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第十一章「家族」

「ネイル。久しぶりだな。結婚したんだって?おめでとう。」

ある中年の男がネイルと2人きりで政務室で話していた。

「ネビィル叔父上。久しぶりです。」

ネイルは緊張しつつも、深々と叔父に頭を下げて、挨拶をした。
ネビィル叔父上と言われた男は、もう50代は過ぎた、ネイルと同じ緑髪の竜人の男だった。
体格も良く、王族らしく威厳のある顔立ちをしていた。

「お前とは、会うのは王位をお前に返した時以来か?少し見ない間に
兄上に似てきたな。」
「はい、あれ以来です。こちらから、ろくに挨拶も出来ず、
申し訳ございません。」
「そんな事はよい。私の方も、無駄な跡目争いを起こしたくないから、
城から去ったのだからな。」

ネビィルはネイルに穏やかに微笑んで、返事をした。
ネビィルはネイルの父の弟にあたる。ネフィリートのもう一人の息子だ。
そして、ネイルの元婚約者のレフィーネの父親でもある。

「兄上と義姉上が、揃って、あんなに早くに流行り病で亡くなるとは思わず、あの時は幼いお前を託され、不安に思っていたが、ネイルも嫁を娶り、最近のドラゴネス国の評判は私の耳にも届いている。」
「ありがとうございます。叔父上。」

遠い過去を思い出しながら、ネビィルは感慨深げにネイルに言う。
ネイルも叔父には感謝しかなかった。
9歳の時に突然両親を亡くし、その後ろ盾に叔父がなってくれた。
叔父はあくまで自分はネイルが王につけるまでの後見人であり、
王を継ぐ気はないと、しっかり宣言した。
その代わりに自分の娘をネイルの婚約者として委ねた。
それで、跡目争いにうるさい他の貴族を黙らせたのだ。
これはネビィルの意志であり、誰に言われたわけでもない。
しかし、娘のレフィーネが亡くなり、ネイルが15歳で王を
継げる年になると、預かっていた王位をネイルに返し、
叔父はドラゴネス城から大分離れた場所に自分用の城を作り、
そこに引きこもるようになった。
無駄な王位争いが起きないようにする為だ。

「あの子が、レフィーネが居たらと、時々思うよ。そしたら、
お前も、まさかあのフェニキアから嫁を貰う事もなかっただろうとな。」
「叔父上・・・まさか、ラリイとの結婚に反対だったのですか?」

ネイルはネビィルの言葉に、凄く不安を覚えた。
ネビィルはネイルにとって、親以上の存在であり、恩人だ。
そのネビィルに、まさかラリイとの結婚を快く思われて
いないなど思いもしていなかった。

「正直言うと、良い気持ちはしていない。けど、お前は王だ。
いずれは嫁を貰うのは仕方がないとは思っていた。」
「なら、ラリイであっても・・・」
「しかし、そのラリイと言う女に最近は骨抜きにされていると聞くぞ?」
「え?」

ネビィルは厳しい表情でネイルに告げた。
ネイルの方は突然の指摘に、目を丸くしていた。

「一部の貴族が、最近、わざわざ、うるさく私に言って来るのだ。ネイル王は、
フェニキアの王女を嫁にしてから、おかしくなったとな。
何でもラリイと言う女の言う事を聞くだけの傀儡の王だと。」
「そ、それは!そんなわけありません!」
「なら、どうして私の方にまで、こんな話が来る?身に覚えが
ないわけであるまい?」
「そ、それは・・・」

ネイルは最近自分が、カミーラに嫁馬鹿と言われていることを思い出す。
あれは単にからかわれていただけだと思っていたが、
ある意味ではカミーラからの警告だったのかもしれない。
妻であるラリイの意見を取り入れすぎだと。

「お前はドラゴネス国の王だ。いくら妻とは言え、他国の女の言う事ばかり聞いていたら、どうなるか、わからない程に夢中と言う事か?」

ネビィルは容赦なくネイルを睨む。その目には軽蔑さえ含まれている。
女にだらしなくなったと思われても仕方がなかった。

「叔父上・・・すいません。最近の俺は、確かに有頂天に
なっていたかもしれません。
こんなに幸せな結婚が出来ると自分でも想像出来なかったので。」
「話はカミーラから聞いている。ラリイ王女はお前の初恋の相手だったそうだな。」
「はい・・・・。」

そんなことまで、知られているとは思っていなかったネイルは
冷や汗をかかずにいられなかった。
ネビィルは深い溜息をわざとついた。

「ラリイ王女の話は私も知らないわけではない。
あの有名なフェニキアの王女であり、他国からの評判も悪くない。
だが、ドラゴネス国では、お前の妻とは言え、まだ貴族からは、
信頼も実力認められてない。王妃になった途端に、お前に、
あれこれと意見を言うようになれば、良い気持ちがしないのは、当然だろう。」
「その通りです。」
「なら、しばらく距離を取るのだな。」
「そ、そんな!何もそこまでしなくても!」
「そうまでしなければ、ならない程、今の状況が深刻なのがわからないのか!ネイル!!!」

滅多に怒鳴ることがないネビィルがネイルに向かって、
言い聞かせるように怒鳴る。
ネイルも、もう何も口答えはしなかった。
叔父にこうまで言われる程、自分がこの結婚に浮かれて
しまっていたことに、ネイルはどうしようもない後悔と情けなさを覚えた。
ネビィルは事が落ち着くまで、ドラゴネス城に滞在することとなった。
そして、ネイルはラリイと距離を取り、ネビィルが滞在中は帝王学などを学ぶ為にネビィルの側に居るように言われてしまった。
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