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第九章「不始末」

「ん・・・ん?」

攫われたラリイは、ある屋敷の部屋のベッドの上で目を覚ました。
どうやら、小瓶の中で意識を失い、その間にまた小瓶から出され、ベッドに寝かされた様だった。

「ここは・・・どこ?私は・・・」

ベッドから上半身を起こし、部屋を見回す。
ラリイの全く知らない場所だった。
しかも部屋は薄暗く、不気味な雰囲気で、まるでお化け屋敷に
でもいるような気分だった。

「何で、こんな場所にいるんだろう?」

ラリイがそう呟くと、突然、横から声がする。

「ある方が貴女を望んだからですよ。ラリイ王女様。」

誰も居なかったはずの場所に、突然、魔術師風の男が現れ、
ラリイの質問に答える。
ラリイは驚きすぎて、絶句してしまった。
しかし、よく見ると、その男は自分を誘拐した男だったことを思い出す。

「あ、貴方は!さっきの!!!」

ラリイは大声でその男に向かって叫ぶ。
男は何が可笑しいのか、クククとラリイの反応に笑う。

「思ったよりも元気そうで良かった。無理に運んだので、
心配でしたが、この調子なら、何にも問題はなさそうだ。」

今だにフードの所為で男の顔は確認は出来ないが、声からして、
若そうな男の声だった。
ラリイは警戒して、男に質問する。

「どうして、こんな事するんですか?私をどうする気ですか?」
「さぁ?私は貴女をここに連れてくるように頼まれただけですので、その答えは依頼主から聞いて下さい。」

ラリイの質問に、男はつまらなさそうに淡々と答えた。

「依頼主?」

ラリイにはそんな人物の心当たりが無かった。
悩んでいると、もう1人の人物がラリイ達のいる部屋に入って来た。

「ラリイ。ああ、良かった。無事に救出されて。」
「え?・・・セルディアス王子・・・?」

ラリイは、想像もしていなかった人物が現れて、また驚いた。
何故、セルディアスが自分にこんなことをしたのか、
全く理解出来なかった。

「あの男の魔の手から、ラリイを救えて良かったよ。
ああ、もうこの場はいいから、さっさと去れ。」
「承知しました。王子。では、私は一旦これで。」

セルディアスはラリイを愛おしそうに見つめたかと思うと、
ラリイを誘拐した男に、邪魔だと言わんばかりに部屋から追い出した。
ラリイを誘拐した男は素直にセルディアスに従い、忽然とまた消えた。
邪魔者が消えたのを確認した、セルディアスはまた、ラリイに熱い視線を送る。

「ラリイ・・・嫌だっただろう?あんな男の元に居て。
でも、もう大丈夫だよ。
私が・・・もう2度とあんな男の元にラリイを居させはしない。
元々、ラリイは私と結婚するはずだったのだから・・・」
「へ?」

セルディアスから、思いがけない言葉を掛けられて、ラリイは困惑する。
何か、とんでもない勘違いをされてるようだ。

「あのう、セルディアス王子?私は、何もネイルの事を嫌だと
思ってません。結婚も自分の意志で決めたことです。
それに王子との婚約は昔に解消されたはずです・・・」

ラリイは最後だけ言いづらそうにしたものの、後は、はっきりと
した口調でセルディアスに告げた。
セルディアスは、一瞬動きを止めたが、すぐに笑い出して、
ラリイを愛おしそうに見つめた。その顔は少し狂気じみていた。

「いいんだよ、ラリイ。そんな嘘をつかなくて。
ああ、それとも、そういう風に言うように、あの男にでも
躾られたのか?可哀想に。」
「??」

ラリイの話が全く通じないのか、セルディアスの言ってることが理解出来ないラリイは、徐々に恐怖を覚えた。
妖艶な笑みで、セルディアスはラリイに少しずつ、近づいて来る。

「あの男に操でも奪われて、そう洗脳されたのか?ラリイ。
なら、目を覚まさせてやればいい。本当に結婚すべき相手である、
私になら、それが出来るはずだ・・・そうだろう?ラリイ・・・」
「い、嫌・・・こ、来ないで下さい!」

セルディアスにそう言われて、ラリイは確信した。
セルディアスは、自分を無理矢理にでも抱こうとしていることに。
友達として、仲良く過ごせていたと思っていた、ラリイから
すれば、セルディアスの行動は物凄くショックな事だった。
いや、ネイルはもしかしたら、こういうことを危惧してたのかも
しれないと、この時になってラリイは感じた。

「ラリイ・・・フェニキアの至宝。
一族の繁栄に大きな影響を与えることが出来る歌姫。
それを、あんな少しの期間で突然現れ、自分のモノにしたと
傲慢な顔をして言う、あの男に、私のラリイを渡してたまるものか!」

セルディアスはラリイの側まで来て、ラリイの頬を触る。
そして、ラリイをベッドに力づくで押し倒す。
ラリイは暴れるだけ暴れたが、本気の男の力に敵うはずもなく、
身の危険を感じ、今度は泣くしかなかった。

「い、嫌です!こんなこと!止めて下さい!セルディアス王子!」
「何故?本当の夫になる、私を拒むと?」
「こ、これ以上、私に触るなら、わ、私は死にます!!!」

今までにない程に強い言葉でラリイはセルディアスを拒否した。
これにはセルディアスも、我に戻ったのか、ラリイから離れた。
解放されたラリイはセルディアスから、急いで離れて、
少しでも距離を取ろうと、部屋の隅に移動した。
大粒の涙を零し、セルディアスを睨む。
その姿にセルディアスは溜息をついた。

「今日はもう止めよう。ラリイを無事に救出、出来たのなら、
今日はそれで充分だ。ラリイの洗脳は、追々解けばいい。
時間なら、今後いくらでもあるのだから・・・」

そう言うと、セルディアスはラリイに一気に興味を無くしたかの様に、部屋を出て行った。
そして、部屋の施錠される音が聞こえた。

「ううぅ・・・ネイル・・・ネイル・・・・」

セルディアスが部屋から出て行き、ラリイはようやく安堵して、
その場にしゃがみ込み、ネイルの名前を呼びながら泣いた。
後少しで、ラリイはネイルと幸せな結婚をするはずだったのに、
今ラリイは、身の危険を感じる、一刻を争う事態に巻き込まれ、
成す術もないまま、無力な自分に泣くしかなかった。
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