第十一章「家族」
メディーナの屋敷に居る間、ラリイは、もちろん遊んでいたわけではない。
メディーナからも、ちゃんと王妃としての振る舞いを勉強させて貰っていた。
それから、メディーナの機転で、ラリイと同じくらいの年頃の貴族の
女の子達とお茶会を開いたり、ダンス会をしたり、ラリイの
ファンクラブの人々にも会ったりした。
メディーナはメディーナで、ラリイの味方になってくれそうな
貴族仲間を増やそうとしていたのだ。
大人が難しいのなら、まずは同い年の子達からすればいいと、メディーナは考えた。
案の定、同い年くらいの子達には、ラリイに対して、何かの損得勘定で
付き合うとか、嫌悪など悪い感情を持ってない子が多かった。
むしろ憧れのメディーナに、今話題の王妃を紹介されて、喜ぶ子の方が多い程だった。
「ラリイ王妃に今日逢えて、光栄です!とても嬉しいです!」
「私も、ぜひ!今後は仲良くして下さい♪」
「噂通りに可愛らしい方なんですね!あのネイル王が結婚したのも納得です!」
などなど、好意的な言葉を貰えて、ラリイもホッとしていた。
もちろん、全ての言葉を真に受け入れては、いけないとわかってはいるが、それでも、メディーナのおかげで、新しいお友達が出来そうだった。
「ラリイ・・・逢いたい・・・お前に逢って、すぐに謝って、抱きしめたい・・・」
ネイルは、厳しい叔父の指導に耐えながら、何とか、早く1人前の王
として認めて貰おうと必死だった。
自分が如何に未熟者だったか、それによって、どんだけラリイを
傷つけてしまったか、今のネイルはそれが気がかりだった。
早く、一刻も早くラリイに逢って、まずは謝りたかった。
ネイルは叔父の手前、どうしてもラリイを甘やかすわけにもいかず、よそよそしくするしかなかったのだが、それでラリイが少なからずショックを受けていたのは、痛い程、わかっていた。
そして、今はラリイが城におらず、メディーナの元に居ることを知り、
どうしても何か胸騒ぎがしていた。
ラリイの身に何かあったのだろうかと。
「最近は、貴族達の方も落ち着いてきたようだな。」
政務室で、ネビィルはネイルと一緒に、様々な書類を確認していた。
ラリイが提案した事案は、一部を除いて、一旦白紙に戻した。
これによって、大分、貴族達の騒ぎは収まった。
「ラリイ王妃の案は、決して悪いものではない。だが、これでは、損する者が出てくる者もいる。それでは、損する側は認めるわけがない。そうだろう?ネイル?」
「はい。」
ネビィルは、ネイルに、ラリイの考えた案の何が悪いのかを言わせた。
「これでは、民には良くても、貴族達には不利益しかありません。」
「その通りだ。こんな案ばかり出ていれば、いくら民に好かれようとも、
貴族達には恨まれる一方だろう。今のネイルなら、それがわかるな?」
「はい。今なら、しっかりわかります。」
「王の立場と言うのは難しいものだ。貴族だけでも、民だけでも、一方だけの存在を大事にしてはいけない、どちらも大事であり、時に切り捨てもしなければならぬ。」
「はい。」
「ラリイ王妃が王女であった頃なら、そんな考えはいらなかった。
父上である、フェルオリア王が、そうした判断をすれば良かったのだから。
だが、今後は違う。ドラゴネス国の王妃になったのなら、
その意見は王女であった時よりも、重いものになる。
今後は慎重に慎重を重ねた上で、案を出し、実行しなければならない。
そして、何よりも王であるネイルが、まずしっかりと自分の意見を言わなければ、貴族も民も納得しまい。」
「はい。今回の事で痛いほど実感しました。」
最もな話をされて、ネイルは深々と叔父の話に聞き入っていた。
自分も、もっとしっかり意見言えば良かったのだ。
ラリイに甘え、ラリイの意見を聞くだけで満足してしまったから、
逆にラリイをあんなにも傷つけることになったのだ。
誰よりも国の為に頑張って意見を言ってくれたのに。
「では、今日は、この辺にするか。私は娘の墓に行ってくる。」
「はい、わかりました、叔父上。」
ネビィルは、最近のネイルの態度を認めたのか、今日は早めに
仕事を切り上げ、娘の墓に向かった。
「ん?」
墓について、1人のメイドの姿が気になり、ネビィルは声を掛ける。
どうやら、娘の墓に花を添えてくれていたようだった。
「娘の墓に何か用か?」
「あ!これは、ネビィル様!大変お久し振りでございます。」
「ああ、お前は、よく娘の側に居てくれた、あのメイドか。」
「はい。ナディでございます。」
「うむ。元気であったか?」
「はい。おかげ様で、今もこうしております。」
自分をナディと言ったメイドは、深々とお辞儀をしてネビィルに挨拶をする。
「もしかして、娘にこうして花を良く添えてくれていたのか?」
「はい。ですが、これはラリイ王妃様が、必ずして欲しいと、私共にお願いされまして・・・」
「ラリイ王妃が?」
思いがけない人物の名前が出て、ネビィルは少し眉を顰める。
「そうでございます。ラリイ王妃様は、ネイル王様から、レフィーネ様の話を聞かれてから、時間がある限りは必ず、お祈りをされ、花を添えられ、ご自分がどうしても無理な時は私達にお墓参りをお願いされる程です。」
「そこまでしてくれていたのか?」
「はい!それだけではありません!この前はレフィーネ様の命日だからと、
私達にわざわざ許可まで確認されて、レフィーネ様の好きだった
お歌を捧げておりました。」
「お前達に許可の確認を?」
「はい。ラリイ王妃様は、この城の中で、ネイル王様の次にレフィーネ様を大事に思っていたのは、貴女達のはずだからと・・・笑顔で仰られて・・・」
メイドはここまで話して、急に涙ぐんだ。
「ネビィル様・・・差し出がましい事とは思いますが、もしかして、ラリイ王妃様は失脚させられてしまうのでしょうか?」
「何故、そう思う?」
いきなりのメイドの発言にネビィルはやや戸惑った。
「ラリイ王妃様はとても悩んでおられました。世継ぎのことで。
ある一部のメイドが、ラリイ王妃様を不安にさせるようなことを
わざと言っているのを私は聞きました。
それからです。ラリイ王妃様がネイル王様に意見を言われるようになったのは。」
「なんだと?」
ネビィルは、このメイドの話を聞いて、一部納得が出来ないことがあったことに気づき、理解した。
「その所為で、ラリイ王妃様はネイル王様から離され、かなり寂しい思いもされているとか・・・
ネビィル様、どうかラリイ王妃様をお助け下さい!あの方は、
決して自分の為だけに、意見を言われるような方じゃありません!
ラリイ王妃様は、本当に誰よりもお優しい方です!
私達のような身分の低いメイドであっても、優しくして下さるような。」
メイドは、いけないと思いつつも、泣きながらネビィルに訴えた。
余程、我慢が出来なかったのだろう。
ただのメイドが、ここまで、泣いて王妃を救って欲しいなどと
言うからには、嘘ではないと、ネビィルは確信した。
何より娘に良く仕えてくれたメイドが言うのだから尚更だ。
「お前達の話はよくわかった。話してくれたことに感謝する。」
「じゃあ、ラリイ王妃様は・・・」
「ああ、必ず、良い方向になるように持っていこう。
私もお礼をしなければならないからな。ラリイ王妃に。」
「お願いします!お願いします!!」
メイドは何度も何度もネビィルに頭を下げた。ネビィルは
苦笑いしつつも、その場を去った。
「どうやら、私は一部の貴族の話を真に受けすぎたようだ。」
ネビィルは、新婚であるネイル達に、少しやり過ぎてしまっていたのだと、知ることになった。
メディーナからも、ちゃんと王妃としての振る舞いを勉強させて貰っていた。
それから、メディーナの機転で、ラリイと同じくらいの年頃の貴族の
女の子達とお茶会を開いたり、ダンス会をしたり、ラリイの
ファンクラブの人々にも会ったりした。
メディーナはメディーナで、ラリイの味方になってくれそうな
貴族仲間を増やそうとしていたのだ。
大人が難しいのなら、まずは同い年の子達からすればいいと、メディーナは考えた。
案の定、同い年くらいの子達には、ラリイに対して、何かの損得勘定で
付き合うとか、嫌悪など悪い感情を持ってない子が多かった。
むしろ憧れのメディーナに、今話題の王妃を紹介されて、喜ぶ子の方が多い程だった。
「ラリイ王妃に今日逢えて、光栄です!とても嬉しいです!」
「私も、ぜひ!今後は仲良くして下さい♪」
「噂通りに可愛らしい方なんですね!あのネイル王が結婚したのも納得です!」
などなど、好意的な言葉を貰えて、ラリイもホッとしていた。
もちろん、全ての言葉を真に受け入れては、いけないとわかってはいるが、それでも、メディーナのおかげで、新しいお友達が出来そうだった。
「ラリイ・・・逢いたい・・・お前に逢って、すぐに謝って、抱きしめたい・・・」
ネイルは、厳しい叔父の指導に耐えながら、何とか、早く1人前の王
として認めて貰おうと必死だった。
自分が如何に未熟者だったか、それによって、どんだけラリイを
傷つけてしまったか、今のネイルはそれが気がかりだった。
早く、一刻も早くラリイに逢って、まずは謝りたかった。
ネイルは叔父の手前、どうしてもラリイを甘やかすわけにもいかず、よそよそしくするしかなかったのだが、それでラリイが少なからずショックを受けていたのは、痛い程、わかっていた。
そして、今はラリイが城におらず、メディーナの元に居ることを知り、
どうしても何か胸騒ぎがしていた。
ラリイの身に何かあったのだろうかと。
「最近は、貴族達の方も落ち着いてきたようだな。」
政務室で、ネビィルはネイルと一緒に、様々な書類を確認していた。
ラリイが提案した事案は、一部を除いて、一旦白紙に戻した。
これによって、大分、貴族達の騒ぎは収まった。
「ラリイ王妃の案は、決して悪いものではない。だが、これでは、損する者が出てくる者もいる。それでは、損する側は認めるわけがない。そうだろう?ネイル?」
「はい。」
ネビィルは、ネイルに、ラリイの考えた案の何が悪いのかを言わせた。
「これでは、民には良くても、貴族達には不利益しかありません。」
「その通りだ。こんな案ばかり出ていれば、いくら民に好かれようとも、
貴族達には恨まれる一方だろう。今のネイルなら、それがわかるな?」
「はい。今なら、しっかりわかります。」
「王の立場と言うのは難しいものだ。貴族だけでも、民だけでも、一方だけの存在を大事にしてはいけない、どちらも大事であり、時に切り捨てもしなければならぬ。」
「はい。」
「ラリイ王妃が王女であった頃なら、そんな考えはいらなかった。
父上である、フェルオリア王が、そうした判断をすれば良かったのだから。
だが、今後は違う。ドラゴネス国の王妃になったのなら、
その意見は王女であった時よりも、重いものになる。
今後は慎重に慎重を重ねた上で、案を出し、実行しなければならない。
そして、何よりも王であるネイルが、まずしっかりと自分の意見を言わなければ、貴族も民も納得しまい。」
「はい。今回の事で痛いほど実感しました。」
最もな話をされて、ネイルは深々と叔父の話に聞き入っていた。
自分も、もっとしっかり意見言えば良かったのだ。
ラリイに甘え、ラリイの意見を聞くだけで満足してしまったから、
逆にラリイをあんなにも傷つけることになったのだ。
誰よりも国の為に頑張って意見を言ってくれたのに。
「では、今日は、この辺にするか。私は娘の墓に行ってくる。」
「はい、わかりました、叔父上。」
ネビィルは、最近のネイルの態度を認めたのか、今日は早めに
仕事を切り上げ、娘の墓に向かった。
「ん?」
墓について、1人のメイドの姿が気になり、ネビィルは声を掛ける。
どうやら、娘の墓に花を添えてくれていたようだった。
「娘の墓に何か用か?」
「あ!これは、ネビィル様!大変お久し振りでございます。」
「ああ、お前は、よく娘の側に居てくれた、あのメイドか。」
「はい。ナディでございます。」
「うむ。元気であったか?」
「はい。おかげ様で、今もこうしております。」
自分をナディと言ったメイドは、深々とお辞儀をしてネビィルに挨拶をする。
「もしかして、娘にこうして花を良く添えてくれていたのか?」
「はい。ですが、これはラリイ王妃様が、必ずして欲しいと、私共にお願いされまして・・・」
「ラリイ王妃が?」
思いがけない人物の名前が出て、ネビィルは少し眉を顰める。
「そうでございます。ラリイ王妃様は、ネイル王様から、レフィーネ様の話を聞かれてから、時間がある限りは必ず、お祈りをされ、花を添えられ、ご自分がどうしても無理な時は私達にお墓参りをお願いされる程です。」
「そこまでしてくれていたのか?」
「はい!それだけではありません!この前はレフィーネ様の命日だからと、
私達にわざわざ許可まで確認されて、レフィーネ様の好きだった
お歌を捧げておりました。」
「お前達に許可の確認を?」
「はい。ラリイ王妃様は、この城の中で、ネイル王様の次にレフィーネ様を大事に思っていたのは、貴女達のはずだからと・・・笑顔で仰られて・・・」
メイドはここまで話して、急に涙ぐんだ。
「ネビィル様・・・差し出がましい事とは思いますが、もしかして、ラリイ王妃様は失脚させられてしまうのでしょうか?」
「何故、そう思う?」
いきなりのメイドの発言にネビィルはやや戸惑った。
「ラリイ王妃様はとても悩んでおられました。世継ぎのことで。
ある一部のメイドが、ラリイ王妃様を不安にさせるようなことを
わざと言っているのを私は聞きました。
それからです。ラリイ王妃様がネイル王様に意見を言われるようになったのは。」
「なんだと?」
ネビィルは、このメイドの話を聞いて、一部納得が出来ないことがあったことに気づき、理解した。
「その所為で、ラリイ王妃様はネイル王様から離され、かなり寂しい思いもされているとか・・・
ネビィル様、どうかラリイ王妃様をお助け下さい!あの方は、
決して自分の為だけに、意見を言われるような方じゃありません!
ラリイ王妃様は、本当に誰よりもお優しい方です!
私達のような身分の低いメイドであっても、優しくして下さるような。」
メイドは、いけないと思いつつも、泣きながらネビィルに訴えた。
余程、我慢が出来なかったのだろう。
ただのメイドが、ここまで、泣いて王妃を救って欲しいなどと
言うからには、嘘ではないと、ネビィルは確信した。
何より娘に良く仕えてくれたメイドが言うのだから尚更だ。
「お前達の話はよくわかった。話してくれたことに感謝する。」
「じゃあ、ラリイ王妃様は・・・」
「ああ、必ず、良い方向になるように持っていこう。
私もお礼をしなければならないからな。ラリイ王妃に。」
「お願いします!お願いします!!」
メイドは何度も何度もネビィルに頭を下げた。ネビィルは
苦笑いしつつも、その場を去った。
「どうやら、私は一部の貴族の話を真に受けすぎたようだ。」
ネビィルは、新婚であるネイル達に、少しやり過ぎてしまっていたのだと、知ることになった。