
やっと久しぶりに心が通い合えたと思ったから。

「ラリイ、心配するな。俺の部屋で待ってってくれ?わかったか?」
「う、うん・・・」

今までにないネイルの強い眼差しにラリイは、戸惑うのは止めようと思った。
ネイルを信じるべきだ。さっき、あんなにも自分の事を
思って泣いてくれた夫、ネイルを。
ラリイはネイルに言われた通りにネイルの部屋に向かい。
それを見届けた、ネイルは叔父の居る政務室に向かう。

「叔父上、只今戻りました。」
「うむ。妻の様子はどうだった?」
「叔父上、今夜ばかりは妻の側に居させて下さい。」

ネイルはそう言って、ネビィルに頭を下げた。
ネビィルは何を言うでもなく、静かにネイルの次の言葉を待つ。

「今回のことで、叔父上には、物凄く迷惑を掛けました。
俺があんまりにも未熟者だったから。妻のラリイにも。
でも、今日は、今夜だけは!
俺の人生の中で、とっても大事な日なんです!
叔父上はまだまだ俺は認めたわけではないとわかってます!
けど、今夜だけは、妻との時間を下さい!お願いします!」

ネイルは何も隠さずに素直にネビィルに言った。
やはり嘘などつくわけにはいかなかった。
こんなにも、親身になって自分を教育してくれる叔父に対して、
ネイルはただ自分の気持ちを認めて貰いたかった。
それほどまでにラリイを愛していると言う事を。
ネイルが頭を下げたまま、少しの沈黙の後にネビィルは口を開いた。

「全く、兄上が居たら、笑われるんだろうか・・・
自分と変なとこが似てしまったと・・・」
「叔父上?」

優しい声で、そんなことを言い出す、叔父にネイルが不思議に思って、顔を上げてみる。
ネビィルは、静かに目を閉じ、話を続ける。

「外見だけでなく、こうも妻の事となると見境がなくなるとこまで、兄上似だと、やっぱり親子なのだなと思い知らされる。
ふっ、義姉上が知ったら、また怒られるんだろうな。
本当にあの日々が懐かしい。」

ネビィルは静かに過去を思い出していたようだ。

「わかった。今夜は好きにするがいい。私も今夜は、兄上や義姉上、娘の事を思い出したいと思って居たからな。お前の勉強に付き合うのは無しだ。」
「あ、有り難うございます!!!」

ネイルは再度、感謝を込めて深く頭を下げた。
こんなに感傷に浸っている叔父を見るのは初めてだった。
ネイルは静かに政務室を出ようとした、その時だった。

「ラリイ王妃に言ってくれ。娘の墓にいつも祈りと花を有難うとな。」

ネイルは一瞬だけ、動きを止めたが、叔父に振り返り、目を合わせて、わかりましたと伝えるように、頷いて見せてから、部屋を出た。

「ラリイ・・・お前は本当に凄いよ。俺よりも先に、もしかしたら、
叔父上に認められたかもしれないな。」

叔父の最後の言葉を聞いて、ネイルは笑った。
きっと、叔父の中でラリイに対する何か誤解が解けたのだと
実感出来たからだ。
叔父は他人が娘の事に関わってくることを、
あまり望んでいない人だから。

「レフィーネ・・・お前が助けてくれたのか?ラリイの事を・・・」

ネイルはまた今度、自分もラリイと一緒にレフィーネの墓に行こうと決めた。
そして、急ぎ足で自分の部屋に向かって歩いた。
ラリイが待っている自分の部屋に。
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